第49話 宴の夜
最終話の一歩手前。みんなの幸せを見届けて。
式のあと、ヴェルナー邸で祝宴。
領民も貴族も混じり合って、音楽と笑い声。
リーゼは——踊った。
目がほとんど見えない花嫁だ。エルヴィンがリードした。二人の呼吸は、ぴたりと合った。
「目が見えなくても、踊れるものね」
「僕が合わせているんですよ」
「知ってる。でも、リズム感は、私の方がいいわ」
「それは、認めます」
* * *
宴の途中、アレクシスが声をかけてきた。
「一曲、踊ってもらえるか。——元婚約者として」
エルヴィンがほんの一瞬、表情を固くした。リーゼが笑って、頷いた。
「一曲だけ」
アレクシスとリーゼが、踊った。宮廷の正式な舞踏。八年の婚約時代に、何度も踏んだステップ。身体が、覚えていた。
「リーゼロッテ。幸せか」
「ええ。——殿下は」
「……幸せでは、ない。だが、正しい方向に歩いている気はする」
「それで、十分よ」
「お前に教わったことが、三つある」
「何かしら」
「一つ。——人の価値は、目に見えるものだけでは、測れない」
「まあ」
「二つ。愛は——もらうものではなく、気づくもの」
「殿下がそんなことを、仰るなんて」
「三つ。——遅すぎるということは、ない。遅くても、始めることに、価値がある」
リーゼは、微笑んだ。
「殿下。立派な王に、なれますわ」
「ああ。お前が守ってくれた命で——この国を、変える」
曲が、終わった。
アレクシスが、手を離した。
「ランベルト」
エルヴィンが、アレクシスの前に立った。
「彼女を、頼む」
「命に代えても」
「命に代えなくていい。——命を、大事にしてやれ。この女は、命を粗末にしがちだから」
「ひどいですわ、殿下」
三人で、笑った。
* * *
宴が終わり、客たちが去った。
ルートヴィヒが、帰り際、リーゼに頭を下げた。
「リーゼロッテ嬢。兄を——ありがとうございました」
「あなたこそ。あの日、兄上の側に立ってくださったこと、感謝していますわ」
「僕は、正しいことをしただけです。——あなたに、教わりました。選ぶことの意味を」
「直接、教えた覚えはないわ。——それは、あなた自身が、見つけたものよ」
ルートヴィヒが、笑った。十五の少年が見せる、大人の笑い方だった。
「僕も——良い政治家になります。兄の隣で」
「期待しておりますわ」
* * *
深夜。
リーゼとエルヴィンは、屋敷のバルコニーに立っていた。
「星、見えるかしら」
「見えますか」
「左目で——光の点が、いくつか。あれが、星?」
「ええ。今夜は、満天の星です」
「きれいなんでしょうね。——私には、光の粒にしか見えないけれど」
「十分、きれいですよ」
エルヴィンが、リーゼの肩を抱いた。
「明日から、二人の日常、ですね」
「ええ。普通の、穏やかな日常が」
「フラグのない」
「フラグのない。——最高ですわ」
星空の下で、二人は、静かに笑った。
アレクシスとリーゼが踊るシーン、第1話の婚約破棄の大広間と同じ場所なんですよ。あの時は嘲笑で、今度は拍手。
「フラグのない」「最高ですわ」、二言に全部込めた。
明日、最終話を投稿します。




