表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承惑星  作者: 室木 星嶺
第一部 始まりの場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/6

零の胎動

俺は世界が最も欲し、最も恐れられる存在だった。



雨の山道を、一台の黒いSUVが泥を跳ね上げながら走っていた。


運転席の男――神谷恒一は、荒い呼吸を繰り返している。


腹部から流れる血がシートを濡らしている。


バックミラーには、遠く迫る白いライト。


追手だ。


恒一は震える手でハンドルを握り直した。


「……まだだ」


フロントガラスの向こう、山奥に巨大な施設が見え始める。


廃棄された研究施設。


だが本当は違う。


そこには、“継承”に関する記録が眠っている。


恒一は二十年以上探し続けていた。


この呪いを終わらせる方法を。


車がゲートを突き破る。


同時に銃声。 


窓ガラスが砕けた。


追跡部隊が発砲している。


だが狙いは正確ではない。


いや――正確に撃てないのだ。


誰も、神谷恒一を殺したくはない。


殺せば何が起きるか知っているからだ。 


「っ……!」


恒一は施設入口へ転がるように飛び込んだ。


警報灯が赤く点滅する。


無人の通路。


古びた端末。


封鎖された研究区画。


彼は壁に手をつきながら奥へ進む。


その時だった。


通信機から声が響く。


『神谷恒一。抵抗をやめてください』


若い男の声。


冷静な口調。

『あなたの死亡は世界規模の危機を引き起こします』


「なら……追うな」


『あなたが情報を持ち出そうとしているからです』


恒一は笑った。


乾いた、諦めた笑いだった。


「……世界は、もう気づき始めてる」


彼は最後の扉を開く。


中央サーバー室。


そこに残されていた古いデータ群。


映像。


遺伝子記録。


歴代継承者。


そして――


《同期解除理論》


恒一の目が揺れた。


「……あった」


だが次の瞬間。


背後で安全装置が解除される音。


武装部隊が突入してきた。


非殺傷用ライフル。


電磁拘束装置。


神経制圧弾。


彼らは殺さない。


殺せない。


だが恒一は理解していた。


捕まれば終わる。


玲司まで辿られる。


恒一は端末からデータを抜き取り、携帯端末へ転送した。


その直後。


胸に激痛が走る。


限界だった。


傷が深すぎる。


視界が暗くなる。


彼は震える手でスマートフォンを取り出した。


登録された名前。


『玲司』


やがて眠そうな声が聞こえた。


『……親父?』


恒一は目を閉じた。


声を聞いただけで、涙が出そうになる。


『何時だと思って――』


「玲司」


息子の声が止まる。


恒一は壁にもたれた。


赤い警報灯が点滅している。


『どうしたんだよ』


「……逃げろ」


『は?』


「誰も信じるな」


『親父?』


恒一は震える呼吸の中で言った。


「お前には……普通に生きてほしかった」


遠くで部隊の足音が迫る。


「……すまない」


通信が切れる。


同時に。


神谷恒一の心拍が停止した。


――その瞬間だった。


太平洋全域で巨大潮位変動。


アラスカで重力観測異常。


欧州全域で通信障害。


東京上空に謎の発光現象。


世界中の観測機関が一斉に異常警報を発する。


そして日本。


東京。


アパートの一室。


神谷玲司は、耳鳴りと共に目を見開いた。


窓ガラスが激しく震えていた。


空が――揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ