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相棒

「お前こんなところで何してんだよ⁉ えぇおい! こんなところで奇遇だな!」


 サンダースの返事も待たず熱く抱きしめる。背中を叩いて喜びを爆発させた。


「お、おお……偶然ですね! な、なんか半日前よりボロボロですが大丈夫です? 頭に包帯も巻いてますし」

「平気平気! ちょっと車に突っ込んだだけで処置が大げさなんだよ」

「はぁ~やっぱりすごいなぁ、探偵ってタフなんですね!」


 サンダースの反応が心地良い。クロフォードは生意気で、ライツは興味を示してくれるが全てに面白半分という態度だ。こうして真っすぐ慕ってくれる青年といると、自分まで素直な気持ちになれる気がする。

 グレイにとってサンダースは、既に気が合う友人に分類されつつあった。


「お前さんは? パットビルじゃあバスに乗るって言ってたろ」

「考えることは皆同じなようでバス待ちの列は大混雑でした。それにグレイさんと別れた直後に駐車場で起きた発砲騒ぎのせいで乗り遅れてしまって」

(それはごめん)

「ですが、途方に暮れていたところを彼らに助けてもらったんです!」


 サンダースは先を歩く黄色のジャンパーの集団を指差す。


「ポルカの演奏隊です。ちょうどニューリードのコンサートに向かうようで乗せてもらえることになったんですよ。ここへは休憩に寄ったんです」


 こちらに気が付いたバンドマンたちが「よぉ!」と軽快に挨拶してくれた。


「暖かく気の良い人達でして、どうしてもニューリードの祖父に会わなければ、と話したら乗せてくれたんです。ただの移動としか思っていなかったニューリードへの道が僕にとって素晴らしい経験になりました。こんな素晴らしい出会いがあるだなんて……言い方は変でしょうけど、僕は列車の事件に巻き込まれて良かったとさえ思っているんです!」

「お、おう、そっか。そっちはもう旅のクライマックスって感じだな」


 熱っぽく語るサンダースの勢いに圧されるグレイだったが、そこで首を振った。


「実はこっちは未だに大ピンチでよ、ちょっと助けてくれねぇか?」

「はい、僕にできることであれば!」

「金貸してほしいんだわ、今、いくら持ってる?」

「あ、あぁ、そういう……えっと」


 ぬるりとサンダースの肩に腕を回した。

 自分を慕ってくれる学生に金を無心するのは酷く情けない気持ちになりかけたが、背に腹は代えられない。


「絶対返すから! 一時的に借りるだけ! いつもホミアの事務所にいるし、何ならお前さんが働く新聞社に届けたっていい。とにかく今はまとまった金が必要なんだよ!」


 事務所が焼失したらしいことはあえて言わなかった。


「うーん……そうですねぇ」


 困ったような笑みを浮かべるサンダースだったが、すぐに思い直したのか、大きく頷いた。


「食堂車では助けられた恩があります。僕でよければ協力させてください」


 まさかの二つ返事で快諾。


「いいいよっしゃああ! ありがとう、マジでありがとうメルヴィン! この恩は決して忘れない! 色を付けて返すと約束しよう!」

「でもあまり期待しないでください。今手持ちが少なくて……えっと、一〇〇〇ライカしかないですね」

 サンダースが開いた長財布には十分な枚数の紙幣が詰まっていた。

「ミニコンポが買える大金だぞ! 二等客室にいたのもそうだけどボンボンだったんだな」


 グレイはサンダースの財布に入っていた全ての紙幣を抜き取った。「え、全部?」とサンダースが驚愕の顔をしたが、彼がリッチだと知った瞬間からグレイの僅かな罪悪感は完全に吹き飛んでいた。


「ありがとうメルヴィン! それじゃあ、またホミアで会おう!」

「も、もう終わりですか⁉」

「すまんな、色々やらなきゃならんことがあるんだ!」


 踵を返し、ドーナツ店に走り出したグレイは、上ずった声のサンダースに手を振った。


(役に立つ男だなぁ、素直だし探偵業の相棒として欲しいくらいだ。給料は出せないけど)


 列車事件に巻き込まれたことよりもグレイと知り合ってしまったことの方が、サンダースにとっては不運だったのかもしれない。


 ×××


 金を手にすぐにでも出発したかったが、その前に作戦会議である。

 ドーナツショップの二人がいる席に戻ったグレイは昨晩のこと話題に取り上げた。

 追手のボスらしき人物と会話したこと、彼らの目的は身代金目的の誘拐であることを告げた。

スパークと助手席にいた男が死亡した件については触れなかった。クロフォードはともかく、ライツはただの女子高生。血なまぐさい話は聞かせたくなかった。


「——それでその、ジョンはまだダリアさんを狙うのでしょうか。ここまで失敗したら諦めそうなものですけど」

「諦める雰囲気じゃなかったな、ニューリードで待ち構えてるか、それとも」

「つけられている心配はないかと。それだけは用心してここまで運転しましたから」

「そうか、じゃあ安心だな」

「そ、そうですか」


 何故かニマニマするクロフォードに構わず、グレイは続ける。


「ジョンは俺のことを調べ上げてやがった。どこから情報が漏れたのか、それも気になる」

「誰かがジョンに情報を漏らしているってこと~?」


 グレイが首肯する。


「えぇっと~、列車で襲われたってことは、内通者は事前にあたしたちが特急列車に乗るって知ってたってことだよね? このニューリード旅行について知ってるのは誰がいるの?」


 クロフォードがハッとした顔をする。


「フェリー警部補……」

「いやそれは——」

「ないって言い切れるの?」

「——言い切ることは、できない。だが一〇分署からつけられていたって可能性もある。それに俺がダリアを連れて行く計画にアイツは手を貸した。そんなことをする必要があるか? 初めからジョンに引き渡せば済むはずだろ?」

「まぁそれはそうだね。あたしを襲う気なら張り込んでても不思議じゃないし」


 フェリーはグレイにとってホミア一の協力者と言っていい存在。

 それにグレイが探偵になる前からの付き合いでもあり、共に命を懸けて戦場を駆け抜けた間柄である。

 喉がぎゅっと詰まるような感覚をコーヒーを流し込んで誤魔化した。

「他に一〇分署で知ってそうな奴はいないか? ジェイクと仲がいいとか信頼する同僚とか」


 いるわけがないのを承知の上で聞いた。

 すると、クロフォードはわんぱくに頬張ったドーナツを慌てて飲み込んで、


「パトリック・ホール! そういえば彼の名前が出ましたよね⁉」

「ホール……あぁ、あのチンピラが怯えてたパットビルの警官か、それが?」

「何言ってるんです? ホールは一〇分署の地域課長ですよ」

「何だって」

「私の上司です」

「ちょっと待て、お前の上司ってことは、金玉蹴り潰されて病院送りになったっていう⁉」

「コリン、そんなことしたの? ひゅう~パンクだね」

「そ、その情報は必要ありません! それに潰れたかどうかは定かではありません、検査の為に病院に行っただけです!」


 おかしい。それはとてもおかしい。

 パットビルの不良がホミア市警察(HPD)の地域課長を恐れる? 異なる州の警官を?

 いや違う。ホミアからパットビルまで四〇〇キロ、朝に出発すれば車で移動できる距離だ。


「まさか……あのチンピラたちはホミアから来たのか?」

「ホールを怖がるということは、そういうことだと思います。地域課は非行少年を相手にすることも多いですから」


 ハンマー、喪服の女、そして雇われた不良達。全てホミアから来ている。奴らの協力者と考えられるパトリック・ホールもホミアの警官だった。

 グレイはスパーク達から奪った財布から身分証明書を取り出す。

 思った通りソラタ州発行のもので、住所はホミアとなっていた。


「敵さんはリゾート地からお越しらしい。怪しい匂いがプンプンだな」

「今さら戻るわけではないですよね?」

「ドラマや映画の探偵じゃあるまいし推理で追い詰めるなんて俺にはできないからな。捜査は警察に任せるさ……ジェイクに連絡する」

「ちょっと待ってください! それは危険では」

「居場所は言わない……が、それ以前に、あいつが裏切るとは思えねぇんだよ」

「わ、私だって疑いたくはないです。でも、同僚が麻薬ギャングから賄賂を受け取っていて逮捕されたことがあります。絶対に大丈夫ってことはないんです!」


 席を立とうとするグレイの腕をクロフォードが掴んだ。

 彼女が言っていることはきっと正しい。

 現状、フェリーへの疑いは半分といったところ。内通者の可能性がある以上連絡を絶つべきだ。だが、


「もしジェイクがあっち側でも得られる情報はある」


 一方で、グレイ達に打つ手が無いのもまた事実。襲われるのを待つだけではどうしても後手に回る羽目になる。状況を打破するには新しい情報が必要なのだ。

 リスクを承知の上、飛び込む価値はある。


「でしたら、二人の会話を私にも聞かせてください。それが条件です。危険だと思ったらフックを下げて通話を切ります」

「コリン」

「私はあなた達の護衛ですよ。安全にニューリードまでお連れするには私にも情報を共有してもらわないと。それとも私が相棒では心許ないですか?」


 早口で捲し立てられ、グレイは唇を噛んだ。


「ズルい女だな」

「優秀なので」

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