第44話 収穫祭の演説
リーゼが全てを語ります。一番大事な回かも。
収穫祭の日。
大広間は、貴族と市民で、埋め尽くされていた。
国王が壇上に立った。叙勲の儀が、始まった。
「リーゼロッテ・フォン・ヴェルナー嬢に、『銀星勲章』を授ける。王国への、比類なき功績を讃えて」
銀星勲章。文民に与えられる、最高の栄誉。
リーゼはエルヴィンに付き添われて、壇上に上がった。銀色の髪が、燭台の光を、反射していた。
国王から、勲章を受け取る。胸に、留める。
拍手。
——そして、リーゼは、マイクの前に、立った。
「皆様。今日、一つだけ、お話をさせていただきます」
広間が、静まった。
「九年前。私は九歳の時に、ある力を授かりました。——未来を視る力、未来視を」
ざわめきが、起こった。
「この力で、私は八年間——当時の婚約者であった王太子殿下の、死亡フラグを、折り続けてまいりました」
大広間が、静まり返った。
「毒を代わりに飲みました。暗殺者を、通報しました。建物の崩落を、予知して、回避させました。魔獣の巣を、排除しました。——八年で、四十七回」
貴族たちの、息が、詰まる音。
「代償として、髪は白くなり、視力を失い、記憶の一部も失いました。この銀色は、八年の勲章であり、代償の、証でもあります」
リーゼは、ぼんやりとしか見えない目で、広間を見渡した。
「この話をするのは、同情が欲しいからでは、ありません。褒められたいからでも、ありません」
「伝えたいのは——たった一つ」
「誰かを守ることは、美しいことです。——でも、自分を壊してまで守り続けることは、正しいことでは、ない」
広間に、沈黙が広がった。
「私は八年、誰にも助けを求めませんでした。一人で、背負い続けました。結果——身体を壊し、目を失い、大切な記憶を、失いました。もっと早く、助けを求めていれば。もっと早く、限界を認めていれば。——失わずに済んだものが、たくさんあります」
「ですから、どうか——」
リーゼの声が、少しだけ、震えた。
「今、誰かのために自分を削っている方がいらしたら。——声を、上げてください。助けを、求めてください。一人で折れるフラグには、限りがある」
「私は今日、全ての力を失いました。未来を視ることも、運命を聴くことも、もう、できません。——ただの、目の不自由な、銀髪の、公爵令嬢です」
「でも——初めて、自分の足で、立っています」
一拍。
「仲間と共に。愛する人と共に」
「それが——八年の、答えです」
沈黙。
拍手が、一つ、落ちた。
もう一つ。
——広間全体が、割れるような拍手に、包まれた。
リーゼは、深く、一礼した。
壇上から降りる時、エルヴィンが、手を差し出した。
リーゼは、今度は、迷わずに、その手を取った。
演説のシーン、一気に書いた。途中で止めたくなかったので。
「自分を壊してまで守り続けることは、正しいことではない」、これが言いたくてこの物語を書きました。
感想欄で泣いたって言ってくれた方、ありがとう。作者も泣いた。何回目だよ。




