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グレイ・スカイ ー解放への闘諍ー  作者: 嶺司
バルセル・グレイニア戦争
60/84

第60話 守れ

突然の従兄、サヤからの電話だった。よく私がここにいるのがわかったな、まあ、暗部も手の内だし調べればすぐにわかるか。特に気にするのは止めた。


「あら従兄さん、どうしたの?」

「ああ、単刀直入に言おう。グレイニアにツルギがいる可能性がある、偵察の資料を王宮のガードナーに回してくれ」


私は耳を疑った、ツルギちゃんが生きてる?そんなはずは無い、従兄さんは確かに死んだと言っていた。


「え?でも従兄さんは死んだって言ってなかったかしら?」

「それは世間的にだ、まあ初めは本気で殺す気だったが・・・、今となってはどうでもいい」


少し言葉を濁す従兄さん、何か隠しているなと直感で感じる。


「ちょっと従兄さんどういうことなの!?今からそっちへ行きます!」

「えっ?いや、来なくていい!資料だけ送ってくれれば!」

「私が直々に持っていきますので、従兄さんはそのつもりで」

「あ、ああ、わかったよ。気をつけてな・・・」


ガチャ。逃げるように電話は切れた。

いくら私が従妹と言えども昔から彼は私の押しに弱かった、グイグイいくといつも勝手に折れてくれる、扱い易くてよろしい。表では昔から威張っているように見えるが、私から見たらただの普通の従兄だった。


それにしても従弟のツルギちゃんが生きている・・・・・・。エルゲート空軍としてローレニアに来ていた彼を撃墜し、捕まえたサヤ従兄さんは彼を見せしめに死ぬように仕向け、彼はエルゲートの監視団に撃墜されたと聞いている。


世間的には彼は亡命したことにはなっていない、文章上は血迷った王子が非武装地帯に侵入し撃墜された、それだけだった。

なのに、生きている、か・・・・・・。


「誰からだったんですか?」


不安そうに聞いてくるリルス、他に人がいるのを忘れていたわ、つい普段通りに喋ってしまった。


「サヤ従兄さんよ」

「えぇぇぇぇっ!?国王陛下にそんな感じでいいんですか!?」


まあ、そうなるわよね。


「いいわよ別に、私にとってはただの従兄だし」

「えぇぇ・・・・・・」


まさに絶句、と言った感じだ。

そして本題に入る。


「ゾフ隊長、陛下に王宮に来るように言われましたので数日休暇をお願いします」

「え?ああ、それは別に大丈夫だけど・・・」

「ありがとうございます、それでは早速行ってきますので。リルス、私のいない間に変なことしないようにね」

「え、あ、はい」


お嬢様モードとなった私は、颯爽と隊長室を後にし資料をまとめて戦闘機に乗り込んだ。


●


数時間後、王都サヤツィオ


直轄部隊の飛行場に着陸した私は、王宮敷地内にある実家の自分の部屋で正装に着替えて、サヤ従兄さんの思惑を確認するべく使用人に資料を持たせ、廊下を足早に歩いていた。


全く、ツルギちゃんが生きている?しかもグレイニアで?ならばどうしてここへ帰らせないのかしら、叔父さんもそうだったが、あの人は死んだと言うのに律儀にもあの子の王位を剥奪も抹消していない、ツルギちゃんは正当な王位継承第1位の人物なのだ。


執務室の前についた、私はその扉を力任せにバーンっ!と開いた。


「わっ!シール!お前、もっとおしとやかにだな・・・・・・」


ギロっと私が睨むと喋るのを止めてしまう国王陛下。


「ありがと、あなた達は外してちょうだい」


資料を私に差し出しサササッと部屋を後にする使用人、さてと、何から話しましょうか。


「はい、お望みの資料。ガードナー見当たらなかったから貴方から渡してちょうだい」

「あ、ありがとう、助か・・・」


彼がその資料を手に取ろうとすると、私はスッとそれを引き戻した。


渡す前に、だ。


「ツルギちゃん、生きてるの?」


困り顔をするサヤ従兄さん、10年前なら可愛かったけど今は笑ってしまいそうだ。


「元々ツルギは死んじゃいない」

「どういうことかしら?」


ポリポリと頬を掻きながら答える従兄さん、ニコニコと笑いながら彼を見ると若干冷や汗をかいているように見える、一国の国王が私なんかにビビらないで欲しい、みっともない。


「殺す前に逃げられたんだよ、うちの諜報員が裏切ってさ。あいつが生きてると親父派の議員達があいつを担ぎ上げて俺と対抗しかねんかったからな、だからとりあえず死んだことにしたの、ツルギも自分から表に出てくることはないと思って」


「え、自分の保身のために実の弟を殺そうとしたの?!何それドン引きなんですけど、そりゃ嫌われるわよ・・・・・・。それに自分の手駒に裏切られるなんて」

「そいつツルギと案外仲良かったんだから仕方ないだろ。スパイの癖に友情を優先しやがって・・・・・・」

「はー、甘いのやら優しいのやら、逃がしたのもわざとじゃないの?」

「・・・・・・そんなことは、ない」


他所を見ながら言う従兄さん、この人変なところが優しいのよねぇ。


しばらく兄弟喧嘩のようなことが続く。


「で、結局なんで殺さなかったの?」


彼のことなら地獄の果まで追いかけて目的は達成しそうだが、なぜそうしなかったのだろう。


「しばらく行方不明で、見つかった頃には紛争も終わりかけ、反体制派も弱り切ってたし、今更殺しても仕方なくなったんだよ。殺さなくていいなら殺したくないし・・・・・・。んで、またそっから行方不明なの!」


なるほどねぇ、まあ、あの子が家出してエルゲートに亡命した時にはかなりショックを受けていたみたいだし、本当に殺そうとは思っていなかったのでしょう。

しかし、この私にそのことを秘密していたなんて、それはそれで許せない。


「そう、それならなんでツルギちゃんを探してるのかしら?」


意地悪ついでに聞いてみる、問題はそこだった、殺す必要が無いのなら探す必要も無いだろう。まさか、ここに引き戻そうとしているのかしら?


「言えるわけないだろ、そんなこと」


私に背を向けて窓から外を見てしまうサヤ従兄さん、何をそんなに隠す必要があるのだろう。


「そう、まあいいわ。ツルギちゃんが生きてることがわかっただけでも良しとしましょう。はい、資料」

「ん、ああ」


私は今度は素直に資料を渡す。


「それじゃ、私は帰るわね」

「え、飯ぐらい食べて帰れよ、ヒナ達もみんな喜ぶ」


ご飯か、もう何年も従兄さんや従兄弟達とはご飯を一緒に食べてないな、正直その誘いは嬉しかったけど。


「私も忙しいの、じゃあまたね、お従兄様」


私は深々とお辞儀をしてこの執務室を後にした。


●


9月19日、夕刻。

ゼイセル基地。


久しぶりにきた私宛ての電話の対応のために、今度は当直室に来ていた。まあ、どうせ従兄さんでしょう。

初めは本人から掛けて来ないだろうし、当直の兵は焦るでもなく普通に対応していた。


「はい、シール・ローレです」

「サヤだ、今大丈夫か?」


大丈夫も何も、わざわざこの為に時間を割いて来ている、夕食を食べた後に夜間偵察が控えているから、要件は早く言って欲しい。


「大丈夫よ、どうしたの?」

「・・・・・・ツルギが見つかった、F-35に乗ってトモパーレにいる」


F-35に乗ってトモパーレ?先日偵察中に見つかり、私たちの対応に来た青迷彩のF-35が頭をよぎる。


「あらそう」


とりあえず平常心を装って相づちをうつが。


「部隊マークは黄色の一本線、機番号001、イエローラインの隊長だ、相変わらずだな、あいつは」


え、あの私の後ろにいた機体にツルギちゃんが乗っていたの?私はなんで気づいてあげれなかったのかと思うが、そんなことあの時思いもしなかっただろう、死んでるものだと思っていたし。


「そう・・・・・・」

「嬉しくないのか?なんならもう会ってるみたいだが」


ああ、あのカメラ映像も見たのか。360度カメラにはバッチリあの機体が映っていたからね。


「嬉しいわよ。で?私にどうして欲しいの?」


少しの沈黙が流れ、わたしは受話器のコードでくるくると手遊びをする。


結局のところ、従兄さんは私にどうして欲しいのか、早くそれが知りたかった。探すだけ探して何もしない訳が無い、まあ、だいたい分かってはいたけど。


「・・・・・・あいつに何かあったら、守ってやってくれ」

「あら、優しいのね。殺そうとしてたのに」

「うるさい・・・・・・」

「でも、いくら私が直轄部隊だからってそんな簡単には動けないわよ?」


そう、直轄部隊の直轄権が発動するのは有事の時のみ、今はこの飛行場の所属だし、いくら編隊長と言えども好き勝手なことは出来ない。


「俺の名前でも出しとけ」

「もー、強引ね」


確かに有事と言えどもその明確な決まりはない、国王が必要と判断した時が有事なのだから、従兄さんの名前を出せばどうにかなるかもしれない。しかし、これはあくまで強引な手段、あまり使いたくはない方法でもある。


「いずれ俺もベールクトでそっちへ行く、その時はよろしくな」


あら、従兄さんがあのSu-47でこっちへ来るとなると。


「また忙しくなるのかしら?」

「まだ言えん」


どうせ覇権主義の彼のことだ、漁夫の利を狙ってバルセルに攻撃を仕掛けるつもりなのだろう、むしろこの戦争も想定内だったりするのか。だからこの基地周辺に戦力を集めていたのね、納得。

先の戦争では、私は王都でお留守番だったし腕が鳴るわ。


「ツルギのことは頼んだぞ」

「ふふふ、はいはい仰せのまはまに、陛下」

「ったく、じゃーな・・・・・・」


切られてしまった、ちょっと意地悪だったかな?

そして、私は受話器を置き、陛下と言った私を目を点にして見ている当直兵に「ありがと」とニコッと笑って部屋を後にした。


●


戦況は最悪だった、あとがないグレイニアはこの戦争を終わらせるために一か八かの賭けに出た。


バルセル国境の都市、セレクレア侵攻。


バルセルが私たちローレニアを警戒してグレイニアへの攻撃の手を緩めたのを見計らい、防衛のために各地へ点々としていた陸軍が集結、空軍と共に一大反攻作戦に出たのだが、これまた消耗戦。


私とリルスで上から見ていたけど、上手くいく気がしない作戦だった。


グレイニア解放陸軍2個師団の内、1個師団が出撃、特殊部隊も投入、空軍も全力、若干グレイニアが押している気もするが。


《このまま押し切れますかね?》

《そうねぇ、バルセルとグレイニアの戦力差は歴然、空軍が頑張ってるおかげで何とか耐えてる状態だからね、無理でしょう》


むしろ今まで耐えている方がおかしいのである、開戦して約二ヶ月、少し戦線が下がったとは言えグレイニアはバルセルの侵攻を食い止めている。


従兄さんからの情報によるとエース級が2人戦死し、今は20歳のF-15パイロットが隊長をしているらしい、それだけ聞けば可哀想な事この上ないが。上で見ている限り、彼は、彼たちは強かった、近衛飛行隊でもやっていけそうなぐらいの見込みはあった、のだけど。


しかし・・・。


何かの糸が切れたかのように空戦で次々と被弾していくグレイニア戦闘機、ツルギちゃんの僚機がエスコートして帰っていくが、また1機被弾、片翼を失うも辛うじて飛んでいて、残ったのはツルギちゃんと二枚葉のマークのF-15の2人だけ。


自分の命よりも他人を優先する、相変わらずね。


そして、彼が対峙するのは白色の変な色をしたF-22と緑色のF-14が6機。これじゃいくら王家直轄近衛飛行隊にいたツルギちゃんでも勝てないだろう。


亡命したエルゲートのためならともかく、何故あの子はこの国のために戦っているのだろうか、命令にしろ普通は自分の命を大切にするものだ。


いや、あの子は普通じゃなかった。


自分より他人優先、昔からツルギちゃんは周りに優しかった、これが従兄さんとの兄弟喧嘩の原因であったりするのだけどね。


《ソルーダ》

《はい?》


従兄さんの命令を実行する時が来た。


《直轄権を発動、陛下の命によりF-35とF-15を援護します》

《えぇぇえっ!?それって!》


宣戦布告無き開戦、ローレニアがバルセル・グレイニア戦争に介入することを意味する。いや、用意周到な従兄さんの事だ、ことが始まる前に手配しているだろう。


《貴方は来なくて結構よ、バカみたいに強いのがうじゃうじゃいるからね》

《王女を1人で行かせる訳には行きません!》


私が機体を回転させて地表を見ながら戦闘空域に降下していくと2番機ソルーダも後ろをピッタリと着いてくる、彼女と空戦は戦ったことないけどお手並み拝見ね。何故か私を守ろうと使命感に燃えてるみたいだし。


《死ぬんじゃないわよ。クロウ、交戦》

《頑張ります。ソルーダ、交戦!》


そして、ツルギちゃん達が2人で相手している空戦の中に突っ込む。7対2でよくあそこまで戦えるな、私はついつい感心してしまった。


そして、無人機を先行させ数的不利の中、ツルギちゃんに迫り来る敵機を追い払う。


《ソルーダ、F-15の後ろについて援護してあげて》

《ソルーダ、ウィルコ。隊長は!?》

《無人機で撹乱するわ》


そう言ったものの長く持ちそうにない、敵のF-22は常識を超えた強さで、無人機の放ったミサイルはラプターに当たる前に爆発し、私の無人機の有人機には無理のある理不尽機動に簡単についてきていてすぐに1機落とされる。


まずいわね・・・。


次の作戦を考えていると。


《俺もいるぞ、ランスロット1、交戦》

《間に合ってよかった、ランスロット2、交戦》


私のすぐ両側を前進翼の珍しい形をした片翼を赤く塗った機体と、私と同じく両翼を赤く塗った暗灰色のSu-47が2機掠めて行った。

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