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セレスティーナ・クララベル

本日5話目の投稿となります。

「改めて名乗ろう。妾の名はセレスティーナ・クララベル。エルフ族を束ねる精霊王の契約者であるフォルシアンの女王じゃ」


 通された部屋にて、エルフの女王はそんな自己紹介をした。

 人払いをしたのか、この場には俺以外にフィナリアとセレスティーナの三人だけだ。


 セレスティーナの自己紹介を受け、フィナリアも再び自己紹介をする。


「フィナリア・ノーストンです。ノーストン国王アルザスの娘で、現在はリスタコメントス軍の指揮官補佐をしております」


「クウヤです。ファーレンベルク…炎鳥の相棒で、リスタコメントス軍の指揮官…です」


 相手がエルフの女王ということなので、自然と敬語が口から出る。

 …まあそれはいいとして、俺が指揮官でフィナリアがその補佐というのは、何とも言えない肩書だ。


 というか、バストラングとシルディエがフィナリアの副官になるわけだから……イカン。頭がこんがらかってきた。


「この場で必要ないことを考えているな。クウヤ」


 などという俺の癖である脱線思考を、エルフの女王は一発で言い当てる。


「…よく分かりますね」


「これでもお主の10倍以上は生きておるからのう。それに、精霊魔法に精通する妾の目は霊魂を捉える。先の自己紹介の後、お主の魂が僅かに揺らいでおったので、何か余計なことを考えているのではないかと思ってな」


 クククという意地の悪そうな笑い声か聞こえるように、セレスティーナはそんなことを言った。


「魂の形が見える?」


「うむ。妾は精霊王と契約したエルフ族の長。ゆえに霊なるものを強く捉えることが出来る。眼に限って言えば『霊眼』とでも呼べる代物でな、その気になれば、フォルシアン中を眺めることも出来る」


「……もしかして、さっきの魔法は?」


「妾が放ったものじゃ。道案内は必要じゃろう?」


 ファーレンベルクに向かって放った魔法は、まず間違いなく誘導目的だった。

 そう予測はしていたが、見えてもいない集落からファーレンベルクを正確に狙ってのけるというのは魔法の技量と共に気配探知能力がずば抜けている証拠でもある。

 

『霊眼』というのがどういう代物なのかは分からないが、そんな目を持っているのなら条件は合う。


 セレスティーナのカミングアウトはそのことを決定的なものにしたのだが、あの凄まじい魔法を放った張本人が目の前にいるとあって俺もフィナリアもどう対応していいのか分からずにいた。


「まあそう固くならぬことじゃな。お主らは妾の呼んだ客人。もてなす事はあれど、今のところ敵対することは無い」


 今のところという部分が気になるが、とりあえず味方ということでいいのだろう。

 その言葉を聞いて、俺は疑問を口にした。


「どうして俺たちをフォルシアンへ呼んだんですか?」


 突然の俺の質問に、セレスティーナはにやりと笑う。


「この度の諍いの張本人たちの顔を見てみたいと思ってな」


「諍いの張本人?」


 セレスティーナの言葉に俺は首を傾げる。

 そんな俺に、エルフの女王はニヤリと笑いながら問いかける。


「ノーストンの使者の話によると、帝国が炎鳥に興味を抱き、宿主であるお主は帝国へ連行され、ノーストンの姫であるお主が炎鳥と共にそれを救出し、帝国に睨まれたのが今回の戦の始まりだと聞いているが、違うのかな?」


「いえ、その通りです」


 言われてみれば、巻き込まれたとはいえ引き金は俺が引いたようなものだったので俺が今回の争いの張本人であるというのは間違いではない。

 フィナリアの場合は少々特殊だが、彼女目当てでオルバールは帝国軍を動かしたりしているのだからこれまた間違いではない。


「人族同士の諍いに首を突っ込もうというのだ。その諍いの張本人に会ってみたいと思うのは当然ではないか? ましてそれが得体のしれぬ霊獣との関係者とあればなおさらだ」


「…その言葉、どこで聞きました?」


 セレスティーナの口にした言葉に、俺は条件反射的に反応した。

 ファーレンベルクの事はほとんどの人が炎鳥と呼び、中には神鳥と呼ぶ奴もいる。


 しかし霊獣という単語は女神レンシアが使っていた単語であり、俺もこの世界で使っていないため、今まで誰もファーレンベルクのことを霊獣とは呼ばなかったのだ。


 だというのにセレスティーナはそれを突然口にした。

 これに驚くなと言うほうが無理だろう。


 そんな俺の疑問に、セレスティーナは答える。


「精霊魔法を極めた妾は霊の存在に敏感じゃ。ゆえに妾は霊なる存在を感じ取ることが出来る。それも並外れて鋭くな。である以上、お主の連れておる霊獣のような凄まじい霊力の持ち主の存在が突如この世界に現れて、妾が気付かぬはずがなかろう」


 そう言うと、セレスティーナは俺の方を向いた。

 否、俺の目を覗き込んでいた。


「正直なぜお主のような人族があのような霊獣を連れておるのか分からなかったが、今ようやく納得がいった。クウヤ。お主この世界の人間ではないな?」


「!!!???」


 ズバリと言い切ったセレスティーナに、俺は驚きのあまりに目を見開く。

 隣に座るフィナリアでさえも驚きを隠しきれていない。


「な、なんで、そのことを??」


「先に言うたであろう。妾の目には、人の魂が見えると。お主の魂は、この世界の者達とは根本的に異なっておる。言葉にして伝わるとは思えんが…そうさな。お主とあの霊獣が、霊絡によってつながっておることでようやくこの世界に顕現できておる。と言えば少しは見当がつくか?」


 セレスティーナの言葉を聞きしばし黙考した後、俺は頷いた。

 女神レンシアは、ファーレンベルクと俺にパスをつないだと言っていた。

 それによってこの世界に行くことが出来るとも。

 

 セレスティーナの言っていることは、つまりはそう言うことなのだろう。

そのあたりの事情を知らないフィナリアは少々困惑しているようだったが、一応話にはついて来ているようだった。


「…俺とファーレンベルクは一心同体。そう言うことですよね」


「思ったより呑み込みがいいな。我らが精霊と契約することで精霊魔法を用いるように、お主はあの霊獣と契約しておる。本来なら霊なる存在がこの世に顕現することはありえんのだが、お主の霊獣は普通ではなようだな」


 そりゃー尋常ではない存在だろうよ。

 女神レンシア様のペット(?)なんだからな。


「とまあ、そんな規格外の霊獣がこの世界に顕現して気づかぬ妾ではない。それ以降ずっとその存在が気になってはいたが、大陸の反対側に顕現した上に妾の国フォルシアンは他国から孤立しておるためにこの目で見ることが出来なかった。妾がノーストンとの同盟を受けたことにはいくつかの理由があるが、そのうちの一つがお主の存在じゃよ」


 こちらを覗き込みながらそんなことを言うセレスティーナに、俺はドギマギする。


 エルフの女王と言うだけあって、セレスティーナの顔立ちは常識外れて整いすぎている。 

 フィナリアが王女だとすればセレスティーナは長年国を束ね続けてきた女王とでも呼ぶべき風格と貫禄があることに加え、その仕草にはフィナリアにはない艶やかさがあるのだ。


「セレスティーナ様。私からもいくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 俺の方を覗き込むエルフの女王に対して、フィナリアが問いかける。

 セレスティーナは俺の方から目を逸らし、今度はフィナリアを見る。


「構わんぞ。なんだ?」


「今回の同盟のお話は、受けていただけるのでしょうか?」


 そう言って、フィナリアは今回の会談の本題を口にした。

 そんなフィナリアの問いに、セレスティーナは何のためらいもなく頷く。


「妾の出した条件は満たしてくれたからな。約束通り同盟の話は受けよう」


「…えらくあっさりと言い切りますね」


 淡白に言い放つ女王に、俺はそんな返答を返していた。

 そんな俺の隣で、フィナリアが質問を続けた。


「セレスティーナ様。フォルシアンはこれまで人族との国交を避けてきました。そんなあなた方が、どうして今回の同盟の話を受けてくださったのでしょうか?」


 フィナリアの問いに、場の空気がやや凍りつく。

 いささか以上に踏み込みすぎな気もするが、フィナリアの血縁者であり、彼女の獣人解放思想の先生であるアルザスが束ねるノーストンとの同盟と今回のフォルシアンでは完全に毛色が違う。

 

 前にフィナリアが話していたが、フォルシアンはこれまで人族と積極的に関わろうとはしてこなかった。

 そのため交渉はかなり難航するだろうと思っていたのだが、ふたを開けてみればあっさり解決である。


 確かに俺でも些か疑問を覚える。

 聡明なフィナリアがこのことを問い詰めるのも無理はないだろう。


 そんなフィナリアの問いに、セレスティーナは一度瞼を閉じた。

 何かを思案するようなその仕草に、場が静寂に包まれる。

 しばし後、セレスティーナは目を開け、こちらを向いた。


「事情を話せば長くなるが、一言で言えば一昔前にフォルシアン内……と言うより、エルフ内で騒乱があってのう、長い間鎖国を唱えていたエルフ族は、もうこのフォルシアンにはおらんのじゃ」


「……えーっと?」


「一体、この国で何が起こったのですか?」


 いきなり込み入った話になりついていけなくなった俺に変わり、フィナリアがそう問いかける。

 しかしその問いにセレスティーナはかぶりをふって応じた。


「そのことを話すには、お主らはあまりにこの国のことを知ら無すぎる」


 暗に話したくないと口にする王女様に対し、フィナリアはしばし黙考したのちに頷いた。


「分かりました。では、その件については言及いたしません」


「助かるのう」


「ですが、今一度確認させてください。フォルシアンは私たちの連合軍と共闘していただけるのですね?」


「うむ。我々はこれまで人間界の中で独立こそしていたが、孤立してもいた。しかし、魔族が攻め込んでくるこの先の時代にそんなことをしていれば我々も人族と共倒れになってしまうからのう」


 かつてロウセイが言ったことと同じことをセレスティーナは口にした。

 やはり魔族が人間界に攻め込んできたということは俺たちにとって一大事なのだ。

 たとえ一度目を打ち破ることができたとしても、だ。


「セレスティーナ様の意図は理解できました。フォルシアンと同盟を結べて、心強く思います」


「こちらもじゃよ。腐りきったと思っていた人族の中からお主らのような新芽が出てきたことを、とてもうれしく思うぞ。とはいえ、フォルシアンは知っての通り多民族国家。名目上妾が束ねていることになっておるが、どれだけの同調者が現れるかは分からん」


「構いません」


 そう言ってセレスティーナは俺とフィナリアに手を伸ばしてきた。

 その手を取り、俺とフィナリアはエルフの女王と握手を交わした。

 こうしてこの場に正式にフォルシアン・ノーストン・リスタコメントスの三国同盟が出来上がった。


「さて、質問はこのくらいかな?」


 握手の後、セレスティーナはこの話をする発端となったフィナリアにそう問いかけた。

 それに対してフィナリアは首を横に振る。


「もう一つだけ質問させていただいてもよろしいでしょうか?」


「構わん。申してみよ」


 セレスティーナの答えに、フィナリアは頷き口を開いた。


「なぜ私がこの場に呼ばれたのでしょうか?」


「ん?」


 フィナリアの問いに、俺は眉をひそめる。

 今回の対談はフォルシアンとの同盟を決める重要なものだからこそ、フィナリアが呼ばれたのではないのだろうか?

 

 俺はそう思ったが、良く考えてみると確かにフィナリアである必要性はない。

 現在、ノーストンの元首はアルザスであり、リスタコメントスの場合はカーナイル(仮)だ。

 フィナリアが呼ばれる理由と言えばリスタコメントス軍の指揮官補佐で、ノーストンの王女ということなのだが、確かにそれではフォルシアンの女王が呼びつける理由としては弱い。


 おそらくフィナリアもその辺が気になっての質問だろう。

 俺とフィナリアは揃ってセレスティーナの方を見る。

 おそらく考えていることもほぼ同じだろう。


 そんな俺たちに対し、エルフの女王はにやりと笑って答えた。


「実はな、お主らをここへ呼んだのはフォルシアンが同盟に参加すること以外にもう一つやっておくことがあったからなんじゃよ」


「もう一つ、やっておくこと、ですか?」


 セレスティーナの答えに、フィナリアが首を傾げる。

 俺もそれは同感だ。この場においてフォルシアンとの同盟以外にやることなどあるのだろうか?


 そんな俺たちの疑問を余所に、セレスティーナは話を進めた。


「先ほどお主の霊獣を見たが、あれの力はあんなものではない」


「は?」


 セレスティーナの言葉に、俺は目を点にする。

 ファーレンベルクの力があんなものではない?

 あいつは今の時点で物理攻撃をほぼ完璧に無効化し、魔王ヴィラルドを焼き尽くすような怪物だ。

 だというのに、あの強さよりもさらに先があると、目の前のエルフは言うのだ。


「先も言ったが、お主とあの霊獣は繋がっておる。しかし、お主が霊獣にそそぐ魔力が弱いためにあの霊獣は本来持っておる力を出し切れておらん」


「…魔力が、弱い?」


 その表現に俺は目をパチクリさせる。

 助けを求めるようにフィナリアの方を向いたが、彼女もまた分からないようで、俺の方を見て首を横に振った。


 そんな俺たちに、エルフの女王は説明を続ける。


「詳しく説明すれば、霊獣に送られる魔力が少ないゆえにあの霊獣はその力を十全に発揮できておらんということじゃよ。お主は魔導師としての魔力量がまだ少ない。ゆえに霊獣の力も開放し切れておらん」


「…つまり、俺の魔力量が増えれば、あいつはもっと強くなると?」


 俺の解答に、セレスティーナは頷く。


「お主の有する魔力が大きくなれば霊絡を通じて霊獣へと流れ込む魔力も増える。ゆえに、お主の魔力がそのまま霊獣の強さに直結するというわけじゃ。つまり、あの霊獣に流れ込む魔力量を増やしてやれば、霊獣はさらに強くなる」


「だ、だけど、増えろって言って簡単に増えるもんじゃないでしょう?」


 魔力というのは魔法を使うことで伸びる代物だ。

 だとすれば伸びろと言って突然伸びるようなものでは断じてない。


 そんなことを考える俺に、しかしセレスティーナは微笑みを湛えながら言葉を紡ぐ。


「確かに人族の魔法には存在しない。しかし、妾の持つ精霊魔法の中にはそれがある」


「…え?」


 セレスティーナの答えに、俺は再び唖然とする。

 この問答の真意が今ひとつ図りかねていたからだ。


「分からぬのか? かみ砕いて言えば、お主と霊獣を今すぐ一段階強くする方法があると言っておるのじゃよ」


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