第59話 従兄弟
9月9日。
《こちらクロウ、偵察終了、帰投します》
私は高高度からリルスと、UAV3機を引き連れてバルセルとグレイニアの偵察を行っていた。
第二次グレイニア紛争終結後に起きた、俗に言うバルセル・グレイニア戦争。
その開戦理由は酷いもので、紛争にてバルセルはグレイニアに武力支援をしていたのだけど、戦勝報酬として領土の割譲を要求したのだ。そんなのグレイニアに飲めるはずもなく開戦、現在はなんとかグレイニアが戦線を維持している状態だった。
《私たちに気づかないなんて、グレイニアってよっぽどいっぱいいっぱいなんですかね?》
リルスの言うことはもっともだ、私のSu-57単機ならまだしも、ステルス性能に劣るSu-37と一緒に飛んでいるのにこの数日の偵察でグレイニア機はおろか、バルセル機すら対応に来なかった。
《どうでしょうね、ローレニアと分かってるからグレイニアは対応してこない、って可能性もあるわよ》
《うそだぁ、そんなことはないでしょ》
この数日一緒に飛んでいてやっとリルスは崩した言葉で話してくれるようになっていた、他のパイロットはまだ固いがそれだねでも私は嬉しかった。
《まあいいわ、帰りましょう》
《ソルーダ、ウィルコ》
●
9月12日。
アルサーレ上空を偵察中。
雲を映さない特殊な赤外線モニターに表示される地表の様子を観察していると、いつもと様子が違った。
《これは・・・、ソルーダ、どう思う?》
《格納庫が倒壊して戦闘機がいないですね・・・、対空車両はそのまはまのようだけど、何かあったんでしょうか?》
数日前に偵察した時はこんなに荒れ果ててはいなかった、いったい何が・・・?
《近くの基地も偵察してみましょう》
《ソルーダ、ウィルコ》
状況確認のためにアルサーレ近郊の基地を偵察することにした。まずは1番近いトモパーレ、帰りにカルシューレを見ることにしよう。
そして、トモパーレにつき地表を確認する。
飛行場に戦闘機は見当たらない、いるとしたらここだと思ったが見当違いだったかな?それとも機体は格納庫に収められているのか。
もしそうだと状況から察するに、アルサーレへ攻撃を受け戦闘機隊はこのトモパーレへ避難してきた、と考えるのが妥当だろう。
《戦線が後退しちゃってるなぁ、大丈夫ですかね?》
《どうでしょう、まだ様子見かしらね》
ここからでは戦力がどうなっているか分からない、静観するのが妥当と思えた。
《あ、戦闘機が出てきましたよ》
《あら、やっぱりここにいたわね、私たちに気づいたかしら?》
モニターを見ると薄灰色のF-15が6機、黒色のF-15が2機、鹵獲したらしいSu-27が1機が滑走路に向かっている、ついに気づかれたか?しかも、F-15が増えている、いつの間に戦力が増えていたのか。
しかし、その不安は当たらずゼイセル基地から連絡が入った。
《ーーバルセルがアルサーレへの攻撃を開始した、再度偵察の後帰投せよーー》
《クロウ、ウィルコ》
《ソルーダ、ウィルコ》
それで戦闘機が出てきたのか、ここは高高度、アルサーレとトモパーレはそんなに距離が離れている訳では無いが現在アルサーレは雲がかかっている、もう少し近ずいてさっき使った赤外線カメラを使わないと状況が分からない。
私たちは旋回して再びアルサーレ上空へと急いだ。
アルサーレ上空。
状況は酷いもので、バルセルから地対地ミサイルが飛来し、それをエルゲートの高射部隊が迎撃していたが何発かは対処しきれず街に着弾し黒い煙が空に漂っていた。
そして、トモパーレを離陸したはずの戦闘機は、黒色のF-15が2機だけここに来た、他の機体はどこにいったのだろうか。
《あれ?灰色がいないですね》
《そうね、アルサーレの状況はわかったから、もう一度トモパーレへ行ってみましょう》
《えぇっ!また!?》
リルスは面倒くさそうに嫌がっていたが、燃料にはまだ余裕があるし、他の戦闘機の行方も気になる、さっきも言ったがそんなに遠くない、我慢して欲しい。
そして、急ぐ作戦でもないのでゆっくり辺りを観察しながらトモパーレへ向かう。
そこへ着くと空戦が始まっていた。
F-35、青色のエルゲートの戦闘機3機が緑色の敵バルセル機を迎撃している。
どうやら敵の一大攻勢のようだ、グレイニアの飛行部隊はバラバラになって作戦を展開しているらしい、黒色がアルサーレの防衛、青色がトモパーレの防衛、灰色はどこかに向かっているのだろう。
《あのF-35、凄い連携ですね》
こちらの空戦はと言うと青色の圧倒的優勢、数的不利なのに次々と飛来する敵機を落としていた。
上から見ていてもその凄さがわかる、初っ端は1番機らしい機体が敵の中に突っ込んで敵の隊形を崩れさせると、2、3番機が隙をついてそれを落としていく。それで落とせなかった敵は1番機が囮となって引き付け、先程の僚機が対処するのだが、理不尽な機動で空を回ったと思うと追われていた1番機が、僚機を追う敵機を落とし、自らを追う敵機を落とす、私でないと見逃していただろう。
《あの3機ね、前の戦争で私たちをコテンパンにしてくれたのは》
私たち、と言っても近衛飛行隊やゼイセル飛行隊のことを言ったのでは無い、ローレニア軍全体のことを言ったのだ。
当時と機体をの種類は違うが多分そうだろう、直感でそう思った。
《えぇっ、どうします?》
《どうするって、どうする気なの?》
《あ、いや・・・》
《グレイニア、ましてやエルゲートとも戦争状態には無いの、落ち着いてちょうだい》
《・・・・・・ウィルコ》
リルスには前の戦争で何かあったのか、下手をするとあいつと戦うとか言い出しそうで怖い。しかし、私たちとあいつらは今や敵ではないのだ、もし、誰かの仇とは言え大人の対応をとってほしい。
《でも、もしそうだとしても1番機は陛下が撃墜したと・・・》
《そうね、補充でもあったのでしょう。あの時の1番機は深青色と聞いてるけど、今の1番機はエルゲート汎用の青迷彩みたいだし》
彼女の言うとおり、終戦直前にあの3機の1番機は戦場に赴いた従兄さんが撃墜した、と聞いている。その時とは別人だと思われたが、少し前に見た資料にある戦い方は何ら変わってないに思える。
無謀にも程がある囮戦法。
ビ、ビ、ビ・・・・・・。
あら、バレたかしら?
コックピットに電子音のアラームが響く。
《大尉、レーダー照射を受けてます!!》
《そのようね、敵ではないわ、落ち着いていきましょう》
するとさっきまではるか下で飛んでいたはずのF-35のうちの1機が、下からものすごい勢いで上昇してきたと思うと私たちを飛び越え、クルっと反転して降下しピッタリと私たちの斜め後ろについた。
エルゲート汎用青迷彩の機体色で垂直尾翼には斜めに描かれた黄色の一本線、間違いなく先の戦争で活躍していた「イエローライン」だ。機番号は001、同じ人物?いやいや、たまたまだろう考えすぎだ。
コックピット内を見たくても、ちょうど太陽が反射して見えない。見えたところでなんだ、という話でもあるけど。
しかし、やってきたのが真後ろでは無い事を考えると我々に攻撃してくる意思は無いのか?しかし、それでも私の周りには無人機が飛んでいる、もし何かあればそれで対処すればいいだけだ。
《大尉!》
《そのまま、何もしちゃダメよ》
しばらく一緒に飛んでいてもF-35は私の斜め後ろにピッタリついたまま何もしてこないし、話しかけてもこない、数秒の沈黙も何分も続いているように思われた。
このパイロットが男か女かは分からないが、彼の威圧感は尋常ではなかった、まさに従兄さんに後ろにつかれた感覚に近かい。
《ちょっと、ソルーダっ!》
すると、何を血迷ったのか気を利かしたつもりなのか、彼と反対側の私の斜め後ろを飛んでいたソルーダが旋回して、F-35の後ろにつこうとする、これではこちらに攻撃意思があると思われても仕方ない。
《くっ、なっ!?》
そして案の定、それは見事なコブラマニューバでF-35の後ろにいたはずのSu-37は空中に止まる奴を追い越し、無惨にも後ろをとられていた。ただ真っ直ぐ飛んでいるだけなのにその機動は理不尽だ。
《そんな・・・・・・》
彼女も何故対応できなかったのかとショックを受けている様子、だが、気が気じゃないのは私の方だ。この状況、対処できなくもないが無用な戦闘は避けるべきだ、F-35が何もしてこないのを祈るしかない。
《バカ!動いちゃダメよ》
そうやってピッタリ後ろにつかれたまま飛び、ゆっくりと北に進路を変える。
するとF-35は機体をクルっと右に回転させ、そのまま地上に背を向けて降下していった。
ただこの空には何も無かったかのような空気だけが残る。
《・・・・・・帰りましょう》
《ソルーダ、ウィルコ・・・》
●
基地に帰るとゾフ飛行隊長への報告に向かった。
小さな隊長室の簡素な椅子に座っていた隊長は、私たちが来ると立ち上がって、ゆっくりエレメントのリルスち歩み寄り一言。
「リルス、全部カメラで見てたぞ、無茶しやがって」
「いっ!」
バインダーで彼女の頭を叩くゾフ隊長、しかも角で叩いている、あれは痛そうだ。リルスも涙目になっていて、あまりの痛さだろうか、彼女はしゃがみ込み頭のてっぺんを必死にさすり悶えている。
「シール大尉もスマンな、あいつ先走る癖があってなー」
あーあ、よく何事もなく帰ってこれたよ。とため息混じりに再び椅子に座るジフ隊長。彼もようやく私の事を王女として意識しなくなってくれたのか、ラフに話しかけてくれてやり易くなっていた。
「先走ってない!私は何があってもいいように対応しようとしただけでっ・・・・・・」
「それを先走ってるって言うんだよ!相手はイエローラインだぞ、お前なんか鼻くそ以下だ!」
バンッ!と威圧的に机を叩く彼、怒られてないのに私までビクってとしてしまい、怒られた当の本人は。「す、すいません・・・」と萎縮してしまっていた。
「いや、失礼失礼、たまにキツく言わないとこいつすぐ調子に乗るんだよ」
その言葉を聞くとプーっと膨れっ面になるリルス、確かにそのようだ。
「いえ、私の方こそまさか見つかってしまうとは・・・」
正直にこれは失態だった、今まで全く見つかっていない事もありどこか油断していたのかもしれない。
「いやいや、見つかったところでグレイニアがどうこうしてくる問題でもない、想定内さ。ただし、バルセルでは見つからないようにしてくれよ?」
「わかりました」
フォローされたようで釘を刺される。近衛飛行隊の名前を汚さないようにしなくては、従兄さんに怒られてしまう。
プルルル・・・、プルルル・・・。
飛行隊長のテーブルにある電話が鳴る。
「ん?ちょっと待ってくれ。・・・・・・ああ、ゾフだ。・・・・・・ああ、シールならここにいる。え?・・・・・・本人がいいって言ってるんだからいいだろ・・・・・・」
また、私の事で揉めてるのかな?ホント、適当でいいのに。
すると彼は受話器を私に向かって差し出す。
「ん、君宛に電話だ」
誰だろう、私はその受話器を手に取り耳に当てる。
「はい、シール・ローレです」
「シール久しぶりだな、サヤだ」
落ち着いた低い声で受話器の向こうの人はそう言う。
電話の相手は私の従兄、現国王サヤ・アルシューレ・ローレだった。




