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ティーゲル外伝~奪われた母性と黒い野望~  作者: 4代目ている


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第三話:地上の猛獣と、白衣の悪夢(前編)

「……人工授精による妊娠は、もはや不可能だと?」


 フェリディア王国の王宮『天帝聖獅城(グランド・レオンハート)』の最深部。女王ライアライアの私室に通されたティーゲルは、漆黒の重甲冑を軋ませながら、床に深く片膝をついていた。


 百六十歳という若さで王国軍参謀の座に就き、武の頂点として君臨する彼女の顔には、度重なる流産と死産によって削り取られた深い疲労と、隠しきれない絶望の色が色濃く滲んでいた。


「はい、ライアライア女王陛下。医療局のピューレル博士より、これ以上の処置は母体に致命的な損傷を与えると、事実上の宣告を受けました。……私の胎(はら)は、一万年前の凍結精子を受け入れる力を、すでに失ってしまったようです」


 ティーゲルの声は低く、微かに震えていた。


 トラ族の参謀として、何よりも誇り高き「武」の血脈を次世代へと繋ぐこと。そして、戦いを怖がる心優しい銀髪の妹・ハクレイとその娘を、王宮の血生臭い権力闘争から守り抜くこと。それが彼女のすべてであった。だが、無機質な医療器具による冷たい処置は、彼女の胎内に死の影ばかりを落とし、ついに彼女から「母になる」という希望すらも奪い取ろうとしていた。


 玉座に腰掛ける十本尻尾の女王ライアライアは、黄金の瞳に深い哀しみを湛え、静かにため息をついた。


「ティーゲル……。貴女がどれほど心身を削り、トラ族の未来のために身を捧げてきたか、私はよく知っています。ですが、医療局の手を借りずに、一体どうやって命を宿すというのですか?」


 ティーゲルは顔を上げ、黄金の瞳に決死の光を宿して女王を見つめた。


「……地上です。地上の世界から、純血の『野生の雄トラ』を捕獲してまいります」


「地上から、野生の獣を……!?」

 ライアライアが驚きに目を見開く。


「はい。一万年もの間、冷たいカプセルの中で凍りついていた死んだような種ではなく……血湧き肉躍る闘争の本能を持った、生きた野生の雄。その圧倒的な生命力と熱を、闘争という名の『交尾』によって直接この身に受け入れるのです。我が血に刻まれたトラ族の本能を極限まで呼び覚ませば、必ずや、その強靭な命を子宮に定着させることができるはずです」


 それは、高度な医療技術で管理されたフェリディア王国において、あまりにも前時代的で、野蛮極まりない提案であった。一歩間違えれば、猛獣の牙にかかってティーゲル自身が命を落とす危険すらある。


 だが、ティーゲルの決意は岩のごとく揺るぎなかった。彼女の背後で、七本のトラの尻尾が、まるで戦場に赴く前のように力強く波打っている。


「……私のわがままをお許しください、陛下。ですが、私は諦めきれない。妹たちを守るため、そして母アルティグラとの約束を果たすため……私は必ず、最強のトラ族の跡継ぎを産まねばならないのです!」


 床に額をこすりつけ、血を吐くような思いで懇願する参謀の姿に、ライアライアは静かに目を伏せた。そして、ゆっくりと立ち上がると、ティーゲルの肩に優しく手を置いた。


「……貴女の並々ならぬ覚悟、確かに受け取りました。よろしい、特例として地上からの野生個体の捕獲を許可します。ただし、必ず元気な赤ちゃんを産むこと。……約束ですよ、ティーゲル」


「はっ……!! ありがたき幸せに存じます、ライアライア陛下!!」


 ティーゲルは深く平伏し、その目から一筋の熱い涙がこぼれ落ちた。


 医療局の無機質な処置(ピューレルの管理下)を離れ、自らの本能と血のみにすべてを懸ける。それが、彼女が選び取った最後の希望の道であった。


 女王の許可を得た数日後。


 王宮の地下深くに存在する、地上世界へと通じる『極秘の転送ゲート』の前。


 そこに集められていたのは、人間齢にして七歳から十歳程度のあどけない少女たち――一本尻尾のイエネコ族、『一般キャレット兵』の小隊、計二十匹であった。


 彼女たちは、防弾性能など皆無に等しい、露出の激しい極小のマイクロビキニアーマーに身を包んでいる。武器は両手両足に装備した『肉球グローブ&ブーツ』から飛び出すフェリディウム合金の爪のみ。


 寿命がわずか二十年足らずの彼女たちは、恐怖や死の概念を正しく理解する前に前線へと送り込まれる、王国の最も安価な「使い捨ての駒」である。


「にゃははっ! 地上の世界だにゃん! はじめての地上遠征だにゃ!」


「おっきにゃ猫ちゃんを捕まえてくるお仕事にゃんでしょ? みんにゃで爪でチクチクすれば、すぐにおとにゃしくにゃるにゃん!」


 ゲートの前で待機する二十匹のキャレット兵たちは、遠足にでも行くかのように無邪気にキャッキャと笑い合い、ピンと立った一本の尻尾を機嫌よく揺らしていた。


 彼女たちはこれから捕獲しに行く獲物が、どれほどの絶望的な暴力を持った存在であるか、その本当の恐ろしさを全く理解していなかった。


「作戦目標は、地上の『星空サファリパーク』の特別猛獣エリアに保護されている、地球最大級の猛獣・アムールトラの雄だ。生け捕りが絶対条件だ。お前たちの爪には強力な麻酔薬が塗布されている。一斉に飛びかかり、麻酔を撃ち込め!」


 前線指揮官である赤いマイクロビキニを身に着けたキャレットリーダーが号令をかけると、キャレット兵たちは「はーいっにゃん!」と元気よく返事をし、青白い光を放つ転送ゲートの中へと次々に跳躍していった。


 空間転移のめまいを抜け、彼女たちが降り立ったのは、深夜の地上の世界だった。


 冷たい夜風が吹き抜ける、広大なサファリパークの猛獣エリア。


 高い鋼鉄のフェンスと深い堀に囲まれたそのエリアには、人工的な岩山と鬱蒼とした木々が配置されている。地底の人工太陽とは違う、本物の月明かりが、不気味なほどの静寂を照らし出していた。


「にゃー……暗いにゃ。静かだにゃん」


「おっきにゃ猫ちゃんはどこにいるのかにゃ?」


 二十匹のキャレット兵たちは、合金の爪をカチャカチャと鳴らしながら、茂みの中へと足を踏み入れていく。


 彼女たちの身体能力は地上の人間の兵士を遥かに凌ぐ。跳躍力や動体視力は優れており、人間相手であれば容易に圧倒できるほどの力を持っている。だからこそ、彼女たちは完全に油断していた。相手はただの知性のない獣。囲んで麻酔を打ち込めば終わりだと。


 だが――。


 ズズン……。


 かすかな、しかし腹の底を這いずり回るような低い地鳴りのような音が、木々の奥から響いた。


「……にゃ?」


 先頭を歩いていたキャレット兵が、ピタリと足を止めた。


 彼女の頭頂にある猫耳が、危険を察知してピクピクと痙攣するように動く。


 暗闇の奥、鬱蒼と茂る木々の隙間に、二つの「黄金の眼光」が不気味に浮かび上がった。


「あ、いたにゃ! おっきにゃ猫ちゃん……!」


 少女が指を差そうとした、その瞬間だった。


 ゴオォォォォォォォォォッッ!!!!


 大気が震え、魂そのものを圧殺するような、圧倒的な猛獣の咆哮が深夜のサファリパークに轟き渡った。

「ヒッ……!?」


 その凄まじい声量と、本能の根源に直接叩き込まれる「頂点捕食者」のプレッシャーに、二十匹のキャレット兵たちの全身の毛が逆立ち、一本の尻尾が恐怖で股の間に巻き込まれた。


 暗闇から姿を現したのは、体長三メートル、体重三百キロを優に超える、規格外の巨体を誇る雄のアムールトラであった。


 フェリディアのトラ族が人の形をしているのに対し、こちらは純粋な「殺戮と捕食」に特化した、四足歩行の完璧な暴力の結晶。太い丸太のような四肢、分厚い筋肉の鎧、そして鋼鉄のフェンスすら噛み砕く巨大な顎と牙。


「で、でかいにゃ……! おっきすぎるにゃん……っ!」


「にゃ、にゃめんにゃ! いくら大きくたって、にゃーたちの合金の爪の方が鋭いにゃ!」


 恐怖を振り払うように、数匹のキャレット兵が跳躍した。


 彼女たちは木々を蹴り、アムールトラの死角である上空から一斉に襲い掛かった。肉球グローブから伸びる麻酔塗布済みの合金爪が、月明かりを反射して凶悪に光る。


「捕まえたにゃーーッ!!」


 しかし、地上の頂点捕食者の反応速度は、一本尻尾の少女たちの予測を遥かに超えていた。


 バォォォォォンッ!!!


 空気を叩き潰すような破裂音。


 アムールトラが何気なく振り抜いた右の前足が、空中にいた二匹のキャレット兵の胴体を、まるで飛んでいるハエを叩き落とすように薙ぎ払った。


「ぎにゃぶッ!?」


「ごはァッ……!!」


 キャレット兵たちの華奢な身体が、くの字に異常な角度で折れ曲がった。


 数百キロの質量と筋肉のバネから繰り出された一撃は、強固なマイクロビキニアーマーごと彼女たちの肋骨と背骨を粉々に粉砕し、弾け飛んだ腹部からピンク色の腸と血肉の塊が夜空にぶちまけられた。


 メキバキィッ! という生々しい骨の砕ける音が響き、二匹の少女は大量の血反吐と内臓を撒き散らしながら弾き飛ばされ、岩山に激突して原形を留めない肉塊へと変わった。


「あ……」


「ウ、ウソだにゃ……ミミちゃんが、一撃でペチャンコに……」


 残されたキャレット兵たちの顔から、一瞬にして血の気が引いた。


 魔法も魔道力も持たない純粋な「物理的な質量と暴力」。それが、いかに絶対的で絶望的な差であるかを、彼女たちの未発達な脳髄が強烈に理解してしまったのだ。


「グルァァァァッ!!」


 生温かい血の匂いに興奮したアムールトラが、地響きを立てて突進を開始した。


 それは、少女たちの命を刈り取る地獄の殺戮ショーの幕開けであった。


「逃げるにゃ! 逃げるにゃあぁぁっ!!」


「勝てにゃい! あんにゃ化け物、勝てるわけにゃいにゃんっ!!」


 パニックに陥ったキャレット兵たちは、武器である爪を収め、四方八方へと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。極度の恐怖により、ビキニの股間から黄色い尿を漏らしながら、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして必死に走る。


 だが、逃げる獲物の背中を見せることほど、ネコ科の猛獣の狩猟本能を刺激するものはない。


 ズガァァァァンッ!!


「ア゛ッ――――!?」


 逃げ遅れた一匹の背中に、トラの巨大な前足がのしかかった。


 少女の華奢な胴体がアスファルトに押し潰され、肺から空気が強制的に絞り出されるとともに、口から内臓の破片と大量の血を嘔吐した。


「い、痛いにゃ……! 潰れりゅ……ッ! ママ、たすけてにゃ……!」


 メシャァァァッ!!


 無慈悲なトラの顎が少女の頭部に食らいつき、そのままスイカを割るように頭蓋骨を噛み砕いた。顔面がひしゃげ、眼球が飛び出し、脳漿と鮮血がスプリンクラーのように夜の闇へと噴き出す。少女の身体の痙攣が唐突に止まり、トラはその肉体を咥えたまま頭を激しく振り、ボロ布のように放り捨てた。


「ひぃぃぃぃぃぃッ!!!」


 惨劇を目の当たりにした仲間たちの絶叫が、夜のサファリパークに響き渡る。


 ある者は木の上に逃げようとしたが、トラの凄まじい跳躍力によって足首を噛みつかれ、地面に引きずり下ろされた。


「いやにゃ! 足が、足がちぎれるぅぅっ!!」


 爪を立てて地面にしがみつく少女の悲鳴も虚しく、トラの強靭な顎が彼女の足を骨ごと噛み砕き、そのまま力任せに引きちぎった。


 ブチブチッという肉の裂ける生々しい音と共に、少女は片足を失った激痛に狂いながら血の海でのたうち回り、生きたまま腹を食い破られてピンク色の腸をズルズルと引きずり出されていく。


 またある者は、恐怖で腰を抜かしてへたり込み、両手で顔を覆ってガタガタと震えることしかできなかった。


「ごめんにゃさい……もうおうちに帰るにゃ……痛いことしにゃいでにゃあぁぁ……っ!」


 その懇願の言葉も、知性なき獣の耳には届かない。巨大な牙が少女の華奢な胸郭を貫き、そのままバリバリと肋骨を砕きながら上半身を咀嚼し始めた。下半身だけになった少女の身体から、切断された一本の細い尻尾がピクピクと痙攣して血を吹き出し、黄色い尿の海を赤く染め上げていく。


 わずか数分の間に、二十匹のキャレット兵たちは完全に蹂躙された。


 月明かりに照らされた岩山の周囲には、無残に引き裂かれ、内臓をぶちまけられた幼い少女たちの亡骸が散乱していた。生き残った者は誰一人おらず、地底の使い捨ての駒たちは、地上の絶対的な自然の暴力の前になすすべもなく全滅したのである。


「グルルルル……」


 口の周りを純白の少女たちの血で染めたアムールトラが、血の匂いと殺意を撒き散らしながら、次の獲物を求めて低く唸り声を上げた。


 その時である。


 シュンッ!! シュンッ!! シュンッ!!


 転送ゲートの青白い光が再び瞬き、血まみれの戦場に、十の深紅の影が音もなく降り立った。

 それは、一般キャレット兵などとは次元の違う、圧倒的な殺気と研ぎ澄まされた戦意を放つ集団だった。


「……遅かったにゃ。チッ、一般兵のゴミども、少しは時間かせぎににゃるかと思ったが、あっという間に全滅しやがってにゃ」


 血の海に倒れる同胞の死体を冷たい目で見下ろし、忌々しげに舌打ちをしたのは、深紅の特殊合金で作られた『マイクロビキニアーマー』に身を包んだ一匹のキャレット。


 彼女の背中には、一般兵よりも太く力強い一本の尻尾が揺れ、その腕には、前腕を覆い尽くすほどの巨大な『深紅の大型ガントレット』が重々しく装着されている。その先端からは、三本の凶悪な鉤状の合金爪が鈍い光を放っていた。


 彼女こそ、フェリディア王国最強の武人・ティーゲル参謀が直属とする特務部隊『クリムゾン・クロー』の隊長、ベルべであった。


「総員、構えろにゃ! ティーゲル様の次代の種とにゃる大切な獲物にゃ。絶対に傷をつけるにゃ! だが、骨を一本二本折るくらいは構わんにゃ!!」


「「「はっ! 御意に存じますにゃ!!」」」


 ベルベの号令に、背後に控える九匹の精鋭部隊が一糸乱れぬ動きで巨大な鉤爪を構えた。

 彼女たちは、幼い頃から地獄のような戦闘訓練をくぐり抜け、感情を殺戮の技術へと昇華させた『殺しのプロフェッショナル』である。先ほどの怯えきった一般兵とは違い、彼女たちの瞳には死への恐怖は一切なく、ただ獲物を解体するための冷徹な算段だけが宿っていた。


「行くにゃッ!!」


 ベルベが地面を蹴り、爆発的な脚力で巨獣へと肉薄する。


 アムールトラもまた、新たな外敵に対して怒り狂い、その丸太のような前足を振り下ろした。


 ガギィィィィィンッッ!!!


 火花が散った。


 トラの強烈な爪撃を、ベルベは両腕の深紅のガントレットを交差させて真っ向から受け止めた。


「ぐっ……! さすがは地上の頂点、凄まじい質量にゃ……!」


 ベルベの足元のコンクリートが砕け、ブーツが数メートル後方へと削られながら滑る。深紅の装甲の表面に、トラの爪が嫌な金属音を立てて深く食い込んでいた。


 もし彼女が一般兵の装備であれば、両腕ごと粉砕されていた一撃だ。


 だが、クリムゾン・クローの装甲は耐え抜いた。


「抑えるにゃ! 包囲陣形ッ!」


 ベルベがトラの攻撃を受け止めている隙に、九匹の部下たちが神速の動きで四方から散開した。


「もらったにゃ!」


 背後から跳躍した二匹の隊員が、トラの後ろ足の関節部に向けて、正確無比な角度で鉤爪を突き入れた。爪には、先ほどの一般兵の数十倍の濃度を誇る『超強力・獣用神経麻酔』がたっぷりと仕込まれている。


 ズブゥッ!!


「ガアアァァァァッ!!?」


 痛みにトラが激しく身をよじり、長い尻尾を鞭のように振るって周囲の隊員を薙ぎ払おうとする。


「にゃっ!」


 隊員たちはアクロバティックな身のこなしでそれを回避し、今度は左右からトラの脇腹や首の筋肉へと次々に麻酔の刃を突き立てていく。


 巨獣の圧倒的な暴力に対し、クリムゾン・クローは完璧な連携とヒット・アンド・アウェイで対抗した。


 時にトラの牙が装甲を掠め、隊員の一匹が吹き飛ばされて肩の骨を砕かれる場面もあった。


「がッ……! 構うにゃ、押し込むにゃッ!!」


 だが、彼女たちは仲間の負傷に一切動揺することなく、機械のように無慈悲な包囲網を狭めていく。


「これで終わりにゃッ!!」


 トラの動きが麻酔によってほんの僅かに鈍ったその瞬間、隊長ベルベが空高く跳躍した。

 彼女は全身のバネと落下のエネルギーを乗せ、両腕の巨大なガントレットを、トラの眉間めがけて渾身の力で振り下ろした。


 ゴォォォォォンッ!!!


 強烈な物理的衝撃。


 頭蓋骨を揺らす一撃と、全身に回った致死量スレスレの神経麻酔。


 いかなる地上の王者といえど、これには耐えきれなかった。


「グゥ……ル……ゥ……」


 アムールトラは白目を剥き、その三百キロの巨体を横に倒して、ズドーンという地響きとともにアスファルトの上に崩れ落ちた。


「ふぅ……手こずらせやがってにゃ。ティーゲル様への最高の手土産にゃ。すぐに拘束してゲートへ運ぶにゃ!」


 ベルベは肩で荒い息を吐きながら、ガントレットについた巨獣の血を払い落とした。


 周囲には、無残に食い散らかされた二十匹の一般キャレット兵の死体と臓物が、冷たい月明かりの下で放置されている。だが、クリムゾン・クローの精鋭たちは、その惨状に一瞥をくれることもなく、巨大なトラの四肢に拘束用の特殊ワイヤーを何重にも巻きつけ、転送ゲートへと引きずり始めていた。


 最下層の一本尻尾たちの夥しい血と犠牲の上に成り立った、狂気の捕獲劇。


 だが、これはまだ、これから始まるティーゲルの「野生との交配」という壮絶なる儀式の、ほんの序章に過ぎなかったのである。

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