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運命のバイオレーター  作者: タクモ蕣
帝都デッパリア編
19/21

(19)追跡者.2

 デッパリア城地下・ヴィット本部――。

「――盗まれた宝玉は異能を無効化するのかもしれないね」

「異能を無効化ですか!?」

マヨイは驚きを隠さなかった。一方、隣のラルレインは殆ど無反応を貫く。

「……そんなこと、有り得るのですか?」

「如何だろうね?実際に確かめるまでは判らないけど、でも、今回の件については、どうにも腑に落ちない箇所が幾つかあってね――」

マルゲはすっかりいつものシワだらけの顔に戻り、飄々と人差し指を立てた。

「まず話の前提として、此度の盗人の異能についてだが、“事前にマークした物体の位置座標を瞬時に入れ替える能力”である事は恐らく間違いない。証拠としては、盗人が牢屋から忽然と消えた際に残されていたコインや、ラルレイン君含む警備に当たった兵士達の多数の目撃証言などがある。マークの方法についても兵士達の目撃証言から、異能者が直接触れる事がトリガーとなっている可能性が高い。これらの仮説を前提として話を始めるが――」

マルゲはラルレインは疎かマヨイでさえついて行けない驚異の早口で自身の理論を展開していく。

「――だとするならば、なぜ盗人は逃走の際、自身の異能を使用せずにわざわざ裏門から脱出したのか?それが不可能な異能である可能性についてだが、先の前提での話に例があるように、人間を入れ替える事、また自分自身を入れ替える事は恐らく不可能ではない。それならば何故異能を使用せず、リスクの多い正面突破を選択したのか。それがずっと引っ掛かっていたのだが、君たちの調査報告によって一つの可能性が現実味を帯びてきた」

「……と、言いますと?」

マヨイの表情には疲れが滲む。隣のラルレインは不動を貫き通す。マルゲは何処となくテンションを上げていく。

「それこそが盗まれた宝玉が異能を無効化する可能性だ!それなら全ての疑問点に説明が付く!盗人が裏門を脱出経路とした理由、それは異能が封じられた為。単独ではなく子供を伴って現れた理由、それは自身を戦闘不能状態としない為。そして先程の報告書にあった目撃情報が一昨日ではなく昨日だった理由、それは宝玉を森に隠して一度離脱し、熱りが冷めた翌日に宝玉を回収した為。宝玉が本当に異能を無効化するなら、回収する際は必ず自らの足で移動しなくてはならない為だ!!」

「成る程、確かに筋は通っていますね」

「だろう?という事で、二人には任務内容の変更を命ずる」

マルゲは笑顔を解いて赤く冷たい瞳でラルレインとマヨイを捉えた。

「例の盗人の捕縛はその異能の性質を考えると不可能に等しい。依って、捕獲対象を宝玉を運んでいるであろう協力者の子供とする。まずは子供を捕獲して宝玉を奪う。盗人の確保はそれからだ」

「はい。了解致しました」

マヨイは姿勢を正して敬礼した。ラルレインもマルゲに敬礼する。その異様に真剣な顔に、マルゲは白い目線を向けた。

「……ラルレイン君、君は話の内容をどこまで理解しているのかね?」

そう問われてもラルレインは動じなかった。眉一つ動かさなかった。

「言っている意味は殆ど判りませんでしたが、あの薄黄緑の髪をした子供を保護すれば良いと思っています」

「うむ……。まぁ、間違いではないのだがね……」

マルゲは俯いて眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

「兎に角、君はマヨイ君の言う事をよく聞くんだよ。判ったかい?」

「はい。よく聞きます」

ラルレインはマルゲに改めて敬礼をした。マヨイは呆れきった顔でラルレインの真剣な顔を見上げた。

「(オカンと子供じゃないんだから……)」

すると突然ラルレインはマヨイを捉え、二人は目が合う。

「トコヨノ、よろしく頼む」

「……まぁ、出来ればもう少し脳を働かせてほしいものですが、貴方に頭を使えというのは酷な要求でしょうからね。判りました。私が貴方の足りない脳を補います。ただし、私の言う事は絶対です。決して勝手な行動はしないようにしてください」

「判った。トコヨノに従おう」

ラルレインはキッパリとそう言い切った。だが、マヨイはその確固たる表情が信じられず、その奥を覗き込む。

「頼みますよ……?」

「うむ、任せろ」

ラルレインは自信満々な様子で頷いた。だが、マヨイには全く響いていないようだった。そんな二人のやり取りに、マルゲは思わずクスクスと笑い始める。

「君たち、案外相性は良さそうだね。私の采配は間違っていなかったようだよ」

マルゲは顔を皺だらけにして微笑んだ。

「総督まで……。勘弁してくださいよ」

「俺とトコヨノは夫婦だからな」

「違います。夫婦ではなく夫婦“役”です。貴方、やっぱり何も理解していないじゃないですか!?」

「……そうか」

「悲しそうにしないでください!……気持ち悪い」

ラルレインとマヨイのある意味で息のあった会話に、マルゲは背を向けて歩き出した。マヨイは会話の途中でそれに気付き、中断してマルゲの背を追った。

「――モリアス総督」

「じゃあ、後は任せたよ。私は忙しいのでお暇させてもらうが、もし私の仮説が正しければ相当に重要な任務だ。呉々も気を付けて、そして何としてでも捕まえるんだ。頼んだよ」

「はい、任務は必ず。ただ一つ、意見を求めたい事がありまして」

「……何だね?」

「盗人の協力者の子供ですが、年端の行かぬ子供を協力者とするのは少々違和感を感じます。こちらの子供もバイオレーターである可能性はないでしょうか?」

マルゲは振り返らなかった。

「その可能性は大いに存在するだろうね。気を引き締めて取り掛かり給え」

「はい」

マヨイはマルゲの背中に敬礼をした。マルゲはそれを気配で感じ取り、背中越しに手を挙げてマヨイに激励を送ってから、ヴィット本部を後にした。


「……逃がさないよ。リオネット……!!」

そう一人呟くマルゲの表情は酷く歪み、瞳ははち切れそうなほど血走っていた。

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