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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第164話 岩斗の長所と短所は同じ



「岩斗もお帰り~」


「お帰りじゃないですよ、玖道兄上。今日の市場の最後の片付けを他の者に任せて帰るなんて無責任過ぎますよ」



 道麻を鋭く睨んでいた岩斗は自分に対して呑気に「お帰り」と言った玖道にも鋭い視線を向ける。

 しかし玖道はそんなことでは怯まない。



「だってさ。今日は美雨王女たちが来るって言ってたから情報収集しようと思って早く帰りたかったんだよねえ。土の王配候補者として重要なことだと思わない?」


「…っ! そ、それは、そうだけど、でもそれで仕事を他人に押し付けたら族長の顔に泥を塗るようなものじゃないですか! ただでさえ既に土族の恥晒しがここにいるのに!」



(あ~あ、また始まったわ。岩斗は長所も短所も真面目なところなのよねえ)



 玖道との会話で分が悪くなった岩斗は怒りの矛先を道麻に向ける。

 岩斗の土族の恥晒しとは道麻のことだ。


 道麻が女装を始めた時に一番強く拒否感を示したのはこの岩斗である。

 四歳年下の岩斗はまだ成人になったばかりだが幼い頃から道麻のことを「素晴らしい兄上」と称賛していた。


 岩斗にとって道麻は憧れであり自慢の兄だったのだろう。

 その尊敬の対象であった兄がある日突然女装をして「この姿でアタシは生きる」と宣言したのだから岩斗には受け入れられないほどの衝撃だったのは道麻も理解できる。


 玖道と父親の資道は早々に道麻の生き方を認めてくれたが岩斗だけは未だに道麻に対して拒否反応を見せてくるのだ。

 あれから四年経つのに岩斗は顔を合わせれば道麻に絡んでくる。岩斗の自分に対する複雑な気持ちが分かるからこそ道麻は岩斗に何を言われても怒ったりはしない。


 もしかしたら女装している理由を話せば岩斗も納得してくれたかもしれないがそれではまた別の問題が生じる可能性がある。

 本当の理由を知れば真面目な岩斗は自分も片腕の悪魔と戦うと言うのは明白だ。大切な弟の身を危険に晒す訳にはいかないからこそ岩斗には真実は伝えられない。



(それに意外と女として生きるのもそれなりにアタシの性に合ってるから余計に言えないわよねえ)



 恋愛対象が女性であることを除けば道麻はこのまま女性として生きていくのもありかなと考えることもある。

 片腕の悪魔を倒すために弓の腕を落とすわけにはいかないから身体を鍛えているが念願が達成できればそこまで鍛えなくてもいいはず。


 筋肉が今より無くなり細身になれば今は着れないもっと可愛い女性用の衣服も着ることができる。

 綺麗な可愛いモノが好きな自分の生き方としてそれはとても魅力的な話だ。


 しかしそこで道麻は思い出す。

 自分の心を鷲掴みにした美雨の笑顔を。


 彼女の好みはたくましい男だろうか、それとも体型は関係なく内面重視なのだろうか。



(たくましい男が好きなら筋肉を落とす訳にはいかないわよね。内面重視なら私が細身になっても大丈夫かしら……いえ、ダメだわ。強い男じゃなきゃ土の王配にはなれないもの……)



 体型が細身でも戦闘能力が高い者は存在する。

 だが道麻が得意なのは弓だ。弓は腕の筋肉だけでなく身体全体の筋肉を使うために鍛錬をしていない身体ではすぐに弓を引けなくなってしまう。


 それではあの二人の王配に比べて完全に自分が劣ることになる。

 王配は女王を守護する役目も持つ。女王を護れない男は王配にはなれない。


 美雨が女王候補者である以上、その愛を得るためには土の王配を目指す必要がある。

 自分が土の王配になれたとしても美雨には自分以外に他部族の五人の王配がいることになるから他の王配より強くなければ美雨の愛を独り占めにはできない。



(でもあの二人の王配たちの霊力は尋常じゃなかったわね。あれだけの霊力はアタシには正直ないわ。そうなるとあの二人に勝つ、もしくは同等の力を最低でもアタシは手に入れる必要があるわね。どうすれば霊力を高められるかしら。そうね、まずはあの二人の霊力の正体を知ってから対応策を考えようかしら)



 強大な霊力が生まれつきなのかそれとも何か特別な方法で手に入れたものなのかで自分がどうすればいいか問題解決の糸口が見つかるかもしれない。

 それに忘れてはいけないのは片腕の悪魔のことだ。その件も片付けなければ美雨の土の王配としてこの地を離れることができない。



(女王候補者が各部族に滞在するのは一月ほど。その間に片腕の悪魔を倒して他の土の王配候補者を蹴落として美雨ちゃんに土の王配に選んでもらうしかないか。それってかなり厳しい条件だわ)



 やらなければならないことが多い事実に道麻は溜め息を漏らす。

 すると苛立った岩斗の声が部屋に響く。



「おい、あんた! 何を溜め息吐いてるんだ! あんただって刺繍なんて女のすることやって市場の仕事に来なかっただろ! 例の水不足のおかげで市場の売買の値段交渉で揉め事が多くなってるって言うのに!」



 自分の考えに没頭していた道麻は岩斗に言われて今現在土族が抱えている問題を思い出した。



「そういえば水不足は解消してないんだったわね。父上には今後の対応を話し合うって言われてたんだったわ。そういえば父上はどこに行ってるの?」


「父さんは族長の家で美雨王女たちと夕食を食べているよ。俺たちは明日の午前中美雨王女と顔合わせだってさ。だから水不足問題は明日以降話し合いすればいいじゃねえの?」


「玖道兄上もあんたも何を悠長なこと言ってるんだよ! 話し合いをする前に溜め池の現状も確認するべきだろ! それもしないなんて……」


「分かったわよ、岩斗。それじゃあ、今から溜め池の様子をアタシが見て来るわ。それでいいでしょ?」



 道麻は岩斗の苛立ちを鎮めるためにそう言い放つ。

 自分のことを兄だと認めたくない岩斗は道麻のことを「あんた」とか「奴」とかいう言葉でしか呼ばないのだ。


 岩斗を憎む気持ちはないがやはり弟にあんた呼ばわりされると気分も悪くなってくる。

 こういう場合は岩斗を少し冷静にするために物理的に距離をおいた方がいいことは経験で知っていた。



「でも道麻姉さん。もう、暗くなるよ。明日にすれば?」


「別にすぐに戻るから大丈夫よ。自分の部屋で支度したらちょっとだけ行って来るわ」



 道麻は早々にリビングから出て行く。



(アタシが溜め池を見に行ってる間に岩斗も落ち着くでしょうし。ついでに族長の家の方を通って美雨ちゃんの顔が少しでも見られないかしらね。岩斗の癇癪かんしゃくに付き合った後は美雨ちゃんの笑顔で癒されたいわ)



 そんなことを考えながら道麻は一度自分の部屋に戻り改めて出かける準備をして自宅を出た。


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