魔道総師
シルディエの眼前に、膨大な魔力を内包した『火龍弾』が迫りくる。
以前、シルディエを処刑場から救出したロウセイはそれを片手で受け止めるなどと言う暴挙ともいえる行いをやってのけたが、当然シルディエにはそんな芸当出来るはずもない。
(ロウセイ様が使っていたような魔道装甲は、まだ私には到底扱えない)
そう思い、シルディエはありったけの魔力を槍に込める。
それに並行し、右手に蓄えていた魔力を放出する。
『雷鳴閃!』
放たれた魔法が、迫りくる炎龍を縫い付けるように幾度も貫いた。
しかしフィナリアの風龍弾はそれである程度威力が減衰していたが、ロイルドの炎龍は相当な魔力が込められているのか、ほとんどその威力を殺しきれていない。
そもそも龍を象形する魔法はシルディエの放った『閃』の魔法を大きくし、さらに自由自在に遠隔操作することを目的とした果てに出来上がる最上級魔法。
僅かでも減衰できれば御の字なのだ。
『投雷槍・一閃!』
雷鳴閃が炎龍に飲み込まれた直後、シルディエは雷の魔力を纏わせていた雷槍を投擲する。
シルディエは槍使いである以上、当然投槍にも精通している。
そんなシルディエの槍が、雷の魔力を宿してその威力を補強し加速させているのだ。
魔力を凝縮して造り上げられた炎龍弾は属性魔法の極致とも言われる魔法ではあるが、単純な威力だけであればシルディエの奥義も劣るものではない。
しかも炎龍弾は先ほどの『雷鳴閃』でわずかばかりだがその威力を削られている。
自分が放った投槍の行方を残心とともに見届けるシルディエの眼前で、雷槍が炎龍と激突した。
雷を宿した槍と、龍の形となった魔力の塊が正面から激突する。
一種異様な光景ではあるが、互いの手から放たれた魔法はその魔力が尽きるまで消えることは無い。
つまり魔法同士のぶつかり合いは如何に相手の魔力を消し去るかということが重要になる。
それは奥義と魔法のぶつかり合いであっても本質的には変わらない。
魔力を帯びない斬撃などいくら鋭くても魔法を素通りしておしまいだからである。
「…なるほど、さすがはドルガー将軍の娘。私の炎龍弾と互角とは」
拮抗する雷槍と炎龍を眺めるロイルドは。
「となれば、まずはその槍を砕かせてもらいましょう」
突然、そんなことを口にした。
直後、ロイルドの手を離れた火竜がその咢を開き、雷槍を飲み込んだ。
「な!?」
通常、攻撃魔法というのは弓矢同様に一度術者の手を離れればその魔力が切れるまで飛翔するだけなのだが、武器と異なり身一つで生成される魔法は理論上遠隔操作が可能とされている。
しかしそれはあくまで理論上の話。
シルディエは元より、フィナリアでさえも未だに風龍を真っ直ぐ飛ばすことしかできないと言っていた。
だというのにロイルドの炎龍は真っ直ぐに突撃し、シルディエの雷槍と拮抗する状態になっている状態から遠隔操作をしてのけた。
そしてその対処法は非常に理にかなっている。
シルディエの放った雷槍は魔力のほぼすべてを槍の先端に集約させているため突破力こそ龍形成魔法に匹敵するが、その特性から矛先以外は極めて脆弱な反面を持っている。
飲み込まれた雷槍は龍形成魔法を僅かに貫きながらも、その魔力の濁流に柄部分から順に破壊されてしまう。
槍本体が破壊されたとあっては当然奥義も発動し続けることはできない。
見る見るうちにシルディエの奥義が火竜に飲み込まれるように消滅していった。
「見事と言っていいでしょうが、まだ甘いですな」
ロイルドがそう言うと、雷槍を飲み込んだ火竜が再びシルディエめがけて動き出した。
対するシルディエの手には獲物はなく、魔法は既に高難易度の魔法を連発しているため、即座に迎撃できる用意はない。
また、二度も迎撃されたにもかかわらずロイルドの火竜弾は未だにその威力を十分に保っている。
……少なくともシルディエ一人を仕留めるには過剰なほどに。
目の前に迫りくる火炎の龍が、まっすぐにシルディエを飲み込もうと迫りくる。
だが、目の前に迫る脅威に対してシルディエの眼には全く別のものが映っていた。
その目に映っていたのは、自分と火龍の目の前に割って入った巨漢の獣人バストラングの姿。
その右手には、黄土色に輝く戦斧。
「………!!!!!」
無言の、しかし裂帛の気合と共にバストラングが襲いくる炎龍弾を迎撃する。
その大斧が、いともあっさりと威力の削がれた火竜弾を真っ二つにする。
バストラングに真っ二つにされた火竜弾は、その身を維持することが出来なくなり霧散していった。
「……」
火竜弾をたたき切った直後、シルディエを背に庇うようにバストラングが戦斧をロイルドに向けて構える。
片やロイルドの方も興味深そうにバストラングと対峙する。
「…いかに威力が削がれていたとはいえ、そうもあっさりと打ち消されるような魔法ではないはずなのですが。リスタコメントスには恐ろしい芽が出ていますね」
「……」
無言のまま、バストラングは鋭い眼光をロイルドに向かって放っている。
僅かでも隙を見せればたたき切らんとするその強烈な殺気を受け、しかしロイルドは飄々としていた。
「エベルス卿。ここまでですな。撤退いたしましょう」
「なに!?」
突如ロイルドがそんなことを言い出したため、エベルスは信じられないものを見るような目を向ける。
それに対し、シルディエとバストラングは臨戦態勢を取ったまま耳だけを傾ける。
隣で喚くエベルスを諭すようにロイルドは口を開いた。
「エベルス卿。ご覧ください。すでにこの戦場は詰んでいます」
「なに? な!?」
ロイルドに言われ、エベルスは改めて戦場を目にする。
アーモル平原では、すでに戦ではなく蹂躙が始まっていた。
元々戦意喪失していた歩兵部隊は騎馬隊にいいように引っ掻き回され、魔導師部隊も突如一部が突破された上に、その背後で始まった人外じみたぶつかり合いを目の当たりにしてできた指揮が乱れていた。
そこをサルラの率いる獣人族の本隊が突いて、帝国軍は既に瓦解している。
その光景は誰がどう見ても崩壊した軍そのものであり、最早数など全く意味を成さない状況になってしまっていたのだ。
そんなことにさえ今更気づいたエベルスに対し、ロイルドは苦笑をしていたが、それは随分と温厚な対応だろう。
何しろシルディエとバストラングに加え、近衛兵たちもエベルスのことなどもは や意識の隅にも置かれていないのだ。
「な、ならロイルド卿! 貴公が連中を一網打尽にすればいい! あの魔法なら、難しいことではあるまい!」
なおもそんなことを喚くエベルスに対し、しかしロイルドはかぶりを振った。
「軍を抑えることならやってやれないことは無いでしょうが、不可能です」
「なぜだ!?」
「あの二人と対峙してしまっている」
そう言って、ロイルド戦場を睥睨するのをやめてシルディエとバストラングの方を向いた。
「今私がリスタコメントス軍を狙えば確実にあの二人が黙っていない。如何に私と言えども、彼らを瞬殺するのは困難。そしてわずかな時間があれば、リスタコメントス軍は帝国軍を再起不能になるまで蹂躙するでしょう」
暗に、自分たちを倒すだけなら何の問題もないと言っているように聞こえるロイルドの表現に、シルディエは両手に魔力を込め、バストラングはより一層強く戦斧を握りしめた。
そんな二人を前に、ロイルドは手にしていた杖の柄を地面に叩き付けた。
直後、ロイルドの周りに風が巻き起こり、その風がエベルスとロイルドを持ち上げた。
風魔法『浮遊』
副官のサルラは、かつてフィナリアが一度だけ使っているのを見たことがあると言っていた極めて稀有な魔法。
風魔法に特化したフィナリアのオリジナルに近い魔法だったはずだと聞いていたが、なぜか目の前の魔道総帥はあっさりとそれを扱ってのけた。
浮遊をあっさりと使い、自分とエベルスを持ち上げるロイルドに、シルディエは改めてロイルドの底知れ無さを感じ取った。
「撤収しますよ将軍。今は何より、総大将であるあなたの存命が最優先だ」
そう言ってロイルドは喚き散らすエベルスと共に空を飛びながら関所後退していった。
隙だらけに見える二人を『雷鳴閃』で打ち抜いてやろうかとシルディエは思ったが、やめた。
エベルスと違い、ロイルドは確かな戦術眼を持っている。
おそらく、今もただ浮遊しているだけに見えてこちらの攻撃を迎え撃つ用意位はしていて当然だ。
今のロイルドの口ぶりからも分かるが、この場で底知れぬ魔道総師と正面衝突してもこちらにあまり大きな利はない。
帝国軍30万を撃退した。
戦果としてはそれで十分すぎるのだ。
浮き上がった状態のまま、ロイルドはシルディエに対して口を開いた。
「この一戦はそちらの勝ちです。我々はこれで失礼します」
「……」
そう言い残し飛び去っていくロイルドとエベルスの姿が見えなくなるまで、シルディエとバストラングは目を離せなかった。
しばし後、空を飛ぶ二人は関所を越えて帝国領内へと戻り見えなくなった。
「あ、ああ…」
突然の光景に、シルディエ達を取り囲んでいた近衛兵たちがへたり込んだ。
誰が見ても壊滅寸前の状態で総指揮官が離脱してしまったという事実から、帝国軍は最早軍ではなく獲物となってしまったのだ。
これ以上戦いを続ける意味はない。
「バストラング。もうこの戦いは終わったわ。騎馬隊に合流しましょう」
シルディエの言葉にバストラングは頷き踵を返す。
最早この場に敵はいない。
戦うべき相手がいなくなった。
最早帝国軍は放置しても無害な存在と成り果てたのだ。
この場で放置したとしても、統率も何もなく帝国内部へと撤退するほかに取れる選択肢などないだろう。
「……」
最後に、シルディエは一度だけロイルドが飛び去って行った方向を向いた。
あれは、下手をすれば自分の父であるドルガーと同じかそれ以上に警戒するべき相手なのではないかという思いを抱きながら、しかしシルディエはすぐに振り返り愛馬にまたがった。
それから半日の後、アーモル平原からリスタコメントス軍は撤退した。
それから遅れること数日。帝国軍の大半も帝国領内へと逃げ帰っていった。
「ロイルド! 貴様一体どういうつもりだ!?」
『浮遊』によってロイルドに運ばれたエベルスは、降りた先でロイルドの胸倉をつかみあげる。
ロイルドは帝国領内の街道に降り立ったために、現在この場にはこの二人しかいなかった。
「なぜあの場で撤退した! そんなことをすれば、わしは、わしは!」
半狂乱でロイルドにつかみかかるエベルスだが、それも無理のない話である。
帝国の防衛を任されていたというのに独断でリスタコメントスへと攻め込み、あまつさえ見事なまでに完敗してしまったのだ。
フォルシアンの一件でも失態をさらしたが、今回の失態はその一件と比べても比較にならない大失態である。
おそらくこのまま手ぶらで帰れば皇帝は容赦なくエベルスを処刑するだろう。
かといってエベルスの背には貴族用の隷属魔法が刻まれているため逃げることも身を隠すこともままならない。
そもそも帝国貴族以外にエベルスの居場所などあるはずもない。
帝国将軍になるために他の全てを敵に回してきたのがエベルスという男の人生なのだ。
そのためには忠誠を誓った部下だろうと親兄弟だろうと見殺しにしてきたエベルスを庇護するような奇特な存在などどこにもいないのだ。
エベルス自信もそれはよく理解している。
だからこそロイルドにこうして食い寄っているのだ。
しかし胸倉をつかまれているロイルド自身は涼しい顔をして口を開いた。
「エベルス卿。この度の一件は貴公が独断でリスタコメントスを襲撃したことを発端としています。それに、あの場で撤退しなければあなたは確実にシルディエ・グランガイスに殺されていた。私を責めるのはお門違いではありませんかな?」
エベルスとてそれは重々に理解している。
今回ロイルド・インディオスはあくまでお忍びとして同行しただけであり、全責任が司令官であった自分に降り注ぐということを。
帝国内で居場所を失ってしまうことを恐れてエベルスは勝手に軍を動かした。
フォルシアンでの汚点を拭わなければ他の帝国貴族につけ入られるのは目に見えていたゆえの独断専行だったのだが、結果としてそれは完全に裏目に出てしまった。
ゆえにエベルスはこれから自分がたどるであろう運命を前に半狂乱に陥っているだけに過ぎない。
帝国軍の一部に大損害を与えたエベルスは最早将軍という立場に立つことができないばかりか、この失態が皇帝陛下の耳に入った瞬間にでも隷属魔法によって殺されかねない。
仮に万に一つの確率で温情が下ったとして、幾度にもわたる失態をさらしたエベルスは最早周りの帝国貴族たちに排斥されてしまう。
そうなれば最早生き残る術などない。
ゆえにエベルスはロイルドに八つ当たりをしているのだ。
「貴様に何がわかる! あの場で逃げれば、わしは、わしは、身の破滅などと言う生易しいものではなく本物の生き地獄に叩きことされるのだぞ!!!」
目を血走らせながらエベルスは喚き散らす。
「あの場で貴様がその力を振るってあの野人どもを皆殺しにしておればどうにでもなったものを! それを貴様は、貴様は!」
おおよそ責任感のある人物の口から洩れるはずもない言葉を口にするエベルスに対し、しかしロイルドはニヤリと笑みを漏らして反論した。
「エベルス卿には申し訳ございませんが、私の力は皇帝陛下のため意外に用いるわけにはまいりませんので」
「あの場に皇帝陛下がいれば惜しみなくその力を振るったと!?」
ロイルドの返答に、エベルスは憎しみに満ちた目を向ける。
しかしそんなエベルスに対し、ロイルドはかぶりを振った。
「いえ。私の言う皇帝陛下とは、初代帝国皇帝グランツ・ローゼンバルク陛下の事ですよ」
「……なに?」
突然目の前の魔導師の口から飛び出した。
そんなエベルスに対し、ロイルドは楽しそうに謳い上げる。
「ですから、私が忠誠を誓っている相手は、初代皇帝グランツ・ローゼンバルク今日ただ一人だと言っているのです」
「は、ははは、何を言っておるロイルド。初代皇帝などとうの昔に」
「いえ、今も生きていらっしゃいますよ。かの御仁は」
あまりに突拍子もないその言葉に、エベルスは先ほどまで抱いていた怒りや憎悪がほころんでいくのを感じた。
それほどに目の前の魔導師が突然口にしたことは異質であった。
そんなエベルスに対し、ロイルドは言葉を続ける。
「最早帝国の崩壊は時間の問題です。ゆえに我々は帝国を見限り、グランツ・ローゼンバルク様の元へと帰還しようと考えております」
「な、なにをいって、そんな事出来るはずもない。お主にも隷属魔法が刻まれておるだろうに」
エベルスがそう言うと、ロイルドは「ああ」と思い出したように自分の背を見た。
「そう言えば、ありましたなそのようなものが」
「そうだ。それがある以上、お主も陛下から逃げることなど…な!?」
直後、エベルスの目の前で信じられない光景が目に飛び込んできた。
ロイルドが指を鳴らした瞬間にその背に刻まれた魔法陣が光り出し、木っ端みじんに砕け散ったのだ。
「な、何が!?」
隷属魔法を刻まれている者がそれを解くことは不可能。
5000年間も帝国の暴挙がまかり通ってきたのはひとえにこの隷属魔法があったからこその話なのだ。
それが目の前であっさりと破られた。
しかも隷属魔法を受けている者が自らの意思で。
あまりに突拍子もないその光景に、エベルスは後ずさり尻餅をついた。
そんなエベルスの元にロイルドは歩み寄り、その背に触れ、同様に隷属魔法を解除してのけた。
「あ、ありえん」
自信の自由を奪う束縛が解かれたというのに、エベルスはその事実に腰を抜かしていた。
隷属魔法が解除不能なのは、それが極めて高度な魔法であることに加えて、二心を抱けばその身を苛むという効力があるがゆえの物である。
だというのに、それをあっさりと破壊のけたロイルドに対し、エベルスは信じられないものを見るような目を向けた。
「き、きさまは、一体…」
エベルスの口から洩れたその言葉に、ロイルドは微笑みながら答えた。
「隷属魔法。帝国貴族の誰もが使うこの魔法ですが、誰でも使える魔法なのにも関わらず、この魔法を解明できたものはいない。なぜかわかりますかな?」
謳い上げるような問いに、エベルスは深く戸惑った。
そんなエベルスを尻目に、ロイルドは言葉を紡ぐ。
「答えは簡単。隷属魔法とは、今の人間界よりもはるかに進んだ文明を持つ真の帝国が作り上げた魔法なのですよ。誰にでも使えるように簡単で、しかし誰にも解明できないほどに複雑怪奇な魔法をね」
謳い上げるロイルドの答えを聞き、エベルスは信じられないものを見るような目でロイルドが次に口にするであろう言葉を口走った。
「な、なら、その真の帝国の皇帝というのが」
「ええ。5000年前にガイアを滅ぼした人族の皇帝グランツ・ローゼンバルク様ですよ」
ロイルドがそこまで口にすると、突如エベルスは気を失った。
ロイルドが魔法によってエベルスの意識を刈り取ったからだ。
「フフフ。いい実験体が手に入った。そうは思いませんか」
エベルスを見ながらロイルドはそんなことを口にした。
「ねえ。ライエット・メイスナー卿」
エベルスがそう言うと、その背後に1人の男が立っていた。
痩身に豪華な衣服をまとったその男は、間違いなく帝国貴族の一人ライエット・メイスナーであった。
「……あなたの力があればいまからでも反乱軍を叩き潰す事は出来ると思いますが?」
ロイルドに対し、ライエットがそんな問いをかける。
しかしそれに対してロイルドは首を横に振った。
「奴らを侮らない方がいい。潰そうと思えば、恐らく予想以上に手間がかかることになる。それに…」
ロイルドは一度言葉を切り、続きを口にした。
「帝国はもう囮としての役割を存分に果たし終えた。我々の悲願、大転生の儀が近い今、最早無理に維持する理由がありませんよ」
ロイルドの答えに、ライエットは感情の読めない表情を見せていた。
その瞳は、まるで暗黒のように淀んでいる。
「はは。帝国に愛着でも湧いたのですかライエット卿?」
「まさか。ロイルド卿も忘れたわけではないのでしょう?」
「勿論、我々は」
「「初代皇帝陛下グランツ・ローゼンバルク様のためにのみ存在する」」
二人が口をそろえてそう言うと、ロイルドは改めてライエットを諭すように言葉を紡いだ。
「ならば問題はないでしょう。最早帝国は瓦解寸前。これ以上残っている意味などないはずだ。我々は我々の本来のいるべき場所へと帰るのみ」
「……ならば、なぜその男を?」
エベルスを見ながらライエットがそんなことを口にした。
その問いに、ロイルドは薄ら笑いをその顔に貼り付けながら答える。
「この者は帝国の中においても最も惰弱な人物です。彼を適合させることに成功すれば、我々の計画も完成間近ということになります」
「…そのものを適合者にすると?」
「まあ、可能ならば、ですがね。さて」
そう言うと、ロイルドは手にしていた杖を打ち鳴らす。
直後、ロイルドの眼前の空間が歪んだ。
「では、久々の帰還といきましょうか。懐かしき帝国へ」
そう言うと、ロイルド・インディオスは目の前の空間のゆがみに歩み、入り込んだ。
それに続くように、ライエット・メイスナーも空間のゆがみに歩を進めた。
気を失った元帝国将軍エベルス・ホットファードを引きづりながら。




