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決戦用意2

 ドルガー将軍がフォルシアンから撤退してから約一月、俺とフィナリアはセレスティーナと共に各部族の調停に奔走していた。


 意外にもフォルシアンの部族はかなり協力的になっていた。

 二度にわたってフォルシアンに侵攻してきた帝国軍に対してフォルシアンの人々は相当な脅威を覚えていたらしく、それを撃退した俺たちに協力するのはやぶさかでなくなったらしい。


 現金な話ではあるが、それも無理のない話だろう。

 元々争いとは無縁の生活を送ってきたのがかれらの生き方なのだから。

 

「分かりました。では、そのように」


 ちなみにフィナリアは今俺の隣でガインから貰った携帯式の通信水晶を手に誰かと相談事をしていた。

 フィナリアはフォルシアンだけではなくリスタコメントスやノーストンの状況も把握しなければならないため、暇さえあれば連絡を取り合っている。

 いつ休んでいるのかもわからないほどに忙しそうなフィナリアだが、今が佳境なので無理に休ませるわけにもいかない。

 何より、フィナリア自身がまるで疲れを見せていないから非常に止めにくい。


「クウヤさん」


「ん? どうした」


 通信が終わったと同時に、フィナリアが相も変わらず雑念丸出しの俺に声をかけてきた。

 

「旅支度を整えておいていただけないでしょうか?」


「旅支度? なんでまた」


「フォルシアンの調停にはある手度めどが立ってきました。ですから、しばらく後に私たちはリスタコメントスへ戻ることになります」


 フィナリアがそう言うと、俺は目を細めた。

 フォルシアンの調停が終わるということは、帝国に攻め込む準備が整うということでもある。

 つまり決戦の時が近いということだ。


「いつだ?」


「出発は明後日を予定しています」


「分かった」


 そう言って、俺は一つ大きく深呼吸をした。

 いよいよカーナイル領から始まったこの騒乱も大詰めとなっていることに、今一度気合を入れ直すために。






「さて、これで準備良しと」


 フィナリアの予定通り本日俺たちはリスタコメントスに戻ることとなった。

 そのためにファーレンベルクの元に手荷物をまとめて、俺はそんなことを口にした。


 元々フォルシアンが拠点ではないため俺の手荷物などたかが知れている。

 元の世界のように電子機器がないため、衣服と食料程度しか必要なものがないのだ。


「お、準備完了か」


「さて、では出発するとするかのう」


 そんなことを良いながら、フィナリアと共にトリストスとセレスティーナがファーレンベルクの元に歩み寄ってきた。


「あれ? 二人とも見送りですか?」


「ん? 何を言っておるんじゃクウヤ」


 見送りかと思っていた俺に、セレスティーナが不思議そうにそんなことを口にした。


「なんだ? クウヤ。お前聞いてないのか?」


「何がです?」


 根本的にどこか会話が食い違っているような気がして、俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「あ、すみませんクウヤさん」


 そんな俺の様子に気づき、フィナリアが突然謝ってきた。


「ん? なんだ?」


「クウヤさんに伝えるのを忘れておりました。リスタコメントスに向かうのは、クウヤさんと私だけではありません」


「え? ってことは?」


 混乱する俺に、フィナリアはコクリと頷く。


「この場に居る4名です」


「は? ええ?」











 フィナリアの予定通りに俺たちは旅支度を整えてファーレンベルクに乗ってリスタコメントスへと向かうために帝国領土の上空を飛翔していた。

 戦闘面でも反則級なファーレンベルクだが、移動面においてはさらに反則級である。

 俺たちを乗せた状態で雲の上を飛翔しているのだから帝国軍からは察知されようがない。


 ただ、行きはフィナリアと二人で広々としていたファーレンベルクの背中が今は少々手狭な感じがする。


「で、本当にお二人が俺たちに同行してよかったんですか?」


 それもそのはず。

 今ファーレンベルクの背には俺とフィナリアに加えてセレスティーナとトリストスも乗り合わせているのだ。

 ファーレンベルクは爆風を起こす時以外に羽ばたくことは無いので広さ的には問題ないのだが、それでも4人となると手足を伸ばして寝転がることができない程度には狭い。


「本当に申し訳ありません。忙しさにかまけてクウヤさんにお二人が同行することを伝えるのを忘れておりました」


 フィナリアが俺に対してそんな謝罪を口にする。

 

「ああ、いや、驚きはしたけど、それは別にいいよ。と言うか、フォルシアンの主力が全員出張って大丈夫なのか?」


 と、俺はフィナリアにそんな疑問を投げかける。

 俺はともかく、フィナリア、ファーレンベルク、トリストス、セレスティーナがいなければドルガー将軍が攻め込んできた際に対処のしようがない。


 とは言ったものの、俺はそのことについてはあまり心配していない。

 フィナリアは俺よりもはるかに思慮深い。俺が思いつく手度の危険性などとうの昔に考慮に入れているだろう。


 今回の行動は当然それを踏まえての行動のはずだ。

 ゆえに俺はフィナリアに問題提起をするのではなく、今の現状を正しく把握するためにとこんな質問をしたのだ。


 案の定、フィナリアはコクリと頷き現状を詳しく教えてくれた。


「ドルガー将軍は勇猛にして聡明な将軍です。恐らく、ドルガー将軍の頭の中には人間界全土の戦力が思い描かれているはずです。だからこそ、私達がこうしていることに意味があります」


「具体的には?」


「私達がこうして帝国の上空を横断しているのをドルガー将軍は知りません。つまりドルガー将軍から見れば私たちはフォルシアンにいると想定しているはずです」


 確かにその通りだ。

 ファーレンベルクは現在雲の上を飛んでリスタコメントスへと向かっている。

 そんなものを察知する方法など普通は存在しない。


 となればなるほどドルガー将軍の頭の中には今も俺たちがフォルシアンにいるということになっているのだ。 

 俺達が主力である以上少し突いても出てこなくて当然。

 である以上、あちらは俺たちがいなくてもいることが前提で動かなくてはいけないってことか。


「もしドルガー将軍が、俺たちがいないって見切ったらどうするんだ?」


「その時はフォルシアンの民はノーストンへと亡命する」


 続けて質問した俺に、セレスティーナが答えた。


「亡命?」


「うむ。お主が懸念している通りになった場合、今のフォルシアンにあの将軍の攻撃を防ぐすべはない。しかしあの地は天険の地。如何にあの将軍と言えどもそうやすやすとすべてを制圧することはできん。ゆえにガイン達がドルガー軍を攪乱しながら領民たちをフォルシアンから逃がす手筈は整っておる」


「それに、もしそうなった場合ノーストンとリスタコメントスの両軍が帝国になだれ込みます。ドルガー将軍もそれは分かっていますので、下手にフォルシアンに手を出すことはできません」


「なるほどな」


 俺たちがフォルシアンに留まっていれば苦戦は必至。

 もし留まっていないとしても下手に攻め込めば敗北は必至。

 となればどう転んでもドルガー将軍は下手には手を出せないということになる。


「もしも帝国にドルガー将軍と肩を並べられるほどの方がいらっしゃれば私たちもこんな戦い方はできません。ですが、今ドルガー将軍は完全に孤立しています。だからこそ、私たちにも勝機があるのです」


 フィナリアがそう言うと、トリストスが興味深そうに口を挟んだ。


「背を任せられるやつがいないってことか。なるほどそれなら確かに俺たちの方が圧倒的に有利だな」


「そうじゃな。妾もそう思う」


 確かに、俺とフィナリアについてもカーナイル、シルディエ、バストラングの三人がリスタコメントスにいるからこそフォルシアンまで出張れたという面がある。

 そしてドルガー将軍にはそうやって背を守ってくれる存在がいないのだ。

 何しろもう一人の将軍は二度も敗退してドルガーの足を引っ張りまわしているのだ。


 俺たちから見ればありがたい話ではあるが、ドルガー将軍から見ればたまったものではないだろう。


 しかし油断することだけはできない。

 目の前の敵に集中することができない状況でありながら、リスタコメントスとフォルシアンを追い詰めたその実力は帝国最強の名に恥じないものだからだ。


「なあ、フィナリア」


 ふと、俺は頭の片隅によぎった疑問を口にする。


「なんでしょう?」


「フィナリアが俺とトリストスをヴァルシアから救出してくれた日の事、覚えてるか?」


 俺の言葉に、フィナリアとトリストスが目を細める。


「覚えています」


「あの時、ファーレンベルクを打ち抜いた魔導師はどうなんだ?」


 ファーレンベルクを打ち抜くような魔導師が帝国にはいた。

 実力的にどうなのかは分からないが、あんな魔法が使えて雑魚ということは無いだろう。

 この段取りはドルガー将軍が守備に回ることが前提となっている。

 もし万が一その前提が間違っていた場合、俺たちは致命的な判断ミスをしてしまっていることになる。


「……ロイルド・インディオス卿の事ですね」


 俺の指摘に、フィナリアがそんな名前を口にした。


「シルディエ様から聞いています。少なくとも今の私以上の竜魔法を用いたと」


「それは、相当な実力者じゃのう」


 フィナリアの言葉にセレスティーナが呻く。

 今のフィナリア以上の魔導師となれば確かに驚異的な存在だ。


「その魔導師とドルガーが組んだらやばいんじゃないのか?」


 トリストスがそんなことを指摘し、フィナリアはそれに対して頷いた。


「はい。ですので、今私たちがこうしてリスタコメントスに向かっているのです」


「ん? どういうことだ?」


 フィナリアの説明に理解が及ばず、俺たちは頭上に?マークを浮かべる。


「詳しい話はリスタコメントスについてからになります。いずれにせよ、それから先は激しい戦いになりますので、今のうちに休息を取っておいてください」


「…分かった」


「そうするとしようかのう」


「了解だ」


 三者三様の了承の意を示し、俺たちはファーレンベルクの背でしばしの休息を取ることとなった。

 






 フォルシアンを出ることおよそ一日と半分。

 俺たちはリスタコメントス領内へと戻っていた。

 

 フォルシアンへ向かうときには丸二日かかったのだが、パワーアップしたファーレンベルクは飛行速度も上がっているらしい。


「見えました。王城です」


 フィナリアがそう言うと、リスタコメントスの王城が目に入った。

 今日はここで必要な打ち合わせをすることになっているらしく、俺たちは王城の中庭に降りた直後に会議室へ向かうようになっているのだとか。


 ファーレンベルクの背に乗っている時も、フィナリアは定期的にカーナイルと連絡を取っていたようなので、到着時刻が予想より早いのも問題ないらしい。


 王城の中庭が目と鼻の先に迫った時、俺の目に懐かしい二人組が飛び込んできた。


「シルディエさん。バストラングさん」


 ファーレンベルクが着地したと同時に、おれは飛び降りて二人の元に駆け寄る。

 フォルシアンに滞在していたのは二月足らずなのだが、二人はその間二度にわたって行われた帝国軍の侵略を防いでくれた立役者なのだ。

 

 フィナリアからは相当な激戦だったと聞いていたので無事をこの目で確認したかったのだ。


「久しぶりクウヤ」


「くうや。げんきそう、だな」


 そんな俺に対して二人がそれぞれ再会を喜ぶような言葉をかけてくる。


「お二人とも、私達が留守の間にこの国を守っていただき感謝の念に絶えません」


 続けてフィナリアがそんな言葉を二人に送った。

 それに対し、シルディエとバストラングは首を横に振った。


「きに、するな」


「お互い様。私たちもフォルシアンが味方になってくれて助かったんだから。それで、あちらの方々は?」


 シルディエがセレスティーナとトリストスを見ながらそんなことを口にした。

 その質問に対してフィナリアが答える。


「はい。あちらの方がフォルシアンの女王セレスティーナ・クララベル様と、剣士トリストス様。共に私達と戦う同志です」


「そう。なら、長旅で疲れているでしょうけど、早速会議を始めてもいい?」


 俺たちを見渡しながらシルディエはそんなことを口にした。

 無論、俺たちもフィナリアからそうなることを告げられていたので準備は万全だ。


「こっちは問題ない」


「そう。なら、自己紹介は後回しにして会議場に移動しよう」


 シルディエがそう言うと、トリストスが俺の元に歩み寄って耳打ちしてきた。


「あいつか? ドルガーの娘ってのは」


「ええ。そうです」


「相当な腕前だな。今のフィナリアでも危ないんじゃないか?」


「どうなんでしょう?」


 フィナリアとシルディエは一騎打ちをしたことがあるわけではないのでどちらが強いというのが今ひとつわかりかねる。

 というか、シルディエは部隊を率いていたことはあっても単独で戦っているところを見たことが無いので実際の戦闘力がどのくらいなのかが俺には見て取れないのだ。


「…それと、あいつが例の獣人か?」


「はい。バストラングさんです」


 俺がそう言うと、トリストスが興味深そうにバストラングの元へと歩み寄った。


「お前、相当にやるな」


「…そっちも」


 バストラングとトリストスが並び、お互いを横目で見ながらそんなことを言い合っている。


「お前みたいなのと一緒に戦えるとは思ってなかった。よろしく頼む」


 そう言うと、トリストスはバストラングの胸板をポンとたたいた。


「こっち、こそ」


 それに対してバストラングもトリストスの肩に手を置いた。

 腕利き同士、案外気が合うのかもしれないな。


 等というやり取りがあったのち、シルディエの案内に従って俺たちはその会議場へ向かった。

 

「ここがリスタコメントスの王城か。見事なものじゃのう」


 俺の隣でセレスティーナがそんなことを口にする。

 フォルシアンの王女とはいえ、セレスティーナは山奥に住んでいたのだ。

 田舎者と言っても差し支えない彼女から見ればそんな反応を示すのも当然と言えば当然か。


「いつか、人間界を見て回れるといいですね」


「そうじゃな。そのためにも、この戦いをいち早く終わらせなければ」


 そんなことを言い合っていると、シルディエが一つの扉を開けた。

 どうやらあの部屋が会議室らしい。


 俺たちが扉をくぐると、大きな机と、人数分の椅子が用意されていた。

 ついでに言うとその場にはすでに先客がいた。


 俺たちが入って来たのを確認すると、その先客がこちらに向かってやってきた。


「あ!」


 その姿には見覚えがあった。

 丈を手にした隻腕の男は、ノーストンの将軍だった。


「お久しぶりです。クウヤ様。フィナリア様。そしてよくぞお越しくださいました。セレスティーナ様。トリストス様」


「ジェクト将軍! なんでここに?」


 俺がそんなことを口にすると、フィナリアが説明してくれた。


「ジェクト将軍は、今回の帝国との戦いの総大将を務めていただくことになっています。ですから、今日に合わせてこの場に来ていただいたのです」


「改めてよろしくお願いいたします」


 そう言って、ジェクト将軍は俺たちに頭を下げた。


「ジェクト将軍。早速ですが、会議を始めさせていただいても?」


 挨拶をするジェクト将軍に対し、シルディエがそんなことを口にした。

 それに頷き、ジェクトは話を進めた。


「では、皆さまお席にお着きください。早速作戦をお伝えいたします」


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