第11話 白の侵食
第二章「代償」スタート。ここからシリアス度上がります。
## 第二章 代償
王子が去って、一週間。
リーゼの身体に、異変が出た。
朝、鏡を見て、息を呑んだ。
右のこめかみに、白い筋が増えていた。もう左半分だけではない。右にも白が走り、栗色と白が半々に近づいている。
「……早い」
使っていないのに、広がっている。
——使っていないつもり、だった。
眠っている間に、視ていたのだ。無意識に。王子の未来を。ヴェルナー領の未来を。宰相の動きを。
身体は、嘘をつかない。
「マリア」
「はい」
「私の視力、最近落ちてると思う?」
「えっ——そういえば、昨日も書類を顔に近づけて読んでいらしたような」
「そう。やっぱりね」
リーゼは鏡から目を逸らした。
代償は三段階で進む。
一段階、白髪化。
二段階、視力低下。現実を視る力が、未来を視る力に食われていく。
三段階——
リーゼは、そこで考えるのをやめた。まだ、考えたくない。
* * *
午後。水路工事の視察。
「順調ですわね」
「はい、リーゼロッテ様のおかげで、十年ぶりに水路が整います。今年の収穫、倍になるかもしれませんで」
農夫の顔が、明るい。この領地には、希望がある。
リーゼの目には、遠景がぼやけていた。
山の稜線が、霞んで見える。先月までは、くっきり輪郭が見えていたのに。
「リーゼ嬢」
エルヴィンが、隣に並んだ。
「顔色が、悪いようですが」
「気のせいですわ」
「気のせいではないと思います。先週から、遠くを見る時、目を細めていらっしゃる」
リーゼは黙った。この男は、よく見ている。
「エルヴィン様」
「はい」
「私の髪が、全部白くなったら、どう思いますの」
唐突な問いに、エルヴィンは少し考えた。
「銀髪の令嬢。似合うと思いますが」
「お世辞が上手ですこと」
「本気ですよ」
エルヴィンの声に、嘘はなかった。
——この人に、全部話してしまいたい。
そう、ふいに思った。
未来視のこと。代償のこと。いつか、光を全部失うかもしれないこと。
口には、出さなかった。
背負わせたくない。もう、自分の問題を誰かに押し付けることは、したくない。
「行きましょう。次は孤児院ですわ」
歩き出した。ほんの少し、足がふらついた。
エルヴィンの手が、静かに差し出された。
リーゼは、その手を——取らなかった。
まだ。
視力が落ちる過程、調べてから書いた。一気にじゃなくて「あれ、ぼやけるな」から始まるらしいですね。
リーゼがエルヴィンの手を取らないシーン。「まだ」って一語で済ませた。彼女、人に頼ることに慣れてない。
飯食ってない。




