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継承惑星  作者: 室木 星嶺
第一部 遺された者

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第三十一話 白い大地

銃声が吹雪へ吸い込まれていく。


港は完全に戦場だった。


装甲車のライト。


怒号。


爆発。


だが誰も、

玲司へ致命傷を与えようとはしない。


その異様な戦場の中心で、

玲司だけが静止しているようだった。


凛が玲司の腕を強く引く。


「行くの!」


真田も叫ぶ。


「船を出すぞ!」


玲司達は吹雪の中を走った。


その瞬間。


海上の艦艇から警告放送。


『対象を刺激するな!』


『玲司への直接攻撃は禁止だ!』


『周辺制圧を優先しろ!』


まるで災害対応だった。


人間一人への対応ではない。


その時。


エデン側装甲車から武装部隊が展開される。


黒い防寒装備。


白い息。


彼らはアリシアを確認した瞬間、

一瞬だけ動きを止めた。


『……アリシア主任?』


通信混線の向こうから、

困惑した声が漏れる。


アリシアは振り返らない。


ただ低く呟く。


「もうその呼び方はやめて」


その声は静かだった。


だが、

どこか決定的だった。


エデン兵達も理解する。


彼女はもう、

こちら側ではない。


次の瞬間。


別勢力ドローンが突入。


港で銃撃戦が始まる。


勢力同士が衝突し始めた。


玲司は呆然とする。


「……何なんだよ、これ」


世界中が、

自分一人を巡って壊れていく。


その光景が恐ろしかった。


だが凛は玲司の背中を押す。


「見るな!」


「今は生きる事だけ考えて!」


玲司達はフェリーへ飛び乗った。


老人がロープを切る。


エンジン音。


古い船体が震えながら動き出す。


港から怒号。


『船を止めろ!!』


『津軽海峡へ出すな!』


その瞬間。


海上で爆発。


だが次の瞬間、

巨大な波が突然持ち上がり、

艦艇の進路を塞いだ。


兵士達が悲鳴を上げる。


『また同期現象だ!!』


玲司は震える。


自分が恐怖するたび、

世界が反応する。


まるで地球そのものが、

自分の感情を共有している。


フェリーは吹雪の海へ出た。


津軽海峡。


白い嵐。


視界はほとんど無い。


船内へ入った玲司は、

壁にもたれ込み荒い息を吐く。


凛がそばへ来る。


「大丈夫?」


玲司は笑おうとした。


だが上手く笑えない。


「全然、大丈夫じゃない」


その言葉に凛は何も言わなかった。


ただ隣へ座る。


少し離れた場所では、

アリシアが窓の外を見ていた。


暗い海。


吹雪。


その向こうに北海道がある。


彼女は静かに目を閉じる。


もう戻れない。


エデンへも。


以前の自分へも。


それでも不思議と、

後悔だけではなかった。


その時。


真田が古い無線機を操作する。


ノイズ。


そして。


『……聞こえる?』


葉月の声だった。


玲司が顔を上げる。


『海峡中央を避けて』


『南東側へ迂回して』


『今、中央海域は不安定になってる』


真田が険しい顔をする。


「不安定?」


次の瞬間だった。


海全体が低く震えた。


玲司の心臓が止まりそうになる。


吹雪の向こう。


巨大な海面隆起。


まるで海そのものが呼吸している。


凛が呟く。


「……嘘でしょ」


その時。


玲司の脳裏へ、

また記憶が流れ込む。


海。


白い光。


そして。


遥か昔の継承者達。


彼らは海を見上げ、

絶望していた。


その中心で、

一人の男が言う。


『地球は、

継承者を守ろうとしている』


玲司の瞳が揺れる。


その言葉の意味を理解した瞬間。


海がさらに大きく波打った。


アリシアが玲司を見る。


彼女も気付いていた。


もしそれが本当なら。


継承者は単なる宿主ではない。


もっと根源的な何かだ。


玲司は震える声で呟く。


「……じゃあ俺は何なんだよ」


誰も答えられなかった。


その時だった。


吹雪の向こう。


白い大地が姿を現す。


北海道。


始まりの地。


そして、

全ての答えが眠る場所


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