第20話 セレナの涙
セレナ嬢のターニングポイント。
教育二十日目。
リーゼは、セレナに変化を感じていた。
目は見えない。ただ、声の震え、息遣い、衣擦れ——全部が情報になる。
セレナは、追い詰められている。
リーゼとの実力差。宮廷での評判の下降。宰相からの圧力。
「セレナ嬢。今日の課題は——」
「リーゼロッテ様」
いつもと違う声だった。かすかに震えている。
「少し——二人きりで、お話しできますか」
女官を下がらせた。教室に、二人。
「何かしら」
「あなたは、全て知っているのでしょう。私のことも。義父のことも」
リーゼは、沈黙した。
「答えてください。私が、宰相の駒だということ。婚約も、出会いも、全部仕組まれたものだということ」
「……知っています」
「いつから」
「最初から」
セレナの息が、止まった。
「最初から知っていて——なぜ、何もしなかったのですか」
「する必要がなかったからです。あなたが駒であるのは、あなたの問題であって、私の問題ではありません」
「では、なぜ教育を」
「王命ですから。——それと」
リーゼは、少し考えた。
「あなたに、選択肢を見せたかったから、です」
「選択肢」
「宰相の駒として生きるか。自分の意志で生きるか。——教育を通じて、あなたには『自分で考える力』が、少しずつ身についてきている。それは、宰相が与えなかったものです」
セレナが、泣いた。
音を立てずに。
「私には、選べません。義父に逆らえば、私は——」
「消される?」
「……はい」
「なら、選ばなくていい。——今は」
リーゼは、声の方向を辿って、セレナの肩に手を置いた。
「ただ、覚えておいてください。選べる日が来た時に、——自分で選ぶということを」
セレナは、しばらく泣いていた。
リーゼは、泣く肩の温度から考えた。
——この女は、敵ではない。
敵にさせられた、もう一人の犠牲者だ。
* * *
その夜。
リーゼは未来視で、宰相の書斎を視た。
クラウスが、机に向かっている。手元に、計画書。
『第一王子排除計画 第三段階 実行予定日:収穫祭の夜』
収穫祭。王族全員が出席する、国家行事。警備は厳重。だが、警備の配置を決めるのは、宰相自身だ。穴は、いくらでも作れる。
計画の中身が、頁をめくるように視えた。
収穫祭の夜、晩餐の最中、宮殿の地下から火を放つ。混乱の中で、アレクシスを暗殺。同時に、国王へ「アレクシスの反乱」という偽報を入れ、第二王子ルートヴィヒに鎮圧を命じる。
国王は老齢、病床にある。判断力が鈍っている。宰相の言葉を信じる。
そして——ルートヴィヒが「反乱を鎮めた英雄」として、即位する。
収穫祭まで、あと一ヶ月。
「……大きいわね」
一人で折れるフラグでは、ない。
リーゼは、暗闇の中で、拳を握った。
爪が、掌に食い込んだ。
セレナが泣くシーン、最初は書く予定なかったんです。でもキャラが勝手に泣き出した。
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