第52話 自由に捕らわれる
1400時、トモパーレ基地。
運良く俺たちブルー隊とグレイ隊は1人も欠けることなくここに戻ってくることが出来た。黒木さん達には申し訳ないけど・・・。
滑走路に無事着陸し、機体を駐機場に止めてコックピットから降りる。
空もいいけどやっぱり陸の方が地に足着いて安心出来るな。
続いて、俺の機体の横に駐機して、コックピットから降りた水咲さんと啓が俺の所へ歩み寄ってくる。
結構無茶なことばっかりした、啓の鉄拳制裁が来るかと思って身構えるが何も起こらない。
「お疲れ様、剣くん」
「お疲れ様でした」
「あ、ああ、お疲れ!」
変にビビって返事に遅れてしまう、それに気づかない啓ではなかった。
「なんですか?」
「あ、いや、結構無茶したから殴られるかと思って・・・」
隠しても仕方ない、正直に言うと。
えっ、と蔑んだジト目で睨まれた。
「殴られたいんですか?隊長、変態ですね」
「ちっげーよ!!」
「えー、剣くんそんな性癖になっちゃったの?」
「だから違うって!!」
戦闘後の開放感からなのか2人ともやけにいじってくる、他のやつに聞かれたらどうする!俺は至ってまともだ!
「レイっ!」
突然、飛行場にチグサの叫び声が響いた。
俺たちは顔を見合わせて、急ぎ声のした方向へ走る。
駆け寄ると機体の傍でレイが倒れ込み、チグサが必死に名前を呼んで声をかけていた。
「レイが、レイが・・・」
涙を目じりに滲ませ俺に助けを求めるチグサ、辺りを見ると。レイのものだろう血の混ざった吐出物が地面に広がり、泡を吐いて彼はぐったりしていた。幸い痙攣はしていない。
「何があった?」
チグサ、ナナリス、ルリさんの方を見ると。
「コックピットから降りると急に吐いて倒れちゃって・・・」
ナナリスがアワアワとしながらも説明してくれる。
原因不明か、首元に手をやり脈を測るがちゃんと動いているがちょっと遅い、とりあえず医務室に連れていかないと。
俺はレイを背負い、医務室へと急いだ。
※
「いてててて・・・」
何だか手のひらが締めつけられて痛い。
重たい瞼を開くと白くて広い天井が広がり、右側には点滴が見えた。なんだかしばらく前に見た光景だ。
なんで??
「「レイッ!」」
「のふっ!」
わけも分からぬまま、いきなり両側から視界に現れたチグサとナナが僕に覆い被さる。
コックピットから降りて急に目眩がしたことしか覚えていない、でもここで横になってるってことは、そのまま倒れたのかな?
「もう心配したじゃない!」
「死んだのかと思ったぁぁぁん!!」
2人ともわんわんと泣いている、別に一緒に帰ってきて被弾した訳じゃないんだからそんなに泣かなくても・・・。
でも、僕が思ってる以上に彼女達は僕の事を心配してくれてるんだなと、何だか嬉しかった。
「目を覚ました事だしもう大丈夫ね」
チグサの後ろに、迷彩服の上に白衣を着てメガネをかけスラッとした見慣れない女性が立っていた。医務官かな?初めて会った気がする。優しそうな柔らかい顔つきで、サラサラなロングヘアがとても印象的だった。
「えっと僕・・・・・・」
なんでここにいるか分からない、医務官らしい人に聞くと。
「私はウエリ医官。ただの過労よ。あなた達、1番年下の子にこんな無理させるんじゃないわよ」
「もっ!」「ぺっ!」
ウエリ医官という人にバインダーで頭を叩かれるチグサとナナは変な声を出して頭をさする。縦で叩かれなかった分、ウエリさんという人の優しさを感じるが・・・。
「彼女達のせいじゃありません、僕が弱いから・・・」
こんな所で寝ている場合じゃない、頭を起こして起き上がろうとすると。
ツンっとウエリさんに人差し指で額を押されると、僕の身体は力なく再びベッドに倒れた。
あれ??
「ダメダメ、今日明日は休みなさい」
「しかし、隊長の僕が抜ける訳には!」
力が入らない体にムチを打って、再び起き上がろうと必死になって足掻く。
「あなた、死にたいの?」
さっきまで優しそうな看護師の先生みたいな感じだったのに、蛇のように睨みつけられ、じっとせざる得なくなる。
「無理させてごめんねレイ、ツルギさんたちもいるからちょっと休んでて」
「僕の方こそ・・・」
チグサのせいじゃない、突然隊長になったり、戦闘が続いたりでそりゃ忙しくて大変だったけど、こんなに身体にガタがきているなんて思ってもいなかった。
「ルリさんは?」
「・・・・・・なに?」
ナナの後ろからヒョコッと顔を出すルリさん、相変わらずちょこちょことして可愛い。
「チグサとナナの事、お願いしますね」
「・・・・・・わかった」
僕の手を小さな手でギュッと握ってくれるルリさん、その暖かい手のひらに少し安心した。
「もぅ、明後日には復帰なんだからぁ」
「レイ心配性ぉ」
「いててっ」
2人にペシペシと叩かれる。そりゃ心配だよ、好きな人を僕が不在の間に失いでもしたら、今度こそおかしくなってしまう。
「ほら、病人は寝る!面会終了!帰った帰った」
ウエリさんがシッシッと3人を出口へと追い払う。
「あぁん!れーいー!」
「ちゃんと寝るのよ!」
「・・・・・・待ってる」
僕はその声に片手を上げて答えると、バタンと扉は閉ざされ、面会謝絶という看板が窓ガラスに貼られてしまった。
ツルギさんにも会っておきたかったけど、仕様がないか。
「君も騒がしい同僚がいて大変ね」
戻ってきて点滴を調節しながら少し笑って言う彼女。確かに騒がしい、ナナリスとか特に、だけど。
「楽しいですよ、意外と」
僕もちょっと笑って返した。
「そう、ならいいわ。よほどの緊急事態じゃない限りここからは出さないからね、ゆっくり寝なさい。何かあったらそこのボタンを押して、わたしは隣の部屋にいるから」
枕元にあるナースコールのようなスイッチを確認する。
「一応時々見に来るけど・・・、変なことしちゃダメよ」
ニヤッと笑うウエリさん。ん・・・?はっ!
「しません!!」
まったく、何を言い出すのかと思えば・・・。もう僕は観念してるし、何かをする元気もありません。
「フフフ、じゃ、おやすみなさい」
何だか怖い笑い方、身震いしてしまう。
そして、急に静かになった部屋、静か過ぎて耳の奥がキーンと耳鳴りしている。
寝ないと何言われる分かったもんじゃない、しかし目を瞑っても、さっきの空戦がフラッシュバックし目を瞑っていられない。
大爆発を起こす爆撃機に、被弾し落ちていく味方機、操縦桿を必死に操作してミサイルを躱していたつい数時間前の光景。
嫌でも心拍数が上がって息も早くなってしまう。
ツルギさんの元同僚のクロキさんの部下も僕の統率ミスで撃墜されてしまった、そんなことばかりが頭を過る。
あの時こうしていれば、ああやっていれば・・・。
ダメだダメだ、終わったことをクヨクヨ考えても仕方ない、次にどう生かすかだ。僕は頭を左右にブンブンと振って寝返りをうつと、目の前に隣の部屋に行ったはずのウエリさんの顔があった。
「わっ!」
「手首にセンサーつけてたんだけど。あなた、大丈夫?脈拍上がってるわよ」
タブレットの画面を見せてくれる彼女、その数字は200近くまで上がっていた。
自分の左手首を見ると確かに腕輪みたいなものがされている、そのセンサーとタブレットが繋がっていて心配になって見に来てくれたのかな?申し訳ない。
「ちょっと色々と思い出して・・・」
「でしょうね、パイロットって大変そうだもの。で、なに?手でも繋いでて欲しい?」
「大丈夫です!」
顔を真っ赤にして拒否する、そんな子供じゃありません!まあ、だいぶ前にはルリさんとかに添い寝してもらった事とかあったような気がするけど・・・・・・。
って、それって僕は子供なんじゃ・・・、だからみんなにガキって言われるのか・・・、悲しくなってきた。
「気にしなくていいわよ、こっちだって寝てもらわないと他の仕事ができないし」
そんな昨日今日会ったような人に頼める事じゃないです!せめてチグサにお願いしたい!だけどみんな忙しいし・・・。
「誰にも言わないから」
お色気たっぷりにウィンクされた。
「じゃぁ・・・・・・」
ウエリさんは柔らかそうな雰囲気とは裏腹に、ニヒヒと意地悪そうに笑って、僕の左手を両手で優しく包んでくれる。ルリさんの手のひらより少し大きくて暖かい、変な意味で緊張するが、そのおかげなのか嫌なことは思い出さない。
気がついたら僕は眠っていた。
●
はっ!ここは!
気がつけば辺り一面真っ白な空間に僕は立っていた。
ここは、確か僕が被弾した時に見た夢と同じように思える。
てことは、シンが・・・・・・。
ダメだ、合わす顔なんてない、早く目を覚ませ!と自分の頬をバシバシと叩くが目が覚める気配はない。
すると目の前に黒い霧が集まり、僕そっくりの人影が完成した。
シンっ、ごめん、僕、アサギさんを・・・。
涙が溢れシンに謝りたくて手を伸ばすが、彼に触れることも出来ずに僕は真っ白な地面にそのまま手を着いてうづくまり、ただ涙を流す。
何も言ってくれないシン。
僕は泣くことしかできない。
涙が目から溢れ、地面についてもスッと直ぐに消えてしまう。
ごめんなさい・・・。
真っ白な地面をこれでもかと殴りつける。
ドン、ドン、ドン、と何回も。
「レイのせいじゃないよ、姉ちゃんもそう言ってた」
え?
顔を上げるとシンはしゃがみこんで、僕の目の前にいた。
顔はニコッと笑っているが、目じりには涙のようなものが見えた気がする。
シンは、涙を流し鼻水も垂れているであろう僕を優しく抱擁してくれる、しかし、そこに感触はないし、温かみもない。霧を抱いているような感じだ。
アサギさんは?
「来るわけないじゃん、こんな姿見せられるかって」
また、ニコッと笑うシンは見間違いではなく目じりから涙が一筋流れていた。
そうか、そうだよね・・・。
「伝言はあるよ」
僕は涙をゴシゴシと拭き、それに聞き入る。
「もう、自由に生きろって。じゃあね」
それだけを言うと、フワッとシンは僕の返事を待つことなく黒い霧となって消えてしまった。
なんなんだよ、自由に生きろって。
どうしたらいいんだよ・・・。
バカにしてんのかよ・・・。
こんな僕が何でもで来るわけないじゃんか・・・。
いや、それならやりたいようにやってやる。
いろんな技術を身につけてアサギさんを超えてやる。
これから僕らは取り留めのない自由の果てに
騙され、踊らされ、生きていくんだ。
何も考えず過ごすだけで褒められる日々は二度と戻らない。
躊躇なんてしてられない。やるべきとをやるんだ。
逃げ場なんて今更ない。
引き返せやしない、戻れやしない。
それでも最後に笑うのは僕らだ。




