目的も信頼も
「シンディちゃんはここの出身?」
「ああ、なんならここ以外には出た事ないくらいだ。」
街道を進む
「そう言うお前は?」
「ギアランド!ここからだと北西方向かな?」
「あぁ……あれほどの使い手ならそうなるか……」
人通りの多い通りに出る
「ここは左だ。」
「りょーかい!」
賑やかな通りを進む
「さっきの場所とは随分雰囲気が違うだろ?」
「うん、話には聞いてた貧民街と貴族街の違いってやつかな?」
「知ってたか。その割には貧民街の方から入るとはどう言うつもりだったんだ?」
「いやあその……道に迷ったもので……」
「ギアランドは北西……まさか、森を通って来やがったのか!?普通東の街道を通ってくるんだよ!」
「いやあ……地図で見たら直線距離で最短だと思ったから……」
会話が進む
「やれやれ……ところでソルチア、地元かどっかでギルドに登録はしてあるんだよな?」
「うん!れっきとした公認冒険者だよ!」
「公認と非公認の違いも分かってるか。一応言っておくと、ここスタピアにも公認と非公認のギルドはあるが、公認の方に登録する時に言っとけば非公認の方の依頼も受けられる。受付の人にその辺言っておけよ。」
「わかった!」
街の中心からやや離れた場所に辿り着き……
歩みを止める。
「着いたぞ。」
「ほぇ〜ここが……」
「そう、スタピア公認冒険者ギルドだ。」
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ガチャリ
「いらっしゃ……あぁ、シンディか。お帰り。遅かったね。」
ギルドに登録しているのだから当然と言えば当然だが、受付の男とシンディは顔見知りである。
「悪いな、色々あって……これ依頼の金な。」
「はい、お疲れ。……?後ろの人は?遅刻の原因?」
「いやまぁ言うなればそうなるけど……言い方考えろよ言い方を……」
「ハイ!ソルチアって言います!ギルドに登録しに来ました!」
「元気な子だね。じゃあこの書類に記入して、分からないところあったら聞いてね。」
「このギルドには飲食スペースもある。あっちの方だ。私はそこで茶でも飲んでるからそっちもゆっくりやっとけ。」
「分かった。ありがとうね。」
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(ここの紅茶、安物なのがわたし好みなんだよな……)
公認冒険者ギルドは国から公認を受けてるだけあって、一般人でも使用しやすいように設備が整えられている。
軽食を食べるためだけに利用する人もいる飲食スペース、他所から来た冒険者用の宿泊施設は料金を払えば誰でも利用でき、図書スペースも広く開放されている。
……が、施設のメインでは無いこともあってか料金は安く、質も料金相応と言ったところだ。
「お待たせ〜!」
受付を終えたソルチアがこちらに向かって来る。
「おう、終わったか。飲み物はセルフサービスだから向こうにあるやつ好きなの持ってこい。」
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「さて、登録も済んだ事だし早速だが今後の方針について相談したい。」
「おさらいみたいになるが、まずここ公認冒険者ギルドでは国から認可を受けた依頼者からの仕事しか無い。」
「国自体や、産業の材料に魔物を必要とする一次産業者とかで、依頼と報酬自体は安定しているが規模がでかいからこっちもデカいパーティを組む必要があったり、依頼内容自体はやり尽くされてるから手順が確立されているものが多い。」
「逆に非公認の方は認可を通さず誰でも依頼が出せる分内容も報酬もピンキリだ。」
「私としてはまず…………」
「あーっと!ごめんね、実はもうやりたい事決まっててさ。」
「おっ?悪いな、そうだったのか。」
ソルチアは話を遮ると、手に持っていた地図をテーブルに広げる。
「これ、この辺の地図ね。さっきそこで借りて来たんだ。」
「ああ、確かに貸し出してるな。お前が無謀にも通って来た森も、普通の人が通る東の街道もよく見える。」
「うっ……確かに……普通はこっち通るなって感じ分かる……いやいや、そこは問題ではなく。」
ソルチアが注目したのは地図の下部、スタピアの南方にある森林地帯。
「ここ知ってる?この辺で古〜い遺跡が発見されたの。」
「あぁ、そんなニュースを見た事あるような……スタピア管轄で調査してなんも見つからなかったやつか?」
「多分それだね。かなり昔からある遺跡なのに最近になるまで誰にも見つからなくって、謎がいまだに残されてると言う場所だよ。」
「つってもなぁー……調査したのスタピアだろ?この国主導でやる調査なんてどうせ税金泥棒ものの調査しかやってねえよ……」
「それでも分かる事ってのはあってね。遺跡に使われた素材の年代や、現在までの冒険者の探索ルートなんかを考えてもそもそも見つからなかったものが見つかったって時点でかなりの発見なんだよ!」
ソルチアとは知り合って間もないが、これがかなり興奮して上機嫌になっている状態と言う事は見るだけで伝わって来る。
「この遺跡を調べてみたいんだ!」
「何も無いって分かってる場所をか?行くだけで罰せられるかもしれないのに?スタピア人の私と?」
「うん!私がここで探したかった仲間は、常識や立場に縛られない人。貧民層と富裕層がハッキリ分かれてる場所で両方とも肩入れしてる人を探せば自然と見つかるかなと思ったんだけど、初手でドンピシャな人見つけたからね!」
「へえ……良いのか?私はこの事を国やギルドに報告するかもよ?」
「やろうとしてる事考えたらその辺にマークされない方がおかしいじゃん?なんなら私の理想は、追われながらシンディちゃんと一緒に追跡を撒きながらの調査なんだけど?あなたもそう言うの好きそうだし?」
「フッ……!良いよ、気に入ったよソルチア。確かに私はお前が求めている人材かもな。私も冒険するならお前のように破天荒なやつと破天荒な冒険に出てみたいと思ってたんだ。」
傍から見たら異常な会話である。
出会ったばかりの二人が、ギルドの中でヤバい計画を立てているのだから。
当人たちもそれは分かっている。しかし、シンディは冒険に出れていなかった鬱屈した期間が、ソルチアはかねてより考えていた自身の計画を練っていた期間が、ここに来てようやく報われそうだと言う事実がこの状況を後押ししている様に感じていた。
「なら、早速出るか?準備は必要かい?」
「それはどっちかと言うとシンディちゃんに聞きたいよ。私はメイジだから魔法が使えれば十分だけど、スカウトなら道具とか必要なんじゃない?」
「私の腰に付けた2本の短剣とバッグは見えるか?必要なものは全部ここに入ってるから私の方もいつでも出れる様にしてあるんだ。」
「流石!頼りになりそうだね!」
「勘弁してくれ、これでも経験は全く積んでないもんでな。そっちこそ頼りにしてるぞ?」
「いやぁ〜私も頼りにされるとねぇ〜……」
「なんだよ……いきなり幸先不安じゃねえかこのパーティ……」
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「さて、ここが東門だ。」
早速出発を始めた二人組。
まずは国の玄関口に向かっていた。
「他国との交流や観光客は大抵ここからやって来る。お前のように西からやって来るやつは希少だ。」
「へぇ……確かにこの辺は歓迎ムードと言うか、賑やかで入りやすい感じはあるかも。」
「人の出入りが多いからな、商売やってる奴も多いし排他的な奴は少ないだろうな。」
「西は西で独特の歓迎はされたけどねー」
「まともな玄関口を東に作る事で西からは必然的にまともじゃない奴しか来ない事になる。それが悪党なら被害を受けるのは貧民になりやすいし、身を隠さざるを得ない弱者なんかだったら貧民層の悪党どもにむしられて国がわざわざ保護したりする必要が無くなる。実際にそうなった事例も多いらしいってのは全くひでえシステムだよ。」
「…………んー…………」
「どうでもいい話だったな。まずはここから街道を南に進もう。目当ての遺跡は森の中だが、近くに行くまでは安全な道を通った方がいい。」
「りょーかいりょーかい!距離的に日帰りで行ける距離だから気楽に行こーね!」
東門を抜け、街道を南下。
魔物のような危険要素も無いわけではないが、比較的安全な旅が始まった。
「……ちょっと荒れてんな……昨日は風が凄かったからなぁ〜」
「あ、やっぱ普段はこうじゃないんだ?木の枝とか石とか泥とか道がめっちゃ凄い事になってるもんね。」
「まぁ人通りが増えれば自然とどうにかなってくだろうさ……おっ!この枝は割と頑丈そうだ。」
「シンディちゃん、割と子供っぽいとこあるね〜」
「ほっとけ。スカウトってのは直接戦闘要員じゃない代わりに使えそうなものはなんでも使うし、そう言うのをストックしたり確認しとくのはクセなんだよ。」
「あれっ!?結構腕は立ちそうに思ったけど意外と戦闘は苦手?」
「一応短剣術や体術の手ほどきは受けてる。そんじょそこらの奴に負ける気はしねえが、専門職には劣るってだけだよ。」
「そっかぁ〜なら安心かな。今回はなるべく戦闘を避けるつもりではあったけど、そうなったらお任せする事多そうだからさ。」
「おいおい……メイジと言えば魔法のスペシャリスト、魔法戦闘はお前の領分だろ……」
「あ、いや……そのぉ〜…………じ、実は……私その……」
「!!!止まれ、ソルチア!」
何かに気付き、シンディがソルチアを制止する。
(アレを見ろ……)
気配を殺し、コッソリと語りかける。
指さす先には空を飛ぶ黒い影。
(鳥型のシルエットに妙な頭蓋骨…ありゃあ、髑髏烏だ。……)
(この辺に多い魔物だが、見た事あるか?まぁ雑魚だがな。)
(弱いと言っても単独での話でな、あの妙な頭蓋骨をカタカタ打ち鳴らすと同族が群れでやって来る。そうなると危険だ。)
(見たところ他には居ない、距離もそんなに離れてねえ、アイツは単独行動してる個体のようだ。お前、今のうちにやってくれ。)
「………………えっ!?私!?」
「当たり前だろ!私の武器は短剣!お前は魔法!遠距離戦は魔法使いの領分だろ!てかデカい声出すな!」
「シンディちゃんも声大きいよ〜!」
「!!!」
二人の声が大きかったのか、周遊している際に人間の人影が目に入ったのか、ともかく空を飛ぶ烏は二人の人影に気が付いてしまった。
「チッ!気付かれた!おい、良いからやってくれ!」
「う、うん……わわ分かった……やってみる……」
「?……何をそんなに怯えてんだ?繰り返しになるがかなりの雑魚だ、対魔力とかもねえぞ。」
一歩前へ
ソルチアは腰に下げた杖から二振りを取り出し、構える。
……が、それは後ろ姿で見ていても分かるほど緊張して強張った構え方であった。
(こいつ……何をそんなにビビってんだ?)
(スタピアで見たソルチアの実力は高かった。二振りの杖で二つの魔法を同時に、攻撃魔法も使わずに的確に相手を無力化させた……)
(おまけに出身はギアランドと来た。ギアランドと言えば魔法使いの本場、そこで学んできたとすれば実力は上位のはず……あんな雑魚1匹に手間取る道理なんか無ぇ。)
「すぅ……マナスイープ!魔力装填!」
後手に構えた右手の杖を前方に、左手は右脇の下から大きく左方向へ動かす。
「燃え上がれ業火……フレイムストライク!」
叫ぶ。これは詠唱と言うよりは気合を入れる意味合いが強い。
携えた杖より火球が飛び出す。
炎は標的に向かって真っ直ぐに飛んで行き……
「グギャァァ!!」
「やっ……!」
「……ってねえぞ!?」
命中はした、火球は髑髏烏を燃やした、しかし、その命を、活動を奪う程の威力は無かった。
「チッ!」
非常事態と見て走り出す。
「ご、ごめんシンディちゃん……わたし……」
謝るソルチアの姿も声も意識の内に入っていない。
チャキ……
走りながら短剣を取り出す。
「キキキキキ……!」
烏は不気味な鳴き声を上げながら首を上に振り上げ始める。
そのまま首を大きく振り下ろす事で頭部にくっ付いている髑髏の上部と下部が激突し、その時に発せられる音で仲間に自身の位置を知らせる。
そうして集まった仲間達で狩りを行うのがこの髑髏烏の習性なのだ。
「キャッ!」
ブンッ!
振り下ろす。
ガキィン!
「鳴らされた……!?これって、マズいんじゃ……」
様子を伺っていたソルチアは鳴ってしまった音の方向に目を向ける。
「あっ……ち、違う!あれなら……!」
そして気付く。
振り下ろされる瞬間シンディが自身の短剣を高速で投擲し、その鍔が烏の髑髏に挟まれる形となって打ち鳴らしを止めていた事を。
当然、その間にもシンディは走る足を止めていない。
それだけでは無い、シンディはまだ右手に木の棒を携えていたままだった。
その棒を左手に持ち替え、空いた右手で素早く短剣を取り出す。
そのまま距離と高さを見極め……
ビュン!
棒を地面に投げつけ、突き立てる。
その棒の先端に飛び乗って更にジャンプ!
人間一人ではとても辿り着けない高度へと飛翔した。
しかし……
「凄い身のこなし……!で、でもあれじゃ……」
(チッ……!足りねえ……!)
投擲によって敵の高度は落ちていた。
技を駆使して飛翔した。
しかし、空の生き物に陸の生き物が届くほどの差では無かった。
(どうする!?距離は狭まった……もう一度投擲か……?しかし外したらもう決め手はねぇ……!)
一瞬の逡巡
しかし、決断するまでもなく
グンッ!
「!?」
体に力が入る。と言うよりは自身の浮き上がる力に補助が入ったような感覚。
(そうか……アイツ……!)
視線の端に杖を振りかざすソルチアが映る。
高さが届かないと判断した直後に補助魔法をかける判断。
二人の狙いは合致して成功した。
高さが、体勢を崩した髑髏烏に届く。
「!?キィー!!!」
「残念だったな!」
スパァン!!!
一閃。
シンディの短剣は勢いよく振り下ろされ、烏の胴と頭を二つに分ける。
空中戦を制したのは出会ったばかりの人間二人。
しかし、協力によって成し得た飛翔による落下には耐えられず……
などと言うこともなく華麗に着地を決め、完全なる勝利を手にする。
「ごめん、シンディちゃん!大丈夫だった!?」
「話は後だ!」
烏の亡骸に駆け寄り、自身の短剣を回収するシンディ。
「なんとか仕留めたが他に居ないとも限らない!この場を急いで離れるぞ!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「ハッ!ハァッ……!とりあえず、この辺まで来れば大丈夫だろ……」
元々、見晴らしの良い場所での接敵であった。
他に目立った魔物が居ない事は最初から確認が取れていた状態での念を入れての逃走。
特に問題も発生せずに距離を置くことが出来た。
「ふぅ……ふぅ……そうだね。それに、元々この辺から森に入って行く予定だった場所だよ、この辺は。」
「おっと、そうか。なら森の中を進むとするか……」
当初の目的は戦う事でも逃げる事でも無い。
森の中にある遺跡を探索する事。
それは分かっているのだが、今はもう一つ優先しなければならない事がある。
「森を進むが……今は何よりも気配を消して魔物にも動物にも悟られずに進む事が大事だ。」
「うん、分かってる。」
「だからこそ……ハッキリさせておかなきゃならねえ。気配を消すなんて事とは反するが、進みながら話してもらうぞ……お前が隠している事を。」
「!!…………ごめんね、隠すつもりがあった訳じゃ……いや、ちょっとはあったか……」
「なんか理由はあるんだな。まぁそうでなきゃ説明つかないもんな、街で見せた見事なまでの魔法捌きとさっきの雑魚1匹にも通用しない貧弱な魔法……洗いざらい全部話せよ?私たちは今手を組んでいる仲間なんだ、仲間の力を信用出来ないチームなんてやっていけるわけねえ。」
「そう……だよね。うん、分かってる。」
簡単な戦いの筈だった。
簡単な調査だけの筈だった。
簡単に仲良くなれたのだから信頼を続けるのも簡単な筈だった。
しかし、目的も信頼も築き上げる事よりも足取りを継続させる事が難しい。
簡単な筈の道のりに早くも障害が訪れたが、二人の足取りは止まらない。
言葉として交わした事は無かったが、二人の間には困難や間違いを前にしてもそこから逃げる事だけはしたくない。と言う気持ちが共通していたからだ。




