開戦の証
「……ん?」
思い瞼を開け、未だに霞がかかった意識をまとめる。
「あ、目が覚めましたかクウヤさん?」
そんな俺の耳に、聞きなれた凛とした声が響く。
「フィナリア。ファーレンベルクは?」
そんな俺の質問に、フィナリアは慎ましく指を指した。
その指の先には窓があり、その先にはいつも通り子供たちに群がられるファーレンベルクの姿があった。
「よかった。無事だったのか」
「ええ。クウヤさんが白魔法を使った翌日に目を覚ましていました」
フィナリアの説明に、俺は安堵から頬を緩めた。
「…まった。俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「丸三日間ほどです」
「丸三日!?」
フィナリアに告げられた事に対して大いに絶句した俺の視界の端で、突如部屋の扉が開け放たれた。
「おう。クウヤが起きたようだな」
「おはようございますクウヤ殿。お加減はいかがですかな?」
などと言いながら偉丈夫の魔導師ロウセイと、執事のような領主カーナイルが入ってきた。
「…どんぴしゃりですねお二人さん。ついさっき起きたばかりですよ?」
「だろうな。お前が起きた気配がしたから押しかけることにしたからな!」
などと言いながらガハハと笑うロウセイに俺は内心口をあんぐりあけながら呆れていた。
この人は気配探知で相手が寝てるか起きているかまで判断できるのだろうかなどということを考える俺の前で、ロウセイはドカリと椅子に腰を掛けた。
「全く無茶をしおって。炎鳥を癒すためとはいえ、枯渇するまで魔力を注ぎ込むとは。無謀なまねとしか言えんぞ」
「……すみません」
咎めるようなロウセイ師匠の一言に、俺は素直に頭を下げた。
以前フィナリアと師匠に忠告されていたのに、気が付けば俺は激情に任せて魔力を使い切ってしまったのだ。
「……まあ、あの場合では仕方なかろう。だがクウヤ、一つだけ覚えておけ。今のお前がそうだったように、一度魔力を枯渇させると大半の奴は仮死状態となってしまう。今回は仕方がないとはいえ、今後はなるべくなら避けろ」
「分かりました」
「さて、なら今度は本題に入ろうか」
「本題?」
突如そんなことを言いだすロウセイに、俺は眉をひそめた。
先ほどの話は前座だったということなのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、ロウセイの隣に立っていたカーナイルが一歩前に出てきた。
「クウヤ殿。病み上がりのところ申し訳ありませんが、現状を報告させていただきたい」
「はい、なんでしょう?」
「トルデリシア帝国が、我々にクウヤ殿と神鳥殿、トリストス殿、そしてフィナリアさんの引き渡しを要求してきました」
「!!?」
カーナイルの一言に、俺は心臓の鼓動が跳ね上がった。
寝起きで完全に忘れていたが、俺はトルデリシア帝国皇帝の前でトリストスと共に大暴れし、ファーレンベルクに乗ったフィナリアと共に逃走したのだ。
それでトルデリシア帝国が何の手も打ってこないはずがない。
俺は三日も眠っていたらしいので、その間に指名手配されていてもおかしくないし、そもそもファーレンベルクに乗ったまま真っ直ぐにここへ帰還したのだからカーナイル領に戻っているのがばれていて当然なのだ。
「…それで、カーナイルさんはどうするつもりなんですか?」
「私はその引き渡しを拒否しました」
あっさりと告げられたカーナイルの返答に、俺は言葉を失った。
通信水晶などという代物がある以上、帝国からは俺たちが逃げた直後にでもカーナイルに連絡を入れたことだろう。
そして俺を受け渡すのなら、それこそ俺が気絶している間に引き渡してしまえばよかったのだ。
なのにそれをしなかったということは、帝国に敵対するということに他ならない。
「どうして、そんなことを」
「クウヤ殿。あなたは人間界がこのままの状態で魔族の侵攻を阻止できると思いますか?」
俺の問いに対し、カーナイルは間髪入れずにそう問い返してきた。
「どういうことですか?」
「言葉通りの意味です。トルデリシア帝国は人間界の中心であり、その皇帝は文字通り最高権力者です。しかし、その方々の危機意識はあまりにも薄い。それはクウヤ殿もよく承知されているのではありませんか?」
その言葉に、俺は先日のエベルス将軍やオルバール皇帝のことを思い出した。
あいつらは帝都の西に位置する町を拠点にしていた。
それはとりもなおさず魔族が攻め込んできた途端に逃亡したということだ。
しかも魔族は自分たちの兵士たちが身を挺して相打ちに持ち込んだと思い込んでおり、次の襲撃があった場合でもどうにかなると考えているのだ。
そんなことを考える俺に、ロウセイが追い打ちをかける。
「もう少しいうとな、恐らく魔族の本隊はまだ別にいる」
「どういうことです!?」
俺が問いただすと、ロウセイはトルデリシア帝国の宮殿で俺たちと別れてからずっと情報収集をしており、その際にシェルビエントの魔族の情報を掴んだらしいのだ。
「……では、シェルビエントの砦を破壊した魔族は」
「間違いなく前の侵略の際には参戦していなかった。戦い方も、戦力も、まるで一致しなかったからな」
ロウセイの言葉に、俺は閉口するしかなかった。
そんな状態の中、カーナイルがさらに追い打ちをかけてきた。
「そのような状態にも関わらず、帝国は宮殿を復旧するために全土の税を引き上げるということを宣言しました。そしてこれは我がリスタコメントス領も同様です」
「はぁぁ!?」
その一言に俺はとうとう我慢できずに素っ頓狂な声をあげてしまった。
あの豚皇帝、事もあろうに魔族に対してことを構えずにそんな馬鹿げたことをしようとしているのか!?
……あまりの愚帝っぷりに驚きと共ににあきれ返ってしまう。
「帝国に従えば、クウヤ殿をはじめとする魔族と戦うための力が奪われ、我々は戦うことすらできなくなるでしょう。何をするべきかは、明白だと思いますが?」
「…反乱を起こすと? こんな時に?」
そんな俺の質問に、カーナイルは首を横に振った。
「こんな時だからです。魔族たちは必ず再びやってきます。私たちはそれに備えなければなりません。だからこそ、私はクウヤ殿の引き渡しを拒んだのです」
「……」
カーナイルのその言葉に、俺はただただ閉口した。
いつ魔族が攻めてくるのか分からない現状に対し、カーナイルがあまりにも大胆な方針を打ち立てたからである。
そんな領主様は、変わらず俺の方を見ながら言葉を紡いだ。
「クウヤ殿。出来るのなら魔族と戦う前に、魔族との戦いを阻むもの達との戦いに協力していただきたい」
どこまでも真剣に、真摯にカーナイルは俺にそう訴えかけてきた。
その視線を受け、俺は逃げ道を求めるようにロウセイとフィナリアの方を向いた。
しかし二人もカーナイル同様にどこまでも真摯な目を俺に向けてきた。
「………ここまで来て断れませんよ」
ため息交じりに俺はそうつぶやいた。
「では、引き受けてくださるのですね?」
「はい。引き受けます」
俺がそういうと、カーナイルは俺に向かって深く頭を下げてきた。
「ありがとうございます。本当に」
「いえ、俺もそのつもりでしたから」
忘れてはいけない。俺は元々この世界の破滅を防ぐために来たのだ。
未だにそれが何を示しているのかは分からない。
だが、以前俺はロウセイ師匠との話の中で世界の崩壊に、帝国の闇が関わっていると確かに感じたのだ。
そして、先日腐敗した帝国の現状をこの目でみて、その仮説はより現実味を帯びた。
だから、目を背けるわけにはいかない。
そもそもこの世界に来た時から困難なことにぶつかることは初めから予想できていたことだ。
「改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
頭を下げたまま、カーナイルがそう言った。
カーナイル・ノストハイムの治める領地はリスタコメントスの最東部に位置しており、面積でいえばリスタコメントスの1割程度となっている。
また、リスタコメントス自体がトルデリシア帝国の属国に近い扱いを受けており、カーナイルに与えられている権限は決して大きくはない。
あるのは、ただひたすらに貢物を送ることで約束される地方領主という地位のみである。
そんな地方領主が、トルデリシア帝国皇帝の命令を背いたという情報は、瞬く間に各地へ広がって行った。
辺境の領主と、人間界最高権力者では、持っている権限があまりにも違いすぎるゆえに、ほとんどの者がそれを戯言と一蹴した。
しかしそれを戯言と笑い飛ばせないものがいた。
カーナイル領に隣接している領地を束ねているマトワールという名の領主である。
「クソッ! 一体どうなっている! カーナイルが反旗を翻したというのは真の話なのか!?」
「ま、マトワール様。落ち着いてください」
マトワールは悪態をついて執務室の机を殴りつけ、その様子を補佐役がいさめている。
執務室とは言うが、その部屋は成金趣味としか言えないような機能美とは真逆のいやらしい意味での豪華さが目立つ部屋であった。
そんな部屋にいてなぜ領主がそのように荒れているのかと言えば、カーナイル領から送られてくるはずの貢物の全てが止められたからである。
ここでいう貢物というのは、トルデリシア帝国へ送るための税金の事である。
ただしカーナイル領からマトワール領へと送られる納税額はトルデリシア帝国が指定していた額よりもはるかに多い。
なぜなら、カーナイル領から送られる貢物は、マトワール領を経由し、リスタコメントスを治めるエルリオット侯爵の元へと送られるのだが、その最中にエルリオットとマトワールが一部を搾取しているからなのだ。
逆を言えば、カーナイルが納税を怠った場合でもマトワールからエルリオットへと送る貢物の量が減るというわけではない。マトワールがカーナイルの分まで負担しなければならないということになるのである。
「まして今回は陛下が宮殿を復旧するために税額を引き上げた直後の話だぞ!」
「…ですからこそ、カーナイル殿が帝都と敵対したという情報が信憑性を増すのではないのでしょうか?」
「そんなことは分かっておる!」
などと言って、マトワールは再び執務室の机を殴りつける。
「おのれカーナイルめ、このようなときに面倒事を持ち込みおって…」
「…では、どうするおつもりで?」
従者の問いに、マトワールは苛立ちながらもその口元を歪めた。
「決まっておろう。わしに楯突いた愚か者を粛清する。全軍に出撃の用意をさせよ! あと、バストラングの奴も準備させておけ!」
「…あの者を、ですか?」
従者の言葉に、マトワールは苛立ちながら答える。
「こんな時以外にいつあ奴を使うと? 人質ならとっている。隷属魔法もある。問題はあるまい」
「…分かりました。では、しばしお待ちを」
そう言ってマトワールの従者はその部屋から立ち去った。
その成金趣味の部屋の中で恰幅のいい領主は歪な笑みを浮かべたまま高笑いを始めた。
「フハハ。何も憤ることは無い。こちらは奴の倍以上の土地と兵力を持っている。不届き者を粛清したとあれば、責任の全てをなすりつけることも出来てわしの名も上がるというものだ。考えてみれば何の問題もないではないか!」
先ほどまでの憤りはなりを潜め『ハハハハハハハ』と領主の高笑いが響き渡る。その目にはすでにカーナイルを捕らえた後の事に対する興味以外はなにも浮かんでいなかった。
隣の領地にてふくよかな領主が高笑いをしている最中、そんなことなど全く知らない俺は、フィナリア、ロウセイ、カーナイルと共にある場所へと向かっていた。
「で、今結局どこに向かっているんですか?」
魔力欠乏の後遺症のせいで俺はこれまで寝込んでいたのだが、目が覚めたと同時に三人(というかほとんど師匠の勢い)に連れ出されてしまったのだ。
そんな俺に対して、先頭を歩くロウセイが振り向きもせずに口を開いた。
「クウヤ。分かっているとは思うが、これからは厳しい戦いが続く」
「…はい」
俺の質問に全く答えずにそんなことを言うロウセイに対して俺は憮然としながらも首肯する。
一見ふざけているように見えてもロウセイは無駄なことはしない。
おそらくこの話も必要なものなのだろう。
歩みを緩めぬまま、三人が現状を端的に説明する。
「いつ魔族どもが攻め込んでくるかもわからない中、わしらは人間界を長年支配してきた勢力と正面からぶつかり合わなければならない」
「保持している戦力も領土も比べ物になりません。私はこの南国の東端を分け与えられているのみ。隣には、私の倍の領土を持つマトワール伯爵。さらにその奥には、マトワール卿に倍する領地をもつリスタコメントス全土の最高権力者であるエルリオット侯爵」
「さらにその背後にはリスタコメントスの倍の領土と、100万の軍勢を誇るトルデリシア帝国軍が控えています。私たちは、魔族に警戒しながらその軍勢と戦わなければならなりません」
改めて話を聞くと頭が痛くなる。
まさしく前門の虎、後門の狼といった感じだ。
「でも、帝国軍は魔族にかなりやられてませんでした?」
帝国兵は魔族の襲撃で相当な数の帝国兵が削り取られている。
帝国の重鎮らしき連中がそう言っていたのだからまず間違いない。
あいつらは魔族と帝国兵たちが相打ちになっていたという論法を鵜呑みにしていたが、魔族の襲撃に対して帝国兵が削られたという事実は確かだろう。
「そんな魔族たちを倒したトリストスさんとロウセイさんがいるなら、どうにかなるんじゃあ?」
そんな俺の意見に、しかし三人は頷かなかった。
「クウヤ。そのトリストスという剣士は今どこにいると思っている?」
「…あ! そう言えばトリストスさんは!?」
ロウセイの一言に、おれは今更ながらトリストスがどうなったのかということを知らないことに気が付いた。
まだ寝起きで頭が回っていないのかもしれない。
「トリストス様は一度フォルシアンへ戻りました。何か用意することがあるとのことでしたが…」
「…そうだったんだ」
「それになクウヤ。わしは今回の戦争にはかかわれんのだ」
「……え?」
トリストスについて思考をしていた俺に対し、ロウセイがそんなことを口走った。
「わしはこれからシェルビエントへ向かう」
「シェルビエントって、ひと月前に砦を破壊された…」
「そのシェルビエントだ」
「……どうして」
トリストスは確かにドルガー相手に敗北したが、その武力が戦いにおいて極めて有用なのは言うまでもない。
そんな彼が帰郷している今、ロウセイが主力なのは間違いない。
だというのに、そのロウセイが一緒に戦ってくれないということに、俺は深く疑問を覚えた。
そんな俺に対して、ロウセイは歩みを緩めずに口を開いた。
「魔族どもは、また来る」
「ッ!」
その指摘に、俺はロウセイがなぜシェルビエントに向かうのかを理解した。
つまり。
「砦が崩壊した今、魔族たちはいつでも人間界に攻め込めるようになっている。この一月何の動きもない理由は解らぬが、いずれ必ずやってくるだろう。わしはシェルビエントに向かい、魔族たちの動向を探り、必要ならば迎え撃とうと思う」
「…それは、何のためにですか」
ある程度答えが予想できていながら、俺はついそんな質問をしていた。
それに対し、ロウセイは少しの沈黙ののちに答えた。
「お前たちが、正面の敵に集中できるようにするためだ」
ロウセイの言葉に、俺は地図を思い出しながら状況を整理する。
シェルビエントは、現在いつ魔族の大軍が押し寄せるかわからない最悪の危険地帯となっている。
ゆえに、ロウセイがそこへ向かい魔族を抑えることにより、俺たちは後門の狼を気にせず前門の虎に挑むことが出来るということだ。
「でも、それは危険すぎませんか?」
「それは何が危険なのだ?」
俺の質問に対し、ロウセイ間髪入れずにそう問い返す。
その返答に、俺は何を示唆しているのかが分からなかった。
「わしの身を案じているのか? だとしたらそんなものは捨て置け。わしの身が危険にさらされる程度の事で、人々が僅かばかりでも魔族の脅威から遠ざかるのであれば、その程度のことなど一顧だにする必要もない。何より、お前たちは今誰よりも人間界から睨まれている。そんなお前たちに、魔族の相手までさせることが、わしに出来ると思うか?」
「……」
ロウセイの言葉に、気が付けば俺はただ閉口した。
その一言に、明確な覚悟が含まれていたからだ。
「すまんな。人間界は、お主たちに託すしかなくなってしまった」
「いえ、こっちこそ楽観的な考え方をしていました」
なぜか、自分でも驚くほどにあっさりと腹が決まった。
人間界最強と言われた頼れる師匠が、ともすれば自分たちよりも危険な場所に、人族の、ひいては俺たちのために赴くと知り、ここに残ってほしいという俺の意見がとても幼稚に思えたからだ。
「なら、この話は終わりだ。そろそろ着くぞ」
話し込んでいるうちに目的地とやらに到着していたらしく、ロウセイはそんなことを口にした。
そこは町の広場だった。
俺も何度か見たことのあるごく普通の、どこにでもあるような広場。
しかし、その広場の光景は俺の知っているそれとは大きく異なっていた。
その広場に、たくさんの獣人たちが集まっていたからだ。
カーナイルが直接治めるこのノスタリアという街には獣人たちの人数が極端に少ない。それはカーナイルが獣人を差別しているのではなく、他の領地の貴族たちがやってきた際に自由にしている獣人が見つかるのが心象に悪いからだ。
だが、今は違う。
その広場には、たくさんの獣人たちが集まっていた。
それも、見てみれば誰もかれもが働き盛りの青年や壮年の男たちばかり。
中にはちらほら女性の獣人も交じっている。
「師匠、これは?」
疑問を浮かべる俺に対し、答えたのはフィナリアだった。
「クウヤさん。彼らはカーナイル様の独立に際して、領内から駆けつけてくれた義勇兵です」
「ぎ、義勇兵!?」
義勇兵というのは正規軍に所属することもなく、金銭的な見返りも求めずに集まる戦闘員の事だ。
言われてみればこの場に集まっている獣人たちは誰もが得物を手にしている。
それは鎌だったり、鍬だったりと、妙に農村的ではあるが、敵意をもって扱えばどれも十分な凶器になりえるものだ。
いま、この広場には文字通り人があふれかえりそうになっている。
つまり、カーナイルの危機に際してこれだけの獣人たちが味方しているということになるのだ。
そんな獣人たちの前に、カーナイルが歩みだした。
獣人たちがそれに気づき、自らの領主に注目する。
「皆さま。今日はよく集まってくださいました。すでに聞き及んでいるかもしれませんが、私はトルデリシア帝国に宣戦布告いたしました」
そんな獣人たちの前で、カーナイルは静かに言葉を紡いだ。
誰もがその宣言に耳を傾けていた。
「ご存じのとおり、帝国はこれまであなた方獣人の皆様から途方もない税を巻き上げておりました。私もその片棒を担ぎ続けてまいりました。まずそのことを、深く謝罪させていただきます」
そう言ってカーナイルは深く頭を下げる。
誰もがその光景を見守っている。
しばし後、カーナイルはその頭上げ、再び口を開いた。
「先日、魔族たちが人間界に攻め込みました。だというのに、皇帝たちはろくに戦いもせずに逃げ出し、あまつさえ破壊された宮殿を修復するために各地にこれまでに倍する重税を課す始末。魔族という脅威にさらされておきながら、あまりにも無責任な対応を行ったのです」
その宣言に、獣人たちはその手にしていた得物を握りしめていた。
初めて立ち寄った村でも、ヌーアをはじめとした獣人たちは決してカーナイルを恨んではいなかったが、だからといって当然帝国の暴挙を容認していたわけでもなく、思うことは確かにあったのだろう。
「皆様に問いたい。私はこれまで帝国に愛想を尽かしてはいれども、帝国に刃向うことが出来なかった。そんな私が、今更、本当に今更帝国にその刃を向けました。皆さまは、そんな意気地のない私と、共に戦っていただけますか?」
しばしの間を置き、広場に怒号が響き渡った。
そのあまりの歓声に、俺は大きく身震いした。
「…ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。皆さま。ではこの場を借りて、我が領地の独立の宣言と、領内における獣人の奴隷制度を撤廃を宣言いたします」
カーナイルの言葉に、広間に更なる怒号が響き割った。
誰もが武器を手に、それを天高くかざしていた。
その光景に身震いする俺に、ロウセイが歩み寄ってきた。
「分かるかクウヤ。これがカーナイルという男だ。帝国の犬として動いていながらも、誰よりも苦悩し、彼らのために尽力をしたからこそ、誰もがあの男についていこうとするのだ」
お前もそうだろう?
その言外の質問が聞こえ、俺は頷いた。
「…ではな。人間界は任せた」
「はい。頑張ります」
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
俺とフィナリアにそう言い残し、ロウセイは目の前から掻き消えるようにその姿を消した。
こうして、俺たちの戦いが始まった。
ふう。やっと状況が整いました。
ようやく物語が始められます。
これからも気が向けばぼちぼち目を向けてやってください。
よろしくお願いします。




