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運命のバイオレーター  作者: タクモ蕣
カピバ・セナ海編
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23/26

(23)船上.1

 ――トモエさんの喚声。

「すっごぉ~い!!超きらきらだよ~!!」

――僕は怯える。

「ちょっと、トモエさん……!あまり大声を出すと目立ってしまいますぅ……!」

正装をした大勢の視線が僕らに集まる。

 ここは豪華客船内・娯楽エリア一階の中央に位置する噴水広場と呼ばれる大広間である。ふわふわな赤い床、煌びやかな装飾、船内だと言うのに緻密な彫刻から絶え間なく水が噴き出される噴水。天井は五階層まで吹き抜けで、そこから見たこともないくらい巨大なシャンデリアが吊り下がり、どう考えても場違いな僕らを見下ろしている。

「だって、船の上なのに夢の国のお城みたい!」

シャンデリアを見上げるトモエさんの瞳は燦然と輝く。僕は察する。こうなったトモエさんは誰にも止められない。僕はトモエさんの腕を引いて強引にその場をあとにした。


 僕はトモエさんを人気のない通路まで連れ出した。

「ちょっとリオ、急にどうしたの?人混み苦手?」

「そうではなくて……」

僕はトモエさんの腕を引くので息を切らしていた。

「僕らは無賃乗船の身なんですよ!人目を引いてはいけません!もし捕まってしまったら、トモエさんは逃げられても、僕は逃げられないんですよ!?」

するとトモエさんは唇を尖らせた。

「まぁそうねー……」

ご納得頂けたようで何よりである。

「――でも、凄かったね!凄いキラキラしてて、超綺麗だった!」

「そうですね」

不思議なもので、トモエさんの楽しそうな顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。思わず表情が綻んでしまう。

「あっ、そうだ。良いこと思い付いちゃった!」

「え?何ですか?」

「私たち、この格好だと目立っちゃうよね?」

トモエさんは口角を吊り上げて悪戯っぽく微笑む。

「ま、まぁ、それはそうですけど……」

嫌な予感が僕の全身を駆ける。



 娯楽エリアから階段を下って、宿泊エリア第四階層――。

 客室の一室から綺麗な服装の家族が出てくる。口髭を蓄えた父親、煌びやかな青いドレスを身に纏った母親、そして僕より少し年下と思われる小さな男の子の三人家族だった。家族は和やかな雰囲気で部屋を出てくると、ドアに鍵を掛け、客室をあとにした。

 僕らはその様を物陰から意地汚く見ていた。

「よーし、いい感じじゃない?」

「はぁ……」

トモエさんの目は既に、獲物を狙うそれだった。

「リオは人が来ないか見張っててね」

僕の否応もなしにそう言い残すと、トモエさんは先程の家族の客室の前まで近付き、ドアと床の僅かな隙間に大きな鎌を持ったピエロの柄のカードを滑り込ませる。次の瞬間、トモエさんの姿は廊下から忽然と消え、代わりに部屋に投げ込まれた筈のピエロのカードが廊下に現れ、ヒラヒラと床に落ちる。

 犯罪行為に加担するのは気が引けるが、僕は言われた通りに周囲を警戒しながらカードを見守る。暫くすると部屋の鍵が開けられ、ドアが開き、隙間からトモエさんが顔を出すと、調子の良さそうな顔で僕に手招きをしてきた。僕にも来いというのか?尻込みしていると、トモエさんの表情は「いいから早く来い」という命令めいたものになる。僕は頭の中では逡巡しつつ、一度周囲を見渡して人気がない事を確認すると、ピエロのカードを回収しながら、トモエさんが開けたドアの隙間に滑り込んだ。


 部屋は広くはなかったが細部まで凝った装飾があちこち目を引き、ベッドが三つ並んで鎮座し、その上には部屋着と思われる生地の薄い服がそれぞれ雑に置かれ、一番奥の小さな窓付近の机には食べかけのサンドウィッチが残されていた他、床には旅行鞄が口を開けたままのあられもない姿で広げられていた。僕はそれらを見ないようにしつつ、クローゼットに真っ直ぐに向かうトモエさんのあとを追う。

「いいんですか?こんなことして――」

「良くはないでしょ。悪い事だからバレたら捕まっちゃうだろうね。でも、この豪華客船に馴染むためには必要でしょ?」

トモエさんはそう言いながらクローゼットを開けて中を物色し始めた。

「それは、そうかもしれませんが――」

「大丈夫。あとで返せばいいんだよ。借りるだけ借りるだけ~」

「うーん……」

借りるだけなら良いのか?いや、そんな訳はない。これは良くない事だ。だが、そもそも僕らは追われる身、あれこれ選りすぐっている余裕なんてあるのだろうか?

「――リオ?聞いてる?」

「は、はい、なんですか?」

「リオはコレ着てね!」

子供用の背広を半ば強引に手渡される。

「一人で着れる?」

「着られますけど……!?」

僕はトモエさんを睨み付ける。

「じゃあ自分で着てね~。私は、この赤いドレスにしよっかな~?」

トモエさんはクローゼットから煌びやかな赤いドレスを取り出すと、それをクローゼットの扉に掛け、躊躇もなく服を脱ぎ始めた。僕は慌てて背を向ける。

「リオ?こっち見ちゃダメだよ~」

「分かってますよ!」

……何でいつも事後報告なんだ、この人は。

「ていうか、リオも早く着替えて!急がないと見付かっちゃうよ!」

早くと言われても、本当にこんなことして良いのか、僕は迷う。

 こんなことをして、あの家族はどう思うのか。きっと旅行中で、家族で楽しく船内を遊び回って、美味しいもの食べたりなんかして、良い気分でこの部屋に戻って、そしてこの部屋の惨状を目の当たりにしたら、どんな気持ちになるのだろうか。あの子供はどんな顔をするだろうか。僕は僕の手に吊された小さな背広から、小さな持ち主の姿を連想する。というか、そもそも前提として、あんな小さな子供の服に僕の体が入るのか、甚だ疑問である。

「リオ?大丈夫?やっぱり一人だと着るの難しい?」

「着られますって!僕は九歳ですよ!」

あぁもう、こうなったら自棄だ。僕は何も悪くない。僕は言われた通りにしているだけで、責任は全部トモエさんにあるんだ。兎に角、四の五の言った挙げ句に捕まって、あの塔に戻されるのだけは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。だったら、もう手段を選んでいる場合じゃない。そもそも今ここにいるのだって、幾つもの不当な手段を用いて来たではないか。もう今更ツベコベ言っても変わらないんだ。僕は腹を決めて服を脱ぎ始めた。

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