第11話 ステージの支配者、あるいは孤高の歌姫3
(才川陽葵の視点)
「それにね、桜ちゃんもすっごく凄かったの!」
わたしが身を乗り出して力いっぱいそう言うと、茜お姉さんは目を丸くして、それからパッと明るい笑顔になった。
「おっ! ひまりちゃん、細川さんのことも知ってるの?」
「ほそかわさん?」
わたしが首をかしげると、未衣菜お姉さんが優しく教えてくれた。
「『桜ちゃん』の名字だよ。細川、桜ちゃん」
「うん! わたし、桜ちゃんのこと知ってる! 前にお家にきてたんだ!」
「へえー、意外だなあ。細川さんにこんな可愛いお友達がいたなんて」
茜お姉さんはケラケラと笑って、持っていたペットボトルを軽く振った。
「でも本当、今日の細川さんはマジでヤバかったよね! クラスじゃいつも大人しくて静かだからさ、あんな声が出るなんて全然想像してなかったよ」
「そうだねぇ。あの小柄な体のどこに、あんなパワーが隠れてるんだろうね。声を聞いた瞬間、鳥肌が立っちゃった」
未衣菜お姉さんも、思い出すように自分の腕をさすっている。
「だよね! 真ん中でマイク握ってさ、完全にステージの『歌姫』って感じだったじゃん!」
――うたひめ。
茜お姉さんの口から飛び出したその言葉を聞いた瞬間。
わたしの頭の中に、まるで花火大会の時みたいな、ものすごく大きな雷がドカーンと落ちた。
「うた……ひめ……?」
「うん。奏の隣の、一番真ん中で歌ってた桜ちゃん。すごかったでしょ?」
わたしはギュッと目を閉じて、さっきまでの眩しいステージの景色を思い出した。
キラキラしたお姉ちゃん(奏)の隣にいた、少し背の低い小さな子。
最初は俯いていたけれど、音楽が始まった途端に顔を上げて、魔法みたいに綺麗で力強い声を、ライブハウスの隅っこまで響かせていた。
大勢の大人たちが、その人の歌声に合わせて手を振り、熱狂していた。誰もがその人から目を離せなくなっていた。一番明るい光の真ん中にいる、皆を感動させるカッコいい人。
それが……うたひめ!?
頭の中で、ぐるぐるとものすごい勢いで思考が回り始める。
六月に公園で会った時、桜ちゃんは大きな木の後ろに隠れて、コソコソと手帳に何かを書いていた。だから、わたしや樹莉愛ちゃんたちは「不審者」か「秘密の事件を追う名探偵さん」だと思った。
夏祭りの時、桜ちゃんは物陰に隠れながら、お姉ちゃんたちをギラギラした目で追いかけていた。だから、佳歩ちゃんは「恐ろしいストーカー」か「悪の組織と戦うシャドウ・ガード(暗殺者)」だって推理した。
わたしたちはずっと、桜ちゃんは『暗い影の中に隠れて生きている、正体不明のヤバい奴』だと思い込んでいたのだ。
でも、違う。
全然違ったんだ!
あの時なんで隠れていたのかは分からないけれど、桜ちゃんの本当の姿は、影に生きる人なんかじゃなかった。
暗いライブハウスの中で、誰よりも眩しい光のど真ん中に立って、たくさんの人を笑顔にする、最強の『歌姫』だったんだ!
「ひーまりちゃん? どうしたの、ポカンとしちゃって」
茜お姉さんが、わたしの顔を覗き込んで手をヒラヒラと振った。
「あ、あかねお姉ちゃん! みーなお姉ちゃん!」
わたしは、たまらず二人の手をガシッと掴んだ。
「桜ちゃんは……歌姫だったの!?」
「えっ? あ、うん。歌姫。すっごいカッコいいボーカリストだったよ」
「探偵さんじゃなくて!? 悪い組織と戦う暗殺者でもなくて!?」
「……は? 探偵? 暗殺者? え、なんの話?」
茜お姉ちゃんと未衣菜お姉さんが、顔を見合わせてポカンとしている。
でも、わたしの胸のドキドキはもう誰にも止められなかった。
謎は、すべて解けた!
わたしはアニメに出てくる名探偵になった気がした。
謎を解いて、「答え」を見つけることができた。
わたしたちがブルブル震えながら想像していた怖い事件なんて、最初からどこにもなかった。桜ちゃんは、悪い人でも怖い人でもない。大好きな奏お姉ちゃんと同じくらい、お歌でみんなを幸せにする、とびっきり素敵な人だったんだ!
ステージの上のキラキラした「歌姫」の姿と、わたしたちを見守ってくれていた「桜ちゃん」の姿が、わたしの中でピタリと重なる。
すごい。
桜ちゃん、かっこいい!
心臓が破裂しそうなくらい嬉しくて、わたしは今すぐこの大発見を、樹莉愛ちゃんと佳歩ちゃんに教えてあげたくてたまらなくなった。




