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継承惑星  作者: 室木 星嶺
第一部 遺された者

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第二十話 裂ける空

巨大な黒い亀裂が空を走った。


群衆の悲鳴。


車の警報音。


逃げ惑う人々。


まるで世界そのものが悲鳴を上げているようだった。


玲司はその場に立ち尽くしていた。


呼吸が苦しい。


胸が痛む。


頭の奥へ、無数の音が流れ込んでくる。


海鳴り。


地震。


風。


世界中の“何か”。


凛が玲司の腕を掴む。


「玲司! 意識を保って!」


玲司は震える声で言った。


「……俺、聞こえる」


「何を」


玲司は空を見上げた。


黒い亀裂の向こうで、空間が脈打っている。


「世界の音がする……」


凛の顔色が変わる。


同期反応が進行している。


想定より早く。


その時。


モーテル前へ黒い装甲車両が突入してきた。


タイヤ音。


武装部隊。


だが一般部隊ではない。


全身黒装備。


ヘルメットに白い紋章。


凛が険しい顔になる。


「ノア・ガーディアン……!」


隊員達は素早く群衆を排除していく。


非殺傷弾。


閃光弾。


煙幕。


混乱が広がる。


隊長らしき男が拡声器で叫んだ。


「神谷玲司! あなたを安全保護する!」


玲司は顔を歪めた。


まただ。


誰も“自由”を与えない。


その瞬間。


別方向から銃声。


ノア部隊の隊員が倒れる。


凛が舌打ちした。


「もう来たの……!」


高架道路上。


黒い高級車列。


その中央車両から、アリシア・レインが降り立った。


長い金髪が夜風に揺れる。


彼女は空の亀裂を見上げ、恍惚とした笑みを浮かべた。


「……美しい」


玲司の背筋が寒くなる。


アリシアは玲司を見つめた。


「見えるでしょう?」


彼女はゆっくり両手を広げる。


「世界があなたへ反応してる」


ノア部隊がアリシア側へ銃を向ける。


だがアリシアは微笑むだけ。


「邪魔しないで」


次の瞬間。


空が鳴った。


轟音。


巨大な雷が高架道路へ落下する。


爆発。


ノア部隊が吹き飛ばされる。


玲司は目を見開く。


偶然じゃない。


世界が玲司へ向けられた敵意へ反応している。


凛が玲司を庇う。


「下がって!」


だが玲司は動けなかった。


空の亀裂。


嵐。


悲鳴。


燃える車両。


その全てが、自分中心に起きている。


玲司は震えながら呟いた。


「……俺が、壊してる」


アリシアは静かに首を横へ振る。


「違うわ」


彼女は微笑む。


「世界が、あなたを失う事を拒絶してるの」


その時だった。


玲司の脳裏へ、突然映像が流れ込んだ。


吹雪の山。


古い石の扉。


血まみれの男。


そして――


無数の“継承者達”。


玲司は頭を押さえる。


「っ……!」


凛が叫ぶ。


「玲司!?」


玲司の視界が白く染まる。


知らない記憶。


知らない人生。


だが確かに感じる。


何百年も続いてきた孤独。


死。


逃亡。


愛。


継承。


その中で、一人の男の声が響いた。


『始まりの場所へ来い』


次の瞬間。


空の亀裂がさらに広がった。


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