そして二人は出会った
「だぁっはあ〜!や、やっと着いたぁ〜」
草をかき分け、泥を踏み抜け、やっとの思いで辿り着く。
「ここが……スタピア王国……でっけぇ〜城〜……」
左前髪を長く伸ばし、魔法使いの着るローブを身に纏い、服にくくりつけた魔法の杖が4本もある事を除けば、傍目には可憐な至って普通の魔法使いの少女に見える。
しかし、その所作にも言葉遣いにもしとやかさのようなものは感じられない。
「さて、まず入り口はどこかな?な〜んも考えずにここまで来ちゃったからなぁ〜」
ボヤきながら辺りを見渡す。落ち着きのない少女である。
この物語がどこから始まったのか?
と聞かれたのならば。
やはり、この少女がスタピアと呼ばれる国にやって来た所から始まった。と言う事になるのだろう。
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スタピア王国城下町:下層居住区画15番地エメラナ家前
「いつもありがとうね、シンディちゃん。これは今日の分の代金だよ。」
場面は変わり、スタピア王国内のとある民家の前にて。
「礼を言いたいのはこっちの方だよ、エメラナおばさん。冒険に出た事のない冒険者に回してくれる仕事なんてそうは無いんだからさ。」
シンディと呼ばれる少女が今日の分の仕事をこなしていた。
「やっぱり冒険には出たいのかい?私はシンディちゃんが居なくなったら寂しいよぉ。」
「ははは。おばさんには悪いけど、旅に出たくなかったら冒険者ギルドに登録なんかしてないからね。」
「私だけじゃないよ、あなたのお父さんとお母さんにもお世話になってる身としてはねぇ……」
「…………心配してくれるのは嬉しいけど、父さんも母さんも、私が冒険者やるのは、納得してくれてるんだ。」
「……そうだったね。ごめんね変な話して。ギルド長さんにもよろしくね。」
「良いって良いって!ありがとねおばさん!元気で居ろよ!」
(後はギルドに戻って報告すれば今日の仕事は完了、か。)
(……そうなんだよな。私はまだ旅にも出れていない。仕事といえば荷物を運んだり街の中の見張りをしたり……クソッ!これのどこが冒険者なんだよ…………)
(焦るな、落ち着け……いや、そう言い聞かせてもう1年近い……これで焦燥感を持たない方がヤバいだろ……)
少女シンディ、フルネームはシンディ・トルキール。
肩書き上は冒険者ギルドに登録してる冒険者だ。
しかし先ほどの独白でも言っていた通り、まだ冒険に出た事もない駆け出し未満の冒険者だ。
冒険者ギルドには大小様々な依頼が出され、シンディはもっぱら「小」の依頼を受け続けている。
何故そんなことをしているのか?彼女には旅に出る仲間が居ないのである。
(スタピア王国……大きくて華々しい国家イメージとは裏腹に、貴族街と貧民街に代表される差別と区別で成り立っている国……)
(どっちにも良い顔する私から友が離れるのは分かるが、冒険者にさえなれば仲間くらい出来るかと思ったが…………)
(クソッ!…………誰でも良い、誰か私を仲間に入れてくれる人が一人でも居れば……!)
思い詰めながらギルドへの帰路を進むシンディ。
その時
スッ…………
人と、いや、数人の集団とすれ違う。男3女1。
街を歩いているのだ、そんな事普通にあるだろう、別に気にするような事じゃない。
しかし、シンディの勘が告げていた。
(私は貧民街に住む人々の事をよく知っている。あの人数配分は怪しいか……?)
(どうせ仕事も終わって暇なんだ。様子くらい見てやるとするか…………)
シンディは仕事の報告を後回しにし、その集団の後をつける事にした。
――――――――――――――――――――――――――――――
「いや〜助かりましたよ。なにぶん初めての土地で何も分からなくてぇ…………冒険者ギルドはこっちなんですね?」
左前髪を長く伸ばした少女が尋ねる。
「おっとこの道は左に曲がるんだぜ。運が良いねお嬢ちゃん、この街にはこわーい人が沢山居るんだ。ここスタピアの貧民街で、お嬢ちゃんみたいな身なりの良い子が隙を見せたらあっという間に丸裸さ!」
寄り添う3人組のリーダー格の大柄な男が最大限取り繕った顔と声色で語りかける。
取り巻きの痩せ型の男2人組はニヤニヤと不気味な表情を浮かべたまま後ろを歩く。
「へぇ〜丸裸に……私、裸には自信ないからそんな事されたら困っちゃうなぁ〜」
「……い、いや、その反応はなんかおかしくねえか……?」
危機感のカケラもない少女は言われるがままだ。
「おや?この道、先がもうありませんよ?いわゆる行き止まりです。」
「良いんだよここが目的地なんだから…………」
行き止まりへのおびき出しが完璧に成功し、男たちは本性を表す。
「言っただろうが!隙を見せたら丸裸!ってよお!!!」
「こっちも言いましたよ?裸には自信無いって。」
「わかってなさすぎだろテメエ!金目のもん全部出せ!出来ないなら取れる限りの手段全部使ってテメエ自身を金にしてやるって言ってんだ!」
「私冒険者ギルドでお金稼ぐ為に来たからここだとお金になりませんけど。」
微妙に噛み合わない会話に大柄な男が痺れを切らす。
「ざけんじゃねえ……!テメエまだ自分の立場分かってねえのか!!?」
拳を振り上げ……
ドガァン!!!
少女に向かって力の限り振り下ろす。
間一髪、体をわずかに傾けて躱した少女の後方レンガ造りの壁がボロボロと僅かに崩れ落ちる。
「へぇ〜!凄いお力ですね!この力を活かして仕事すれば結構稼げるんじゃないですか?」
「て、テメ……これでもまだ減らず口を……!」
壁ドンと呼ぶには余りにも荒く凶暴な状況。
その後方から
「おい!お前ら何やってんだ!女一人に三人がかりでよ!」
「ああん!?……お、お前はシンディ!?お前は関係ねえだろ!黙ってろ!」
「じゃあお前とは話さねえ。そっちの子と話す。」
「クソ……なんなんだよこの女どもはイラつくぜ…………!」
「なあお姉さん、私の助けは必要かい?私は、助けを求めて来ない相手は助けない事に決めてるんだ。助けて欲しかったら素直にそう言いな。」
「あっご心配なく〜!これくらいは余裕なんで〜!」
「…………だとよ?随分ナメられてんなお前ら?」
「クッソ……テメエら……どいつもこいつも……!!!おいお前ら!やっちまうぞ!!!シンディ!テメエは後回しだ!」
「ハイハイ。言われなくても助け求められてないから手は出さないよ。」
(やれやれ……興味本位で着いてきたが、妙な状況になったなこりゃあ…………)
予想通り女の子は危険な状況、襲いかかる男連中は知った顔、しかし女の子は余裕の表情で助けを断る。
なるほどなんとも異質な状況だ。
大柄な男の号令で一斉に襲いかかる。
まずは痩せ型の男二人組、狙うは壁際に追い詰められた少女一人。
片方は拳を振り上げ、片方は飛び蹴りの体勢、頭と腹を狙った二つの攻撃、不用意な挑発によって頭に血が昇っている男たちに容赦など存在しない。
少女は依然緊張感の無い顔……だったのはこの一瞬まで。
瞬時にローブにくくりつけられていた杖を取り出し魔力を込め、男たちを狙いすまして魔力を放出する。
「うえっ!!!??」
「ゲェッ!!!??」
振り下ろした拳が、飛び蹴りを放った足が、本人達が本来持つ力と勢いを大きく超えて予想外の方向に繰り出される。
ガッシャアーーーーン!!!!
大きな音を立てて少女の後方の壁に二人の男が吸い込まれる。
少女が放ったのは強化魔法、本来は味方の攻撃を強化する目的で放つものだが、攻撃の軌道を予測した少女は後方が壁と言う地形も併せて利用し、あえて敵に強化魔法をかける事で自爆に追い込んだ。
ザッ!
先ほどまでの弛んだ顔はどこへやら。
冷徹な魔女を思わせる表情で少女は倒れ込んだ男たちに近寄り…………
ぽわぁん……!
「「うぁっ……ぐぅ…………」」
睡眠魔法をかける。
壁にめり込むかのように突進させられた男達のダメージは見かけ以上に大きかったのか、また不意を付かれた事で精神力も弱まっていた為か、睡眠魔法にあっさりかかってしまった。
「なっ……て、テメエ……!魔法使いだったのかぁっ!?」
「いやそれは分かれよ……あの衣装と杖……どう見ても魔法は使うだろ……」
驚く大男にシンディがツッコむ。
(しかし……それにしてもありゃあかなりの使い手だな……魔法使いと言う事が分かっていたとしても対策を取るのは容易じゃなかろうに……)
「魔法使いだろうが関係ねえ!!!ぶっ潰してやるテメエ!!!」
(このバカはそう言う事考える頭も無いか……)
魔法使いの少女も流石にちょっと面食らったような表情を僅かに見せる。
が、冷静に魔力を込め……
ガツッ!
「フンガッ!」
今度は向かってくる男の足元に魔力を放つ。
放ったのは土魔法の魔力、放たれた魔力は僅かに男の足元の土を持ち上げ、勢いよく走っていた男は勢いよくバランスを崩して倒れ込む事になった。
「…………流石に同じ事やっちゃダメかと思ったけど……同じ事やってても引っかかってくれそうだったかな、こりゃ……」
若干バツが悪そうに少女が呟く。
その表情は先程の緩みきった表情に逆戻りだ。
パチパチパチ……!
「お見事!」
状況だけ見れば少女の完勝。そんな場を見てシンディが語りかける。
「やるねえ!お姉さん。随分と腕の立つ魔法使いなんだな!」
「いやあそれほどでも……あなたもありがとうございます。見ず知らずの私の事を助けようとしてくださるなんて……」
「助けは断られたけどな。まぁ良いってことよ、これでも困ってる人を助けたくて冒険者やってる部分もあるんだぜ。私は。」
「えっ!あなたも冒険者だったんですか!?じゃあギルドの場所も……」
「もちろん知ってる、案内するよ。と言うか、一仕事終えてギルドに報告に戻んなきゃいけないとこだったんだ。丁度良かったよ。」
「あら〜手間かけさせて済みません。案内よろしくお願いします。」
「別に良いが……信じるんだな?私の事も。さっきはそれで絡まれたのに。」
シンディにこの子を騙すつもりはない。それは本心だ。
しかし、どう考えてもこの流れで信じるのは不自然だろう……そう思わざるを得ない。
「え〜?だってお姉さん騙す気なんか無いでしょ?私分かるんですからそう言うの!」
「今さっき騙された奴が言うなよ……」
「う、うぐ……で、でも、お姉さん私を助けようとしてくれたし、実際話してても良い人そうだし……!」
「本当に騙されてたのか……」
不思議な子だな……と、シンディは思案する。
騙し討ちのような形になるかもしれないが、この子なら私と組んでくれるかもしれない……
そして、その思考の裏でもう一つ考える。
「なあアンタ、魔法使いなのは分かるが、冒険者ギルドには仲間を探しにきてたり?」
「えっ!?なんで分かったんですか!?」
「当たりか!いや、分かったんじゃない、そうだったら良いなと思っただけさ。」
「ふうん?その、私、ここに来るの初めてだから、まずは仲間探しから始めないとなとは思っていたんです。お姉さんも良いかなと思ったんですけど、こんなに良い人ならもうお仲間も居ますよね……?」
「いやいや!私も一人さ!仲間が欲しかったとこ!どうだい?良かったら。」
シンディが少女の肩に手を回す。
その組み方は仲間になる為のスキンシップ……と言うよりは、なんだか逃がさない為とも思える力の入り方だ。
「え!?良いんですか!?」
「乗り気だね!じゃあ良いかい?今この瞬間から、私たちは仲間。それで良い?」
「勿論!よろしくお願いします!」
「そうね、良いのね……私達は仲間……それなら!」
少女の肩を掴んでいた拳に力が入る。
ハッ!と少女も気付き、思わず杖を掴んで魔力を込める
次の瞬間……
ガツン!!!
「うぎゃっ!!!!!」
シンディの拳は後方に向かって勢いよく繰り出されていた。
ズズゥン……
倒れ込む音の方向に目を向けると、そこには先程の大男。
倒した時に睡眠魔法をかけていなかった事もあり、大した時間もかけずに復活した後、こっそり忍び寄っていたらしい。
「気付いてねえとでも思ったかよ。あるいは、助けを求める前に攻撃すりゃ手を出さないとでも思ったかい?だとしてもそれも考え済みだよ。」
「私は助けを求められない限り助けない。それはここスタピア王国貧民街を生きる知恵。」
「助けも求められていないのに助けるような奴は縋るだけで金や力を使わせられるカモとしてむしられる。」
「助けを求めたのに助けない奴は仁義に欠ける奴として弾かれる。」
「だが、仲間となれば話は別だ。仲間なら何も言わなくても助けるのが仁義ってもんらしいからな。」
「私達はさっき、あの瞬間から仲間だからな。何も言わなくても助けるさ。」
「でも……」
「お前、後ろから襲いかかるような、そんな事する奴だとは思わなかったよ。」
「…………?あなた達、知り合いだったの?」
「さあな!さっ、ギルドはこっちだ。急ごうぜ!」
ギルドへの道のりを引き続き歩む。
魔法使いの少女はすっかり気が抜けて、ウキウキの表情だ。
「あのさ、さっきはあいつ倒す為に言った感じになったけどさ、仲間になるってのは私本気でお願いしたくて……」
「え!?いやいや、疑う理由無いですよそこ!こっちこそこんな良い人と一緒に居られるなんて嬉しい!って気持ちでいっぱいなんですから!」
「そ、そうか……?それなら良いんだが……」
「良いんですよ!仲間です!冒険者パーティですよ!私達!」
「…………でもよ、まだ自己紹介もしてねえぜ?お前の名前とギルドへの登録クラスは何だよ?」
「……あ、確かに。名前も知らないのにパーティ組むとか変かぁ…………」
「では、改めて……私の名前はソルチア。ソルチア・ネーブレア。クラスはメイジ、魔法使いだよ。」
「私はシンディ・トルキール。クラスはスカウト、探索の知恵と短剣の扱いなら任せてくれ。」
その出会いは必然か偶然か運命か、それはともかくここからこの二人の運命は大きく動き出し、そして二人は出会った。




