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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第五章 亜空の魔法(2)

 モーデン村の宿は一軒しかなかった。三階建てのこぢんまりとした建物で、部屋数も四つと極めて少ない。宿屋は木造で、壁はログハウスのように丸太を組んで隙間を膠か何かで埋めた作りだった。もともとモーデン村は主要街道からは外れていて、通りがかる旅人というのは基本的にいないのだそうだ。

 ミシル達はもともと常宿にしているそうで、自分達の宿泊費は良いと辞退したのだけれど、カルドに、同じように命を賭けたのに、それでは不公平感が残る、と言われ渋々ながら一晩だけ宿代を村で持ってもらうことにしたようだった。

 ミシルとクウが個室に泊まっている為、残る部屋は、大部屋か、二人部屋が、一つずつしかない。宿屋の亭主の話では、他に宿泊客などいないから、どちらを使ってくれても良いという。今後の話を皆で集まってできるように、僕は大部屋を借りることにした。宿の床は板張りで、天上も同じだった。照明は、油が貴重なのか、ランプではなく、壁掛けの蝋燭台を用いていた。

 僕とシーヌが平然と同室にするのを見て、

「いいなあ。恋人関係とか、そういう甘い物とは違う、凄く自然な関係って憧れる」

 と、言ってくれた。シーヌはそんなミシルに笑いかけて、

「分からないよ。種族が違いすぎてペットとかにしか見えてないのかもしれないよ?」

 軽い冗談を言った。

 どっちがどっちのペットなんだ、と、僕は苦笑した。いや決まっている。僕がシーヌをペット扱いなんて絶対しないから、可能性としてはその逆しかない。

 でも良く考えてみると、それでシーヌの心が休まるのであれば、そもそも僕は立場を気にしない。問題なかった。気にしないことにした。

 大部屋は二階にあり、廊下からの扉の反対側に窓があった。ベッドは廊下側から窓際に向けて、二列に五個ずつ並んでいて、一〇人まで寝泊まりできるようになっていた。ベッドは思ったよりもしっかりした造りで、マットレスのクッションも効いていた。僕達は安全の為に窓際や扉の側のベッドを避け、窓から二番目のベッドを僕が、三番目のベッドをシーヌが、並んで使用することにした。

 部屋にはテーブルや机というものはない。僕は、ベッドに脇に剣と盾、背負い袋を降ろし、鎧を脱いで一緒に置いた。背負い袋の上にいたはずのプリックは、お背負い袋を僕が降ろした時には既にいなくて、気が付きと一番窓際のベッドの上で寝転がっていた。一人で一個ベッドを占領するつもりらしい。

 背負い袋を開け、無限バッグの口を緩める。

「君達はどうする? 一旦本拠地に戻って休んでもらっても構わないよ」

 バッグの中のマリオネッツに声を掛けると、六〇人のマリオネッツが次々に飛び出してきた。一〇人が窓際に、別の一〇人が廊下の扉側に集まり、残り四〇人は五人ずつ完全に空いている側の列のベッドの上に移った。

「交代制で窓や扉の警備をします。残りも、万が一の事態に備え、この場で休息します」

 と、僕には名前が分からない兵が告げた。その兵は、仮面を外していない為、顔は分からなかった。

 そういえば、記し忘れていたけれど、この部屋にエレカとインビンシブルはいない。

 しばらく逗留するにあたり、村の現状と、何が手伝えるのかを見極めるべく、エレカは一人だけ、カルド宅へ向かった。

 インビンシブルは、建物中は好かないと言って、何処か村の外へ飛んで行ってしまった。なんとなくだけれど、そんな言い方をしながら、実際には村の外で、新たな魔物の襲撃がないか、警戒してくれるのだと、僕は感じた。

 ベッドの上に足を放り出し、狼人から入手した弓の状態を確かめる。何とか真っすぐ飛ぶようにしたいところだから、何をメンテナンスすれば品質が改善するのかを確かめたかった。モーデン村には一般的な装備品店はなく、狩猟に使っている道具も、村の人達がそれぞれ自分で手作りしているらしい。

 しばらくこねくり回してから、僕は弓のメンテナンスを諦めた。新しく自分で手作りしたほうが遥かに楽だ。すべてのパーツの品質が、極めて低い。そして、僕が自分で作るくらいなら、手作りに慣れている村の人に頼んだ方が良いものが出来るだろう。

「少し宿の主人に話を聞いて、外に出てくる。君はどうする?」

 シーヌに声を掛けると、シーヌが返答するよりも早く、別のベッドから返答があった。

「我々が護衛にご一緒します」

 マリオネッツ達しかいないベッドのうち、僕のベッドに一番近い五人が飛んできた。他のベッドから、出遅れた、という無念の視線を感じる。

「ん、少し疲れたかも。休んでいても良いかな?」

 当のシーヌは、ベッドの上で脹脛を自分で揉んでいた。僕も彼女はそうした方が良いだろうと思った。

「分かった。弓製作の名人がいたら、僕の分の弓を作ってもらえないか聞いてくる。そんなに時間は掛けないつもりだけど、材料集めに行くことになるかもしれないから、すぐには戻れないかもしれない」

 僕は外出の目的を告げ、部屋を出た。まずは宿の主人に弓製作の名人がいないかを聞かなければ話にならない。僕は階段を降り、一階へと移動した。階段は木製で、古びた手すりには年季を感じる。歴史の古い宿屋なのかもしれない。

 一回に降りると、そこはロビーを兼ねた食堂になっている。宿屋としては、シンプルで、ごく一般的な間取りだ。食堂の壁に掛けられた、鹿に似た角が生えた、熊のような顔をした獣の頭部が壁に飾られているのが目を引いた。

「有角熊よ」

 食堂にはミシルとクウがいた。壁に飾られた獣の頭部を見上げている僕に向かって、ミシルが声を掛けてきた。二人はカウンターに近い場所のテーブルに向かい合って座っていて、何か香草の匂いのするスープを飲んでいた。

「この辺りじゃ一般的な狩りの得物なの」

「見た目では強そうだけど、村人でも倒せるの?」

 僕が問いかけると、

「知能は獣相応だから、罠に簡単に掛かるのよ。獣人ほど危険じゃないわ」

 彼女はそう説明してくれた。確かに、知能がそれ程高くないのであれば、脅威としてはそれなり程度なのだろう。

 僕は壁の飾りから視線を外し、食堂のカウンターの奥を見た。宿の主人が暇そうに立っている。宿の主人は、上背があり、肉付きがある中年の男だった。たるんだ腹はしておらず、現役で力仕事もこなせそうな人物だった。頭髪は短く、薄茶色、瞳はグレーに近い青だった。黄土色のシャツを着て、長い焦げ茶のズボンを穿いている。

「私が仕留めた獲物です。良いサイズでしょう?」

 宿の主人は口の端だけを上げて笑った。

「そうだね、立派なものだと思う。放置していたら、村人に被害が出てもおかしくない獣なんだろう」

 僕は頷いてから、本題を切り出した。

「弓が欲しいんだけど、村で弓作りが一番上手なひとを紹介してもらえないだろうか」

「それは難しい質問だな。誰に聞いても、おそらく、『自分が一番上手い』と言うだろうと思いますよ」

 それは困った。普通なら、比べたことがなくても村一番の名人は自然に評判になるものだけれど、そういう評価もないというのは珍しいことだ。とはいえ、弓の製作は、ひとりでに覚えられるものでもないだろう。僕は聞き方を変えてみることにした。

「村の人達は誰から習って覚えるの?」

「たいていは親がやってるのを見て、見よう見まねで覚えるもんです。まあ、親によってはきちんと説明する親もいます」

 宿の亭主は顎を擦りながら答えた。それから、自慢げにこうも付け加えた。

「私もこう見えて息子がいますが、息子にはちゃんと練習させたもんです。壊れたら場合によっちゃ、獣に返り討ちにされて命に関わるものですからね」

「頼めば僕も教えてもらえたりするのかな」

 僕はしめた、と思いすかさず聞いてみた。誰に作ってもらうかが決められないのであれば、自分で作っても一緒だ。少し練習させてもらえれば、のちのちまで役に立つ技術でもある。単なる手持ちの弓として使うだけでなく、場合によっては設置式弓の罠等にも応用が利く。父の家にいたころは自分でも簡単な弓を作った経験があるし、もっとしっかりとした技術として覚えることはできる筈だ。

「手製の弓を作った経験が?」

 そうでなければ自分で作ろうなどと考えない筈だ、と言いたげに、宿の亭主に逆に聞かれた。矢が飛んで目標に刺さる弓を自分で作ったことがないものが、軽々しく習うでびではないというのは、僕も同意見だった。

「あるよ。小動物や野鳥、狼くらいは何とか仕留められる品質の奴だ」

「ほお。そこまでできてりゃあ十分です。材料さえとってくりゃ、私の技術で良ければ、いつでも教えますよ。有角熊程度なら仕留められる奴をね」

 と、宿の亭主はにんまりと笑った。有難い。僕は、早速必要な材料と、弓の素材になる樹木が生えている、だいたいの場所を聞き出し僕は護衛のマリオネッツ達と一緒に、材料集めに村の外に出た。

 勿論部屋にある装備を一度取りに戻ってからだ。材料になる樹木が生えている場所は、村から東へ一時間程歩いた先の森のようだ。戻る頃には日が暮れているかもしれない。念のために戻るのは日暮れ後になるかもしれないことを、宿を出る前にミシルやクウに告げておいた。何故部屋でシーヌに告げて置かなかったかというと、彼女がぐっすり眠っていただからだ。

 ルイーザとオリビアには告げておいた。

 シーヌが起きたら、彼女達が話してくれるだろう。


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