第51話 乱戦
1130時、アルサーレ、山脈上空。
私たちライド隊は越境してきた敵F-14戦闘機4機と国境沿いの山脈上空で交戦していた。
数では同数、地上からの援護もありそう難しくない戦闘だった。
《ライド3、フォックス3!》
敵機にミサイル命中、火を吹きながら落ちていく。
なんてことは無い、いつもの防空戦だ。これぐらいなら私たちだけでもなんとかなる。
《ライド1から各機、一気に蹴りをつけよう》
またいつ噂の白い奴が現れるか分からないし、自分たちの機体に異常が出るかも分からない、何か起こる前に終わらせてしまいたかった。
《ウィルコ》
私はそれに短く返す。
敵機は速いには速いが捕捉できないことも無い、クルクルと機体を捻りながら逃げている敵の後ろに着く。
私もそこまで腕に自信がある方では無いが、今回は大丈夫。
敵機に離されないように追従し、再びミサイルを放った。
《ライド3、フォックス3》
回避のために速度を落とし翼を広げたF-14は、フレアを発射するもタイミング悪く私の放ったミサイルに被弾、爆煙を空中に漂わせると主翼が根元から折れてヒラヒラと地表に向かって落ちていく。
《よしっ》
今日は調子がいい、これで2機、3機目に狙いを定めるために旋回しようとすると。
目の前の煙からブワッと戦闘機が姿を表し私の機体の側を掠めて行く。
ダダダダダッ!
《なっ!くっ!》
現れたのは純白の機体、噂の白い奴、F-22だ。
すれ違いざまに機銃掃射をされたが、操縦桿をめいいっぱいに倒しなんとかギリギリで機体をロールさせて、致命傷は免れるも主翼に数発被弾、モニターに警報の文字が流れる。
《なんだ、いつからいたんだ!》
混乱する隊長。
《大丈夫か!?》
私の心配をしてくれるカリス。
《援護するぞ!》
すぐさま私のカバーの為に後ろに着いてくれるゲイル。
《・・・・・・ライド3被弾、まだ飛べますが・・・》
翼の燃料タンクをやられたようだ、主翼を覗き込むと運良く引火せずに空いた穴から燃料が漏れていた。燃料計も減りが早い。
《ライド3帰投しろ!》
帰投したくないが燃料タンクに被弾している、帰らないとやられもしてないのに落ちてしまう。
《了解・・・、アルサーレへ緊急着陸します》
《ーーアルサーレ飛行場了解よ、消防車を待機させておくわ、帰投しなさい!SAMで援護するーー》
アルサーレ飛行場のアーノル大佐も話を聞いていたようで話が早い、私は機体に無理な負荷をかけないように旋回する。
《キール!フレアだ!!》
《ッ!!》
耳をつんざく隊長の叫び声に反射的にフレアの発射ボタンを押しコックピットがフレアの明るい白色に染まると、私の機体後方下から爆発の衝撃が機体に伝わる。さっき掠めて行った白い奴が、私を追い越し風を切って旋回していく。
自分で言うのもなんだけど気の短い私、これにはさすがにイラッとする。
《舐めやがって・・・》
奥歯をギリギリと割れんばかりに噛み締め、空を大きく旋回しカリスの追撃を難なく躱す白い奴を睨みつける。
《落ち着け、お前は帰るんだ!》
《しかし、我慢できません!》
《帰れ!命令だ!》
今までに無い隊長の怒鳴り声、やられっぱなしで帰るのはそれはもう我慢ならなかったが、冷静になると被弾しておいて無謀な事だ、次狙われる前にここから逃げることが先決だった。
《必ず帰って来てよね・・・》
《ああ!》
私は機体をロールさせて高度を下げ、アルサーレ方向に広がる雲海へと向かう。アルサーレがいつも曇っていて良かった、今までなんの興味もなかった天気だったけどアルサーレの気候に感謝だ。
《ーーSAM発射!奴の動きを止めて!ーー》
基地のアーノル大佐も無茶なことを言う、私の僚機はなんとか頑張って奴を囲おうとするが、雲を突き破ってきた対空ミサイルは惜しくも白い奴を掠めて空中に爆発音は響かなかった。
《キール!またそっちに行ったぞ、早く雲の中に入れ!》
《今行ってるわよ!》
後ろを見る余裕なんてないし、雲も近づいてきてくれる訳でもない、ただ必死に雲海目掛けて直進するのみ。
《お前の相手は俺だよ!》
レーダー画面でゲイルが私と白い奴の間に入ったのが分かった。
《ゲイル!無茶しないで!》
《なーに、ちょっとはカッコつけさせろや》
2機の距離がどんどん縮まっていく、私はそのカッコつけた姿さえ見ることも出来ず、ただ雲に向かって進む。
〈邪魔だ、どけ〉
刹那、空に凄まじい爆発が起こり、計器が乱れ機体が上下左右に揺れたと同時に雲の中に入った。
※
バルセル南海岸、目標工場地帯目前。
《後ろにつかれた、何とかしてくーー》
乱戦の中援護も間に合わず、エンジンから黒煙を吐きながら墜落していき、爆弾に引火して大暴発を起こす空の要塞。
《こんな戦力なんて聞いてないぞ!》
《何が不意打ちだ!》
《対空砲火が激しすぎる、対処が間に合わ・・・・・・》
次々と落ちていく、対空火器の対処の為に降下して行ったオメガ隊。
《1機撃墜!次は・・・エレイン、援護して!》
《今は手が離せないぃぃぃぃ》
《私が行く》
必死に空を駆け回り、被害を最小限に抑えようとしてくれている僕の大好きな3人。
なんで僕が仕切るとこうなってしまうんだ。
泣きたい、だけど泣いている場合じゃない。
アサギさんならこの状況をどう打開するだろうか・・・。
アヤメさんなら敵を蹴散らせたのか・・・。
いない人の事を考えても仕方ない。
《レイ!どうする?!》
どうするって言われても・・・。
《・・・爆撃を強行する、ソーラス25は爆撃を開始してください》
少し早い気もするが、背に腹はかえられない。
工場地帯の上空には到達している、このまま爆撃機が2機とも撃墜されればなんのためにここに来たのか分からない、強行するしかなかった。
《ソーラス25了解、爆弾投下!》
ヒューーーー・・・。
と、無数の爆弾がB-52の爆弾倉から流れ落ちていき、黒い点々が見えなくなると、ドンドンドンドンドン、と爆風を伴って地表で炸裂し、また次の爆弾を投下する。
《ブルー隊合流する、ヤバイ状況だな・・・》
僕達を先に行かすために殿をしてくれていたブルー隊が無事合流。
《ツルギさん!・・・良かった》
安堵でまた泣きそうになってしまう。
《オメガ3、状況は!?》
《隊長!・・・・・・4機、殺られました・・・》
《・・・・・・そうか、爆撃機の護衛を続行しろ》
《オメガ3、ウィルコ・・・》
僕のせいだ、今度は4機も落ちてしまった。
《グレイからオメガ1・・・・・・》
《今は目の前の敵に専念しろ、一生懸命やった結果だ、仕方ない》
謝ってどうにかなる問題でもなかったが、彼には謝りたかった。しかし、クロキさんはそんな僕を気遣ってかなにも言わせてくれない。
《黒木さんの言うとおり、気にしても仕方ない、みんな分かってるよ》
ツルギさんもフォローしてくれる。そうだよね、みんな分かってるよね、僕が弱いってことぐらい・・・。
《レイ、そっち行ったよ!》
《ふんっ!》
ナナの声にハッとすると、目の前を敵機、緑色のF-14が旋回している。僕はエンジンの出力を調整しながら操縦桿を倒しそいつの後ろに着いた。
ちょこまかと旋回しながらも味方機を捕捉しようとしている敵機、攻撃させてなるものか。
しかし、なかなかロックできない。歯を食いしばって引き続き追いかける。
すると敵機はツルギさんに狙いを定めた。
《ツルギさん!》
《ああ!》
彼は前方にミサイルを発射、ミサイルを温存したいって言ってたけど何をしているんだ?構わず僕は必死にツルギさんを追う敵機を捕捉しようと追いかけると。
彼が放ったミサイルが弧を描いて戻ってきた。
《なっ!!》
何が何だか分からないまま戻ってきたミサイルに僕の目の前にいた敵機は避けることも出来ずに命中。バラバラになって宙に散り、その破片を慌てて避ける。
前に撃ったミサイルが戻ってきて後ろの敵機に当たる?わけがわからない。
《おお、当たってよかった!》
《隊長、賭けなんてしないでください!》
《はっ、当たったんだから問題ないだろ》
ケイさんに怒られるも、彼は気が張っているのかいつもより強めに言って笑って誤魔化すと、3機で編隊を組み直して次の敵に狙いを定めるブルー隊。
やっぱり彼らの強さは異次元だ、僕達ができないことを平然とやってのける。
僕達も一旦体勢を立て直そう。
《グレイ隊集合》
《ブロッサム1、ウィルコッ》
《グラム、ウィルコ》
《ちょっと、待ってぇぇぇ》
エレインが何やら手こずっている様子だ。
《エレイン、援護する》
そういうとグラムが僕の横を猛スピードですっ飛んで行き、エレインの斜め後方について援護に入る。
僕とブロッサム1は他に邪魔者が入らないように少し離れた所でそれを見守る、僕も助けに行きたかったけど、ルリさんの邪魔になっては元も子もない。
ダダダダダ・・・!
バァーーンッ!
グラムの機銃掃射が敵機に命中、翼が折れてヒラヒラと落ちていく機体を横目に、グラムとエレインは旋回して僕とブロッサム1の後ろにそれぞれついて、フィンガーフォーの隊形をとる。
《ありがとう、ルリ!》
《うん》
さて、これからどうしたものか。
敵機は減ってはきたけどみんな満身創痍、特にオメガ隊がヤバかった。エンジンから煙が出ている機体もいるし、被弾したが飛べる人達は何機か先に帰っている。
ブルー隊の方を見ると、彼らはグルグルと訳の分からない機動で宙を舞い敵機を1機づつ翻弄している。
《ソーラス25、投下終了!》
その声に地表を見るととてつもない黒煙が空を覆い、僕達のいる高度まで迫ってこようとしていた。
一応は作戦成功か・・・。
《ブルー1、了解。全機作戦終了、RTB》
《オメガ隊、RTB了解。帰投だ逃げるぞ!》
《ソーラス25、了解。RTB!》
《グレイ隊、RTB。後方護衛につきます》
全機反転、海に向かって速度を上げてここから逃げる。
先頭からオメガ隊、ソーラス25、ブルー隊、グレイ隊。
敵機もしばらくは4機が追撃を仕掛けてきたが、僕達グレイ隊が相手をして、僕とエレインが囮となり、ブロッサム1が得意のドッグファイトに持ち込みガンポッドにて1機撃墜すると、諦めたのかそれ以上深追いをしてくることはなく、海岸線を離れると内陸の方へと去っていった。
終わった・・・のか?
一瞬だったはずの空戦。
一生続くんじゃないかと思うほど長く感じた。
気づけば操縦桿を握る手はまだ震えていたし、足も震えている。
生きた心地が全くしない。現に5機が墜落している。
《チグサ、大丈夫?》
《異常なし、大丈夫だよ》
僕の左を飛ぶ2番機のチグサを見ると、親指を立てて大丈夫と合図をしてくれる。
《ルリさん、ありがとうございました》
《うん》
目の前の敵に集中するあまり後ろが疎かになっていた僕を気にかけて、つこうとするを敵を追い払っていてくれたルリさん、右側を飛ぶ彼女を見ると手を振ってくれていた。
《ナナ、お疲れ様》
《ほんとだよぉー、帰ってお風呂入りたい》
彼女も彼女なりに慣れない機体で必死に飛んで、元味方と戦ってくれていた、精神的には僕よりもキツイはずだ。しかし彼女はいつも通り明るく振舞って、翼を上下に振ってバンクしてくれた。
《レイもお疲れさん》
《あ、いえ、僕なんて全然・・・》
前方を飛ぶツルギさんが僕を労ってくれるけど、今回も全くダメダメだった、統率が上手くとれずオメガ隊に被害を出してしまっている。
《誰もお前のせいだなんて思っちゃないよ》
クロキさんもフォローしてくれるけど本当にそうなのだろうが、胸が痛い。
《これが本当の戦争だ、オメガ4、被弾した僚機をまとめて空母に帰投しろ》
《オメガ4、ウィルコ》
最右翼を飛んでいた1機が編隊を離脱し被弾し先に帰投している僚機の護衛に向かう。ここに残るのは11機、かなり減ってしまった。
《帰るまでが作戦だ、気を抜くなよ》
僕達は張り詰めた空気のまま来た道を戻る。
そして、無事に空母上空に到達して空中給油の後オメガ隊と別れてトモパーレへと帰投した。




