第十二話 世界の価値
車内。
玲司は黙ったままだった。
凛が運転席へ戻る。
「移動する」
玲司は低く言った。
「……何なんだ、あいつ」
凛はエンジンをかける。
「国際民間組織“エデン”所属」
「宗教か?」
「企業と宗教の中間みたいなもの」
車が発進する。
炎上した道路を離れていく。
凛は続けた。
「継承者を“神”として扱う連中よ」
玲司は顔をしかめた。
「気持ち悪……」
「でも危険度は高い」
凛はバックミラーを見る。
「連中はあなたを支配しようとしてる」
玲司は窓の外を見る。
夜景。
だが世界が別物に感じる。
「……親父も、こうやって追われてたのか」
凛は答えなかった。
その沈黙が答えだった。
玲司は小さく息を吐く。
「普通に生きてただけなのに」
凛が静かに言う。
「あなたのお父様も、そうだった」
玲司は顔を上げる。
凛は前を向いたまま続ける。
「歴代継承者の多くは普通の人間だった」
「……え?」
「政治家でも英雄でもない。ただの一般人」
玲司は意外そうな顔をする。
凛は言う。
「だからこそ秘密を守れた」
車内に静かな空気が流れる。
玲司は少しだけ父を理解した気がした。
世界を背負いながら、
普通に生きようとしていた。
どれほど苦しかったのか。
その時。
凛の通信端末が鳴る。
彼女の表情が変わる。
「……最悪ね」
「何だよ」
凛は短く答えた。
「情報が漏れた」
「は?」
「継承者の存在が、一部ネットへ流出した」
玲司の顔が強張る。
「冗談だろ」
凛は端末画面を玲司へ向けた。
SNS。
匿名掲示板。
動画サイト。
そこには、
《地球と同期する男》
《世界異常との関連》
《政府隠蔽》
という投稿が大量に拡散されていた。
玲司は血の気が引く。
凛が低く言った。
「世界が、気づき始めてる」




