第37話 透かし絵
アレクシスは、計画書を光に透かした。
薄い墨で描かれた地図が、浮かび上がった。
王都の地下水路。七ヶ所に、印。
「七ヶ所——」
ハインリッヒが、息を呑んだ。復帰したばかりの騎士団長が、地図を即座に読み解く。
「この七ヶ所が同時に爆ぜれば、王都の中心は壊滅します。王宮、大聖堂、市場、貴族街——全て」
「いつ、起爆する」
「不明。行方不明の側近——その男が、起爆役の可能性が、高い」
「見つけろ。全力で」
騎士団が動いた。
同時に、アレクシスはルートヴィヒに声をかけた。
「ルートヴィヒ。宰相の私兵に、お前の知り合いがいるはずだ。行方不明の側近——グスタフ・ベッカー。心当たりは」
「グスタフなら、宰相の別邸をよく使っていました。王都の東区に」
「東区か。行こう」
「兄上も、来るんですか。危険では——」
「リーゼロッテに言われた。『良い王になれ』と。良い王は——民のために、動く」
ルートヴィヒが、微笑んだ。
「兄上。変わりましたね」
「遅かったけどな」
* * *
東区の別邸で、グスタフ・ベッカーが見つかった。
男は追い詰められ、短剣を自分の喉に当てていた。
「近づくな! 宰相閣下の遺志を継ぐ! 火薬は、既に起爆準備が済んでいる!」
「落ち着け、グスタフ」
アレクシスが、一歩前に出た。
「宰相は死んだ。お前が命を捨てても、何も変わらない」
「変わる! この腐った王国を——」
「腐っているのは、宰相だ。この国じゃない」
グスタフの手が、震えた。
ルートヴィヒが、静かに、言った。
「グスタフ。僕を覚えていますか」
「……ルートヴィヒ殿下」
「宰相に仕えていた頃、あなたは、僕に剣術を教えてくれましたね」
グスタフの目が、揺れた。
「あなたは、悪い人じゃなかった。宰相に忠誠を誓っていただけだ。——その忠誠は、もう、果たした。十分です」
グスタフの手から、短剣が、落ちた。
音を立てて、石の床に転がった。
男は、崩れるように膝をつき、泣いた。
* * *
火薬の撤去に、三日。
七ヶ所全部から、大量の火薬が回収された。爆ぜていたら、王都は廃墟になっていた。
アレクシスは、リーゼに手紙を書いた。
『リーゼロッテへ。
全ての火薬を撤去した。王都は、無事だ。
お前のおかげだ。セレナ嬢の記憶と、お前の判断がなければ、今頃、王都は存在していない。
ありがとう。
この言葉を、八年言えなかった俺を、許してくれ。
アレクシス
追伸。婚約、おめでとう。ランベルト伯爵家の男は、いい男だと思う。悔しいが』
マリアが最後の一文を読んだ時、リーゼは声を出して、笑った。
「殿下にしては、素直ですこと」
ルートヴィヒの「宰相に仕えていた頃、あなたは僕に剣術を教えてくれましたね」、個人的な記憶で相手の心を溶かすの、この子の才能。
アレクシスの追伸「婚約おめでとう。悔しいが」、素直になれるようになった。




