第4話 推しと迎える夜明けは美しい
このゲームの目的は、この呪われた施設から無事に脱出することだ。
施設内の複数箇所に散らばっている、かつての詐欺アイドルのグッズを集め、正面ホールの祭壇にお供えする。
すると、建物に充満する怨念がそこに吸い取られ、固く閉ざされた玄関の扉が開くという仕組みになっている。
ちなみに、エネミー図鑑のコンプリートや、主人公の武力や器用さを限界突破させる育成は、僕が趣味で仕込んだやり込み要素だ。
やりきらなくてもクリア出来るけど、単調な物探ししている時その要素があると退屈しないかなと思って追加した。
その進捗を褒めると、✝じぇぃそん✝ちゃんは嬉しそうにはにかむので、入れていて良かったと思う。
まあ、終りのある冒険だけど。
僕が演じるミスティアというキャラクターには、こんな裏設定がある。
彼女はかつて、詐欺アイドルのお世話役だった。しかし、あまりの惨状に見かねて内情を告発した裏切り者でもある。
結果として大暴動に巻き込まれて命を落とした彼女の亡霊は、スタコラと皆を置いて逃げ出したアイドルに容姿が酷似した主人公が迷い込んできたのを見過ごせず、罪悪感と情から助けに来た……というストーリーだ。
ちなみに、主人公と似ているという設定上、アイドル側のビジュアルはプレイヤーの外見が反映される仕組みになっている。つまり、今回は男性アイドルということになる。
……さすがに、✝じぇぃそん✝ちゃんがネタで装備したモヒカンヘアーまでは反映されない仕様だ。
そうしてたらそれはそれで面白かったかもしれないけど。
「あ、ミスティアちゃん!ここにうちわ落ちてた!」
「おめでとうございます、✝じぇぃそん✝くん。正面ホールの祭壇に捧げましょう」
うちわ、ペンライト、タオル、缶バッジの群れ、アクスタ、額縁に入れた写真、銀テープ、衣装の一部、ウィッグ……。
一つ、また一つとグッズが揃っていく。
それはつまり、彼女と共に過ごすこの奇妙で愛おしい冒険が、終わりに近づいていることを意味していた。
そして……最後のアイテムを正面ホールの祭壇に捧げた、その時。
ゴゴゴ……と館全体が揺れ、廊下や部屋、扉や窓の隙間という隙間から、黒い靄のような怨念が猛烈な勢いで祭壇へと吸い寄せられていく。
重々しかった館の空気が一気に澄み渡り、固く閉ざされていた正面ホールの大扉から、眩しい光が差し込み始めた。
クリアだ。
光の眩しさに目を細める僕の隣で、✝じぇぃそん✝ちゃんが、ゆっくりとこちらを振り向く。
「……私ね、ミスティアちゃんと出会えて本当に良かった」
まっすぐで、どこまでも温かい声。
ゲーム内のミスティアとしての仮面が、一瞬割れそうになる。
「……わたしも、です」
「よしっ、脱出だね!
一緒に行こう、ミスティアちゃん!」
そう言って、じぇぃそんちゃんはゴツくて大きな手を差し出してきた。
僕はその手を握り返すことなく、静かに首を横に振る。
「ごめんなさい、わたしはここまでなんです」
「えっ……!?そ、そんなあぁぁぁ!!!ミスティアちゃん連れて帰りたいのに!!」
「わたしは、かつてアイドルだったあの人を裏切って内部告発し、その結果、こんな惨状を招いてしまいました。
だから……責任は取らないと。
また、あなたみたいな人が迷い込んでくるかもしれませんし」
目と口を大きく開けて、まるで子供のように本気で嫌がるじぇぃそんちゃん。
「やだぁ!ミスティアちゃんは私のお助けしてほしい!連れて帰りたい!」
駄々をこねる姿が、おかしくて、切なくて、たまらなく愛おしい。
「……わがままは、駄目ですよ」
そう告げると同時に、視界全体が白銀の光に包まれていく。
施設も、祭壇も、悲しそうに眉尻を下げるじぇぃそんちゃんの姿も、すべてが光の中へと溶けて消えていく。
◇
「……ん……」
重い瞼を開けると、見慣れた天井が目に飛び込んできた。
目覚ましより少し早く起きてしまったようだ。
スマホをとろうとした時、自分の手が目に入る。
フリルのついた袖も、白くて華奢な指もない。
いつもの、僕のゴツゴツとした手だ。
「……夢、か……」
自分の部屋で、ぽつりと呟いた。
夢にしてはあまりにも生々しい感触と、耳に残る、イケボASMRの余韻がそこにあった。
その日の夜、いつものように✝じぇぃそん✝ちゃんの配信を観ていて、びっくりした。
どうやら奇妙な偶然というのはあるもので、✝じぇぃそん✝ちゃんもゲームの中に入る夢を見ていたらしい。
もう一度ゲームの続きをプレイしたら、夢の中と重なってる所が多くてびっくりしたらしい。
そして、数日後。
画面の中には、無事にゲームをクリアして「ミスティアちゃ〜〜ん!!(泣)」と叫びながら配信を締めくくる✝じぇぃそん✝ちゃんの姿が映っていた。
僕は、嬉しくて、でも少し寂しくて。
「✝じぇぃそん✝くん、お疲れ様でした」
そんな言葉を、呟いていた。




