第50話 待ち伏せ
9月19日11時。
トモパーレ飛行場。
私たちライド隊の4人は待機室に居た。
グレイ隊、ブルー隊は敵基地攻撃のために朝出撃し、基地防空のために私たちは居残り。
傭兵だけどそれなりに信用されてるのかな。
まあ、グルイニア正規のパイロットは3人しかいない、頼りたくなくても頼らないと回らない、仕方の無いことなのだろう。
「キール」
「なんですか?」
右隣に座るルイス隊長が顔を向けて私に話しかけてくる、それに私はぶっきらぼうに返事をした。
「なんでレイくんにキツく当たるんだ?」
隊長の前であのガキを相手したことはないと思っていたけどいつ見られていたのか、私はちょっと俯く。
「なんで・・・、なんででしょうか・・・、初めて会った時からなんだか好きじゃないです」
理由はわからない、たった20歳で隊長、それに嫉妬しているのか。国を守るというちゃんとした目標を持っているからなのか。
でも、私は隊長になる気もないし、これといった目標もない。
ただ、報酬を貰って空を飛ぶだけ。今回は無給だけど。
「なんででしょうね・・・」
顔を上げて天井の蛍光灯を見つめる。
「あ!」
左隣に座るカリスが突然ハッとした顔で私を見る。なに?
「レイくんの事、一目惚れした?あの子可愛いもんね、弟みたいって言うか、モテそうだ・・・どふっ!」
全っ然面白くない、思いっきり左肘で鳩尾をどついてやった。
「おー、怖い怖い」
「痛いぃぃ」
隊長は顔を少し引き攣らせ、カリスはその場でうずくまり、その奥のゲイルは腕を組んだまま居眠りしている。
「勝ち目のない戦争、僚機も落とされてなんであのガキはあんなに元気なの」
普通落ち込んだり、暗くなったりするはず。それでもあいつは初め出会った時はちょっと暗かったが今は普通に元気にしていた、それも私は不満だった。
「ガキとか言わないの、無理に元気に振舞ってるんじゃない?あの子、結構大人だよ」
「・・・・・・」
そうなのかな。
「そいや・・・、あのナナリスって人はどうなのさ」
お腹を擦り顔を顰めながらカリスはルイスに話しかける。それは、私も気になっていた。
バルセルから亡命してきたらしい彼女。以前一緒に戦ったスペクター2のパイロットらしいけど、私たちが言えたことではないが、不審でしかない。
理由はどうであれ戦争中、それにほぼ負け確の国に亡命するものなのか、嫌でも裏がありそうだと考えてしまう。
「あー、ブルー隊のツルギさんが探りを入れてる、俺たちは普通に接してたらいいと思うよ」
あのエルゲート人のツルギと言う奴も素性がよく分からなかった、紛争の時にいたコールサイン「ソード」と同一人物らしいが、訳が分からない。
「じゃぁ、任せた方がいいのかな?」
「とりあえず、ね。まあ、よそ者が口出さない方がいいでしょ」
「だな」
隊長とカリスは2人で納得する。そうなのだろうけど、もし何かしようとしてたら私たちでも止めないといけない。3人目の犠牲者が出てしまうと、立て直すのもままならないだろう。
そして、みんな深く椅子にもたれかけて黙ってしまう。
待機室に響くのはだんだん大きくなるゲイルの寝息。
「うっさいなぁ」
怪訝そうな顔をして隣のカリスが彼の横腹に肘打ちをする。
「・・・ッ!なんだ!?飯か?」
目を点にして辺りを見回すゲイル。
「ゲイル、呑気すぎだろ」
「・・・・・・寝れる時に寝とかないともたねーぜ?」
「そうだけどさ・・・」
ゲイルの言うことも一理あるけど呑気すぎだ、またいつスクランブルがあるか分からないのに。
まあ、よく言えばそれがゲイルのいい所なのだけれど。
「で、空母艦載機はいつ来るのよ」
一応1部隊が制空権確保のために援軍に来てくれるという話だったが、待てど暮らせど来る気配がない。
「え?あと2時間後」
「はぁ!?」
適当な隊長の返事に思わず大声を出してしまう。
「知らねーよ、大佐にそう言われたんだ」
知らない知らない文句は聞かない、とそっぽを向く隊長。
「その間に敵が来たらおしまいだな!」
ガハハと呑気に笑うゲイル。
「おいゲイル、それをフラグって言うんだぜ」
全くだ、カリスのツッコミは妥当に思える。
「フラグ?それはササミみたいなもんか?」
「もういいよ・・・・・・」
脳筋に何を言っても無駄、3人で頭を抱えていた。
しかし、ゲイルの言うとおりだ。
敵が来たらこの4人でこの国を守らないといけない、艦載機だってここから遥か彼方の海から来る、急げって言ってもそう早くは来れないだろう。
《 ーー敵機探知、国境付近、ライド隊、出撃せよーー》
「ああーもう、言わんこっちゃない!!」
「お前のせいだそゲイル!」
「いいから行きますよ!」
「ガハハ!門前払いといこうや!」
私たちは格納庫へと急いだ。
※
バルセル南海岸目前。
《おっと、マジか・・・・・・》
偵察を兼ねて僕達のはるか先、先頭を飛んでいたブルー1ことツルギさんがそう呟く。
《結構いるね・・・》
《どう対処しますか?》
ブルー2ことミサキさんと、ブルー3ことケイさんも何か言っている、僕達のレーダーにはなにも映ってないし状況が分からない。
《グレイからブルー1、状況は・・・?》
とりあえず聞いてみる。
《敵の待ち伏せだ、レイ達が来る前に数は減らしておく、爆撃機を守れ!》
《え?待ち伏せ!?》
待ち伏せってどういうこと?理解が追いつくよりも先に。
《ブルー隊交戦許可、ブルー1交戦》
《了解、ブルー2交戦》
《ブルー3交戦します》
何がどうなっているのか理解する間もなくブルー隊が戦闘開始、前方はるか彼方の空で何かが爆発し黒い煙が漂っている。
それでようやく分かった、理解したくないがせざるを得ない、敵機の待ち伏せを受けて、ツルギさん達が迎撃してくれているのだと。
しかしなんで、ここに来ることが分かっていたのか?それとも、随分前に探知されていたのか?
いやいや、かなり沖合から接近してるし偵察機も探知していないし、敵のレーダー波も掴んでいない。
《艦隊が対応した敵艦隊が連絡したか・・・》
クロキさんが困ったように呟く。
第1空母打撃群は僕達が到着する前に敵艦隊と一戦交えていたらしい。敵艦隊撃滅、とはいかなかったようで南方に艦隊がいるとなったらそりゃ対応してくるか。しかし、主戦線は北だ、そんな素早く部隊を展開できるものなのか?
それとも、元々ここにいる部隊なのか。
《ここまで来て帰る訳にも行きません・・・、グレイ隊各機、ブルー隊を援護する。オメガ隊は爆撃機の護衛をお願いします》
ツルギさん達はたった3機で何機とも分からない敵機と戦っている、早く援護に行かないと。
《ああ、だが俺も行く。オメガ3任せたぞ》
《え?あ、はい!オメガ3ウィルコ!》
クロキさんも援護に参加したいようだ、そりゃ元同僚だったら助けに行きたいよね、僕だってそう思うだろう。それに、3番機以下10機が護衛についていたら余程のことがない限り大丈夫だろう。
《了解です、各機ブルー隊を援護する。グレイ隊交戦許可、グレイ交戦》
《ウィルコッ、ブロッサム1交戦》
《グラム交戦》
《助けに行くよーっ!エレイン交戦!》
《オメガ1交戦》
5機がエンジン出力を上げて遥か前方を交戦中のブルー隊の援護に向かう。
アサギさんにみっちりしごかれたんだ、簡単にやられてなるものか、操縦桿を握る手に力が入る。
●
数分後
間もなく陸岸、それと同時にブルー隊と合流した。
《啓っ!》
《分かってます》
ドゴーン・・・
ブルー隊の連携は何度見ても凄まじいもので、敵機を次々と落としていくが減った気がしない。
《くそっ、ミサイルは温存したいが・・・、ミサキさん!》
《なかなか厳しいね・・・ミサイルはあと2発》
限られる弾数、ミサイルを使わないに越したことはないが、敵は数にものを言わせて波状攻撃をしてくる、嫌でもミサイルを使わないと対処できなかった。
僕たちも、僕とチグサとナナの3機で連携をとって敵と交戦し、ルリさんは単機で敵機を蹂躙してはいるものの。
《レイ、ここは俺たちが食い止める、爆撃機を先導して攻撃地点まで向かえ!》
《いやでも!》
食い止めるって言ったって敵は20機近くいる、そんな見捨てるようなことは僕にはできない。
《俺が残る、グレイ、部下を頼んだぞ》
クロキさんが残るなら多少は安心だろうけど、こんな僕に10人の命を預けないでください、自分の隊でいっぱいいっぱいなのに・・・。
《オメガ隊は私に任せてください!》
オメガ3が声を上げる。
《よし、それが聞きたかったんだ、町田ぁ!任せたぞ!》
《了解です!》
オメガ隊はオメガ3がまとめることで決まったようだ。
クロキさんも3番機の成長を待っていたのか、少し前の僕の姿をちょっと重ねてしまう。
僕もあんな感じでアサギさんに思われていたのかな・・・。
《敵はまだいる可能性がある、レイ、頑張れよ!》
《グレイ了解、後で合流しましょう!》
《ああ。水咲さん後ろについて》
《了解!》
そして、僕達は迎撃に来た敵機をブルー隊の3人とクロキさんの4人に任せて戦闘空域を離脱。爆撃機を護衛しつつ目的地の工場地帯を目指す、陸岸には着いている、あともうちょっとなんだ、このまま何事もなく終わってくれ。
そう強く願う。
爆撃機の前に僕たちグレイ隊がダイヤモンド体形で飛び、両側と後方にオメガ隊がついて護衛しながら飛ぶ。
《見えた!前方目標視認!》
海岸を沿っていると工場地帯が見えてきた、爆撃目標だ。
《グレイから爆撃機、爆撃用意、ウェポンベイ開け》
《ソーラス25、了解、爆弾倉開け》
《アイリス11、了解》
爆撃機、B-52の爆弾倉がゆっくりと開く。
このまま何事もなくと、再び願うがそうはいかなかった。
ビビビビビーー・・・・・・。
レーダーに捕捉された、パッと見は敵機の姿は見えない、恐らく地対空ミサイルだ。
《ソーラス25、フレア発射!》
僕の後方を飛んでいる爆撃機がパパパパッと大量のフレアを発射、空に白い煙を撒き散らしながら火球が地表に向かってゆっくりと落ちていく。
《オメガ6から11は地上対空火器を攻撃、爆撃機を守れ》
《ウィルコ、各機オメガ6に続け》
僕より先にオメガ3が各機に指示を飛ばし、後方を飛んでいた6機がクルっと機体を逆さまにして地表に降下していく。
そして、地上から飛んできたミサイルはフレアによって躱され、直進を続けるが。僕たちの下方、オメガ6たちが降下して行った空には高射砲による対空砲火が行われ色とりどりな煙が空を染めていた。
これだとまずい、いくらジェットエンジンの戦闘機とはいえVT弾に当たってしまっては木っ端微塵だ。
《オメガ6、危険だ上昇して下さい!》
あのまま対空砲火に突っ込むと誰かやられてしまう、僕は咄嗟に上がるように指示を出すが。
《俺たちより爆撃機が優先だ、ここまで降下したらもう戻れない、対空ミサイルの破壊を続行する》
僕は次の言葉が出なかった、止めたいけど止めれない、止めたところで戻って来れない。
しかし、彼らには覚悟があり任された任務を続行している。
《12時の方向に敵機!》
ナナリスが叫ぶ。
それと同時に下の空では一際大きな爆発が空中で起こり、黒い煙が線になって地上に向かって落ちていく。
《くそっ、オメガ8墜落!オメガ6以下攻撃開始、殺られる前にやってしまえ!》
今までの本土での戦いはなんだったのか、壮絶な戦闘が繰り広げられている。一瞬で味方は空に散り、降下したF/A-18は墜落する味方機を横目に攻撃を開始している。
僕の手は震えていた。
作戦こそ壮大だったが、もっと簡単に終わるものだと勝手に思っていた。
秘密裏に近づいて不意打ちを食らわせ、そそくさと逃げる。
そのはずだった。
しかし、始まってみれば敵の待ち伏せに会い、ブルー隊とクロキさんは殿となって敵の足止めをしてくれて、他のオメガ隊の人も爆撃機を自分の身を呈して守ろうとしている。
僕には無理な戦いだった。
今すぐ逃げたい。
涙が込み上げてくる。
《レイ!》
チグサの声でハッとし、込み上がっていた涙は引っ込んでいく。
《どうする?》
どうするもなにも目の前には敵機がいる、数は6。逃げたくても逃げれない、迎撃したいが自信が無い、僕は考えがまとまらず口から言葉が出ずにいる。
《あ、えっと・・・・・・》
《しっかりしてよ!隊長っ!!》
チグサの怒鳴り声が頭の中を駆け巡った。
彼女に怒鳴られたのは初めてで、隊長と言われるのも初めて。
そうだ、僕は隊長。グレイ隊の隊長なんだ。
自分の命だけじゃなくて、チグサ、ナナ、ルリさんの命を預かっている、弱気になってる場合じゃない。
《何があってもレイについてくから》
《レイの後ろは私が守るもーん》
《来る敵は返り討ち》
みんな優しく声をかけてくれる。
ホント、3人とも大好きだよ・・・。
《・・・みんなごめん。前方の敵機はグレイ隊で迎撃する、間違っても刺し違えようなんて思わないように!》
爆撃機の護衛は残ったオメガ隊に任せる。前方の敵機を迎撃、最悪足止めさえできればあとは爆弾を落とすだけ、どうにかなるはず。
グレイ隊の全力を見せる時だ。
《それ私のセリフだよ》
《レイが1番そういうのしそう》
《心配させないで》
全く、心配されてるのか、おちょくられてるのか。
でも、悪い気はしなかった。
《グレイ隊、散開》
《《《ウィルコ》》》
僕の後ろを飛ぶチグサは左に、ナナリスは右に旋回、ルリさんは上昇し、僕はそのまま直進して敵機を迎え撃つ。
《グレイ、フォックス2!》
空に大きな火球が一瞬出現し、そこには大きな黒い煙の塊が漂っていた。




