第14話 騎士団長の左遷
推しキャラ退場回はつらい。
教育二日目の朝。
宮廷に、知らせが走った。
「騎士団長ハインリッヒ・ヴォルフ、辺境砦への転属を命ぜられる」
リーゼは表情を動かさなかった。未来視で、既に見ていた。
見ていたからといって、痛くないわけではない。ハインリッヒは王子の忠臣だった。あの報告書をまとめた男。リーゼの八年を掘り起こし、王子に真実を渡した男。
それが——宰相に邪魔だから、消された。
* * *
アレクシスは、怒っていた。
「取り消せ! ハインリッヒの転属を!」
「殿下、陛下の御命令です」
「父上が——」
「宰相閣下の進言により、辺境の防備強化のため、経験豊富な指揮官が必要であると」
「そんな理由で」
だが、王命には、逆らえない。
出立の朝、ハインリッヒはアレクシスに一礼した。
「殿下。どうか、お気をつけを。あなたの周囲には——味方のふりをした、敵がいます」
「ハインリッヒ……」
「そして、ヴェルナー公爵令嬢は、あなたの真の味方でした。それだけは、どうか、お忘れなく」
ハインリッヒが去った。
執務室に、アレクシスが一人残された。
信頼できる部下を奪われ、婚約者の正体を疑い始め、元婚約者には拒まれ——
王子は、生まれて初めて「孤独」を知った。
* * *
同じ日。教育の時間。
リーゼはセレナに外交儀礼を教えていた。
「隣国の大使が非礼を働いた場合、王太子妃はどう対応いたします?」
「微笑んで、受け流します」
「不正解」
セレナの指が、ノートの端で止まった。
「受け流すのは、弱さの表明ですわ。王太子妃は、非礼をその場で指摘し、相手の面子を潰さずに訂正させなければならない。それが、外交です」
「……はい」
セレナの顔に、焦りが滲んだ。
教育が進むほど、彼女の不足が露になっていく。宰相の元で仕込まれたのは「操る技術」であって「治める技術」ではなかった。この二つは、似ているようで、別物だ。
教育が終わって、リーゼは廊下を一人、歩いていた。
「リーゼロッテ嬢」
振り返ると、アレクシス。
「殿下」
「少し——話せないか」
「セレナ嬢に見られますわよ」
「構わない」
中庭のベンチに、二人で座った。
「ハインリッヒが、飛ばされた」
「存じております」
「宰相の仕業だ。——だが、証拠がない」
「証拠は、不要ですわ。重要なのは、『なぜ宰相がハインリッヒ様を消したかったか』です」
「あの報告書のせいだろう」
「その通り。報告書は、殿下に真実を渡した。宰相にとっては、殿下が真実に目覚めるのが都合が悪い」
「なぜだ」
リーゼは、王子を見た。
「殿下。お考えください。宰相が殿下の周囲から忠臣を削り、代わりに自分の駒を置いている理由を。——そしてセレナ嬢が、なぜあのタイミングで殿下の前に現れたかを」
アレクシスの表情が、硬くなった。
「……セレナは、宰相の——」
「私の口からは、申しません。ご自分で、お確かめください。——王子であられるなら」
リーゼは立ち上がった。
「一つだけ、忠告を。セレナ嬢の前で、今の会話をした素振りを見せないように。あの方は——私と同じくらい、観察が鋭い」
リーゼが去った後、アレクシスは長い間、ベンチから動かなかった。
噴水の水音だけが、聞こえていた。
ハインリッヒ、好きキャラだったので書くの辛かった。後で戻ってくるんで(ネタバレ)安心してください。
「あなたの周囲には味方のふりをした敵がいます」、退場前に一番大事なこと言うの最高。




