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ドラゴンに乗った魔法使い

「動物の気配は無し。」

「魔物探知の魔法も機能してるよ。」

「……信用出来るんだよな?」

「うん。私の話を聞いてくれれば納得もできるはず。」

「よし、じゃぁ聞かせてもらおうか。」


――――――――――――――――――――――――――――――


森林地帯に足を踏み入れた二人。

元々危険な場所でもなく一般人が普通に入ることもあるほど、野生動物や低級な魔物に気をつければ安全に進める事が分かっている場所だ。


それでも警戒は欠かさない。

プロ意識……と言うよりは先程の出来事とこれからの事がその必要性を求めていると見るべきだろう。


「結論から言うと……私は生まれつき『攻撃用』の魔法が苦手……と言うよりはほぼ無力になってしまう体質らしいの。」

「聞いた事ねえな……魔法が苦手ってだけなら幾らでも居るが。」

「うん……ギアランドは魔法の本場。当然体質や魔法の障害になる物の研究も進んでる。でもそのギアランドでも見た事のない症例って言われちゃった。」

「レアものなんだな……悪い意味みたいだが。」


生まれつきの、他に類を見ない体質。

それが魔法で攻撃した際の威力の無さの答えだった。


「『攻撃用』って事は攻撃以外は?」

「それが……普通に使えるの。強くもなく弱くもなく、普通に魔法を使える人の平均程度だってさ。」

「なるほどね、街で見せたのはあくまで相手への『補助』私のジャンプも『補助』で効果を与えた……確かに『攻撃』そのものでは無かったんだな。」

「私だって頑張ったんだよ!でも、苦手なものを無理に使うより得意な事を伸ばす方が良いって先生に言われて、確かに。ってなったから『攻撃』以外で戦う方法を考え続けてきたんだ。」

「それは『攻撃』にはあたらないのか?戦えてはいるようだが。」

「正直……よく分かんないんだよね。『攻撃魔法』が弱くなるって言うのも、色々やってみた結果その辺が弱くなってそうかな?って言うのの積み重ねで判断しただけだから……」

「なるほどね……」


ソルチアはとても前向きな奴だ。

シンディはこれまでの話からそう思っていた。

しかし今改めて考えると、ハンデを背負っているが故に前向きにならざるを得ない。そんな事情があるのかもと言う見え方も浮かんだ。


「なるほどね……見てきた訳じゃないけど頑張りも伝わるし、努力の成果も伺えるよ。でもな……」


そう、もし苦しい事情を抱えていたとしても看過できない事はある。


「なんで言ってくれなかった?おかげで雑魚相手にギリギリの戦いをする事になっちまった。」

「それは……その…………言い出すタイミングが無かったというか……あ、アハハ…私、こんな体質なんにも気にする事無いやって思いながら生きて来たつもりだったけど、結構気にしてたのかも……」


前向きな人間だからと言って後ろ暗い所が無いわけではない。

自分自身でもそれは分かっていたつもりだったが、緊急事態の中でそれを突きつけられた時、自分の弱さを突きつけられ表出した事にソルチア自身が驚き、自覚させられた。


「……お前の体質の事はお前の問題だ、私から口を出すような事じゃ無いと思う。でも、私の方も早く冒険に出たい一心でお互いの能力を確かめようともしてなかったからな……お前だけの責任じゃ無いさ。」

「ありがと……本当、優しい人と組めて良かったな、私……」

「全くだ。そんな奴がよくスラム街入ってアウトローの仲間入りしようだなんて考えを持てたもんだ。」

「いや、そんな事をしようとしてた訳じゃ……いや、あんま違わないか……?」


シンディはとても良い人だ。

ソルチアは出会った時からそう思っていた。

しかし、その優しさはどうやら想像を超えていたようで、自分の非をまるごと受け止められてしまった。

それでいて、自分の後ろ暗い気持ちも薄くなっている事が感じ取れ、嬉しさと同時に自分の為だけでなく目の前の相手の為にも頑張ろうと言う気持ちにさせられた。


「とにかく、お前が事情を隠していた事で私たちはピンチになった。しかし、事情がわかった今なら同じピンチに陥る事は無い。それに、お前の戦いぶりを見て私が信頼出来ると思ったのも事実。パーティを組むと言った以上、私はお前を信頼する。お前はどうだ?」

「!!!……も、もちろん!信頼する!って言うか、黙っていた私が悪いのにそんな事……」

「他に隠し事が無いならそれで十分さ。さて、どうやら見えて来たぞ……」


二人の前方、顔を向けた先には石造りの建造物の跡地が見える。

石は朽ち、植物が生い茂り、長い長い期間誰の手にも触れられなかった事がよく分かる。

複数階建ての建造物もなくはなさそうだが、全体的にボロボロで崩れ去っており、天井の無い巨大迷路もどきのようになっている。


「さて……調査したいと言う事だったが、どう調査するつもりなんだ?」

「どうって……情報が何も無いんだよ?まずは手当たり次第だよ。」

「……まぁ、結局それが一番有効なのかもしれないけどさ……」


と言うわけで、特に策も何もなくまずは遺跡に足を踏み入れてみる二人。

だが警戒をしていない訳では無い。

駆け出しとは言えこれでも二人は冒険者なのだ。


「スカウトとして、物理的な罠や危険は私が見張る。」

「魔力探知は任せて!それと、探知用の魔法も張っとくからね!」


必然的に隊列が決まる。

シンディは前方、ソルチアは後方、五感で前方を探索しながら魔力で周囲を探知する形。


――――――――――――――――――――――――――――――


「しかしアレだな……朽ち果て過ぎててマジでなんもねぇな……」

「ねー。人が住んでたか使ってたなら魔力の反応も普通は残ってるのに全然反応して無しだよ。」


しばらく探索を進めたが、危険も成果も何一つ見つけられないままの時間にしかならなかった。


「探索しても見つからねえ、他所から探索したいの声も出ない、歴史的な価値くらいはありそうなもんだが、そっちは専門じゃねえしな。」

「まぁでもそう言う場所だから比較的安全に、組む人の能力の確認とこっちのアピール、あわよくば誰も見つけられない財宝の発見も出来るかなって事でここを選んだんだけどね。」

「まったく……攻撃魔力が無い割には随分力押しな考え方の持ち主だな……おっと、少し開けたとこに出るようだぞ。」


元は広間だったのか、あるいは吹き抜けの広場だったのか、

今まで天井こそ無いが周囲の壁に狭まれたやや狭めの通路を進んできた中と比較すると、かなり開けた場所に出た。


「なんつーか……金持ちの豪邸にある噴水付きの広場……だったかのような雰囲気があるな。」

「あーなんか分かる。広さ的にもそんな感じだし、この辺の石とか植物育ててそうだし、こっちは水入れるのに向いてそう。」

「どれも推測くらいしか出来ないくらいにボロボロだがな……仮にお宝があってもボロボロで価値無くなってるんじゃ無いか?」

「それはそれで私達の初めて冒険の成果って言う思い出にしようよ!価値なんて金額で計るものじゃ無いよ。」

「……随分とロマンチストだね。冒険者やるのにその価値観で良いのかね……?」

「お金はお金!それはそれで今後ガンガン稼いで行くよ!今回は元々運が良かったらの話だけで………………ん?」


ガツンッ!

妙な音と共にソルチアの足が止まる。


「どうした?転んだ……訳じゃ無さそうだが。」

「う、うん……今までずっと歩きながら、探索用に土魔法で地面の下を探ってたんだけど……なんか変なのにぶつかった?魔法阻害された訳でも無さそうなんだけど……?」


訝しげに地面を見つめるソルチア。


「避けて通るか?あるいはこの辺掘り起こしてみるか。」

「う〜ん……こう言う事起きた事ないんだよねぇ……なんと言うか突っかかってる感じ?だからもうちょっと押し出す感じで魔力込めてみようかなって。」

「魔法には詳しくねえからなぁ……まぁ任せるぜ。一応掘り起こせるように準備と、この辺地上も足場悪いから見ておくかな……」


手にした杖に土の魔力を込める。

グリグリと、例えるなら針や細い棒で筒の中を押し込むような感じで。

その時


ガコンッ!


「ん?」「お?」


グラグラグラグラ……


「外れ……いや待ってこれ足場……!」

「お、おい……地面が崩れてねえか……!?」


ガラガラガラガラガラガラ!!!


音を立てて地面が、石が、足場が崩れ落ちる。

場所は当然シンディとソルチアの立っている真下。

となると……


「「お、落ちる〜!!!???」」


瓦礫と共に二人の体が落下する。

地上を歩いていた時は全くそんな風には見えなかったし、足場も瓦礫のような石こそあれど、空洞が下にあるような不安定さは全く感じられなかった。

しかし、いま落下している穴はゆうに10メートル前後はありそうだ。


(ち、着地……!受け身を……いや、でも、瓦礫が下にあって!?上手い事クッションにならねえか!?)


想定外の出来事、必然のパニック。

しかし、重力は悩む時間など与えてはくれない。


「……!クッ…………!!」


ガシャァァァアアアアアン!!!!!


結果、二人は地面に叩き落とされてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「い、いててててて…………な、なんとか生きてるか……」

「クッソォ……随分落とされたな……遺跡が地下にも広がってたとは……」

「体は……普通に動くな。ダメージが小さい、ソルチアがなんかやってくれたか?」

「そうだ、ソルチア!無事か!?何処にいる!」


辺りを見渡す。

瓦礫の山。

地下ゆえに視界も悪く、障害物の多いため視覚によって得られる情報が少ない。


「い、生きてるよぉ〜……」

「ソルチア!瓦礫の下……じゃなくて影に隠れる形になってただけか……良かった。」

「いててて……流石にこんな高さから落ちた事は無いからなぁ〜お尻が痛いや……」

「……なぁお前、落下の時なんか魔法かけてくれただろ。ジャンプした時に近い感覚があったしお互いに落下ダメージも少ない。」

「あっバレた?うん、咄嗟に風魔法と重力魔法を少しね。ノーダメージとは行かなかったけど……」

「それでもこんなに軽傷で済んだのはそのおかげだ。ありがとうな。」

「えへへ……さっきは私のせいでやらかしたからこっそり助けたかったんだけどね……」

「過ぎた事なんか気にするなって。それより……」


周囲を、そして天井を見渡す。

地上に輪をかけて古びた地下に広がる建造物。


「こんな場所があるなんて情報、お前知ってたか?」

「まさか!知ってたら地面をもっと警戒してるよ。探索の報告書は図書館で読めたけど、地下の情報なんてなかったし。」

「となると……これ、ひょっとして凄い発見したんじゃ?」

「……やっぱそう思う?こんな場所さぁ、お宝も絶対ありそうじゃん!?」

「うおお!流石にテンション上がるなぁ!」


調査済みの何も無い遺跡を探索。

その筈が、奇跡の歴史的発見か!?

未知への冒険を求める仕事としてはこんなに気分が高揚する事は無い。


「とは言え、地上の荒れ果て具合、何にも無い具合をみる限りでは期待しない方が良さそうだけどな。」

「まっ、現実的に考えればね〜昔は凄かったけど朽ち果ててるから使い物にならないお宝なんてあるあるだし。」

「それと、地上に出る方法もな。何か見つけても帰れなきゃ意味は無い。まずはこの辺、どっかに通じてる道は無いか…………ん?」


辺りを見渡したシンディは視線の先に巨大な建造物を見つける。

いや、建造物というよりそれは巨大な扉。

壁だと思っていた場所には何処かへ通じる扉が存在していた。


「扉だ……それもかなりデカい……」

「私達二人分……より高いね、三人分くらい?」

「出口かお宝に通じてるかもしれん。調べてみよう。」

「まず開くかどうかが心配だけどね〜」


瓦礫の山を後にし、二人は扉へ向かう。


「金属……だな、周りは全体的に石造りなのにここは金属だ。」

「遺跡の石も古かったけどこの扉の金属もかなり古いよ、地下にあったからと言うのもあるだろうけど、この錆具合や腐食具合で済んでるのは奇跡的なくらい……」

「調べたが、物理的な罠の痕跡は無い。」

「魔力でも調べたけど何も無さそうだよ。」


こくり。と頷き、二人は目を合わせる。

そうなるともう、扉を開けてみるしか無いだろう。


「よっ……とぉっ……!」

「うぎぎぎぎ……!重いけど、開かないほどでは無いね……!」

「鍵も……かかってない……とはな……!」


ゴゴゴゴゴ…………

サイズゆえの重さはある。

が、それ以外に開けることを阻害する仕組みは存在していない。


「つっかえ棒的なのも……無いか……」

「本当に素通しだね……弓矢の一つでも飛んで来るかななんて警戒してたんだけど……」


結局、何も起きずに自分達が通れる程の隙間が空いてしまった。


「さっきの瓦礫を持ってきて挟むぞ。万が一閉まる方のトラップがあったら大変だ。」

「なるほど〜そうやって安全を確保するのか〜」


建造物として朽ちていたとは言え石は石。硬さは十分ある事は落ちた時に確認済みだ。

ガラガラと瓦礫を持って来て開けた隙間に挟む。

その作業で発生する音の反響から中の様子を探る意図もあったのだが、結局何も無いと言うのが答えのようだった。


「こりゃあ期待薄だな……」

「まっ、警戒なんてやるだけ損は無いからね。特にこんな探索の場合は。」

「宝は期待出来ないが、歴史的な発見でもありゃ儲けもんかな…………よっと!」


積んだ瓦礫を抜けて奥に進む。

流石に中までは光が届かないので暗かったが、ソルチアが杖を取り出して魔力を込めて光を灯らせる。


「光は攻撃判定じゃ無いから私に任せて!」

「じゃあ、目潰し攻撃なんかも期待出来るな。……それはそれとして」

「うん、アレは流石に気になるねぇ…………」


その場所はかなりの広さとなっており、小さい家一軒分なら入ってしまいそうなほどの空間が広がっていた。

その空間の中央には祭壇のような建造物があり、そのまた中央の頂点には一際目を引く巨大な水晶のような球体が鎮座している。


「引いたか?大当たり。」

「まだ分かんないよぉ?罠の方の大当たりかも。とは言え、調べない選択肢も無いけどね。」


警戒だけは崩さず、しかし好奇心も抑えられないまま祭壇を登る二人。

階段はあって登るのは容易な為、登る事を妨害する仕組みも存在しないようだった。

しかし、二人が足並みを揃えて進み、水晶の全貌を視界に入れるほど登り切った次の瞬間


カッ!!!


「なっ……!?」

「わぁっ……!?」


発光する水晶。

しかもその光はただでさえ強力な上に更に明るさを増していく。


「クッ……!目を開けらんねえ!」

「目をつぶってるのに、ま、眩しい!何!?この光!!」


ピカァァァァァ…………!!!


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」



――――――――――――――――――――――――――――――


「…………」

「……」

「お、おさまった……か……?」

「目を……開けられるくらいには……」


程なくして発光は止まった。

体感としてもそれほどの時間では無かった。

水晶は完全に光を失い、部屋の中は再び闇に包まれた。


「お互いに喋れるようだが……体はどうだ?動かないとことかあるか?」

「いや全然……ねぇシンディちゃん、私の顔とか手は大丈夫?どうにもなってない?」

「多分大丈夫だと思うが……光、もう一回つけてくれ。よく見えねえ。」

「あ、ごめん。さっきの光の時に消してたね……うん、魔力もそのままだし、シンディちゃんの体にも何も起きてないのが分かるよ。」

「お前もだ……て事はなんだ?ただめっちゃ光っただけか?」


正直、ここまで何も無かったが故の油断はあったのだろう。

もし水晶の発光が致命的なものだったら、ここで二人は終わっていたかもしれない。

しかし、今のところただ光っただけと言うなんとも拍子抜けした結果しか見えない。


「とりあえずこの水晶の周りくらいは調べておくか。」

「そうだね、説明書とか置いてないかなぁ。」


「「…………………………」」


「何も無い……ね……」

「あぁ……水晶もピクリとも反応しねえ。」

「でも一個だけ分かった事があるんだ。」


そう言うとソルチアは水晶の置いてある台座、そして部屋を覆う壁面を指さす。


「ここに書いてある模様、これは文字なんだよ。」

「ほう、なんでそんな事が?」

「遺跡探索をするにあたって、古代文字や文字そのものの成り立ちなんかを私は以前調べたんだ。んで、文字にはある程度の法則性があって、地域ごとの特色なんかもある。それを考えると、これらは間違いなくスタピア地域で使われていた文字なんだ。」

「なるほど……それで?なんて書いてあるかとか、いつの時代のものだとかは?」


「それが…………一切分からないの!」

「……じゃあ分かってねえんじゃねえか!!!」


「違う違う!私が『分からない』って事が一つの発見なの!」

「?……どう言う事だ。」

「いい?私は文字について調べて、スタピア地域の古代文字の形も本で読んだ限りでは全部知ってる……はず。その私が一切知らない文字しか書かれていない……」

「……!歴史的にまだ未発見の文字である可能性がある……?」

「そう!と言っても意外と専門家が見ればそんな事はなかったりするかもだけど……その可能性は捨てきれないよ!」

「そうか……ロマンはあるが……じゃあ金にはなんねえな。」

「う……そうなんだよねえ……まぁでもそもそも国が持ってるとこだしここ。」

(そう言う部分は守る気あんのかい……)


分かった事は、分からないと言う事実ただ一点。

未知というロマンこそ見つけられたものの、物理的なお宝には恵まれなかったと言うのが結論。


「あー、そうだ。あとは外で何か起きてるかも。」

「確かに。何かが起こるきっかけと言うなら中だけで起きるとは限らんか。」

「中の探索はどうする?もう見るとこ無い?」

「無いんじゃないか?この水晶もデカいから持っていくわけにもいかんし。」


めぼしいものも無く、部屋の他に別の場所へ続くような通路も無し。

二人はそのまま外へ出て帰る事にした。


「あー……」

「そうだった……」


外……と言っても部屋の外で、穴の外に出る手段は無い。


「土魔法の応用で……」

「一応崖登りに使える道具も携帯してはいるが……」

「「めんどくさいから一旦休んでからにしよう!」」


なにせ骨折り損のくたびれもうけの直後である。

結構な高さの穴を這い上がるにはそれなりに気力も体力もいる。

更に言うと二人とも行ける保証があるとは思っていない。

地下へ降りる道が見つかっていないのだから地上への道があるかどうかも期待薄だ。

賭けに出る前に心の準備をする時間はどうしても必要だった。


「散々気をつかって、油断して、その結果眩しい思いして終わりなんてなぁ。」

「ねー。ハプニングにしてももうちょいピンチ度の高いやつなら思い出にもなったのに。」

「……いや、この穴登りは割とピンチ度高いが……」

「う、まぁそうか……」


「お前さ、空飛ぶ魔法とか使えねえの?」

「無茶言わないでよ〜飛ぶって結構大魔術だよ?それこそ風魔法専門でやってきた賢者様なんかか行けるかどうか……10m近く飛ぶなんて無理無理!1mくらいが限界だよ私は!」

「飛べんのかよ!……自虐風自慢か?」

「空を飛ぶで思い出したんだけどさぁ、知ってる?昔は竜騎士なんてのが居たんだって話。」

「一般的な歴史知識としてならな。どこかは忘れたがそんな事やろうとしてた国があったとか。」


目の前にめんどくさいタスクがある時、

動けなくは無いが疲れてないわけでもない体力の時、

時間的に余裕がある時、

その上で雑談相手がいる時、

人は無駄にダラダラと雑談を続けてしまうものである。


「戦争に勝つ為に空を飛ぶドラゴンを飼育してみようって発想はまぁ分かるんだよ。でもさぁ、竜騎士ってのは人がドラゴンに乗って武器で戦うつもりで編成しようとした部隊なんだってさ。」

「あぁ、そもそも飼育にコストがかかるとか、下手に機嫌損ねたら人命に関わるリスクがデカいとかもあって結局現代までは残らなかったようだが。」

「って言うのもあるけどさ、ドラゴンに乗ってるんだよ?それなのに人が武器で攻撃って二度手間と言うか、戦闘行為として無駄が多くない?」

「確かにそうだな。剣とか槍持っても竜の爪より強いとは思えないし、逆に馬の蹄なんかと比べたら剣や槍の方が強そうだから意味はあるかな。」

「でもドラゴンをパートナーにするってのは強そうだし夢があるなぁと思うわけ。そこで!私はドラゴンに乗せるのは騎士では無く魔法使いを乗せる事を提唱します!」

「はぁ……誰に……?」


妙な流れになってきたな……

シンディは若干不安になってきた。


「んー……みんな?とか?でもでも、良くない?ドラゴンに乗った魔法使い。補助魔法でドラゴンを強化したり、魔法で空から遠距離攻撃したり。」

「いやまあ強そうかもしれないけど……お前乗りたいのか?ドラゴン。」

「乗りたい!私の数多くある夢の一つだよ……!」

「そりゃご大層な夢をお持ちなことで……」

「こう言う遺跡とかにさぁ〜そんな事を可能にする秘宝みたいなのが無いかなぁ〜なんて事は考えるわけ。」

「それはちょっと分かる。ドラゴンを自由に操れるなんて秘宝なんてのがあったら確かにすげえお宝だ。」

「ドラゴンを操れるとか、ドラゴンと話せるとか、あるいはドラゴンを生み出したり、なんなら『シンディちゃんをドラゴンに変えちゃう』秘宝とか!」

「はぁ!?なんで私……乗りたいからか!?お前まさかその為だけに冒険のパートナーを……」

「いやいや!流石にそんな!その為だけなんて事は!」

「はぁ〜あぁ〜〜私は対等な仲間になれると思ってたのになぁ〜まさかペット扱いする為の相手を探してただなんてなぁ〜」

「誤解!それは流石に誤解だから!」


ピキピキ……ググ……

他愛もないふざけた会話。

シンディもソルチアも勿論本気で口喧嘩をしようだなんて思ってはいない。


「私との食事や水を飲んだりなんかもアレか?餌やりや水やりみたいな気分で見てたのか?」


ミシミシ……


「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!違うってぇっ!」


ギギ……ギギギ……

おふざけを交わし合う二人。

その裏では、いや、既に表では異変が起きていた。


「まぁ良いけどな?組み合わせとしては強そうだし、名声も飼い主であるお前が一身に背負えるだろうし?」


ピキピキ……ピシ……


「私はぁ〜!あくまでシンディちゃんとは対等な……仲間と…………」

「?なんだよ、冗談みたいな会話でもそこで切られたら流石に変な感じになるぞ。」

「そ、そうじゃない!シンディちゃん!手!その手!何!?」

「は?手?」


バキバキ!ググッ……!


「手……!?なんだこれ!?私の手か!?」

「手だけじゃない!足……頭も……!!!」


異変、それはシンディの体に起こっていた出来事。

肉体の変容。

体が別のものへと変わって行く。


「これは…ウロコ?やたら硬いウロコが生えてる……指も、爪も伸びて……この鋭さと大きさ……まさか、ドラゴン?」

「い、痛くない!?シンディちゃん!大丈夫!?」

「あぁ……痛みは全くねぇ……何というか、凄え自然なんだ。今だってバキバキと骨が音を鳴らしているのが分かるだろうけど、骨折のような痛みどころかストレッチしてるような伸び感すら無いんだ。感覚が引き延ばされるような、肉体が空気に触れてる面積が変わってるとか、そんな感覚くらいしか無い。」

「それは……良かった……のかな?でも変化は止まる気配がない!羽も生えて……体もどんどん大きくなってる!」


バキ!ガキガキガキ……ググッ!

変容は止まらず、シンディの肉体はドラゴンの姿へと変わり続ける。


「私の靴や手袋はどこ行った……?さっきから服も破けてる感じがしねえ。変身に服も巻き込まれてるみてえだ……!」

「ありえない……そんな、変身魔法でそんな事は……出来るはずが……」

「ウッ……!グッ!そ、そろそろ、終わるって感じが……く、ぐぁあああぁぁあああ!!!」


「ガァァァアアァアアァア!!ォォォオオオォオォオオンンン!!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――


ようやく、変容が終わる。

咆哮を上げた後には痛いほどの静寂と混乱。

そこには少女一人と、羽を生やしたドラゴンが一匹。


「はっ……はぁ……!さ、最後に一気に来たって感じだったな…………まるで、お前はドラゴンなんだぞと強く言い聞かせるかのような……」


声を先に出したのはドラゴンの方だった。

話し声も話し方もシンディそのもののままだった。


「クソッ……!ソルチア、今お前なんか小せえぞ……そして、お前から見て私はどうなってる……?」

「ド、ドラゴンにしか見えない……絵や、本でしか見た事ないドラゴンの姿そのものって感じにしか……ほ、本当にシンディちゃんなんだよね……?」

「あぁ……間違いなく私だ……自分の認識できる範囲ではな……」


目の前に居るのは間違いなくドラゴン。巨大で、強大な、本来人語を理解しないはずの生き物。

それが困惑しながらも自分に優しく語りかける姿に、ソルチアは言葉にならない安堵と違和感の混ざった感覚を抱いていた。


「姿だけじゃない……見て、足元を。石造りの地面に爪痕とヒビ……今のシンディちゃんの力でやったんだよ。」

「マジか……マジだな……」

「私が願ったから……?でもそんな……本気で願ったわけじゃ……」

「空を飛ぶドラゴンに乗る魔法使いか…………ん!?空を飛ぶドラゴン!?そうだ、この羽!」


自分の体を見回すドラゴン。

特に、羽の大きさや強さを確かめているようだ。


「ソルチア!思い描いていた夢の形とは違うかもしれねえが、私に乗れ!この体なら空を飛べるかもしれない!ここから出られるぞ!」

「え!?で、でもそんな事……変身魔法だけで出来るようになるわけが……」

「良いから乗れ!まずはやってみなけりゃ分かんねえし、ダメなら別の方法で出れば良い、出れたなら細かい事はその後考えれば良い!」


説得の内容に反論の余地は見つからなかった。

混乱は解消されないが、もし飛べたならそれも考察の材料になるし、そういった事を考えるのも出てからの方が良い。

そう判断し、ソルチアはシンディの背に飛び乗った。


「よし、行くぜ…………!」

「飛び方……分かるの?」

「なんと言うか、飛ぼうと思ったら体が自然と反応してくれる、そんな感じがするんだ。」


四つん這いの状態、全身を強張らせ、背中に、翼に力を入れる。


ブァッ……!バサッバサッ!


翼が風を切り、風を押し出し、砂埃が舞う。

強張った体を脱力させ、意識を上へ向け、地面から離れる。


「と、飛んでる……!」

「マジで……飛べちまうとはな……!」


バサッバサッ!

羽ばたきながら上昇を続ける。

空が、落ちる前に見ていた景色が次第に近づく。


「あっさり……出れちゃうよ〜……」

「……外に出たあとは、なるべく低空を飛んで森の中に入るぞ。下手に上空を飛んで他人や魔物に見つかるリスクは避けたい。」

「あ、うん!そうだね、それが良いと思う。降りて落ち着けそうな場所をみつけたらそこでまた話そう。」


状況が分からない、事情が分からない、これからどうなるかも分からない。

湧き上がるのは不安、焦り、恐怖、困惑。

とても落ち着く事など出来るような場面ではない。

しかし、だからこそ落ち着かなければならない。


(この状況……分からない事だらけだ……でも、だからこそ『分からない』と言う事がハッキリしてる。なら、分からない事を考えるんじゃなくて今わかってる事の整理、そして何を分かれば良いのかを整理する!分からない事に目を向け続けても立ち止まるだけ、前に進む為に今考えるべき事を考えろ!)

(恐怖……そうだ、恐怖してる。私は今恐怖している。なにせ突然の出来事だ。体が変わった、力が強くなった、空を飛ぶ能力を得た。考え方次第では喜べる事だってある。しかし、湧き上がるのは恐怖……何故だ?それは未知だからだ。こうなると分かって引き起こした出来事では無いからだ。なら怖がろう。もっと恐怖すれば良い。未知とは恐怖と成長への第一歩。恐怖を捨てたら成長への道も捨てられる。怖いからこそ、成長への道もある、そう受け入れろ!)


(それでも、考えを捨て去れない……)

(だが、やっぱり拭い去れない……)


((私たちに、一体何が起こっているんだ…………!!??))


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