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継承惑星  作者: 室木 星嶺
第一部 遺された者

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第二十六話 父の痕跡

高速道路の崩落が始まっていた。


裂け目。


崩れるアスファルト。


横転する装甲車。


怒号と警報音が夜へ響く。


だが奇妙な事に、誰も玲司へ発砲しない。


できない。


世界そのものが反応する事を恐れている。


凛は荷台後部を開き、外を確認した。


「今なら突破できる……!」


アリシアが静かに言う。


「長くは持たないわ」


玲司は頭を押さえながら立ち上がった。


視界が揺れる。


世界の音が聞こえる。


雨。


雷。


地鳴り。


まるで地球そのものが呼吸しているようだった。


凛が玲司の肩を支える。


「走れる?」


玲司は苦笑した。


「無理って言ったら置いてくのか」


「置いていかない」


即答だった。


玲司は少しだけ救われた顔をする。


その瞬間。


巨大な揺れ。


高速道路中央が崩落した。


武装部隊が悲鳴を上げる。


『後退しろ!』


『同期反応拡大!』


『対象を刺激するな!!』


凛が叫ぶ。


「行くわよ!」


三人は荷台から飛び出した。


雨。


サーチライト。


混乱。


玲司達は崩壊する高速道路を駆ける。


だが誰も玲司を撃てない。


兵士達の顔には恐怖が浮かんでいた。


その時。


一台の黒いSUVが猛スピードで突っ込んでくる。


急停止。


運転席の窓が開く。


壮年の男だった。


無精髭。


疲れた目。


「早く乗れ!」


凛が目を見開く。


「……真田さん!?」


玲司達は即座に車へ飛び乗った。


SUVは急発進する。


背後では高速道路が完全に崩落していく。


玲司は息を呑んだ。


「あの人は……」


凛は短く答える。


「あなたのお父さんの協力者よ」


玲司の表情が止まる。


運転席の男――真田はバックミラー越しに玲司を見た。


「……大きくなったな」


玲司は言葉を失う。


父の過去。


自分の知らない人生。


それが少しずつ現実になっていく。


アリシアが静かに口を開く。


「生きてたのね、真田隆一」


真田は鼻で笑った。


「お前は相変わらず胡散臭ぇ女だな」


「褒め言葉として受け取るわ」


凛が険しい顔で聞く。


「どうやってここを?」


真田は答えた。


「恒一さんの残したルートだ」


玲司の胸が強く脈打つ。


真田は続ける。


「お前の父親は、ずっと準備してた」


雨の夜道をSUVは走る。


後方ではまだサイレンが響いている。


真田は低い声で言った。


「……北海道へ向かう」


玲司が顔を上げる。


「始まりの場所?」


「ああ」


真田の表情が僅かに曇る。


「そして多分、“終わりの場所”でもある」


車内が静まり返る。


玲司は窓の外を見た。


暗い海。


雨。


遠くの雷。


その時。


真田が助手席の古びた封筒を玲司へ放った。


「それ、お前の父親からだ」


玲司は震える手で受け取る。


古い封筒。


表には、自分の名前だけが書かれていた。


――神谷玲司へ。


玲司の呼吸が止まる。


凛もアリシアも黙っている。


玲司はゆっくり封を開けた。


中には、一枚の古い写真。


幼い頃の玲司。


そして若い父。


笑っていた。


普通の親子みたいに。


写真の裏には、短い言葉。


『普通に生きろ』


玲司は写真を見つめたまま動けなかった。


だがその文字は、

今の玲司にはあまりにも遠かった。


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