表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

不可能魔法概論

スタピア王国

魔法研究棟3階室長室前廊下


「フゥ〜…………」


緊張……と言うほど緊張はしてないつもりなのだが……

それでも、物事には緊張感を持ってぶつかるのが良き人間と言うものだ。

高貴で、才能を持ち、実力を兼ね備えているのならば尚更その心構えを持っていなくては。


コンコン

「ギアランドから決ました。本日よりここに配属となった者です。」


そう、どんな立派な仕事でも、手を抜くことを決めている仕事でも、最初の一歩は絶対に重要だからだ。


「……ン!?フン!そういやそんな奴が来るとか言ってたか!良いぞ!入れ!」

「……失礼します。」


……なんだかぶっきらぼうだな。気難しそうだし。

まぁ良い、そう言う相手なら合わせるのも簡単かもしれないし。


ガチャ

「初めまして。」

「本日よりこちらに配属となりました。」

「ポラーノ・ギネアと申します。」

「ギアランド公立魔法学校278期生主席」

「スタピア王国屈指の魔導研究の場にご招待頂けた事……」

「あぁ〜、いい、いい、そう言う堅苦しいのはいい!」


遮られてしまった。

そんなにおかしな事言ってないと思うんだけど……


「フン!わしはゴージュ・セリストン、このくだらん研究室の室長をしておる。」


机に座りながら話しかける。

体格は大柄で恰幅が良く、もじゃもじゃの髪と髭がとても長い。

本や紙類が散乱している室内から受ける印象と同じく、ガサツで適当そうな印象の人物。いや、正確には


(ドワーフ族か……ドワーフに抱く偏見そのものって感じの人柄だが、そうじゃ無い人も一杯見てきたんだが……それよりも)

「ええと……その……よろしくお願いします。あの、私がここに来る、と言う話は行っているんですよね?」

「フン!勿論聞いておる。まぁあんまり聞いてなかったから女だってのも始めて知ったがな!」

「……この職場、あんまり良くないんです?ひょっとして。」

「フン!人によっては理想だよ。怠け者か、自分勝手に動きたい奴にとってはな!」

「それで、ゴージュ様はどちらです?」

「自分勝手。」

「……良いと思います。」


絶句である。なんて職場だ。

私と言う天才をこんな場所で浪費させようって事なのか。

まぁ、そのつもりにしても分かってやってたにしても構わないが。


「一応、そちらの要請を受けて私が派遣されたと言う話のはずですが……その様子だと人手が足りていなさそうには見えませんが?」

「フン!そうだよ、なんだか知らんが国の制度を変えるとか抜かしてな、ウチ含めてあらゆる部署が部下を持たなけりゃならなくなった!ウチ以外は元々部下が居るからウチだけは新たに人を呼ばなきゃならんくなった!」

「それでギアランドに要請を?」

「そうだ!幻滅したか?やる気無くしたか?帰るなら今だぞ!」

「いえ、逆に面白そうなのでもう少し居ます。」

「フン!後悔するなよ!出世なんて絶対出来んぞ!」

「そう言うの、どっちでも良いからちょうど良かったんです。」


そう、私は出世なんてしたくない。

天才と呼ばれる才能も、出世などしてしまっては才能の無い部下を扱う手間に吸われ、才能を妬む三下どもの妬みに吸われ、活かす事など到底出来なくなってしまう事を知っている。

立場など程々で良い、それこそ才能を買われて国にスカウトされた。などと言った。


「フン!お前幾つだ?若いのにそんなんで良いのか?上昇志向くらい持てないもんか?まぁワシとしてもそっちの方が都合が良いがな!」

「若くても、能力があると面倒くさい政治に巻き込まれるものなんですよ。」

「フン!政治が嫌いか!ワシもだ!そのくせ国立の研究室なんぞで働いとる!」

「気が合いそうですね。」


なんとなく相手の事が分かってきた。

基本的には受け流しとけばなんとかなる相手だ。

ただ、気が合いそうと言うのは割とそんな気もしてきている。


「フン!後で施設やら便所やら案内してやる。散らかっとるがその辺でちょっと待っとれ!これだけは終わらさせときたいんでな!」

「ありがとうございます。では失礼して……」


いやしかし本当に散らかってるな……

椅子だけはなんとか座れるけど机なんてこの辺……いやこの部分机じゃなくて積み上がった本だわ。本以外にも紙やらなんやら散乱してるし……

ただまぁ、言葉遣いもそうだが、私自身としてはガサツだと分かってる相手のガサツさは気にならない方なのでそこはあまり問題にしてない。


(おや?)


そのとき、一冊の本が目に入った。


『不可能魔法概論』


「………………」


流石に気になって本を手に取る。


「……なんだ、そんな本が気になるのか。」

「えぇ、まぁ、流石に……まさかここ、オカルト研究所じゃ無いですよね?私これの手伝いとか流石に……」

「ハン!流石にキレるぞ!流石にもうちょい現実的な事やっとるわ!」

「ですよね。」


不可能魔法。有名なオカルトだ。

他には魔力も物理的なエネルギーもなく永久に動き続ける永久機関だとか、死後の世界と会話出来る霊界通信魔法なんてのもあったっけ。

大抵は物理的か魔法的に否定されていたり、もともと嘘ついて騙す為の方便だったり、まぁとりあえず創作として楽しむ程度ならともかく仕事で取り扱うようなものではない。


「不可能魔法……不可能を可能にする魔術体系……」

「あぁ、不可能を可能にと言う意味では、いまここに無い火や水を作り出す時点で魔法が不可能を可能にしていると言えなくもない。」

「しかし、その火は紙に触れれば燃やし、水を触れさせればふやけさせる。つまりは可能な出来事の再現でしかない。」

「そうだ。しかし、不可能魔法はその逆を引き起こすものだと言う。紙に火の魔法を触れさせればまるで燃え上がるかのようにふやけさせ、燃えているのに絞れば水が滴り落ちると言う。」


まぁ確かに凄い、凄い事なのだが……


「なんと言うか……とくに定義があやふやですよね。」

「フン!全くだ。『と言うようなもの』と言われても『ようなもの』の定義が広すぎる!火で紙を濡らせば成功なのか!?ドラゴンを即死でもさせれば成功なのか!?実現したからなんだと言うのだ!?気に食わん!」

「それで、何故こんなものの本を?」

「気に食わんからと言って無視するのはもっと気に食わん!馬鹿げた理論でも応用すれば現実的な事に応用出来るかもしれん!知識は幅広く持ってナンボだ!」

「それは……ええ、それは本当に素晴らしい考え方だと思います。」


本心だ。

馬鹿げた話だからこそ真っ当に向き合う価値も何処かには存在する。

他者では扱いこなせないものを巧みに操る、それも才能というものだ。


「フン!お前はどうだ。こんな馬鹿げた話をどう考える。」

「そうですね……そもそもなぜそんな話が生まれたのか?その部分から気になります。」

「フン!一説では遥か昔には存在してて、今あるのは断片的に残っている話だけなどと言う説もある。有り得んがな!そんなものあったら何故現代まで残っていない!?」

「あったにせよ無かったにせよ、確かなのはそう言うものがあったら良いなと思った誰かが居たという事です。新たな技術や発見とはそう言う気持ちから生まれるものです。」

「フン……そうではあるがな。」

「魔法とは知識と精神で扱うもの。こうであって欲しいと言う想い、こうしたいと言う気持ち、それを実現させるのは幅広い知識。そのものがどんなに馬鹿馬鹿しいものであったとしても、そこから繋がる気持ちや知識を無碍にしない事が自身の成長につながる。そう言う意味では無駄な話では無いですね。」

「フン!優等生だな!嫌いじゃないがな!」

「ありがとうございます。」


まぁそこそこ本心。

あらゆるものにそう言う気持ちでぶつかろうとしてはいる。

いるが、流石にこんなあやふやなオカルトまで真正面から向き合うつもりはない。


「ま、ここではもう少し現実的な研究をしたいですけどね。」

「フン!ここで発表しても無駄になるぞ!適当にやる事覚えろ!」

「ウチ(ギアランド)に持ち帰って取り扱う予定です。」

「フン!それが良い!」


まったく随分適当な職場に当てられたもんだ……給料も良いし出世欲も無いから都合は良いんだけどさ。

さて、まだ時間かかりそうだし暇つぶしに読んでみますかね。


(不可能魔法か…………)


パラリ、ページをめくる。


――――――――――――――――――――――――――――――


「不可能魔法……?なんだそりゃ。」

「あ、ごめん、独り言。詳しくは後でね。」


森の中、1匹のドラゴンが人を乗せて飛んでいる。

飛び慣れておらず、木々の隙間に対して体格も大きい為飛ぶのにも苦労しているのが見て取れる。


「クソッ……どっか落ち着けそうなところ……」

「あっ!あの辺ちょっと広そうだよ!」


騎乗している人間が指さす方向には、確かに広めのスペースが存在している。


「ヨシ、あそこに降りるぞ。」


ブァッ……!

ズズゥン……!!

木々を抜け、木の葉積もる土の上、1匹のドラゴンが降り立つ。


「よっ……と。」


その背中より魔法使いが飛び降りる。


「チッ……飛んでる間に戻る兆候でも無いかと思ったが、全然そんな感じしねえな……」

「うん……でも可能性が一番高いのは、戻れるとしたら私たちの意思に起因するだろうと言う事。」

「変わるのも戻るのも私たち次第ってか?そんな都合の良い能力であってくれるかねぇ……」

「まだ可能性の話だよ。でも一番最初に試す価値ある事だと思う。」


空を飛ぶ、ドラゴンになる、その話をしていた時にその通りの出来事が起こった。

確かに、偶然と言うよりはその間の何かが起因になったと考えた方が良さそうだ。


「まず『シンディちゃんが人間になる』って言葉に出す、同じ事を頭でも思い描く。とにかく二人で一緒にやってみよう。」

「分かった……私は人間……私は人間になる……!」

「シンディちゃんが人間になる……シンディちゃんが人間になる……!」


二人は同じ事を思い描き、同じような事を発言し続ける。

目を閉じ、ジッと願う……

そして、目を開ける。

そこには、5本の指、衣服、二足歩行……


「も、戻った……!?」

「はぁ〜!とりあえず安心!ってとこかな!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「状況を整理するね。」

「私達は探検中、穴に落ちて宝玉を発見、二人とも光を受ける。」

「雑談中に私が発したシンディちゃんがドラゴンになってと言う言葉の後、本当にドラゴンに変身した。」

「そのドラゴンは本当にドラゴンの力を持っていて、空を飛ぶ事も出来た。」

「二人で発言しながら願ったら元に戻った。」

「あぁ、流れはそうなる。」


突然の出来事に驚き、戸惑っていたが、どんな出来事でも順番に辿っていけば考える道筋は立てられる。


「まず、どこから片付ける?」

「私は、まず間違っていても問題ないとこから消してくかな。『この力は、あの宝玉から得られたものだ。』とか。」

「そうだな、そこはまぁそれ以外考えられないしな……後は、とりあえず元に戻れたって事は『この後一旦帰る』って選択肢も取れるわけだ。」

「そうだね。もうちょい情報は整理したいけど、『その後ドラゴンとして身を隠す』って選択肢を取る必要は無くなったね。」


始まりは宝玉だった。区切りは情報を整理するまでで、やる事はスタピアに帰る事。

始まりと終わりが決まれば、後はその間の整理だけに注力すれば良い。


「んじゃ本番。この力……どこから考える?」

「ん〜……まずは色々試したい!でも『変身』と言うプロセスを通る以上、もう変身したくないってシンディちゃんが思うならやらなくても良いよ。」

「いや、私もこの力がどう言うものか?分かる限り確かめてみたい。戻れると分かった以上、幾らでも実験してくれて構わない。」

「了解。そうだな……じゃあ……」


思案するソルチア。

おそらくは魔法である力の為、自然と彼女が先導する形で思案を進める。


「まずは『どっちか』から考えて行こう。シンディちゃん、まずは私を変身させて。そう思い描いて、その後は発言して。」

「分かった。」(そうだな……コイツの掴みどころの無さ、猫っぽいか?ソルチアは猫……ソルチアが猫になる……ソルチアが猫に変身する……)

「ソルチアが猫になる、ソルチアが猫に変身する、ソルチアに猫に変身して欲しい。」

「………………なんにも起きない……ね?」

「……そうだな。」


シンディからソルチアへ、そのルートでは変身は発動しないらしい。


「えへへ、私猫っぽい?実は私も私が猫になるって思ってみてたんだよね、おんなじ事思っててくれたんだ〜」

「まぁ、ちょっとそう言う印象は受けてたよ……ってちょっと待て、お前まで同じこと考えてたらどっち起点か分からなくなるじゃねえか!」

「あっ、やべっ、そうだったね。」

「はぁ……とにかく、次は私へだ。私は同じ動物でやってみる。お前は違う動物でやってみろ。」

「分かった。」


役割を入れ替える。

動物も別のものになると宣言したので、どちらに変わるかで起点も判断できる。


(さて、こいつは何に変身させたがるか……またドラゴンか?それとも別の……おっとそう来たか。)


シンディは猫に変わろうと思っていた。

しかし、そう思うまでもなく結果は出てしまった。


「変わったな……」

「変わったねぇ〜……」


灰色の毛、ピンク色に近い手足、大きくなったソルチア。


「ネズミか……ネズミっぽく思ってた?私の事?それとも貧民街に住むドブネズミのイメージか。」

「ん〜?そう言うよりは……」


かがみ込んでシンディを見つめながら、口の端に若干力を入れ、目の色が少し変わったように見せる。


「ニャー!私は猫!ネズミさんを食べちゃうニャン!」

「なっ!?まさか、私の変身は肉体でお前は精神とかそんなん…………!」

「あっはは!そんな事無いよ〜!冗談冗談!」

「……っ!ふざけんなよ!この体格差だと冗談にならねえんだよ!」


ネズミの姿のまま地団駄を踏む。

が、足音すらも小さく周囲の木の葉すら舞い上がらない。


「はぁ……とにかくまずは戻してくれ。」

「あっごめん、その前にちょっとやりたい事が……えっとね……」


ネズミ姿のシンディを残したまま、周囲の落ち葉と木の枝をかき集めるソルチア。


「焚き火でもする気か?」

「そう!それで、焚き火のための火の付け方なんだけど、実はシンディちゃんには『火を吹けるネズミになってほしい』って思いながら変身してもらってたんだよね。」

「火を吹くネズミ……?魔物でもそんなの居るなんて聞いた事ねえぞ。」

「つまり、もしそれに変身できてたらそれは凄い事って訳だよ。それじゃ、横だとどのくらいの火力になるか分かんないから私の手の上から下を向いて火を吹いてみて!」


そう言いながら両手を差し出す。

これ、人の手なんだよな……

自分を乗っけてもまだ余りが出来る広さのそれを見ながら少し考える。いかに今の自分が小さい存在なのか思い知らされたような気がした。


(ま、そんな事考えても何にもならないけどな……この小ささが役に立つタイミングもいつか来るかもしれないし……)

「よっと。」

「うん、それじゃここからやってみて。」

「う……ちょっとこの体だと高さあるな……それに、よく考えたら火の吹き方とか知らねえし……えっと、こんな感じか?」


腹のあたりに力を入れ、肺のあたりから空気のようなものを送り出すような感覚で、火を吐き出そうと息を吹いてみる。


ゴゥッ!


すると、火が勢いよく吹き出し、山の形に積んでいた落ち葉や枝が勢いよく燃え出した。


「うぉっ……!?本当に出た……」

「凄ぉ……!私の火魔法より明らかに強かったよ……!」


焚き火の完成。

そして、この変身がいかに恐るべき力を秘めているかも明らかとなった。


「…………おっと、まずは戻すね。」


振り向き、シンディを元に戻すためにソルチアは念じ始める。


「いや、お前、ちょっ……」

「うわぁっ!!!」


ドシィン!

手に乗っけたまま……当然、人間のシンディが手の上に乗る形になり、バランスを崩して勢いよく倒れる二人。


「下ろしてからやれって!」

「ごめ〜ん……どんな能力も考えて使わないとダメになるね…………」


――――――――――――――――――――――――――――――


「さて、分かった事も増えてきたな……」


焚き火で暖を取る形で向き合い、話を続ける二人。


「うん……整理すると」

「変身は私からシンディちゃんへの一方通行。」

「変身の自由度はとてつもなく高い。」

「変えるのも戻すのも簡単。」

「ただ、変身は私の意思だけでシンディちゃんだけではコントロール出来ない。」

「それと、これは私の感覚なんだけど」


「変身は魔法によるもの。普段魔法を使う時と似たようなものを感じた。」

「ただ、どこか違うような感じもした。その違いは考えても分からなそうだから一旦無視で。」

「実は何回か魔力を出さないようにしながら変身を思い浮かべてみてたんだけど、何も起こらなかった。だから変身のコントロールはかなり私の比重が大きい。」

「他人に使う事はおそらく出来ないし、この力による変身以外の魔法には影響が無い。私自身は強くも弱くもなってない。」

「…………多いな、情報。」

「そうなんだよね〜……」


未知、不明、謎、異例、それでいて膨大。

兎にも角にも手に余る力である事だけは明らかであった。


「そうだ、忘れるところだった。不可能魔法?ってなんだ?」

「あぁその話か。まぁ簡単に話すと……」


――――――――――――――――――――――――――――――


「って事だね。」

「魔法のオカルト……不可能を可能にする……さっき例えに出した濡らす炎なんかも……?」

「出来るんじゃないかな……やる意味は無いけど。」

「う〜ん……確かに、当てはめようと思ったら当てはめる事は出来そうではあるか……」


願うだけで変身した、力や能力も自在に変わった。

それは不可能を可能にしたと言っても良いのかもしれない。


「印象の部分だけじゃなくて仕組みの面でもね。知ってる?魔法の恒常性。」

「……あんまり。魔法は苦手だから授業とかサボり気味だったんだよな……」

「えーとね、まず即死魔法って分かる?」

「いきなり物騒な話が出てきたな……まぁそりゃあるってのは知ってるが使われたって例は聞いた事が無いなそう言えば。国の要人暗殺とか狙う奴は居そうなもんなのに。」


魔法の力で人を殺す。

物騒で嫌な話ではあるが、それが起きないという事も考えにくい。


「歴史上そう言う例が無いのには理由があってね。」

「即死魔法の仕組み自体は簡単で、人の体内の機能を停止させるか、体内で魔法によって何かを生成させれば良い。」

「心臓を止めたり心臓に何かが入ったらまぁ死ぬよね。」

「でもそれは出来ない。何故なら魔法とは意思の力によってマナを変容させる事で現象を引き起こすもの。」

「他人から魔法を使われた時、使われた側の意思にもマナは反応するから自然と抵抗される形になる。」

「心臓の動こうとする働きを外側からの力で止めようとしても、もの凄い抵抗を受ける事になる。」

「それが魔法の恒常性。生き物は生まれながらに魔法に対する耐性をある程度は持っていると言い換えても良いね。」

「ふむ……仕組みを聞くと、確かに即死魔法はハードルが高そうってのは想像しやすいな。」


人は生まれながらにして生きたいと言う意志を持っている。

そうでないなら脳も臓器も生きる為の活動をしない筈だからだ。

それ故に、人体は外からの影響によって内部に異常が起きそうな時、自然と生命維持が安定した状態へ向かうような働きを起こす。

それがマナと魔法の仕組みにも反映されたもの、それが魔法の恒常性と言うわけだ。


「一応理論上は即死魔法も可能らしいんだけどね。例えば魔法大会全国一位の魔力の持ち主が、産まれたての赤ちゃん相手に全力を出せば出来なくは無いらしいよ。」

「そりゃあ不可能って言うかやる意味ねえな……赤子一人にそれじゃあまりにも釣り合わねえ。」

「まぁとにかく、体の内部に拒否反応が出かねないものはいかに魔法と言えども『不可能』な現象だって事。」

「内部に拒否反応……骨格を変えた、火を吹ける体に作り変えた。」

「そう。あんな事を大した魔力も使わずにあっさりやってしまった事。それこそが『不可能魔法』であると言う証明。そう考える事も出来るのかなって。」


魔法の仕組み、人体の仕組み。

理屈を知れば知るほど如何にありえない事が起きたのかが浮き彫りになる。


「不可能変身魔法……そんなところか?この力は。」

「良いねぇ。なんか名前が付くと一気に実感が湧くと言うか、自分達の力として捉えられた感じがするよ。」

「確かに、そんな感じはあるかも。」


――――――――――――――――――――――――――――――


「さて、この力についてはこれ以上は多分、考えても仕方のねえ事だ。」

「だねえ。それよりはどう使っていくかとか、どうやって隠していくかとか……」

「まず基本方針の意識合わせと行こう。この力、使っていくか?」

「もちろん!押し付けられたみたいで嫌な身に付け方だったけど、使えるものを使わないなんて勿体無いからね。」

「同意だな。なんとなく真っ当な目的で作られた気がしねえ力だけど、そんなのは使い方次第でどうとでもなる。」


二人が身につけた力について判明している数少ない事、それはとても強力で応用が効き他に無い力だと言う事。

冒険においても便利に使えそうなこの力を、使わないと言う選択肢は二人には無かった。


「どこかでデメリットが見つかったら……その時はその時考えよっか。」

「ちょうどそれ言おうと思ってた。なんかあったらすぐ言うから私の体もガンガン使ってくれよ。」

「ん〜、流石に配慮はしながら使うけどね。それより、他の人には言わない方が良いよねぇこんな事。」

「当たり前だ。そもそもバレないようにやる予定だったのにコレじゃ何か起こったのがバレバレだ。」

「だねぇ……あんな大穴空けちゃったらねぇ。」


苦笑する二人。ちょっとだけ余裕が出てきた。


「んじゃ、この後は試運転も兼ねていくつか依頼受けるとして、どっかで国を出る事も考えた方がいいな。なるべく自然な流れで出たいが。」

「あっ、そう言えばシンディちゃんスタピアに住んでるって、ご家族のご了承とかは……?」

「元々この仕事をやる事は家族からの了承は得てる。外に出る事も伝えてあるから話せば大丈夫さ。」

「それなら良いかな?……良いのかな?」

「とにかく、一旦戻ってから考えれば良いだろう。帰り道でも話せるし、ここで話しててももう大した事は話せねえ。」


話も落ちつき、気持ちも落ち着いた。

分からない事も多いが、手に入れたものもデカい。

これからの事は、これから考えよう。


焚火の始末をした後、二人はスタピアへと戻る事を決めた。


「あ、シンディちゃんをお馬さんにして私が乗ってくってのは。」

「ガンガン使って良いとは言ったけどよぉ、流石にこのくらいの距離自分で歩いてくれよ。途中で誰かに見つかったら面倒だし。」

「ちぇ~残念。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ