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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第五章 亜空の魔法(8)

 それから、僕に続いてシーヌも短時間であれば、ポータルを開けるようになった。彼女は感慨深そうに、

「魔法ってこうやって使うものなんだ」

 そんな風に何度も頷いた。ヌークはもともと魔力に長けた種族だというから、何かを掴んだのかもしれない。

 意外なことに、最も苦戦しているのはエレカだった。もっとも魔力の扱いに長けている筈の彼女が人間大のポータルを開けないというのは、不思議なことのように僕にも思えた。

『彼女の場合は天性の才能でこれまで魔法を習得してきたのだろう。今回のように明確なイメージを固めてから魔力を練り込むというステップの基本に戻るのが苦手なのかもしれない』

 と、カーニムは分析していた。

 エレカにとって魔法とは考えなくても使える物という認識で、考えないと発動しない魔法というのは初めての体験なのかもしれないと。

「才能が有りすぎるというのも大変なんだな」

 僕はエレカが苦戦している姿を眺めながら言った。僕の方は、というと。

『もう少し小さくても良いのではないか? あまり大きいと亜空間のものが出てこないとも限らない』

「それを試しているんだ。ふと気が付いたもので、無限バッグの中に繋がるのではないかなと思ってやってみたんだ。思った通り繋がるね。原理は同じようだ」

 カーニムとそんな会話をしながら、僕の身長の三倍程の、丁度床から天井に付くか付かないかといった大きさのポータルを開き、無限バッグの原理を確認していた。僕の弁に触発されたようにカーニムも目を輝かせた。

『ああ、成程。無限バッグの収納先が亜空間だったのか。亜空間という存在が私達の間では未知の存在だったとはいえ、そんなに身近な場所に亜空間を知る機会は存在していたのだな。私も盲点だった。だが、そう考えると原理的に納得がいく。兎も角、来るべきときの兵員輸送の方法として使えるな。記録しておこう』

 僕の無限バッグの中に繋がっているだけであれば危険なものが飛び出してくる危険はない。安心して大きめの穴を開いて観察することができた。

「インビンシブルに飛ばされた場所とは繋がっていないみたいね」

 シーヌも興味深そうに僕が開いた穴を覗き込んでいる。シーヌの言う通り、僕の無限バッグの中は、インビンシブルが開いた亜空間とは違うように見えた。

「そうだね。亜空間というものも、実は複数存在しているのかもしれない。僕達が、空間として存在を普通に認識できない、僕達の宇宙とは異なる空間がすべて亜空間といったところなのかもしれないな。その辺はおいおいカーニムとかが解き明かしてくれるんだろう。僕の頭で考えて分かることだとは思えないな」

『君が言う程、君の知能が低いとは思えないのは別として』

 カーニムはそう前置きしてから頷いた。

『確かに私にも興味がある分野だ。研究はしたいね』

「そうだろうな。僕はどちらかというと、じっとしていると今この瞬間も何処かで僕の助けを待っているひとがいるのではないかという不安に駆られえる性分だから、こういう腰を据えての研究には向かない」

 僕は笑った。カーニムや、それにシーヌも、僕の言葉に大いに納得したように笑い声を上げた。彼等から見た僕も、僕が自己評価する僕と大きくかけ離れてはいないらしい。

「僕が試したいのは、僕の無限バッグを通して、あの亜空間にアクセスする方法だ。インビンシブルが開いたポータルは、特定の領域を指定できず、他者の力を借りてあの亜空間に飛ばしてもらうというアクセスの仕方になった。もし一回のチャレンジでマザー・アリスが救出できたのなら問題はないけれど、そうでなければ何度もその段階を踏むことになるのはあまり良いことだとは思えないんだ。もっとシンプルに直接アクセスする方法があるのではないかなと思ってね」

「成程、正論だ。俺も直接行先を特定することは考えたが、どうも俺の限界じゃそこまで辿り着けなかった。そうか、亜空間が複数あるってんなら、別の亜空間経由で二段アプローチもありだな」

 インビンシブルは少し考えて、それから何かに閃いたように言った。

「違うな。そうか、お前考えたな。お前が行くんじゃなくって、マザー・アリスの方を引っ張り出すつもりだな」

「できればだけれどね」

 僕はその方が確実だと考えていた。もし無限バッグのようにつなげられるのであれば、同様に中身を取り出す、ということも可能な筈だと考えたのだ。亜空間は僕達からすれば異界のようなものだ。それであれば、石化されたマザー・アリスだとしても、僕達の世界に引きずり出してしまった方が元に戻す勝算は高くなる。亜空間を彷徨う厄介な怪物をいつまでも相手にしたいとも思えないし、可能であれば良いと考えていた。

「確かにな。可能ならその方がマシかもしれねえ」

 と、インビンシブルも認めた。けれど、彼は僕の方法はそんなに簡単だとは思えないと語った。

「だが、正直なとこ、無理じゃねえかな」

 彼がそう考えた理由は単純で、そうかもしれないと思いわせるのには十分な推測だった。

「仮にも女神と呼ばれるヤツを石化して亜空間に放り込めるような知能があるヤツが、そんな雑な方法で取り返せるような閉じ込め方はしねえだろ」

「そうかもしれない。でも、試してみる分には損はない気がする」

 僕はひとまずあらゆる方法を考えてみるつもりでいた。そして、不安点があるとすれば、マザー・アリスを閉じ込めたのが誰なのかがまだ分からないということだった。

「彼女を閉じ込めたのが誰か、シーヌはマザー・アリスから何か聞かなかった?」

 僕は直接聞けたかもしれないシーヌに、問いかけた。今のところ、知る方法はそれ以外になかった。

「マザー・アリスが言うには、おそらくフェアリーだったって」

 シーヌの答えに。

 僕だけでなく、インビンシブルも驚きの表情を見せた。

「小妖精が? そんな力を持ってる個体といや……いや、まさかな。冗談きついぜ」

「そもそも、何のために?」

 僕には全く理解できなかった。あんなことをして一体に何になるというのだろう。分からなかったのは当然なのかもしれない。

「マザー・アリスもあまり話したがらなかった」

 と、シーヌは答えた。シーヌ自身も、その話をすることをひどく恐れているようで、目は小刻みに揺れ、声も不安そうに震えていた。

「今もマザー・アリスの魂が、とても怖がってるのが分かる。その話があまりに不自然で、私はそれがとても怖い」

「どういうこと?」

 ますます訳が分からない。僕が首を捻って聞くと、シーヌは、ぽつりと一言だけ言った。

「フェアリーに、手も足も出なかったって」

「女神であるマザー・アリスが?」

 僕が聞き返して。けれどそれをインビンシブルが慌てたように遮った。

「いや、分かった、分かったからもういい。その話はなしだ。やめとけ。ここでする話じゃねえ。今は忘れとけ。口にするのはまずい」

 インビンシブルの様子も尋常ではなくて、僕は口を閉ざすしかなくなった。全く訳が分からない僕を見て、インビンシブルは僕に向かってほんの少しだけ説明してくれた。

「あいつから聞いたことがある。俺の予想が外れてなければ、いや、多分合ってる筈だ、そいつはやべえとかいうレベルじゃねえ。そうだな、簡単に言えば、まともに戦ったら、亜空間で会ったあのとんでもねえあいつと、互角の存在だ」

「なんだって?」

 フェアリーが?

 いったいどんな育ち方をしたらそんなことになるのか。想像もつかない。恐ろしいを通り越して現実味がなかった。

「しかしそうなると状況は兎に角まずい。一刻も早くマザー・アリスを回収しねえと、取り返しがつかねえことになる。あいつが飽きたら終わりだ。もうお前は亜空間ポータルを開けるようになってる。今すぐ行け。良いか、お前が考えてるように、何度もトライするチャンスがあると思うな。時間の猶予はお前が思うより遥かに少ねえ。一度だけだと思うくらいの方が良い」

「でも、準備も何も」

 僕が反論しかけると、

「そんなの待ってくれると思うんじゃねえ、行け」

 ただ、インビンシブルはそれだけを強く主張した。決して多くを自分では語ろうとせず。

「あいつのところ経由で良い。いや、むしろ話を聞くならあいつに聞け」

 あいつとはクリスタルのことだ。

 どうやら途方もない話らしいことは分かった。

「私もその方が良いと思う」

 シーヌもそう言って頷いた。シーヌまでもがそう言うのなら、と、僕も、亜空間へ今すぐ入ることを決断した。


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