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第8話 二つの戦場

戦場が、二つになった。


 一つは、ヴェルナー領を守る戦い。


 もう一つは——未来視が勝手に連れてくる、王子の死亡フラグ。


「後者は、もう私の仕事ではないの」


 言い聞かせても、視えるものは視える。


     * * *


 領地同盟は、静かに動き出した。


「まずは税務記録の整備ですわ。査察官が来ても、一点の曇りもない帳簿を見せれば、口実を与えません」


「攻撃の糸口を消す、と」


「ええ。それから領民の支持を固めます。宰相府が強引な接収に出た場合、領民の反発は政治コストになります」


 リーゼは手帳に書き込んだ。かつて死亡フラグの管理帳だった紙面には、今は灌漑計画と教育予算が並ぶ。


 水路の修繕——工期二ヶ月、備蓄金から支出。

 収穫祭の復活——領民の結束。

 孤児院の拡充——「福祉の不備」という口実を、先回りして潰す。


「リーゼ嬢、将軍みたいです」


「褒め言葉と受け取っておきますわ」


 エルヴィンが低く笑った。


 だがリーゼの頭の片隅では、別の映像が流れ続けている。


     * * *


 ——王宮。


 未来視が映しているのは、セレナ・ミュラーの素顔だった。


 表向きは男爵令嬢。実態は、宰相クラウス・フォン・ヘルダーの養女。幼い頃から屋敷の奥で仕込まれ、「理想の王太子妃」として仕上げられた駒。


 アレクシスがリーゼに倦んでいることを見抜き、「運命の出会い」を演出し、「真実の愛」を信じさせた。


 全て、宰相の筋書き通り。


 セレナの役目は三つ。


 アレクシスの判断を鈍らせること。


 有能な味方を遠ざけること。


 そして最後には——王子の最も近い位置で、刃になること。


 リーゼは、未来視で全部知っていた。


「知りませんわ」


 呟いた。


 もう、向こうの問題。こちらには関係ない。関係ない、はず。


     * * *


 一方、王都。


 ハインリッヒが、アレクシスに報告をしていた。


「殿下。ヴェルナー公爵令嬢の、過去八年間の行動記録をまとめました」


「……読む」


 分厚い報告書が差し出された。


 一ページ目。十歳の記録。


 『王太子晩餐会において、リーゼロッテ嬢が自身の杯と殿下の杯を入れ替えた形跡あり。翌日より三日間、リーゼロッテ嬢は高熱で寝込む。杯の残液からベラドンナの成分を検出(当時は調査されず)』


 二ページ目。十二歳。


 『狩猟祭前日、リーゼロッテ嬢が単独で狩猟場の森を散策。同日夕刻、騎士団に匿名の通報あり。森の茂みから暗殺者の装備を発見』


 三ページ目。四ページ目。五ページ目。


 アレクシスは、読み進めるにつれて血の気が引いていった。


 十四歳、辺境の魔獣の巣。


 十五歳、回廊の石材の劣化報告。


 十六歳、外交使節団に紛れ込んでいた暗殺者の排除。


 全て——あの「地味で退屈な女」が、影で処理していた。


「八年間で、確認できた未然防止件数は——」


 ハインリッヒの声が、普段より低かった。


「四十七件です」


 報告書が、アレクシスの手から滑り落ちた。


 絨毯の上で、乾いた音を立てた。

報告書のパートで「四十七件」ってボンと出した方が、ぼかすよりインパクト出る気がして。

具体的な数字って強い。エンタメの基本かもしれない。

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