第二十五話 世界規模危機対象
雨の高速道路。
停止した大型トレーラーを、無数のライトが照らしていた。
装甲車、武装ヘリ、特殊部隊、完全包囲。
玲司は荷台の壁にもたれながら、外から響く怒号を聞いていた。
『神谷玲司を刺激するな!』
『対象本人への発砲は禁止!』
『同期反応発生時は即時後退!』
まるで災害対応だった。
いや。
核兵器か何かを扱うような声。
玲司は乾いた笑みを漏らす。
「……ここまで来ると笑えてくるな」
凛は小窓から外を確認している。
「笑い事じゃない」
「分かってるよ」
玲司は目を閉じた。
頭が重い。
外の怒号を聞くたび、自分が人間から遠ざかっていく気がする。
アリシアが静かに玲司を見つめる。
「怖い?」
玲司は少し黙った後、小さく答えた。
「……当たり前だろ」
アリシアは微笑む。
「でも彼らはもっと怖がってる」
玲司は顔をしかめた。
アリシアは続ける。
「世界中の国家が、一人の青年へ怯えてる」
「滑稽なくらいに」
凛が低く言う。
「煽らないで」
アリシアは肩をすくめた。
再び外から拡声器の声が響いた。
『神谷玲司!』
『こちらは国連共同特殊管理部隊だ!』
『あなたの安全は保証する!』
『これ以上の同期反応拡大を防ぐため、保護下へ入ってほしい!』
玲司は俯く。
“保護”。
その言葉がもう信用できない。
凛が小さく呟く。
「出れば監禁される」
アリシアが笑う。
「一生ね」
玲司は苛立った。
「お前ら、もっと希望ある言い方できないのかよ」
だが誰も否定しない。
その沈黙が現実だった。
その時。
外で突然怒号が上がる。
『上空注意!』
『反応来るぞ!』
凛の表情が変わる。
次の瞬間。
空が鳴った。
轟音。
巨大な雷が高速道路中央へ落下する。
爆発。
装甲車が吹き飛ぶ。
武装部隊が悲鳴を上げる。
玲司は目を見開いた。
まただ。
また自分を守るように世界が動いた。
外から恐怖混じりの声。
『同期反応発生!』
『対象を刺激した奴は誰だ!?』
『後退しろ!!』
混乱。
サーチライトが乱れ、ヘリが大きく揺れる。
玲司は頭を押さえた。
胸が痛む。
苦しい。
凛が玲司へ駆け寄る。
「玲司!」
玲司は震えていた。
「……やめろよ」
空間が歪む。
荷台内部の空気が軋む。
アリシアだけが静かに玲司を見ている。
恐怖ではない。
むしろ魅入られていた。
玲司は苦しそうに呟く。
「俺のせいで……」
凛が玲司の肩を掴む。
「違う!」
だが玲司は首を振る。
「違わないだろ……!」
その瞬間。
玲司の脳裏へ、また知らない記憶が流れ込んだ。
燃える街。
泣き叫ぶ人々。
雨の中で膝をつく男。
そして。
幼い娘を抱く、一人の継承者。
男は泣いていた。
『……継がせたくなかった』
玲司の呼吸が止まる。
その感情が直接流れ込んでくる。
絶望。
愛情。
恐怖。
玲司は頭を抱えた。
「っ……!」
凛が叫ぶ。
「また記憶同期が……!」
アリシアは静かに呟く。
「同期率、かなり上がってるわね」
その時。
外から新たな怒号。
『対象周辺で空間歪曲確認!』
『道路が崩落するぞ!』
轟音。
高速道路が大きく揺れる。
玲司は顔を上げた。
遠くで道路そのものが裂け始めていた。
世界が、玲司の感情へ反応している。
そして玲司はさらに理解し始める。
自分はただ狙われているのではない。
世界そのものと、繋がってしまっているのだと。




