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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第五章 亜空の魔法(6)

 のんびりしている時間はない。

 僕達も徹夜を覚悟ですぐに亜空間魔法の習得に励むことになった。マリオネッツ数人にインビンシブルを呼びにやらせると、彼はすぐに宿に来てくれた。

 シーヌと僕は自分達のベッドに腰掛け、エレカはまだシーヌの膝元にいる。インビンシブルは僕達のベッドの間に浮いて、亜空間魔法の基本の説明をしてくれ、お手本を見せてくれた。

 インビンシブルの説明は丁寧で、呪文も一節ごとに意味や、その根底になっている呪文の構造まで教えてくれたものの、彼と同じように唱えても、僕達には亜空間ポータルを開くことはできなかった。

 ある程度予想していたことではあったけれど、僕達が使う魔法と、インビンシブルが使う魔法では、根本的な基礎が異なっていて、上辺だけ真似をしたところで、僕達には発動させることすらできないのだ。それはインビンシブルも何となく予想していたようで、僕達の試みは、互いの魔法技術の基礎知識の交換から始める必要があった。

 つまり、インビンシブルが知る魔法技術と僕達の魔法技術を比較し、共通する部分は僕達の技術に変換し、異なる部分は、僕達の魔法にもある類似した別の技術に置き換え、一度呪文を極限まで分解し、僕達が唱えられる呪文に再構築する作業を行う訳だ。

 僕は魔術の専門家ではない。だから、その作業は僕達だけでは困難を極めた。そこで、僕達はスターティアを通じて、専門家の意見を聞きながら作業を行うことにした。

 魔術のことなら、魔術の神様に聞けばいい。その方がずっと話が早い。つまりは、カーニムに連絡を取ったのだ。彼は、異界の魔法を解析して僕達の呪文として再構築する、という話を聞いた途端、小躍りせんがばかりに乗り気になってくれた。自分が知らない魔法に触れ、自分がその内容をすべて調べられる機会などそうはない。しかも実際の使い手による解説付きだ。カーニムが興味を示さない訳がなかった。

 話は魔術の構築の話で、会話だけでは理解が難しい。けれど、カーニム自身は神々に五魔神の脅威への備えを説かねばならず、この場所に来ることは難しい。それに、カーニムが入り込めば、アースウィルやアリシオンにどのような影響があるか分からない。困った僕に、スターティアが双方の映像を中継することを提案してくれた。そのため、こちらからはカーニムの幻像が見えている。カーニムの方では、僕達の幻像が見えている筈だ。

 そして、その結果。

 カーニムはある仮説に至り、困惑を始めた。

『馬鹿な。世に漂う魔力への働きかけのみで正しく呪文が発動するということは、つまり、意識たるアストラル界など存在せず、私達が見ている世界が、私達が真実と捉えていた次元宇宙のモデルすら表層に過ぎず、白日の下に暴き晒された世界には、魔力を動かす為の、さらに深淵たる何かがあるということになってしまうぞ』

「次元モデルの考え方自体は間違ってねえよ。アストラル界やアストラル体が存在することも間違いねえ。次元ってヤツは確実にその通り存在してる。だが、モデルが古いんだ。お前等の世界の捉え方じゃ、まず、すべての事象と時間に通じてる“狭間”は存在が説明できねえ筈だ。いつ、どこにあって、なぜそうなったのか、次元理論から逸脱した場所だからな。だから、お前等にゃ観測もできねえし、跳ぶこともできねえ。それが次元って古いモデルの限界さ。そもそも根本を考えたことはあるか? 次元ってなんだ? どうやって生まれた? それぞれの次元を取り巻く、何もない場所には何がある? それとも空っぽの“何もない”があるのか? そんなことが現実にあり得るのか? なあ、神秘と秘術の神さんよ、お前はどう思う?」

 インビンシブルとカーニムの話はあまりにも学術的で、とても難解に聞こえた。シーヌは目の前で餌を取り上げられて何が起こったか理解できないでいる両生類のような顔をしていたし、僕も口を半開きにしたまま、半分も理解できない話を見守っているしかなかった。けれど、どうやら僕達の世界に関する認識を、根底からひっくり返すような話が行われているらしいということだけは理解できた。

『いや、すまない。私にも答えが出ない。しばらく時間が欲しい』

 カーニムですら解けない問題だとは。世界とはどれだけ難しいものなのだろう。

「どっこい、エレカ達にはその時間が一番ねえんだ。じゃあ聞く内容を変えよう。お前みたいな存在がアースウィルに降りたら、次元は崩壊を始め、大災害一直線だ。さて俺はここにいる。よその空間からやって来た、ほぼありとあらゆる破壊的ダメージを弾くようなすげえヤツだぜ、俺。何故アースウィルは崩壊しない?」

『まさか』

 カーニムの顔色が変わる。

「おうよ、そのまさかだ。俺自身が俺自身の意志で影響を止めてるからだ。それこそが次元の集まりが宇宙でなく、宇宙の中に次元があるって証拠だ。次元モデルの世界認識じゃ、次元が何故崩壊するのかって話は、そういうもの、としか言えなくなっちまうだろ? もっと言えば、宇宙たあ何だってことの基礎くらいは分からねえと、自分の存在の重みをないことにするなんてことは出来っこねえんだけどな。ま、次元があるから宇宙がある、宇宙があるから次元がある、この違いは、分かるよな?」

 頷き、インビンシブルは笑った。

『そうか。次元宇宙そのものが空間であり、その中に生じた事象の結果が次元ということか。つまり事象を止めることができれば次元には影響はないし、それを可能にするのは次元より根源的な、空間たる宇宙に作用する魔術である筈だ。そして、次元宇宙そのものが空間であれば、そこに薄く引き伸ばされ、すべての次元の元となる事象が混じりあったものが存在することもつじつまが合う。完成された次元よりも根源的であるそれは次元的な考え方では観測できないし、そもそも空間として未成熟な何かだから、完成した次元のように時間の経過という概念も生まれない。それが狭間か』

 カーニムは自分ひとりで何かを納得したように捲し立てた。その話は全くもって内容があるのかないのか分からない取り留めもない話で、僕には意味のある言葉として理解できなかった。

『その前提として理解しなければならないのは、次元宇宙というものが、概念や器などでなく、それそのものが実在する一つの空間でなくてはならないということだ。そして、次元は独立して存在している個々の世界ではなく、その空間に浮かぶ数多の塊ということになる。だが待て。しかしここは私達の宇宙だが、私達の知るモデルの外にも宇宙は広がっていて、宇宙はそのような狭いものではないと言った者がいる。それはどういうことだ。つまり、つまりそうか。それは矛盾しない。我々が次元宇宙だと思っていたものは我々の宇宙のごく一部分で、ほんの小さな籠の中だという話が、単に真実だというだけのことか。待て、すると、そういうことか。そもそも宇宙は一つではなく、宇宙もまた次元や次元宇宙のように複数存在し、それを内包する、宇宙の元となる、さらに根源的な何かが存在しなければならない。つまりは世界の構成要素が物体として形成される以前の容をとっている、我々の認識では空間と呼べない何かだ。そこには薄く延ばされた狭間よりさらに根源的な、空間と呼ぶには適さない場所がやはりあり、それを君達は、その君達、が誰を差しているのかが私には分からないのはさておき、君達は、亜空間と呼んだ訳だな』

 もはや全く分からない。カーニムは何を話しているのだろう。シーヌはどうだろうと思ってみると、半泣き半笑いの表情を張りつけて、完全に思考停止した顔をしていた。理解することを放棄している顔だ。

「だいたいその理解で合ってる。ま、もっと単純なんだけどな。その単純を理解する為の前提知識が、お前等にはねえからな」

 インビンシブルはそんな風に笑った。

「まあ、どっちにしてもだ。亜空間ってのは宇宙に薄くへばりついてる、空間なのか、空間じゃねえのかも良く分からねえ、ヘンなとこって理解しとけ」

「ええと、それで、難しい理屈は兎も角、僕達がその亜空間に入る為にはどうすればいいのかな?」

 僕はそろそろ意味が分からない議論が、呪文にどうかかわってくるのか分からなかったから、口を挟むことにした。

 僕がカーニムとインビンシブルに尋ねると、

「それはこれからだ」

 と言われた。流石に少しカチンときた。僕の顔は若干引きつっていたかもしれない。

「先にそっちを急いでくれないか」

 シーヌの存在が掛かっているのだ。

 必要なのは興味本位の理論ではない。


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