第45話 王子の答え
式典のあと。
アレクシスは、一人、中庭のベンチに座っていた。
あのベンチ。リーゼと、初めて、二人で話した場所。
「殿下」
ルートヴィヒが、やってきた。
「兄上。リーゼロッテ嬢の演説、聞いていましたか」
「ああ」
「泣いていましたね」
「泣いていない」
「嘘の下手さが、兄弟共通ですね」
ルートヴィヒが、隣に、座った。
「兄上。リーゼロッテ嬢は、もう、兄上のものではありません」
「知っている」
「ランベルト伯爵家の男と、婚約しています」
「知っている」
「でも——兄上は、まだ」
「ルートヴィヒ」
「はい」
「俺は、リーゼロッテを愛していた。今も——」
「知っています」
「だが——」
空を見上げた。
「俺には、資格が、ない。八年、何もしなかった男に。——あの女の隣に立つ資格は」
「兄上」
「何だ」
「資格は、作るものです。——リーゼロッテ嬢が、仰ったでしょう。『良い王になれ』と」
「……ああ」
「あの方が、命をかけて守った八年。その上に、良い国を築けばいい。——それが、兄上なりの愛の形、でしょう」
アレクシスは、弟を見た。
「いつの間に、そんなに、大人になった」
「十五年、一人で考える時間は、たくさんありましたから」
兄弟は、笑った。
* * *
翌日。
アレクシスは、リーゼの来賓室を訪ねた。
「リーゼロッテ。——ありがとう。あの演説」
「どういたしまして」
「俺は——良い王に、なる」
「そう仰っていただけると、八年の甲斐が、ありますわ」
「それから」
アレクシスが、懐から小さな箱を出した。
「これを」
「何かしら」
「婚約時代に、贈るはずだった指輪だ。——結局、渡しそびれていた」
「今更——」
「婚約の指輪としてではない。——戦友としての、感謝の、証だ」
リーゼは、箱を受け取った。左目で、ぼんやり——小さな、銀の指輪。
「……きれいね」
「お前の髪と、同じ色だ。銀」
「狙ったの」
「偶然だ」
「嘘つき」
二人で、笑った。
「殿下。——幸せに、なってね」
「お前もな。——ランベルトの男に、よろしく言っておけ」
「何を」
「『彼女を泣かせたら、この国の全軍で攻め込む』と」
「……殿下が仰ると、冗談に聞こえませんわ」
「冗談ではない」
「困った方ですわね」
リーゼは、微笑んだ。
——これが、二人の、最後の別れだった。
恋人としてでは、なく。婚約者としても、なく。
戦友として。
「彼女を泣かせたら、この国の全軍で攻め込む」「殿下が言うと冗談に聞こえませんわ」「冗談ではない」
殿下、それ外交問題になる。
ルートヴィヒの「資格は作るものです」、15歳が一番大人なこと言ってる。




