父の死
「……なんだよ、これ」
玲司はベランダへ飛び出した。
夜明け前の空。
だが妙だった。
雲が歪んでいる。
空気そのものが波打って見えた。
遠くで車の警報音が鳴り続けている。
スマホを見る。
ニュース速報。
《世界各地で同時多発異常》
《原因不明》
《通信障害発生中》
玲司は嫌な汗をかいた。
さっきの父の電話。
あれは何だった?
逃げろ?
誰も信じるな?
意味が分からない。
その時。
スマホが震えた。
知らない番号。
玲司は出ない。
だが着信は止まらない。
「……気持ち悪」
無視して電源を切る。
しかし直後。
部屋の照明が落ちた。
停電。
外から悲鳴が聞こえる。
玲司は再び空を見る。
その瞬間。
空に黒い亀裂のようなものが走った。
ほんの一瞬だけ。
「……は?」
次の瞬間には消えていた。
夢かと思った。
だが全身が震えていた。
理由は分からない。
なのに本能が叫んでいた。
何かが始まった、と。
朝。
テレビは異常現象一色だった。
玲司は仕事を休んだ。
落ち着かなかった。
父に何度電話しても繋がらない。
昼過ぎ。
インターホンが鳴る。
ドアを開けると、黒いスーツの男が二人立っていた。
「神谷玲司さんですね」
「……誰ですか」
男は警察手帳のようなものを見せた。
だが所属がない。
「お父様についてお話があります」
玲司の心臓が止まりそうになる。
「……親父に何かあったんですか」
男達は一瞬視線を交わした。
「昨夜、死亡が確認されました」
玲司の思考が止まる。
「……は?」
「詳しい状況は現在調査中です」
嘘だ、と玲司は思った。
父は昔から異様なくらい慎重だった。
突然死ぬような人間じゃない。
しかも昨夜の電話。
逃げろ。
誰も信じるな。
玲司は男達を見る。
妙だった。
警察には見えない。
立ち方。
視線。
腰の膨らみ。
武装している。
「……アンタら、本当に警察か?」
空気が変わった。
その瞬間。
男のイヤホンから声が漏れる。
『対象確認。監視継続』
玲司は反射的にドアを閉めた。
外から声。
「神谷さん!」
玲司は震える。
何だ。
何が起きてる。
なぜ父の死でこんな連中が来る?
その時。
窓の外でヘリの音がした。
玲司は凍りつく。
マンション上空を、黒いヘリが旋回していた。
まるで――
自分を探しているように。




