それぞれの地で
帝都の西、要塞都市の一室にて、ドルガー・グランガイスは通信水晶を扱っていた。
先日皇帝より許可を受けた連合軍への攻撃の件を、帝国国境警備軍南方方面部隊長シルディエに伝えるためである。
『では、私は兵を率いてリスタコメントスの王都へ攻め込めばいいのですね?』
「その認識でも間違いはないが、わざわざそこにこだわる必要はない」
『とおっしゃいますと?』
通信水晶によって、ドルガーはシルディエへと指令を下す。
「反乱軍は、今恐ろしいほどに勢いづいている。なぜかわかるか?」
『…長年燻っていた帝国への反乱分子が糾合しているからでしょうか?』
「では、なぜ反乱分子たちは我らを恐れずに糾合している? 否、することが出来る?」
『…噂の炎鳥や、ジェクト将軍をはじめとした猛将烈士が集い、連戦連勝を重ねているからでしょう。ああ、なるほど』
水晶越しに、シルディエ隊長の納得したような声が聞こえる。
その声に、ドルガーはにやりと笑う。
「私がお前をぶつける意図を理解したな?」
『はい。寡兵である反乱軍は、一度でも敗北すればその勢いを失います。つまり、私に反乱の発端であるリスタコメントス軍の中核になっている部隊を叩けとおっしゃっているわけですね?』
「その通りだ。さすがに呑み込みがいいな」
『私とてグランガイスの名を持つ武将。父の名に恥じるような生き方をしてきたつもりはありません』
その返答に、ドルガーはほくそ笑む。
国境警備軍南方方面部隊長シルディエ。
その本名はシルディエ・グランガイス。
帝国軍将軍であるドルガー・グランガイスの実の娘である。
そんな返答をしたシルディエに対し、しかしドルガーは厳しい言葉を返す。
「分かっていると思うが、私がお前を指定したのは…」
『あくまで地理的、戦力的に見て私が適任であったからであり、私が父上の娘であるからではない。そのことを肝に銘じておけ。でしょうか?』
シルディエの返答に、ドルガーは再び苦笑する。
「分かっているならばいい。だが、くれぐれも油断するな」
『わかっています。今回の戦には、かねてから計画していた騎馬・鉄鎖陣を実行しようかと考えております』
「…ほう」
シルディエの言葉に、ドルガーは興味深そうに眉をひそめる。
『リスタコメントスには平地が多いため、あの策を用いるには絶好の機会かと』
「なるほど。勝機ありか。では、任せたぞ」
『は!』
そう言って、シルディエは通信を切った。
ドルガーも、この部屋での要は済んだとばかりに席を立って部屋を出る。
その時、ドルガーの視界に小太りの将軍の姿が目に入った。
「ドルガー卿。お勤めご苦労ですな」
「エベルス卿。このようなところへお越しとは如何なされましたかな?」
ドルガーの質問に、エベルスはニタリと喜色の悪い笑みを浮かべる。
どうにもこの男の笑い方は嫌いだとドルガーは内心悪態をつくが、それを表情には微塵も出すことは無かった。
「何、ドルガー卿は南方軍にリスタコメントスの王都を制圧するように指令を下したそうだが、ただの国境警備軍に王城を攻めるのは酷ではないかと思ってな、陛下に直訴し、私が軍を率いて支援することになったのだよ」
エベルスの解答に、ドルガーは内心で歯ぎしりする。
ドルガーから見て、目の前の小太りの将軍は断じて軍人と呼んでいい存在ではない。
体は弛みきっており、剣を振ればすぐに息を切らしてしまうような典型的な腐敗貴族の一人にすぎないのだ。
何しろ将軍という役職まで上り詰めた方法が皇帝陛下に美酒や美食、そして美女を与えて気に入られたという経緯なのだから、軍人としての能力があるはずもない。
しかし、そんなエベルスをドルガーは決して軽んじてはいなかった。
エベルスという男は事武門に関して言えば素人同然だが、その処世術は一級品だからだ。
事実、エベルスは《皇帝に気に入られて将軍になる》という目的を見事に達成している。
その方法は他者の手柄を横取りし、自分の責任を部下に押し付けるという下劣極まりない方法であるため賞賛するつもりは毛頭ない。
しかしだからと言って油断していい相手ではなかった。
油断をしていれば足を引っ張られるどころか、そのまま吊るし上げられてしまうからである。
「今回の一件は、私が指揮を執ることになっていたはずですが?」
「いやいや、ドルガー将軍のやり方に口を出すつもりはない。ただ、お忙しいドルガー将軍に代わって国境警備軍の支援をしようと申し出ているだけの事」
その言葉に、ドルガーは再び内心で舌打ちをする。
この男、事言葉遊びに関して言えば自分を凌駕しているとドルガーは思っている。
武人として生きてきた自分と、権力争いに精を出してきたエベルスとではその手の駆け引きを行っては分が悪いのだ。
「…先ほど陛下に直訴されたとおっしゃったが、陛下はなんと?」
「私の出動を認めてくださった。何か問題でもおありか?」
「…エベルス将軍。あなたは私の作戦を支援するとおっしゃいましたな。である以上、現場の指揮官であるシルディエの指示には従ってもらいますが?」
「ふ、分かっておる。ドルガー殿のご息女の指示に刃向ったりはせんよ」
ドルガーの返答に、エベスルは我が意を得たりといった様子で再びニタリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
そんなエベルスの態度に、ドルガーは内心深くため息を吐く。
こういった場合、エベルスは本当に許可を得ているため、陛下に確認を取っても意味はない。
処世術に優れる以上、自分の身を危険にさらすような嘘を吐くような真似は一切しないのだ。
自分が同席していないときに陛下と謁見したのも計算の上だろうとドルガーは結論付ける。
軍事に関して言えば、ドルガーはエベルスよりも陛下から信を得ている。
そのためエベルスは作戦をより確実に成功させるためになどと言って陛下に取り入ったのだろうとドルガーは推測した。
「では、わしはこれから出陣の用意をするので、これで失礼させてもらう」
そう言って、エベルス将軍は笑いながらその場を立ち去った。
その姿に、ドルガーは何度目になるかわからぬ内心のため息を漏らした。
現在リスタコメントスを掌握している連合軍は、数で劣る中で見事に革命を成功させている。
断じて侮っていい相手ではない。
だというのに、エベルス将軍は出撃前に高笑いをかましている。
その時点で状況が見えていないとしか言いようがない。
エベルスがリスタコメントス戦に参加する以上、いかに指揮官がシルディエであったとしてもその手柄はすべてエベルスがかっさらってしまうことだろう。
それだけならまだいいが、もしエベルスの前で敗戦などしようものならどのような濡れ衣を着せられるかわかったものではない。
「……」
過ぎ去るエベルスの背中を見ながら、ドルガーはその真意を読み取ろうと目つきを鋭くしたが、エベルスの背中には喜色以外のなにも読み取ることはできなかった。
「……」
帝国の南端にて、シルディエ・グランガイスは通信水晶を切ったのちにしばし黙考していた。
その容姿は、巌のような父ドルガー・グランガイスとは異なり、極めて女性らしいものだ。
整った顔立ちと、衣服の上からでもわかる女性らしい体つき。
そして燃えるような長い赤髪を束ねた彼女は、恐らくほとんどの男が目を離せなくなるような容姿をしている。
だが、この南方の国境警備軍の中でシルディエをそういった目で見る兵士は極めて少ない。
雷光の将と呼ばれる彼女は、女の身でありながら南部の国境を守る最高司令官として在籍している。
辺境軍は帝国から遠く離れた立地にあるため、有るのは徹底した実力主義である。
そしてシルディエは、若き女の身でありながらその国境警備軍を預かるという立場に立っている。
それはとりもなおさず、実力主義である南部の国境警備軍の中で最大の手練れであるということを示している。
そんなシルディエは、しかし鋭いまなざしのままこめかみに手を当てて思案をしていた。
「……父上。一体何を考えていらっしゃるのかしら」
シルディエが思案していることは父であるドルガー・グランガイスの命令の内容であった。
リスタコメントス軍を蹴散らせ。
要約すればそんな命令だが、その命令を下す父の本意を、シルディエは察しきれずにいた。
「…帝国に、忠義を尽くすということ、なのかしら?」
ドルガー・グランガイス。
南方国境警備軍に入って後、軍務の多忙さから疎遠になった父だが、その心根は知っているつもりだった。
『軍とは、民を守るためにある』
幼いころ、シルディエに対して父ドルガーはそう言った。
シルディエは圧倒的な強さと高潔な精神を兼ね備える父に対して憧憬の念を抱いており、だからこそ自分もと女の身でありながら軍へと所属した。
そして、だからこそ父の下した命令の意図を察しきれずにいた。
帝国は、先日の魔族の襲撃の際に破壊された宮殿を復旧するために全土にたいして増税をさせるつもりだという話を聞いた。
ただでさえ帝国内にかかる税額は高いというのに、それを引き上げるという行為に、シルディエは忸怩たるものを抱いている。
そして、リスタコメントスの掲げる大義は、そんな帝国の暴挙に対するものである。
それがどこまで本当かは知らないが、掲げている大義だけを見ればどちらが民のためになるかは考えるまでもない。
だというのに、反乱軍を容赦なく叩き潰せと言う命令を下した父に対し、シルディエは一抹の疑問を抱いていたのだ。
「……考えても、無駄ね」
どの道自分に拒否権などありはしない。
上の命令に従う。軍という組織はそういうものだ。
迷いを振り払うように束ねた赤髪をたなびかせながら通信室を出たシルディエは、その場に待機していた副官に命令を下す。
「ドルガー将軍からの命令だ。リスタコメントス軍を叩く。遠征の用意をしろ。鉄鎖陣を用いる」
「は! 承りました」
その返事を聞き、シルディエは自らの執務室へと向かった。
その瞳は、すでに敵を仕留めるためにのみ考えを巡らせる将のものとなっていた。
「お帰りなさい。フィナリア様。クウヤ殿」
ノーストンから帰還した俺たちを、ジェクト将軍が出迎えてくれた。
「ジェクト将軍。もうすでにお話が届いているかと思いますが…」
「ええ。無事、連合軍を結成できたようですね。お互い積もる話もありますし、情報交換と行きましょうか?」
「ええ。そうしましょうか。クウヤさんも構いませんか?」
「ん? ああ、問題ない」
勝手に話を進める二人に流され、俺も一緒に情報交換を行うことになった。
「まずは現状の報告ですね」
部屋に入るや否や、ジェクトはフィナリアに状況の説明をした。
とはいってもその話は軍事的な引き継ぎのようなものなので、俺は全くついていけなかった。
その引継ぎを手短に終え、二人は俺の方に向き直った。
「クウヤさん。つまらない話をして申し訳ありません」
「…いや、必要な事なんだろ?」
「はい。これからはフィナリア様がこのリスタコメントス軍を率いていくことになります。最低限の事は引き継いでおかなければ」
「あれ? ジェクトさんは…そうか。当然ノーストンに戻るのか」
「そういうことですね。私とて一国の将ですので、あまり長い間国をあけるわけにはいきません。これから連合軍を組む以上、仕事は山積みでしょうからね」
ジェクトの言葉に、俺は納得した。
「細かいところはフィナリア様の副官、サルラ殿が周知しているので、詳しく聞いてください」
「分かりました」
そう言って、会話が途切れる。
すると、ジェクトが俺の方を向いてきた。
「フィナリア様がお世話になりました。私からもお礼を申し上げます」
そう言って、隻腕の将軍が俺に向かって頭を下げる。
「いえ、その、こっちこそフィナリアにはいつもお世話になっていますので」
なんかもうお礼も言われ慣れてきたので、俺はそんな当たり障りのない返答をしていた。
「その、ジェクトさんは、フィナリアのために左腕を切り落としたんですよね」
何となく、俺は目の前で頭を下げるジェクトにそんなことを訪ねていた。
俺の問いに、ジェクトは顔を上げて答えた。
「ええ。その通りです」
「その…ありがとうございました」
「…なぜクウヤ殿がお礼を言われるのですか?」
俺のお礼に、ジェクトはもとよりフィナリアも俺の意図がわからなかったようだった。
そんな二人に、俺は思ったことをそのまま口にした。
「フィナリアと出会ってなかったら、俺は多分路頭に迷ってました。ここでたくさんの人と出会いましたが、フィナリアはそのきっかけを作ってくれた恩人なので、フィナリアを生かしてくれたジェクトさんは、間接的に俺の恩人になると思ったので」
俺の返答に、ジェクトはしばし思案したのちに笑い出した。
「そんな理由で私にお礼を?」
「…悪いですか?」
「いえ、では私も、フィナリア様と共に歩んでくれた恩人であるあなたに、改めてお礼を言いたい。そして、これからもフィナリア様と共に歩んでほしいと願います」
「…はい。約束します」
「…クウヤさん」
俺の返答に、フィナリアが隣で俺の名前を呼んでいた。
なんか今更すごく気恥ずかしくなってきたので、俺はそれに気づかないふりをしていた。
「そう言えば、ジェクトさんはフィナリアの師匠に当たる方なんですよね」
話をそらすように、俺はそんな話題に切り替えた。
「ええ。こちらも、クウヤ殿がフィナリア様の魔道の師と伺っておりますが?」
「いやいや、俺なんてそんな」
「クウヤさんは本当にすごい魔導師ですよ。ロウセイ様もそう言っていました」
ジェクトの言葉を俺は慌てて否定したが、真横に座っていたフィナリアが追い打ちをかけてきた。
「なんと、元帝国筆頭魔導師と言われたロウセイ様のお墨付きですか。それは素晴らしい。機会があれば、私もご教授いただきたいですね」
「いやいや。ほんとに俺は大したことなんて」
「ご謙遜をなさいますな。先日フィナリア様と獣人たちを癒していた白魔法の腕は見事の一言でしたよ」
「いやいや、ジェクト将軍はロウセイ師匠と同じくらいの腕利きでしょう?」
そんな俺の問いに、しかしジェクト将軍は苦笑しながら首を横に振った。
「まさか。私が今のロウセイ様と戦えば万に1つも勝ち目などありませんよ」
「え? 師匠ってそんなに強かったんですか?」
そう言って俺はフィナリアの方を向いたが、フィナリアにもジェクト将軍の発言は意外だったのか、目を丸くしている。
そんな俺たちの前で、ジェクト将軍は口を開いた。
「4年ほど前にロウセイ様とお会いする機会があったのですが、その時点で帝国筆頭魔導師と呼ばれていたころ以上の実力がありました。恐らく、今ではさらに独自の境地に踏み込まれているのではないでしょうか?」
「……師匠って、どのくらい強いんだ?」
フィナリアの話では帝国筆頭魔導師と呼ばれていたころから人間界最強と言われていたらしいのだが、今はその時よりもさらに強いって……。
「おそらくですが、帝国に居た頃のロウセイ殿は、魔道の探求に不必要な派閥争いに巻き込まれていたのでしょう。ゆえにそれがあの方の修練の妨げになっていたのではないかと私は思っています」
俺の疑問に対し、ジェクト将軍はそんな説明を加えてくれた。
そう言えばロウセイ師匠も帝国に居ずらくなったみたいなこと言ってたしな。
「そう言えば、クウヤ殿はフィナリア様に魔法を指導したと伺いましたが、それは真ですか?」
ロウセイ師匠の記憶を手繰っていた俺にたいし、ジェクト将軍が突如そんなことを聞いてきた。
「ん? 一応、そう言うことになるのか?」
俺の問いにフィナリアはニコリとほほ笑んで頷いた。
そんな俺たちの様子をみて、ジェクト将軍は苦笑を浮かべて口を開いた。
「私はフィナリア様に実戦用の魔法を教えることが出来なかった。いえ、実戦用の武芸を教えることも出来なかった。ですから、私に代わって実践に耐えられる魔法をフィナリア様に習得させくださったクウヤ殿には感謝の言葉もありません」
「? フィナリアは初めから相当戦えたと思いますけど?」
ジェクトの言っていること意味がわからず、俺はそう問い返す。
その問いに、ジェクトは少し苦笑をして説明してくれた。
「魔導師という者は、魔道を極めるためにその他の全てをないがしろにする存在です。同様に、武人という存在は武を極めることの妨げを切り捨てます。真の武、真の魔道とはそういうものです。ですが、フィナリア様はノーストンの王女。そのような戦うためだけの術を身に付けたところで意味はないと思っており、私はフィナリア様に対して敵を倒す術としてではなく、自らを磨き上げる方法として武芸と魔法を教えていたのです」
「……なるほど」
一息に説明され、俺はいろいろと腑に落ちた。
フィナリアの戦い方には、バストラングやトリストスと異なる華があった。
以前も例えに上げたが、トリストスの戦い方にはその鋭さゆえの美しさがあれども、敵を切り殺すために磨き抜かれた剣技はどこまでも冷酷であり、そこには華というものが一切なかった。
対照的に、フィナリアの剣は敵を切り殺すことではなく自らを高めるための代物であったため、俺の目には華やかに見えたのだ。
これまで漠然としていた感覚が、明文化したことで氷解した。
「ノーストンを出た時のフィナリア様の剣舞はこの上なく美麗なものでしたが、それでは真の強者と戦うことはできません。私はフィナリア様に本物の戦い方をお教えすることが出来なかったことをずっと悔いていたのです」
「…の割には最初からものすごく強かったとも思いますけど?」
盗賊団を一蹴したり、ベヘルの竜燐を切り裂いてのけたり。
「フィナリア様の修練に対する取り組みは真摯の一言でした。身に付けられたものが実戦を想定したものでなかったとしても、それは普通の相手に苦戦するようなものではありません」
なるほど。
レベルが高いから並大抵の相手にはステータスで圧倒できるが、本物の実力者を相手にするには厳しいと。
「ですから、フィナリア様に実戦用の魔法を習得させてくださったクウヤ殿にはそういった意味でも感謝の念に絶えません」
「いや、でもそれを言うなら」
俺はそう言ってフィナリアの方を向く。
フィナリアも頷いた。
「ジェクト将軍、私の魔法は確かにクウヤさんから教わったものですが、剣術はトリストス殿から教わったのです」
「承知しております。件のフォルシアンの剣士ですね。その御仁にも、いずれお会いしたいものです」
そう口にすると、ジェクト将軍はさてといって立ち上がった。
「では、私はノーストンに戻ることにいたします」
「もう出発されるんですか?」
「ええ。先ほども申し上げました通り、ノーストンでもやらなければならないことがたくさんありますので」
「ジェクト将軍。このたびはご助力ありがとうございました」
「いえ、フィナリア様もどうかお気を付けを。ノーストンとリスタコメントスが連合を組んだとはいえ、帝国軍はそれをも上回る大戦力を有しておりますので」
「はい」
そういって、ジェクトは俺の方に向き直った。
「お話しできて光栄でした。クウヤ殿。これからもよろしくお願いします」
そう言って差し出された手を、俺は握り返した。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
そんなやり取りを終え、ジェクトはリスタコメントスを後にした。
ジェクトの背を眺める俺に、フィナリアが声をかける。
「クウヤさん。ジェクト将軍は私に実戦を教えられなかったとおっしゃっていましたが、ジェクト将軍の指導がなければ私はクウヤさんとトリストスさんの教えを受けられるだけの下地を作ることができませんでした」
「…だよな」
トリストスも前に、フィナリアの先生は優秀だみたいなことをもらしていた。
フィナリアも俺が教えたことを瞬く間に吸収して言っていたので、元々かなりの基礎能力があったのだろう。
事実、俺がフィナリアに勝っているのは白魔法の練度位のもので、魔力量もそのほかの魔法も完全にフィナリアの方が上なのだ。
ジェクトはフィナリアに自身を磨き上げるための訓練として武芸と魔法を教えていたと言っていた。
だからフィナリアはここまで真っ直ぐに自分を磨き上げてきたのだろう。
「では、私もやることがありますので、これで」
「あ、フィナリア」
そう言って踵を返そうとするフィナリアに、俺は声をかけた。
「俺も手伝っていいか?」




