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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第五章 亜空の魔法(3)

 村を出て、早速森へ向かう。樹木としてはイチイの木が見つかれば一番だという話だが、イチイの木はこの辺りには珍しく、見つからなければトネリコが良いとのことだった。

 どちらの木の特徴も、丁寧に教えてくれたから、おそらくどちらかは見つけられるだろう。

 魔物の襲撃はない。僕とマリオネッツ数人だけの移動であれば、魔物の気配を避けて進むのは楽なものだ。

 三〇分歩いた辺りで、マリオネッツのうちの一人に、

「あそこにいるのはエレカではないですか?」

 と、声を掛けられた。周囲は野原で、まばらに樹木が生えている。見通しは良く、急いだように飛んで行く小さな後姿を、僕も視界に捉えることができた。

「本当だ。何をしているのだろう。随分急いでいるな」

 僕も首を捻った。エレカが向かっている方向は、僕達が向かっている方向からは少し外れるけれど、誰にも告げず村の外に彼女が出てきていること自体、何かあったとしか思えない。

「追いかけよう。心配だ」

 僕がそう決めると、マリオネッツの五人も頷いた。彼女達は仮面を取ろうとしないので、顔は分からない。仮面込みでマリオネッツであると誇りに思っているのだと、彼女達が語った為、僕も取ってほしいとは強くは言えなかった。そういう信念を持っている兵もいるだろう。尊重しようと思う。

 エレカを追いかける僕達の背後から、羽音が聞こえてきた。インビンシブルの羽ばたきだ。何か事情を知っているかもしれない。僕は彼と合流することにした。

「ラルフもいたか。こいつは重畳だ」

 僕と同時にインビンシブルもこちらに気付いたようで、彼の方からも僕達の方へ向かってきたので、すぐに合流することができた。

「丁度いいや。力を貸せ。あの暴走娘を止めるぞ」

「何があった?」

 僕が問いかけると、インビンシブルは鼻を鳴らして笑った。

「東の街が大変なんだとよ。逃げ出してきた住民が助けを求めて村に現れた」

「まさかそれで、一人で偵察に飛び出したのか?」

 呆れて開いた口が塞がらない。

「ああ。しかも、村長の話じゃ、ここより東は、もう隣の国なんだとよ」

 インビンシブルも呆れた声だ。

 そういえば、僕達はモーデン村の立地を知らない。インビンシブルは知っているのだろうか。

「そもそもここはなんて国なんだろう」

 僕はインビンシブルに尋ねてみた。インビンシブルは、

「ああ」

 と笑ってから答えた。

 僕は走りながら彼の言葉を待った。インビンシブルは僕の頭上を飛び、その後ろに五人のマリオネッツ達が続いていた。

「キアードって名前らしい。首都はもっと西の方だ。東の隣国はアイベス。国っていや聞こえは良いが、都市毎に独立してるような纏まりのねえとこらしいぜ」

 成程。それで隣国内で助けを得ようが、越境して助けを求めてきた訳だ。国内の他の都市に助けを求めても、得られる支援にたいして差がないのだろう。むしろ、キアードの方が国として纏まっているのだろうから、支援が得られた場合の規模が大きいのかもしれない。

「都市の名前は?」

「メルサーグ。渓谷にある、鉱山都市らしい。小都市だな。人口は六万人程度って話だ。今は住民が減ってる筈らしいぜ。人間四万、鉱山労働者階級として、人型の魔物も二万人ばかし住んでたっていうからな。魔物が狂暴化してるってこたァ、まともに仲良く暮らしてるってこたァねえだろうからな。魔物は処分されたか退去されられたかしてるだろ」

 良く聞いてある。僕はインビンシブルの情報収集能力に感心した。村長から聞いたのだろうか。

「モーデンの村人だって村の外に出ねえ訳にいかねえ。守ってやる代わりにちょいとこの辺について知ってることを教えてもらった。そういうこった。村に着いてほんの少しの時間しか取れなかったが、結構な話が集まったぜ。世の中ギブアンドテイク。のんびりしてると状況に乗り遅れるのさ」

 耳が痛い苦言だ。確かにその通りだった。間違いなく今後の反省点としなければならない。アースウィルのことを聞ける環境にいたのに、宿でのんびりして話を聞かなかったのは怠慢だった。

「助かる。ありがとう」

「ま、何はともあれ、あのバカを止めねえとな。危なっかしくっていけねえな。ありゃ」

 全力で飛ぶエレカは速い。もし彼女が全速力を出していたら、僕の足ではあっという間に置いて行かれ見失っていただろう。けれどエレカはそこまで速度を出しておらず、つまり、逃げ出してきた人が他にもいるようであれば保護しようと考えていることが見て取れた。相当にメルサーグの街は悪い状況なのだと思う。

 僕達の足は、確実にエレカに追いついてきていた。もうすぐ追いつけるだろう。そう思った矢先に、エレカが振り返った。

「ラルフ様?」

「エレカ、引き返すんだ」

 浮かんだまま僕達を待つエレカに手を伸ばし、僕が彼女を捕まえようとする。エレカはするりと僕の手をすり抜け、

「状況次第では、パーティーを解散して、ミシルとクウと村で別れるべきじゃないかと思って」

 と、首を振った。けれど、そうだろうか、と僕は疑問に思った。

「大丈夫だよ。君のパーティーは、きっと君が思っているよりも強い。二人が今後どうするかは、二人の意志に任せてみたらどうだ」

「二人には大きすぎる危険が待ってるかもしれない場所に?」

 エレカは分からない、という顔をした。

「どこかで力及ばず倒れるかもしてないことは、大なり小なり冒険者になった時点で皆が覚悟していることだ。彼等は守られる為に冒険者になるのではないんだ。ある者は名誉の為に、ある者は一攫千金の為に、またある者は野望の為に。そして、ある者は守る為に。自分の命を賭けると決めた時から、彼等は冒険者になるんだ」

 僕は首を振って、エレカにそう話した。おそらく邪悪狩りであった彼女になら分かる思いの筈だ。

「君は覚悟なく邪悪狩り見習いになって、それでも、どんな目に遭ったとしても、そんな手違いで折れるのは嫌だと、必死で生き抜いたと言った。それは、邪悪狩りとしての君の覚悟だった筈だ。同じなんだ。彼等にも、彼らなりの覚悟があるんだ。君が二人を足手纏いだと思うのなら、君ははっきり二人にそう言わなければならないよ」

「ラルフ様、ごめんなさい。でも、これだけは言わせてください。私の仲間のことを、足手纏いだなんて、ラルフ様でも言ってほしくありません。ミシルも、クウも、そんなことはないです」

 エレカは僕に怒った。それがすべてだと思う。だから、僕も笑った。

「僕もそう思う。僕が見た限りでは、二人が足手纏いだとは思えない。なら、それがすべてだ。もしミシルやクウが、どんな危険があったとしても、命を賭して一緒に来て戦うと言ってくれるのであれば、有難う、と頭を下げるだけで良いんだ」

 そう思う。エレカは彼等の覚悟を軽々しく思ってほしくはない。

「まずは、自分ひとりで完結していないで、二人と話すべきだ。勝手な思い込みで決めつけても、良いことはないと思う」

「……そうですね。分かりました」

 エレカは頷いた。それから、ふと気になったように僕に首を傾げた。

「雰囲気に誤魔化されて聞くのを忘れてましたけど、ラルフ様はどうしてここに?」

「ああ、本当は、イチイかトネリコを探しに森へ行くところだったんだ。モーデン村のひとに弓の製作を習いたくてね」

 とはいえ、僕は、森へ行くつもりはなくなっていた。引き返して、モーデン村を出発する準備をしなくてはならない。それに、ひょっとしたらメルサーグで市販の弓を手に入れることもできるかもしれない。

「でも、助けを求めている都市があるなら、話は別だ。そんな時間はない。勿論、僕やシーヌも一緒にメルサーグへ行こう」

「有難う御座います。でも、今日すぐには村を発つつもりはありません」

 と、エレカは空を見上げた。言いたいことは分かる。今日すぐに発っても直に夜になる。魔物が多いアースウィルで、不用意な野営はしない方が良いだろう。

「メルサーグまではどのくらいの道程なんだろう」

 僕が呟くと、

「そういえば、メルサーグの名をどこで?」

 エレカにそのことも聞かれた。答えは単純だ。

「君を追いながらインビンシブルに聞いた。やはり良い奴だよ、彼」

「それは認めます。でも、唐突な求婚が許容できるかは別問題です」

 エレカは苦い顔で、インビンシブルを見た。

「私はおかしくないですよね?」

「そうだな。俺もそう思うぜ」

 何故かインビンシブルが頷いた。


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