第12話 ステージの支配者、あるいは孤高の歌姫4
(才川陽葵の視点)
「あーあ、あっという間に終わっちゃったねー。……ねえ未衣菜、この後、奏たち絶対打ち上げ行くよね? 私たちもこっそり乱入しちゃおっか!」
茜お姉さんが、イタズラを思いついた子供みたいにニヤニヤしながら提案した。
「やめときなよー。今日は出演者さんたちの集まりかもしれないし、細川さんも歌い終わって疲れちゃってるよ。お邪魔したら悪いって」
未衣菜お姉さんが、苦笑いしながら茜お姉さんの腰に巻いたシャツを引っ張る。
「えー、ケチー。まあいっか、奏たちには新学期に、学校でたっぷり感想言ってやるし!」
茜お姉さんはカラッと笑うと、わたしの方に向き直って、大きく手を振ってくれた。
「じゃあね、ひまりちゃん! また奏の家に遊びに行くから、その時は一緒に遊ぼうね!」
「バイバイ、ひまりちゃん。気をつけて帰るんだよ」
「うんっ! あかねお姉ちゃん、みーなお姉ちゃん、バイバイ!」
わたしも、ちぎれるくらい大きく手を振り返した。
二人の高校生のお姉さんたちは、仲良く肩を並べてお店の出口へと歩いていった。
その後、わたしとママも、スタッフさんたちに「ありがとうございました」とご挨拶をして、一足先にライブハウスを出た。
外に出ると、すっかり夜になっていた。
少しだけ涼しくなった夏の終わりの夜風が、ほてった頬に気持ちいい。ライブハウスの中はあんなに大きな音と光でいっぱいだったのに、外の世界はいつも通り静かで、なんだか不思議な気分だった。
ママとしっかり手を繋いで歩きながら、わたしの頭の中は、さっき見つけたばかりの『大発見』のことでパンパンに膨らんでいた。
* * *
「ただいまーっ!」
お家の玄関を開けるなり、わたしは靴を脱ぎ捨ててリビングへと駆け込んだ。
「あっ、おかえりひまり。お母さんもお疲れ様。奏のライブ、どうだった?」
リビングのソファでは、お家でお留守番をしていたもう一人のお姉ちゃん、亜麻音お姉ちゃんが、テレビを見ながらのんびりと麦茶を飲んでいた。
わたしは、息を切らしながら亜麻音お姉ちゃんの目の前にピシッと立った。
「あまねお姉ちゃん、聞いて!! すっごかったの! 奏お姉ちゃんもすっごかったけど、桜ちゃんが、すっごくすっごかったの!!」
「えっ、桜ちゃん? 前に家に来てた奏のバンドの子でしょ? ――たしかボーカルって言ってたっけ。……ひまり、なんだかものすごいテンションだね。そんなに凄かったの?」
目を丸くする亜麻音お姉ちゃんに向かって、わたしは両手を大きく広げて、今日一番の大きな声で発表した。
「桜ちゃんね、探偵さんじゃなかったの! 悪いストーカーでも、暗殺者でもなかったの!」
「……? 探偵? 暗殺者? ひまり、アニメの話?」
「ちがうよ! 桜ちゃんはね、誰よりも声が大きくて、キラキラしてて、お歌がすっごく上手な……『歌姫』だったんだよ!!」
わたしが力いっぱい宣言すると、亜麻音お姉ちゃんはポカンとした後、「ふふっ」と優しく笑ってわたしの頭を撫でてくれた。
「そっかそっか。ひまりの中で、桜ちゃんは歌姫になったんだね。よかったね」
「うんっ!!」
亜麻音お姉ちゃんは、わたしと樹莉愛ちゃんや佳歩ちゃんが、ずっと桜ちゃんのことをヤバい人だと勘違いして震えていたことなんて知らない。でも、もうそんなことはどうでもよかった。
あの公園で木の陰にいたことも、お祭りで女の人たちを守っていたのも、全部、ステージの上で最高に輝くための『準備』だったんだ。
――そうに違いない。
(幼稚園に行ったら、絶対に二人に教えてあげなきゃ!)
秘密の任務なんかじゃない。
桜ちゃんは、正義の味方よりもずっとずっとカッコいい、最強の『歌姫』だったんだよって。
外ではセミに代わって、夏の終わりの虫たちがリンリンと鳴いている。
不審者疑惑から始まった、わたしたちの長くてドキドキする夏休みの謎解きは、こうして一番最高のハッピーエンドで幕を閉じた。
わたしの胸の中には、ステージの真ん中で歌う桜ちゃんのキラキラした姿が、まるで宝物みたいに、いつまでもいつまでも輝き続けていた。




