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ガールズバンド【KANADE-ZAKURA】 ~最強バンドのメンバーに、何故か紛れ込んでいる私~  作者: 猫野 にくきゅう
おまけエピソード 幼女探偵団

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第1話 公園の不審者、あるいは名探偵1

 (細川桜の視点)


 六月。

 梅雨の晴れ間。


 アスファルトから立ち上る強烈な湿気と、雲の隙間から差し込む初夏特有の刺すような日差しが交差する、ひどく蒸し暑い午後だった。


 私は今、手の中に一冊の安っぽいメモ帳と黒のボールペンだけを握りしめ、あてもなく住宅街を歩いている。熱を帯びた空気が、肺に重くのしかかってくる。


 理由は単純だ。

 ――作詞に行き詰まったからである。


 クラスメイトや幼馴染と結成したバンド『KANADE-ZAKURA』の楽曲制作において、作詞作業は私と才川さんの担当だ。


 すでに一曲分の作詞は完成しているが、もう一曲分の歌詞を考えなければならなかった。「一つできたのだから、もう一つも何とかなるだろう」と軽く考えていたが、そうは問屋が卸さなかった。


 私には文才がない。

 それが、はっきりとわかった。


 ただ、無口な分だけ、頭の中でこねくり回している言葉の残骸が人より少し多いかもしれない。だが、いざ「歌」としての言葉としてひねり出そうとすればするほど、それらは指の隙間からサラサラとこぼれ落ちていってしまう。


 自分の部屋の机に向かって、およそ三時間。


 真っ白なノートに書き付けられたのは、「曇り空」「孤独」「うるさい」「消えたい」という、思春期特有の痛々しいポエムのような単語の羅列だけだった。


(このままでは駄目だ……)


 酸欠になった金魚のように口をぱくぱくさせている自分自身に心底嫌気がさし、私は「外の空気を吸って気分転換をする」という、私にしては珍しくまともで人間らしい解決策に頼ることにしたのだった。


 * * *


 額に滲む汗を手の甲で拭いながら、十五分ほど歩いただろうか。

 静かな住宅街の視界の先に、小さな児童公園が見えてきた。


 色褪せたブランコ。ペンキの剥げた滑り台。

 丸い砂場。いくつかの木製のベンチ。

 そして、公園を囲むように立つ大きなケヤキの木々。


 ちょうどいい。

 あのベンチに座って、少しだけ頭の中を整理しよう。あわよくば、無邪気に遊ぶ子供の姿などから、青春らしい爽やかなインスピレーションが得られるかもしれない。


 そう思って、公園の敷地に足を踏み入れた。


 ――その時だった。

 私の視覚器官が、前方の砂場付近で元気に動き回る「小さな影」を捉えた。


 短い髪を、高い位置でツインテールに結んでいる。エネルギーの塊のような幼稚園児。純真と元気をギュッと圧縮したような、純度百パーセントの理想的な子供――「太陽」のような、圧倒的な光の存在。


 才川さんの妹さんだ。

 たしか、陽葵ひまりちゃん。


 なぜこんな所に。


 いや、近所なのだから休日に友達と公園で遊んでいても何ら不思議はない。

 当たり前の日常の風景だ。


 問題はそこではない。


 問題なのは、極度の人見知りであり、コミュ障の極みであるこの私が、たたまたま出くわしてしまった友人の妹に対して、どのように接するべきかという絶対的な「正解マニュアル」を、一切持ち合わせていないことだった。


 挨拶をするべきか?


「こんにちは。久しぶりだね! 私の事、覚えてるかな? お姉さんのお友達の、細川桜だよ!」と、爽やかに微笑みかける?


 無理だ。

 絶対に、不可能だ。


 私のような無愛想で、表情筋が死滅しており、目つきの悪い(と自分でも自覚している)高校生が急に背後から話しかけたら、最悪の場合、怯えて泣かれるかもしれない。不審者として大声を上げられるかもしれない。


(周りにいる人たちに通報されてしまう……!)


 そもそも、以前に少しだけ会った私のことなど、六歳児の小さな脳裏に記憶されている保証がどこにあるというのだ。もし、「だれ、このおねえちゃん?」と純粋無垢な瞳で首を傾げられでもしたら。


 私はその場で致命傷を負い、精神を完全に崩壊させて、砂場の砂の一部となって風に吹かれて消え去る自信がある。


 回避。

 ――それしか道はない。


 私は瞬時に生存本能を全開に働かせた。音もなくステップを踏み、後ずさりする。そして、公園の入り口近くにある、最も幹の太いケヤキの木の後ろへと滑り込み、ピタリと身を隠した。


 背中に伝わる、ざらついた樹皮の感触。耳の奥で、自分の心臓が早鐘を打っているのが聞こえる。


 ふぅ、と小さく息を吐き出す。


 見つかっていない。

 ――よし。


 私は木の陰から片目だけをそっと出し、陽葵ちゃんたちが砂場で遊んでいるのを遠巻きに確認しながら、手元のメモ帳を開いた。


 せっかく勇気を出して外に出たのだ。

 ここで何も書かずに帰るわけにはいかない。


 私は息を殺し、自身の気配を完全に周囲の木々や空気と同化させる「無」の境地に達したまま、壁(木)に向かってボールペンを走らせ始めた。

 木陰から見つめる、無邪気な子供たち。その光景から、何か新しい歌詞のインスピレーションが湧くかもしれない。


『光の中で笑う君たち』

『私は暗闇に潜む、声なき影』

『届かない光、見つめるだけの瞳』


 ……なんだか、ひどく犯罪チックでストーカーめいたフレーズしか浮かんでこないが仕方がない。これを土台にして考えていこう。


 私はケヤキの木にセミのようにへばりつき、怪しげな前傾姿勢のまま、こそこそと一心不乱に文字を書き連ねていった。


 自分のこの行動が、客観的に見てどれほど「ヤバい不審者」であるかなど、この時の私には知る由もなかったのだ。

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