第32話 銀色の占い師
日常回。ほのぼの。
リーゼは、新しい力を、静かに試していった。
領民に触れるたび、音が鳴る。
農夫の手に触れて——チリチリ。軽い風邪。
鍛冶屋の腕に触れて——カン、カン。火傷の気配。
孤児院の老婦人に触れて——ゴォン、ゴォン。重い音。心臓。
「あの方、すぐにお医者様を。心臓に、負担がかかっています」
「えっ——なぜ、わかるのですか、リーゼロッテ様」
「勘ですわ」
診てみれば、心臓に異常。早期発見で、治療は間に合った。
噂が、流れ始めた。
——銀髪の公爵令嬢は、人の病を見抜く。
リーゼは、否定も肯定もしなかった。助けられる人を、助けただけだ。
マリアが、心配そうに言った。
「リーゼロッテ様。以前の力のように——代償は、ないのですか」
「今のところは。——この力は、触れないと働かない。未来視みたいに、勝手に視えることはないの」
「でも」
「大丈夫。今度は、自分で選べるの。使うか、使わないか」
これが、以前の力との、いちばん大きな違いだった。
未来視は、選べなかった。視えてしまうから。
新しい力は、触れるかどうかを、自分で決められる。
生まれて初めて、リーゼは、自分の力を「呪い」ではなく「道具」として扱えるようになった。
* * *
エルヴィンが、報告に来た。
「王都の情勢、落ち着いてきました。宰相の裁判が始まります。証拠は十分。有罪は、確実でしょう」
「ルートヴィヒ様は」
「アレクシス殿下と、宮廷の再建に。宰相派の貴族の処分も進んでいるようです」
「そう。——殿下は、立派にやっているのね」
「ええ。——あなたがいなくても」
「それが、いちばん良いの」
リーゼは、笑った。
「エルヴィン様」
「はい」
「手を」
エルヴィンが、手を差し出した。リーゼが、握った。
——チリン。
小さな鈴の音。肩の痛みが、まだ残っている。
「まだ肩が痛いのね。訓練を、少し控えなさい」
「はい、先生」
「先生って、呼ばないで」
二人で、笑った。
窓の外で、鳥が鳴いた。
穏やかな日。穏やかな時間。
リーゼが望んでいた「普通の暮らし」が、ようやく——本当に、ようやく、手の中にあった。
「先生って呼ばないで」のやりとり書いてて笑った。
何も起きない話を面白く書くの、シリアスより難しい。修行中。
明日カレー作る。




