新たなる敵
マトワールの屋敷のある町から離れた平原。
バストラングとフィナリアがぶつかり合った場所に、一人の少女が立っていた。
「イファール様の予想通り、炎鳥の持ち主とその仲間たちが動き出しました」
『…そうか』
少女イルアムは、誰もいない平原にて、両手から一つの光の玉を生み出し、通信相手であるイファールに報告をしていた。
「これだけの事で判断はしかねますが、やはり彼らは他の人族とは何かが違うのでしょう。ヴィラルド卿を倒したというのも、あるいは」
『その者達を見続けてきたお前がそう思うのなら、そうなのだろう』
イルアムが最後まで言い切る前にイファールはそう言い切った。
『イルアム。一つ確認するが、その炎鳥は他には確認されていないのだな?』
「私が知る限りは、噂話を聞く限りでもほかに炎鳥がいるという話は聞きません。そもそも、かの炎鳥にしても二月半ほど前から認知されたそうです」
『なに?』
イルアムの報告にイファールが怪訝な声を上げる。
しかしそれも当然。報告しているイルアム自身も信じられないのだ。
諜報目的で人間界に潜り込んで早二月。
情報を集めれば集めるほどにあの炎鳥の存在は異質なのだ。
およそ二月半ほど前に突如人間界に現れた彼の炎鳥は、イルアムの主イファールをもってしても滅ぼしきるかどうかわからぬと言われた不死身の魔王ヴィラルドを滅ぼし、今なお人間界に革命を起こそうとしているのだ。
「人間界には他にも注意すべき存在は多数存在していますが、あの炎鳥の存在は飛びぬけています。イファール様。よろしければ私が探りを入れてみたいのですが」
『ダメだ』
イルアムの提案を、イファールは一蹴した。
『お前の耳をもってすればある程度の情報収集はたやすい。人間界の動向を把握するには、その情報だけで十分なはずだ。わざわざ火中の栗を拾う必要はない』
「……分かりました。では、引き続き情報収集に徹します」
そう言ってイルアムは光の玉を消した。
イルアムは魔界の中においては脆弱に属する種族である。
人間界においては無類であっても、魔界の中では下から数えたほうが圧倒的に早いほどに戦闘力がない。
そんなイルアムの種族が魔界で生き残ってこれたのは、ひとえに持って生まれる五感の鋭さゆえにである。
敵の接近を察知し外敵を避けることで身を守り続けてきたイルアムの一族の探知力は、魔界内においても群を抜いている。
そして、弱小種族であったイルアムの一族において、イファールが考案した通信魔法を唯一用いることのできた彼女が間諜として人間界に送り込まれたのである。
自分がやるべきことは人間界の動向を把握すること。
魔界内部でも屈指の自分の聴力をもってすれば、それを知るための情報収集そのものは実に簡単なものだ。
だが、本当にそれだけでいいのだろうか?
あの炎鳥のことは、何よりも深く知っておくべきものではないのか?
そんな疑問を抱きながら、イルアムはマトワール領へと歩を進めた。
旅人に化け、噂話を聞きだすために。
マトワール軍を蹴散らしてから一週間、俺たちは戦後処理に追われていた。
まずは軽く結果を報告すると、俺が焼き豚にした領主マトワールは隷属魔法と貴族階級を剥奪して投獄した。
隷属魔法は契約者を失えば途端に効力を失う。
魔法陣そのものが消えるわけではないが、主がいなくなればただの入れ墨と化してしまうのだ。
そのため気絶しているうちにマトワールを始末してもよかったのだが、それを嫌ったフィナリアがマトワールと交渉して領内の獣人族の所有権を得たのである。
……どんな交渉をしたのかは知らない。
時間をかければ奴隷一人一人にかけられている隷属魔法を解除することも可能なのだが、今現在それを行っている余裕は時間的にも人員的にも存在しない。
そのため、マトワール領の獣人族たちは、緊急措置としてフィナリアが契約者となることとなったのだ。
こうしなかった場合、獣人たちは所有権の浮いた奴隷となってしまうため、新たな主に縛られる恐れがあるのだとか。
マトワール領はその名をカーナイル領へと変更し、獣人たち義勇軍の説明によって領内の獣人たちはカーナイルの領民になることを了承した。
フィナリアはカーナイルと同様に帝国にかかわる交易の一切を廃止し、それに伴い大幅な減税も実行したのでむしろ大いに歓迎されたらしい。
フィナリアは不信感を抱かれるのではないかと不安に思っていたようだが、義勇軍の面々がフィナリアに従って各地の獣人たちを説き伏せていたのでそんなことは発生しなかった。
「で、今こっちは総勢何人くらいになるんだっけか?」
「現在2万人と言ったところですね」
俺の疑問にフィナリアが間髪入れずにそう答える。
「2万? 随分と多くないか?」
マトワール領の正規軍は先日大半を殲滅してしまった。
戦死者の中にはクルドも含まれていたが、まあそんなことはどうでもいい。
問題はその時5000だった俺たちの軍勢が2万膨れ上がったことにある。
「ええ。獣人たちの志願兵が思いのほか多かったのと、マトワール軍の辺境兵たちが合流したからですね」
「辺境兵?」
俺の疑問にフィナリアが状況を説明してくれた。
マトワール軍を倒したカーナイル軍は残存兵を捕らえたのだが、敵前逃亡をした部隊の連中がなぜか土下座して指揮下に入れてほしいと言い出してきたのでそいつらと吸収合併したらしいのだ。
裏切りの可能性も考慮したのだが、そいつらはなぜか必死に口をそろえて『末席に加えさせてください!!!』と言ってきたので断りきれなかったのだとか。
話を聞けば、彼らは初めてバストラングと戦った時の辺境兵たちであり、ファーレンベルクとフィナリアの強さに度肝を抜かれ、バストラングが寝返ったら迷わず逃げる算段をしていたのだとか。
フィナリアも『風響』で彼らがそんな会話をしているのを察知しており、状況を正確に把握できていることからとりあえず使ってみることにしたのだとか。
「そんな奴らがいたのかよ…」
「まあ、今は猫の手も借りたい状況ですから」
「……そんな状況でよくバストラングを手放せたな」
俺の一言にフィナリアは手にしていた書類を机に置いた。
「確かにバストラング様がいてくれれば頼もしい限りですが……いえ、すみません」
フィナリアがなにか言おうとしてその言葉をひっこめた。
その様子が、俺にはフィナリアが何か言葉を飲み込んだように見えた。
「弱音を吐くってことは信頼の証じゃなかったか? フィナリアは俺のことを信頼してないのか?」
「……」
前に俺が落ち込んでいた時にフィナリアがかけてくれた言葉を返す。
フィナリアはそんな俺の言葉を聞き、少し困ったように微笑んだ。
「クウヤさん。意地が悪いですよ」
「悪いな。でも隠し事されるのは気分が悪い」
「…そうですね。私も少し疲れているみたいです」
そうってフィナリアは一つため息を吐いた。
「クウヤさん。すでにご存じとは思いますが、私たちは帝国と敵対しています」
「ああ。勿論わかってる。悩んでいたのはそれか?」
「はい。クウヤさんはここより西のリスタコメントス国王、エルリオット卿の兵力がどのくらいかご存知ですか?」
「…いや、知らないな」
「5万名です」
フィナリアの返答に、俺は顔をしかめた。
現状、俺たちは2万と少々の兵力しか持っていない。
一応ファーレンベルクやフィナリアのような規格外の存在もいるが、それはトルデリシア帝国も同じ話だ。
帝都にはトリストスを正面から打ち破ったドルガーという将軍と、ファーレンベルクを打ち抜いた魔導師がいる。
帝国の兵力は100万に達すると聞く。
魔族の襲撃によってかなりの数が減ったらしいが、だからと言って未だに凄まじい大軍が控えているのは間違いない。
そんな数の軍隊を率いるのがドルガー将軍を始めとする怪物たちだとすれば、なるほどフィナリアが憂鬱になるのも当然だろう。
「バストラングを手放したことを、後悔しているのか?」
「後悔は……しているのかもしれませんね」
俺の質問に、フィナリアは珍しくそんな歯切れの悪い返事を返した。
バストラングはアイルを抱えながらカルシオと共に生まれ育った村へと戻っている。
片道四日はかかる道のりだと言っていたから、今頃は村の人達と感動の再会を果たしていることだろう。
とはいえ、やはりバストラングがいてくれるとフィナリアとしても心強かったのだろう。
「もし私たちが帝国相手に敗北すれば彼らは反逆者として以前よりも過酷な環境へ追い込まれるでしょう。ですが、猫の手も借りたい状況でありながら、私は自分の理想を優先しました」
「その判断が間違っていたと?」
「……それがわからないんです」
そう言ってフィナリアは俯いた。
彼女がバストラングを手放したのは、彼女の理想ゆえだ。
奴隷民族である獣人の解放。それがフィナリアの理想だ。
長い間マトワールに無理やり忠誠を誓わされていたバストラングに、妹との自由な時間を与えてたいというフィナリアの考えは理解できるが、それが原因で帝国に敗れるようでは確かに本末転倒だろう。
「クウヤさん。私は理想を追い求めすぎて目が曇ってしまったのでしょうか?」
フィナリアは顔を上げてそんな質問を俺に向かって投げかけた。
それに対し、俺は真っ直ぐにフィナリアを見つめながら答える。
「その判断が間違っていたのかどうかは俺にはわからない。けど、一つだけわかっていることがある」
「……教えてください」
「俺は、あの時のフィナリアが今までで一番きれいに見えたってことだよ」
俺がそういうと、フィナリアがその目を丸くしていた。
かと思うと、彼女の顔色が少し赤みを帯びた。
(ヤベ、誤解されそうなこと言っちまったかもしれん)
内心で大いに汗をかいたが、取り乱したら泥沼にはまるのが目に見えているので俺は初志貫徹することにした。
「少なくとも、あの時フィナリアに迷いはなかった。何のためらいもなく最も困難な道を選んだフィナリアに、俺は素直に憧れたんだよ」
憧憬の念を抱ける相手というのはとても希少だ。
そんな相手に巡り合えるというのはさらに希少な体験だ。
だからこそ、俺は彼女の堂々とした宣言に惚れたのだ。
「少なくともバストラングはフィナリアに強い恩を感じてる。多分、いつかそれが生きる時が来る。もし来なかったとしても、俺がお前に全力で協力する。といっても、俺なんかじゃ役に立たないだろうけどな」
白魔法はそれなりに使えるようになってきたが、相も変わらず戦闘能力は皆無だ。
出来ることと言えばファーレンベルクの上で戦場を見渡すのと、戦闘後の治療位のものだ。
しかしそんな俺の言葉に、フィナリアは大きく首を横に振った。
「クウヤさん。あなたがいてくれなければ、盗賊団を捕らえることも、ベヘルという魔族を撃退することも、魔族に襲われたリスタコメントスとトリストスさんを守ることも出来なかったんです。あなたの存在が、その行いが、いったい私たちにとってどれだけの奇跡だったのか…」
そう言ってフィナリアは一度言葉を切った。
その光景に、俺は息をのんだ。
「だから、帝国にクウヤさんが捕らえられた時に、私もカーナイル様も迷わずにクウヤさんの味方になったんです。勿論そこには私たちが獣人族を解放したいという想いもありましたが、それ以上にクウヤさんに対して私たちは恩を返したかったんです」
珍しく饒舌なフィナリアに、今度は俺が失笑した。
「それ、ほとんどがファーレンベルクがやったことで、俺は指示しかしてないぞ?」
「同じことです。クウヤさんがそう決断してくれたからこそ、今の結果があるのですから」
「……」
少なくともフィナリアにとってはそういうことなのか。
これ以上反論しても平行線をたどりそうだし、争点にするようなことでもないので俺は言葉を切った。
「…だから、クウヤさんがいてくれるのはとても心強いんですよ」
何の憚りもなく、俺を真っ直ぐ見ながらフィナリアはそんなことを告げた。
正直言って気恥ずかしいことこの上ないが、今は俺がフィナリアの悩みを聞く側だ。
「なら、そんな心強い俺が協力するから、あんまり深く悩むな」
と、自分で言っててなんだそりゃあ! と言いたくなるような歯の浮くセリフを口にした。
言ってて顔に血が上りそうなセリフだったが、しばしの沈黙の後フィナリアは頷き。
「……はい」
と、フィナリアは小さな声でそう言って腰を下ろした。
…これで少しは役に立てたのか?
バンバン!!
俺がそう思った時、突如扉を誰かが叩く音が響いた。
「どうぞ」
その音を聞き、フィナリアが即座にそう答えた。
さすがに切り替えが早いなと俺は感心した。
「失礼します!」
そう言って一人の兵士が飛び込んできた。
あわてた様子から見るに、吉報ではないことが確かだろう。
「どうしました?」
「西方からリスタコメントス国王、エルリオット卿の軍がこちらに向かってきています!」
「来たか」
兵士の報告に、俺はそうつぶやいた。
「敵の兵力は?」
フィナリアの質問に、兵士は敬礼をしたまま答えた。
「およそ10万名!」
「10万!?」
兵士の報告に、俺は驚きの声をあげる。
フィナリアの言っていた数の倍はいる。
「…その兵士の数は事実ですか? エルリオット卿の兵力は5万名のはずですが?」
フィナリアの質問に、兵士は険しい表情を浮かべながら答える。
「それが、敵は前衛に獣人族5万名を配備しています!」
「なんだって!?」
兵士の報告に、俺は思わずそんな声をあげた。
まさかカーナイル領同様に獣人の義勇軍を作ったっていうのか?
しかも5万なんていう出鱈目な大軍を。
現在、俺たちの2万名の兵力のうち、獣人族はおよそ5000。
いくらこちらの倍以上の国土を持っているからとはいえ、あまりに不自然な大軍だ。
「……やってくれましたね」
その兵士の報告に、フィナリアが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「フィナリア? 何が起きているんだ?」
「おそらくですが、隷属魔法を用いて獣人たちを無理やり戦わせているのです。私たちに対する捨て駒として」
「!!!」
フィナリアの一言に、俺は血の気が引くような感覚に陥った。
5万という獣人の数は、有志が集まった数ではなく隷属魔法によって無理やり動員された数。そう言われれば納得も行くが、その事実を認めたくなかった。
「フィナリア様!!!」
かと思うと、再び別の兵士が部屋に転がり込んできた。
「なんでしょうか?」
その兵士の様子に、フィナリアは平静を装って質問した。
「緊急事態です! トルデリシア軍が、こちらに向かってきています! その数およそ5万!」
「な!!?」
兵士の報告を受け、俺は大いに絶句した。
「…挟撃、というわけですか」
報告を聞き、フィナリアはその表情をさらに険しくした。
気持ちはよく分かる。現状敵は15万でこちらは2万。
しかも二方向から攻めてきているのでこちらはその寡兵を分断させなければならない。
「報告は以上ですか?」
フィナリアの質問に、兵士二人は頷いた。
「分かりました。下がってください」
フィナリアの言葉に、兵士二人は再度敬礼をして下がった。
「…どうするんだフィナリア?」
先ほど偉そうなことを言ったが、事戦の事となると俺はフィナリアに頼らざるを得ない。
少々情けなく思いながらも、俺はフィナリアにそう問いかける。
それに対し、フィナリアは少し考えて口を開いた。
「クウヤさん。北から攻めてくる帝国軍をお願いできますか?」
「…フィナリアは?」
「私は西のエルリオット軍に対応します」
フィナリアの言葉に、俺は眉をひそめた。
「分かってるよな。敵は5万の兵力に加え、人質となる5万を前面に押し立てている。そんな中で空中から奇襲が出来るファーレンベルクなしで戦うのがどれだけ厳しい戦いになるか」
「分かっています。ですがクウヤさん。それはクウヤさんも同様です。帝国は魔導師大国と呼ばれる人間界最強の国家。当然今回の遠征には魔導師も含まれていると思われます」
「…それで?」
「クウヤさんには、1万名を率いていただきます」
フィナリアのその発言に、俺は目の前の机を思いっきり叩いた。
「ふざけるな! ただでさえこっちは寡兵なんだぞ! ファーレンベルク抜きの1万で、10万の敵と本気でぶつかるつもりなのか!?」
「……策はあります」
フィナリアの言葉に、俺は歯を食いしばりながら怒りを堪えて口を開いた。
「俺に軍の指揮は無理だ。兵士は要らない。ファーレンベルクだけで十分だ」
「いけません! 如何にファーレンベルクと言えど、魔法を受ければどうなるかわかりません! 義勇軍はクウヤさんが率いてください!」
「馬鹿を言え! お前の方こそそんな寡兵で挑む気か! それに俺は軍の指揮なんてやったことが無い。いきなり1万なんて大軍を、指揮し切れるわけないだろ!」
珍しく、というか初めてフィナリアと喧嘩をした。
状況が状況だけに、俺は一歩も引くことが出来なかった。
「そんなことを言っても、今の状況で帝国兵を相手取るには最低でも1万は必要です」
「ならなおさらお前が危ないだろ! 俺の目の届かないところでお前が危険な目に合うのを容認できるわけないだろうが!」
気が付けば、俺はそんなことを口走っていた。
フィナリアは呆気にとられたような表情を浮かべたが、すぐにその表情を引き締めた。
「……クウヤさん。魔族が襲撃してきた日、私がどんな気持ちでクウヤさんを送り出したか分かりますか?」
「え?」
「おそらく、今のクウヤさんと同じ気持ちですよ」
フィナリアの一言に、俺は意表を突かれた。
固まる俺にフィナリアは歩み寄り、俺の胸にその顔を埋めた。
突然のその行動に驚き戸惑う俺を余所に、フィナリアは話を続けた。
「…あの時、私は止めたかった。クウヤさんに、危険な場所へ行ってほしくなかった。でも、私にはそれが出来なかった。どうしてかわかりますか?」
「……なんでだ?」
「クウヤさんを信じていたからですよ」
俺の胸に埋めた顔を見せぬまま、フィナリアは俺にそう告げた。
「クウヤさんが帰ってくるって信じていたから、私はあなたを送り出せたんです。行かないでほしいという言葉を、収めることができたんです。だって、クウヤさんが何を求めているのかがわかっていたから…」
そのフィナリアの言葉に、俺はただただ閉口した。
彼女の言葉を聞くたびに、彼女が何を言いたいのかが伝わってきたからだ。
「クウヤさん。あの日、クウヤさんは私を信じてくれると言ってくれました。私も、クウヤさんを信じていたからあなたを送り出せました。なのに、あなたは私が帰ってくることを信じてくれないんですか?」
俺の胸の中に顔を埋めるフィナリアの肩が震えていた。
その顔は俯いていて見ることが出来なかったが、泣いているように思えた。
(ついさっき支えると誓ったはずなのに、俺は何をやっているんだ)
そうつぶやき、俺はフィナリアを抱きしめた。
「悪い。俺はフィナリアほど覚悟が出来てなかったみたいだ。だから、一つだけ約束してくれ。絶対に帰ってくるって」
「……」
俺の言葉に、フィナリアが一度俺の服の裾を握りしめた。
「頼む。それを約束してくれないと、俺はお前を送り出せない」
「…はい。約束します」
そう言って、フィナリアは俺の胸から顔を離した。
「少し頭を冷やして質問する。帝国は、俺とファーレンベルクがいても1万も必要なのか?」
「はい。少なくとも、奇襲によって魔導師部隊を攪乱させなければなりませんので、そのくらいの数は必要です」
「…攪乱させるだけなら、その半分くらいでもいけるんじゃないか?」
「無理です。魔導師部隊は敵の前衛に堅く守られています。そのためには、どうあっても1万は必要です」
フィナリアがそう告げた時、再び扉がノックされた。
「……」
フィナリアが俺の方を向いた。
部下の前で言い争っている光景を見せては士気にかかわるので、話をいったん切り上げようとしているのだ。
俺が頷くと、フィナリアも頷いた。
「入ってください」
フィナリアがそういうと、扉がゆっくりと開かれた。
再び凶報でないことを祈っていた俺は、直後目を見開いて驚いた。
巨漢の獣人が、扉をくぐって部屋へと入って来たのだ。
その背には大柄な戦斧を背負っており、全身は薄い体毛に覆われている。
その人物は、今故郷にいるはずの獣人バストラングだった。
「二人とも、おれ、ちから貸す」
突如現れた巨人は、俺たちの方を見ながらそんなことを口にした。




