第十一話 アリシア・レイン
炎上する高架道路。
赤い火花が夜空へ舞っていた。
凛は即座に車を停止させ、拳銃を抜く。
玲司は呆然と前方を見ていた。
炎の向こう。
金髪の女が静かに立っている。
長い黒いコート。
まるでパーティ会場にでも来たような余裕。
女は微笑んだ。
「初めまして、神谷玲司」
凛の声が鋭くなる。
「下がって」
玲司は我に返る。
「……誰だ」
女は優雅に一礼した。
「アリシア・レイン」
流暢な日本語。
だが微かに外国訛りがある。
アリシアは凛を見る。
「政府の番犬が先だったのね」
凛は銃口を下げない。
「何しに来た」
「勧誘よ」
玲司が眉をひそめる。
「……勧誘?」
アリシアは玲司を真っ直ぐ見つめた。
その目には奇妙な熱があった。
「あなた、自分がどれだけ価値のある存在か理解してる?」
玲司は嫌悪感を覚える。
アリシアは続ける。
「世界はあなたを恐れている。でも同時に欲してもいる」
「意味分かんねえよ」
「簡単な話よ」
アリシアは微笑む。
「あなたは、世界そのものより重要なの」
凛が低く言った。
「玲司、聞くな」
アリシアは楽しそうに笑った。
「ひどいわね」
その瞬間。
周囲のビル屋上に赤いレーザーサイトが現れた。
玲司の背筋が凍る。
凛が舌打ちする。
「狙撃班……!」
だがレーザーは玲司を避けていた。
全て凛や周辺へ向いている。
玲司は気づく。
連中は本当に自分を撃てない。
アリシアは静かに言った。
「見えるでしょう?」
「……何が」
「世界があなたを中心に回り始めてる」
玲司は言葉を失う。
アリシアは一歩近づく。
「来なさい、玲司」
その声は甘かった。
危険なほど。
「あなたを理解できるのは、私達だけよ」
次の瞬間。
凛が発砲した。
閃光。
アリシアの足元へ着弾。
「それ以上近づくな」
空気が凍る。
だがアリシアは笑みを崩さない。
「……本気で彼を守れると思ってる?」
凛の目が僅かに揺れる。
アリシアは玲司へ最後に言った。
「また会いましょう」
その瞬間。
周囲の照明が一斉に消えた。
停電。
暗闇。
数秒後、電力が復旧した時には――
アリシアの姿は消えていた。




