バトルロイヤル 20 ルビーVSマリア D
血がアスファルトに落ちる音さえ聞こえそうな夜だった。
ルビーは廃車の陰で脚の傷を簡易止血しつつ、冷静に状況を分析していた。出血は深くない。動きは制限されるが、致命的ではない。しかし、それ以上にマリアの動きが速すぎた。
罠の可能性がある。
彼女のハンドガンの動き、回り込みの速さ、あれは即興ではない。すべて“想定していた”反応。マリアはこのストリートの地形を完全に記憶している。逃げ場も、遮蔽物も、踏み板になる瓦礫さえ。
そのとき、風が変わった。
(まだ遠くにはいない)
ルビーは息を整え、傷の痛みを飲み込みながら再びハンドガンを構え、廃車の下から覗く。
が、そこにマリアの姿はない。
静寂。
だがその空白こそが、マリアの存在を証明していた。
心理戦だ。
(動けば撃たれる。動かなければ包囲される)
ルビーは自分の心に言い聞かせるように呟き、視線を瓦礫の上へ滑らせた。
そして気づく。わずかに揺れた、遠くのドア。廃墟ビルの一階、開きかけのドアが、わずかに風とは逆方向に動いた。
その瞬間、背後、右斜め上から炸裂音。
バンッ!
マリアが別角度の廃墟二階から、ショットガンを狙撃のように放ってきた。弾は瓦礫に激突し、ルビーの背中をかすめるように炸裂。衝撃で体が投げ出される。
ルビーは転がりながら反応し、すぐさま対抗射撃。だがマリアの姿は消えている。
(また、動いた……!)
息が荒れる。
だが、怒りではない。焦燥でもない。ただ純粋な、戦術への驚嘆。
(読まれている。)
それがどこか、悔しかった。
ルビーは立ち上がりながら、視線をビルの屋上へ向けた。
「やるわね……“ポニーテールの悪魔”」
呟くと同時に、ライフルを拾い上げ、周囲の反響音から音源の位置を逆算する。
そして気づく。マリアの真の狙いは「位置を知らせること」ではない。
(私の動きを、“誘導している”。)
罠の中心に自分がいる、それに気づいた瞬間、左後方の物陰からマリアが飛び出した。
パンッ! パンッ!
ハンドガン二発。ルビーは前方にスライディングしながら回避、着地と同時に反転射撃。
キィィンッ!
金属と弾丸がぶつかり火花を散らす。
マリアはそれすらも想定内のように回避、足場を蹴って背後の壁に跳び、反動で再び跳ねる。
バンッ!
バンッ!
ショットガンの二連射。散弾はルビーの周囲を破壊するように炸裂、粉塵が視界を覆う。
(見えない!)
だがその“見えない”を逆手に取るのが、ルビーだった。
彼女は目を閉じる。そして耳と皮膚感覚で空間を捉える。微かな足音、空気の動き、マリアの呼吸音……。
(右斜め下。今、飛び出そうとしてる!)
パンッ!
ルビーの一撃が、粉塵の奥のマリアの右肩を正確に撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
マリアの体が壁に打ちつけられる。しかし反撃は止まらない。彼女はすぐに身体を反転させ、片手でショットガンを構え、
バンッ!
至近距離で撃ち込む。ルビーは反応しきれず、腹部に衝撃が走る。弾はかすっただけだが衝撃が内臓を揺らす。
二人はほぼ同時に倒れ込んだ。呼吸が荒く、血が流れ、互いの距離はおよそ五メートル。
息を整えながら、マリアはぼやける視界でルビーを見つめた。
(まだ……倒せない。)
ルビーも、揺れる視界の中でマリアの姿を探す。
(撃ち切った?いや、まだある。)
次の一手。次の一撃。それが、すべてを決める。




