第21話 三つの手
リーゼは、三つの手を打つことに決めた。
一つ、アレクシス。王子の立場から、内側で宰相を遅らせる。
二つ、エルヴィン。軍人として、収穫祭の夜に動ける兵を揃える。
三つ、セレナ。宰相の内側にいる人間として、計画の詳細を引き出す。
——無理ね。
そう思いながら、それでも、他に手はなかった。
* * *
まず、アレクシスに会った。
「収穫祭の夜、宰相が動きます」
「何をする」
「宮殿に火を放ち、混乱に紛れて、あなたを殺します。同時に陛下へ『アレクシスの反乱』を報告し、第二王子に鎮圧を命じる」
アレクシスが拳を握った。
「証拠は」
「ありません。未来視で視ただけです」
「……俺は信じる。だが、父上は信じまい」
「だから、証拠を作ります。殿下にお願いしたいのは、宰相の動きを表から牽制すること。収穫祭の警備配置の最終決裁権を、宰相から取り上げられますか」
「難しいが——やってみる」
「お願いします。それから」
「何だ」
「第二王子ルートヴィヒ様に、会ってください」
「ルートヴィヒに」
「第二王子が、宰相に利用されていることに気づいているか、確かめてください。気づいていないなら——教えてあげるべきです。兄として」
アレクシスは、苦い顔をした。弟との関係は、冷えている。
「……わかった」
* * *
次に、エルヴィン。
王都の拠点で、人目を避けて会った。
「収穫祭の夜、宮殿で事が起きます」
「詳細は」
「火災と、暗殺。宰相の計画。エルヴィン様にお願いしたいのは、宮殿の外に兵を配すること。火が出たら、消火と避難誘導を。そして——混乱に紛れて逃げる暗殺者を、押さえてください」
「外なら他領の騎士団でも動ける。中は無理ですが」
「外だけで、十分です。中は、殿下が」
エルヴィンが頷いた。
「リーゼ嬢。あなたは?」
「私は——内側から、計画を潰します」
「どうやって」
「セレナ嬢を使います」
「……信用できるのですか、あの方は」
「信用の問題では、ありませんわ。あの人には、選択肢を渡しただけ。選ぶのは、彼女自身」
* * *
最後に、セレナ。
教育が終わったあと、二人だけで話した。
「セレナ嬢。一つ、お願いが」
「何でしょうか」
「義父上の書斎に、収穫祭に関する計画書があるはずです。それを——持ち出してもらえませんか」
セレナの息が、止まった。
「それは——裏切りです」
「ええ」
「私が、死にます」
「死なせません」
「どうやって」
「私が守ります。未来視で」
セレナは、しばらく黙った。
「なぜ、私に頼むのですか。私はあなたの敵だったのに」
「あなたは敵ではありません。駒にされただけ。——駒であることを、あなた自身が嫌だと思ったから、私に泣いたのでしょう」
セレナが、唇を噛んだ。
「もし、計画書を持ち出したら——その後、私はどうなりますか」
「自由になります。宰相の駒では、なくなる」
「でも、居場所が」
「ヴェルナー領に来なさい。私が、引き受けます」
セレナが、目を見開いた。
「私を——あなたが」
「婚約者を奪った女を、ですか? そんなこと、もう気にしていませんわ」
リーゼは微笑んだ。見えない目で。
「それに、あなたは優秀ですわ。宰相に育てられただけのことはある。領地の運営に、あなたの頭脳は、必ず役に立ちます」
セレナの頬を、涙が伝った。
「……わかりました。やります」
「ありがとう」
三つの手が、揃った。
リーゼの「三つの手」、書いてて脳汁出た。将棋みたいで楽しい。
「婚約者を奪った女を、ですか?」「そんなこと、もう気にしていませんわ」、リーゼかっこいい。




