閑話 推しの地雷
※第4話冒頭で省略した攻略パートの小話です
ダンジョン三階、元お布施グッズ置き場のセーブジュエル発見後。
無機質なコンクリート壁に囲まれた小部屋で、僕と♰じぇぃそん♰ちゃんはぶっ壊されたアイドルのマネキンと祭壇の残骸にそれぞれ腰を下ろしていた。
横には、びりびりに破かれた写真が残る扉。
その向こうからは、徘徊するエネミーたちの不気味な呻き声が聞こえている。
「……あのさ、ミスティアちゃん」
セーブ成功してほっとしたのか、♰じぇぃそん♰ちゃんがふと、どこか遠い目をしてポツリと呟いた。
「私さ、こういう追い詰められ系の映画とか小説、苦手だなって思うことあるの」
その一言に、背筋が凍りつく。
えっ……!?苦手……!?♰じぇぃそん♰ちゃん、こういうの嫌いなの……!?
ゴスロリ衣装の奥、冷や汗がじっとり生温く背中を伝う。
僕が心血を注ぎ、彼女のために作り上げたこの『悪意の網』。
だけど、彼女のためと言いながら、その実は頼まれてもないお節介や説教欲をぶち込んだだけだ。
その下心が伝わってしまったのだろうか。
お、終わった……!
僕の作った世界、♰じぇぃそん♰ちゃんの嫌いな要素の宝庫だったのか……!?
嫌われた……!僕の愛の結晶が、♰じぇぃそん♰ちゃんの生理的アレルゲンだった……ッ!
脳内でガラガラと音が立てて世界が崩れ去る。
だけど、そんな僕の内心のパニックを知る由もなく、♰じぇぃそん♰ちゃんは静かに言葉を続けた。
「なんというかさ……『こいつバカでウザいから殺してスカッとさせま〜すw』みたいな、作者の悪意が見え透いてるやつあるじゃん?性格が悪くて死ぬならまだしも、ただ要領が悪かったり余裕がないだけのキャラを、視聴者のヘイト集めにして雑に処理する演出がホント無理で。一生懸命生きてる人をバカにして殺すの、胸クソ悪くない?」
「っ……、あ……」
喉が詰まる。
「あ、でもね!」
♰じぇぃそん♰ちゃんは立ち上がると、ニッとその笑顔で僕を照らした。
「この世界はそういうのとは全然違うから、私、凄く好きなんだよね」
「……え?」
「だってさ、映画とかの一本道と違って、このゲームは自分が工夫すれば助かるじゃん?攻略法を考えて、泥臭くあがいて壁を乗り越えるのはむしろ楽しいし。どれだけ理不尽な罠があっても、絶対に、生き残るための道を用意してくれてるから、ピンチでも結構楽しいよ。
ミスティアちゃんも居ることだしっ!」
「……ッ、」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
……彼女には、伝わっていた。
そう。このゲームは、プレイヤーにとってはそうなのだ。助かる道を自分で見つけられる。活路を切り拓ける。でもーーーー。
深呼吸を一つ挟み、僕は絞り出すような、なるべく静かで可憐な声で返した。
「……そうです、ね。……あなたのその美学に、救われる人が……間違いなくいると思いますよ」
「えへへ、そっかな?なんかミスティアちゃんにそう言われると照れるな〜」
♰じぇぃそん♰ちゃんは嬉しそうに笑うと、パンッと自分の両膝を叩いて立ち上がる。
「よし!休憩終わり!安全地帯を出て、次のステージも絶対に生き残って攻略してやろうね、ミスティアちゃん!」
「……はい!どこまでもお供します……!
あっ、アイドルの人形!これ、攻略に使えるかもしれません……!」
「えっ!マジで!?ありがと~ミスティアちゃん!!」
僕がエネミーとして設定した彼ら、彼女らにも、理由があって。一所懸命生きて、愛した結果、不器用な表現として、あんな愚かな言動をとってしまっただけで……。
そんな人たちをエネミーとして設定し、♰じぇぃそん♰ちゃんを模した主人公に倒させているということを、♰じぇぃそん♰ちゃんが知ったら、どう思うだろう。
軽蔑されるか。悲しそうな目で見られるか。
想像すると、喉が苦しくなる。
……いいや、でも、いい。
僕は性格が悪くていいんだ。
♰じぇぃそん♰ちゃんは性格が良いけど危なっかしい。
だから、僕がそれを補って、陰で支えようとすることの何が悪い?
綺麗な推し。その陰となるためなら僕は、いくらでもこの手を汚せる気がした。




