第53話 つかの間の休息
ガバッ!
勢いのまま起き上がると、誰かが僕の手を握ってくれていた。
「ひゃっ!・・・・・・びっくりした、大丈夫?うなされてたよ?」
「アサギさん?」
顔を見る前に咄嗟にその名前が出てしまったが、そこに居たのはチグサだった。心配そうな顔で僕を見ている。
「チグサ・・・、ごめん・・・」
「ううん、大丈夫。アサギさんの夢見てたの?」
「うん、まあ・・・」
そう言うとチグサは何も言わずにベッドの縁に座ると、僕を優しく抱擁してくれる、今度は暖かくて、チグサの大きめな胸を伝って心臓の鼓動も微かに感じる。
「ウエリさんにレイの様子が変だからって急いで来たの、もう大丈夫?」
汗も結構かいている、また脈の異常をタブレットで確認して来てみたらうなされてたのだろう。それでチグサを呼んでくれたのか。
僕はギュッとチグサを抱き返す。
「・・・・・・ごめん、しばらく、このままでいい?」
「うん、もちろん・・・」
誰かの、いや、チグサの体温を感じていたかった。
このまま1人だとどうかなってしまいそうで。
チグサは優しく僕の頭を撫でてくれ、首元からとてもいい匂いがしてそれにとても安心する、気がつけば早かった胸の鼓動も落ち着いていた。
二度と離したくない、失いたくない、ギュッと抱きしめる手に力が入る。
「ちょっと、レイ、苦しいよ・・・」
ポンポンと僕の背中を叩く彼女。
「あ、ごめん。もう大丈夫、ありがとう・・・」
ふー、とチグサは息を吐いて離れると。もう、と優しく笑って僕の頭をくしゃくしゃとする。
たぶん髪の毛が跳ねているだろうけど、僕はそれを直す余裕が無い。
次の言葉が出ない、どうしようと考えて、ふと時計を見ると9月20日という文字が見えた。
「僕、1日寝てたの?」
「うん、ぐっすりだったらしいよ。そしたら急に呼ばれるんだもん、焦っちゃったよ」
マジか、でもこの前みたいに何日も寝たきりになってなくて良かった。まあ、あの時は被弾して重傷だったこともあるから、仕方ないには仕方ないのだけど。
「ごめん・・・」
「もう、謝りすぎ」
「いてっ」
コツンと額を小突かれる。
謝りすぎ、か、チグサには謝っても謝りきれない。街で生き倒れそうになっているのを助けてもらった時からだ、いろいろなことをやってもらった。
「ねえ、チグサ・・・」
言い切る前に、ガチャっとドアが開いた。
「レーイ!」
タイミング悪いなぁ。ナナがヒョコッと顔を出し、その下からルリさんもゆっくりと顔を出す、かわいい。
「なんだ、ナナか」
「なんだってひーどーいー!せっかくお見舞いに来たのに!」
ナナリスは、うぁーんと嘘泣きしながら騒がしく駆け寄ってくる。全くもって騒がしい、だからねぇ、黙ってたら可愛いんだよ黙ってれば。
そして、勢いのままチグサを押しのけて僕の両肩を掴んでぐわんぐわんと前後に振る。
「ちょっと、なにすんのよっ!」
「だってーーん」
騒がしすぎる、それに引替えルリさんはムッと黙ったまま近づいて、チグサの反対側に座り僕の手を取りさすってくれる。とてもかわいい。
「ちょっとここは医務室よ、静かになさい」
ウエリさんが奥の扉から姿を現し怒られてしまった、主にナナリスにだと思うけど。
ホントだよ、僕が入院している時に病院でも騒いでアヤメさんに怒られていた、のに・・・。
「あ、ごめんなさい・・・」
しゅんとするナナ、そうそう、そうしてれば可愛いんだ。
「心配してくれてありがとう」
まあ、どうせ悪気はないんだろうし、一応フォローはしておこう。
そうお礼を言って頭を撫でてやると、「へへー」っと子犬のように嬉しがるナナ、尻尾があったらブンブンと振ってそうだ。チグサはちょっと怪訝そうな顔をしてたけど。
するとルリさんも何やら頭を差し出している、え?
撫でて欲しいのかな?
生唾をゴクリと飲み、恐る恐るルリさんの頭に手をやるとニッと口元だけ笑っている。
「ルリさんもありがとうございました」
「・・・・・・うん」
普段は無表情だけどこういう時だけは口元に出るルリさん、僕から見ればナナ以上に喜んでいるように見えた。
「レイくんモテモテね、羨ましいわ。はい、どうぞ」
ウエリさんが面白可笑しそうにそう言って僕達に水の入ったコップを渡してくれ、少し離れた空いているパイプ椅子に座る。
「そんなんじゃないです!」
「レイ、モテモテなのぉ!?」
「・・・・・・」
恥ずかしそうに顔を赤らめるチグサに。
わかってるんだかわかってないんだか、首を傾げるナナ。
そして、無言で水を啜るルリさん。
それぞれの反応にウエリさんは笑っていた。
僕もそれに釣られて笑うと、「なんで笑うのよ!」とチグサにポコポコと殴られる。こんなに楽しくていいのかな?
「仲が良くてよろしい、アサギとアヤメも嬉しいでしょう」
え?
3人でウエリさんの顔を見る。
「同期だからね。私はカルシューレにいて、最近こっちに来たから、しばらく会ってなかったのだけど・・・。アルサーレから来たんでしょ?アサギの後輩に会えて嬉しいわ」
またニコニコと笑う彼女。
それを聞いて僕は俯く。
「・・・・・・ごめんなさい」
「なんで君が謝るの?」
不思議そうに首を傾げるウエリさん、彼女どこまで知ってるんだろう?
「2番機なのにアサギさんを守れなくて・・・」
「あー、君が。しばらく前に1度だけ電話で話したのだけど、根性のある訓練生が入ってきたって喜んでたのよ、貴方の事だったのね」
それを聞いてまた、涙が溢れ零れる。
アサギさんは僕を褒めると調子に乗るからと、訓練中やはたまた実戦中でも全然褒めてくれなかった。けど愛情はそれなりに感じていたし、それが嫌だったとか、もっと褒めて欲しかったわけじゃない、ほんのたまーに褒めてくれた時は本当に嬉しかった。だけど、いろんな人に僕のことを自慢していたというのは、彼女が亡くなってからいろんな人から聞く。
もっと彼女が生きてる間に、何も言われないようなパイロットになりたかった。
いくら悔いても悔やみきれない。
「あーあー、男の子がそんなに泣かないの。3人が見てるわよ」
僕はそれを聞いてゴシゴシと涙を拭く、確かにそうだ、泣いてばかりいたら変に不安にさせてしまう、もっと気丈になりたいけど、できるかな・・・。
ふと彼女達に目をやると、チグサは柔らかく優しそうに笑い、ナナは何故かニッコニコ、ルリさんは無表情だったけど僕には笑っているように見えた。
彼女たちなりに、僕を安心させようとしてくれたのだろう。
《ーー敵機探知、グレイ隊、ブルー隊、出撃せよーー》
基地放送が流れる。
行っていいのかな?それを聞いてウエリさんの様子を伺うと。
「ほらっ、行ってきなさい。隊長なんでしょ」
僕は急いで準備を進める、良く考えれば飛行服じゃない、1回部屋によって着替えないと、時間が無い。バタバタと荷物を集めて医務室を後にしようとすると。
「ちょっと待って」
「のっ!」
ウエリさんに腕を掴まれ、そのままの勢いで引っ張られて、振り向きざまにギューっと抱きしめられた。
彼女、思っていたより背が高くて、ちょうど本当たまたま柔らかい胸に顔が押し付けられる状態になってしまう。
「「あっ!」」というチグサとナナの声が聞こえた気がするが、狙った訳じゃない、不可抗力なんですと頭の中で反論する。
苦しいと思いつつも息をすると、ウエリさんからは何故かアサギさんと同じ匂いがした。
少し前に一緒のベッドで寝た時と全く同じ匂い。
心の底から落ち着いた。
「死んじゃダメよ」
一際ギューっとボクを抱きしめると、彼女はバッと離して解放してくれた。
「・・・はい」
顔を赤くし、よそを向いてポリポリと頬を搔く。
「ほら急いで」
医務室の外からチグサに急かされる。
ちょっとぐらい感傷に浸ってもいいじゃん。
「また来ます!」
「ええ、待ってるわ。気をつけてねぇ」
僕は医務室を颯爽と出てとりあえず自分の部屋に向かう。
少し向こうに見えるプレハブがそうだ、急げば離陸までには間に合うだろう。
「ねーねー、私もハグしたーいー」
「ダメに決まってるでしょ!」
走ってる後ろで2人が騒がしい、まあいつもの事なんだけど。
「まぁあ、チグサより私の方が胸は大きいしーぃ、その方がレイも嬉しいでしょぉ?」
「な!私だって胸には自信あるわよ!レイだって隙あらば見てくるんだから!」
「ぇー、マジやばーい、レイのえっち」
どんな喧嘩してんだよ・・・、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる・・・。僕は別に胸が大きいとか小さいとかで判断しません、重要なのは性格、ルリさんとかぺったんこだし。
「いった!!」
誰かに脇腹を抓られた!痛さのあまり転けそうになるも持ちこたえバッと後ろを振り向く、そこには凄い形相でルリさんが睨んできている。凄いと言っても傍から見たら真顔、だけど僕には分かる、超絶怒っていると、オーラがえげつない。でも、心の声が漏れては無いと思うけど、なんで?どうして?
「す、すみません・・・」
とりあえず謝るも。
「・・・・・・許さない」
んなっ!マジで俺言っちゃった!?
どうしよう、簡単には許してくれなさそうだ。
「あー、ルリが怒ったー」
「レイ何したの?」
僕が聞きたいです!マジでルリさん僕の考えてることが分かるのかな?時々的確な状況で確実に痛いところを抓って来るから恐ろしい。
「あーもう、帰ったらみんなハグしてあげるから!」
それが正解なのか分からないが、それで誤魔化すしかない。
「マジぃ?テンションあがるぅ!」
「わ、私は・・・、レイが、したいなら・・・」
「・・・・・・やった」
どうやら正解だったようだ、それでいいの君たち?と不安になるけど、喧嘩も収まったようだし、キャッキャと騒いでいて楽しいならまあいっか、とにかく一目散に部屋へと急いだ。
よくよく考えたら良くない気もするけどね。




