第49話 長距離爆撃
9月19日、早朝。
トモパーレ飛行場、ブリーフィングルーム。
「ササイ大尉達のおかげでカルシューレの敵は引き返した。そして、既にエルゲート海軍第1空母打撃群は端島を出航し、合同点に向けて航行中との事だ。グレイ隊とブルー隊はタバルニアの沿岸30マイルを沿って飛び、艦隊と合流、空中給油の後、バルセル南海岸を攻撃する」
モニターの地図を使って説明するガイ大佐、何度聞いても壮大な作戦、本当に上手くいくのかな。
「いくら手薄な南海岸と言えども多少の抵抗には合うだろう、覚悟して戦ってくれ」
覚悟、か、敵地のど真ん中で撃墜される訳にはいかないな。
「出撃時刻は0900時、各員準備を進めてくれ」
簡単な作戦概要の説明が終わるとその場は別れとなった、僕達は機体の点検のために駐機場に向かう。
建物を出て駐機場を見ると、見慣れない色の機体があった。
宙の奥のようなどこまでも深くて青い、深青色。
垂直尾翼には黄色の一本線。
あれ?
「おっ!仕上がってる!」
そう喜んでいてのはツルギさんだった。
彼は子供のようにキヤッキャとはしゃぎ、その機体に駆け寄って行く。
つられてみんながその機体に集まる。
「わざわざ塗ってもらったの!?」
「えー、だって俺といったらこの色でしょ?」
「そうですけど・・・」
なんだかミサキさんとケイさんは彼に呆れている様子?どういうことだろう?
「ツルギさん、これって?」
「ん?ああ、俺の機体の本当の色、汎用迷彩で我慢してたんだけど、どうもしっくりこなくてなー」
えぇー、わざわざそれだけで!?とミサキさんと同じ反応をしてしまう。しかし、当の本人はご満悦な様子。まあいいか、彼が嬉しいなら。
と、どれだけ嬉しいのやら、ずっとニヤニヤ笑っているツルギさんを横目に僕達も機体の点検を済ませるために格納庫に向かう。
ルリさんはコックピットで計器の点検をして、チグサはガンポッドの調整と装弾、俺も外観をぐるぐると見ていると。
「あれ?ナナは?」
「へ?ホントだ、いない」
気がついたら彼女がいなくなっていた、Su-27を見てもどこにも見当たらない。
「ちょっと探してくる!」
咄嗟にまずいと思う、なるべく1人にならないようにしてたんだけどいつ消えたんだよ。
「えー、トイレとかじゃない?」
特にチグサは何も考えていない、まあ、ナナリスを疑ってるのって僕とツルギさんだけだから仕方ないといえば仕方ないんだけど、こっちは気が気じゃないんだ。
とりあえず本当にそうだったらいいなと思って近くのトイレへと向かった。
●
「わっ!なーに?どしたのレイ、そんな急いで」
トイレの入口で鉢合わせた。
マジでトイレだったのかよ!
「あ、いや、急にいなくなるから心配で・・・」
言い訳なんて考えてなかった、よそを向いて首元をポリポリと掻き誤魔化そうとする。
「急に行きたくなっちゃってぇ、ごめんねぇ」
へへへぇ、と笑うナナリス。別にいつもの彼女と変わりはない。
「でもなんで?」
「へ!?」
ちょっとした真顔がなんだか怖い。
「別に基地の中だし、なんもないのになんで心配なのぉ?」
いつものように語尾は甘ったるく伸ばしているが、聞かれたくない事を聞かれる。やばい、疑ってるのがバレてしまったか・・・。
「その、えっと、あの・・・」
普段となんら変わりのないアホそうなナナリス顔だが、今の僕にはその目が疑っているように見えて、焦って次の言葉が出てこない。俺もトイレに来たと言えばよかったが、もう後の祭り、どうしよう・・・。
「・・・・・・まあいいや、心配してくれてありがとぉー」
と、何だかため息混じりに言うと、ナナリスは僕のほっぺたをクイクイッと抓って、格納庫へと歩いていく。
やっぱり僕の考えすぎなのかな・・・、抓られた頬をさすりながらついつい考えてしまう。
「ほらー、行くよガキンチョ」
「ガキじゃねぇーよ!」
普段は名前で呼んでくれるようになったと思えば時たまガキンチョ扱いだ、ちょっと腹は立つけど、こう見れば普段と変わらない、いつものナナリスだった。
●
0900時
滑走路には深青色のF-35が1機に、青迷彩のF-35が2機、薄灰色のF-15が2機、漆黒のF-15が1機、薄灰色のSu-27が1機、順番に並んでいた。
《フライトリーダー、ブルー1から管制、離陸用意よし》
《ーー了解、ブルー隊、グレイ隊、離陸を許可するーー》
僕の前に居るツルギさんたちの機体のノズルか、青赤い炎が出て動き出し、滑走路を疾走していく。
滑走路の脇にはライド隊の4人、ルイスさん、カリスさん、ゲイルさんは手を振ってくれていたが、キールさんは両手を組んだまま、まあ、来てくれただけマシか。
そして、僕たちもツルギさんたちの後ろに続き、エンジン出力を上げて、空に舞いあがる。
《ーーブルー隊、グレイ隊、高度制限を解除。グレイニアの命運は君たちに掛かっている、幸運を祈るーー》
この作戦は絶対に成功させなければならない、バルセルの内地を爆撃し敵世論を反戦へと導くために。
敵国にまともに攻撃されたことの無いバルセルだ、徹底抗戦とはならないだろうという判断だけど、本当にそうなのだろうか、ちょっと不安だった。
《ブルー1から各機、エルゲートとの合同点に向かう、警戒を怠るなよ、俺に続け》
《ブルー2、了解》
《ブルー3、了解です》
《グレイ、了解》
《ブロッサム1、ウィルコっ!》
《グラム、ウィルコ》
《エレイン、りょーかーい》
僕達は反転、進路を110度に取って沿岸沿いに東進、グレイニア東海岸のゾール湾に入ると、進路を南に変えてタバルニアの領空に入らないように南進、エルゲートとの合同点に向かう。
タバルニアには沿岸を飛行することは通達済みだ、さすがに領空の通過は許可されなかったが、特に警戒もされず異常もなく飛行を続ける。
《海って広いですね》
どこまでも青く遠くまで続く海、ここがどこだか分からなくなってしまいそうだ。
《なんだ、レイ。海は初めてか?》
《はい、写真とかテレビとかでは見たことありますけど》
《私もー》
僕もチグサも内陸出身、海水浴とか行くこともなかったし本当に感動していた。
《戦争してるのがバカみたいですね・・・》
《まあな、この海の果てに逃げたくなる気持ちも分からなくもない、かな》
空も広いけど広すぎて実感がわかない、水平線を見ることによって海には広さの実感が湧いて、あの海の向こうに行けばどうにかなるんじゃないか、そんな気持ちになった。
《お、10時の方向にローレニアの哨戒艦だ》
白い航跡を大海原に延ばし、南東に進む船が見えた。
ローレニアは敵ではない、特に警戒は必要ではないだろう。
〈ーーこちらローレニア海軍哨戒艦「レニース」から上空のグレイニア、エルゲートの戦闘機へーー〉
ん?国際無線を使ってローレニア艦からの通信が入る。なんだろう、警告かな?僕は少し心拍数が上がるが、フライトリーダーのツルギさんが落ち着いてそれに応答する。
《こちらグレイニア解放空軍及び、エルゲート空軍任務部隊、どうぞ》
〈ーーサヤ陛下からのお言葉を預かっている「武運を祈る」以上だーー〉
え?ローレニアの国王からの直々の伝言?理解が追いつかない僕を他所にツルギさんは冷静に続ける。
《感謝します》
簡単に一言、それだけでローレニア艦との通信は終わってしまった。
《ツルギさん、なんで陛下が・・・》
彼に聞いても分からないとは思うけど、確認せずにはいられない。しかも、なんでこの作戦を知っているのか。
《・・・・・・一応、元宗主国の国王だ、心配してるんだろ。上もローレニアにも通達してたんじゃないか?敵じゃないしな。エルゲートとの兼ね合いもある》
ちょっと歯切れは悪い言い方だったが、そうなのかな?勝手に独立させといて?国王さまの考えていることはよく分からない。
●
そして、しばらく飛んでいると前方に空母が見えてきた。
《すご!でっか!》
空母なんて見るのは初めて、空高くから見てもその巨体が分かる。まるで島のよう、子供のようにテンションが上がっていた。
《ーーこちらエルゲート海軍、空母ソリュー、空中給油機を発艦させた、順次給油を開始しろーー》
空母から僕達のためにプロペラ機の空中給油機が発艦、僕だって紛争の時に何度か空中給油はしている、特に問題はなく給油を始めた。
だけど、緊張はする、上手くノズルが刺さるかな?とか。あれ、意外と怖いんだよね。
ブルー隊が先に給油を始め、次に僕たちグレイ隊の番。
僕たちの給油が始まると艦載機の発艦が始まった。
《ーーオメガ隊、発艦するーー》
空母の飛行甲板から青迷彩のF/A-18が次々と11機が発艦、給油中の僕たちの後ろにゆっくりとつく。
《やぁ、黒木さん》
《お前、やっぱり生きてたのかよ!!連絡ぐらいよこせ!》
声を荒らげながらF/A-18の先頭を飛んでいた隊長機らしい人が、深青色のF-35の横に飛んでいく。
んー?どうしたのかな?
《水咲さんたちがどれだけ悲しんでたのかわかってんのかよ!》
この人、泣いてない?声を震わせながらツルギさんに怒鳴っている。前の戦争の時、一緒に飛んでたのかな?あ!この前言ってた人か!
《ごめんっ、それはもう謝ってるから!》
オメガ隊隊長、クロキさんって言ったかな?彼に追いかけ回されるツルギさん、珍しく格好悪い。
《真くん、もう大丈夫だから!》
《1回殴ったので収まってます》
ミサキさんとケイさんも彼を宥める。
これを聞いて追うのを止めた黒木さん。
《全く・・・、また会えて嬉しいよ》
《俺もです》
仲直りしたのかな?にしても凄い喧騒だったな、あー、怖かった。
《・・・・・・オメガ1から各機、報告しろ》
クロキさんことオメガ1はフワッと上昇し後方に戻り、F/A-18の編隊の先頭に着く。
《オメガ3、スタンバイ》
《オメガ4、スタンバイ》
《オメガ5から11スタンバイ》
《オメガ12、スタンバイッ》
オメガ隊全機が後方に着いた、全機?聞き間違えじゃなかったらオメガ2がいないみたいだけど・・・?
《黒木さん、律儀ですね》
《ああ、もう2番機は失わん》
そういう事か、彼も訳あり、いくら鈍感な僕でもその会話を聞けば分かる。ミサキさん達の時みたいなヘマはもうしない。
先の大戦で2番機は撃墜され欠番になっているのだろう。
《あ、グレイニアの人たちを紹介するよ》
そうしてツルギさんは彼らオメガ隊に僕達の紹介をしてくれる。
《先頭の二枚葉がグレイ隊隊長のレイ、コールサインはグレイ、危なっかしいが良い奴だよ》
《ちょっとツルギさん!》
なんかちょっとディスられた、しかも貴方に言われたくない、紹介の仕方に不満を示すと笑って誤魔化される。
《2番機の桜の花はチグサ、コールサインはブロッサム1、ドッグファイトはピカイチ、金髪で可愛い子だよ》
《ちょ!へ!?》
容易にニヤけてる顔が想像出来るチグサの反応、全く・・・。
《真っ黒の機体の3番機は直刀のルリさん、コールサインはグラム、まぁ、俺より強いかもね》
ハハッと笑うツルギさん、ツルギさん基本的に連携しないと成立しない戦い方だし、一方ルリさんは一撃離脱だ。単機だとそうなのかな?
《4番機のSu-27はナナリス、コールサインはエレイン、腕はいいんだけど、うるさいんだよなぁ》
《うるさいとか言わないのぉ!》
ぶっちゃけてしまった、彼の言葉に思わず吹いてしまうと、なにぃ、と無線越しにナナに怒られる。
まあね、確かにうるさい、でもそれがいいと言うかなんと言うかだ。
《ほぉ、面白そうな人が多いな。オメガ1、シン・クロキだ、ここで会ったのも何かの縁、よろしくな》
《よろしくお願いします!》
僕達の国のために戦ってくらる人、戦わなくてもいい戦闘に駆り出されるんだ、彼だって本意では無いはず、僕は割れんばかりの大きな声で返した。
《元気があっていいな》
クロキさんは少し笑ってくれた。
そして、端島から離陸した爆撃機2機と合流。
《でか!ヤバ!》
ローレニアの変な爆撃機は見たことあったけど、このB-52はそれとは威圧感が違う、思わず見とれてしまう。
総勢20機、今まで飛んだことの無い数、なんだか感無量だった。
《なんだか軍隊らしくなってきたね》
チグサがボソリと言う。
開戦時はたった5機、そしてブルー隊とナナリスが増えて・・・。
アサギさん、アヤメさんが減って、7機。
とても空軍と呼べる規模ではなかったけど、僕達はこの戦力で戦うしかない。
《みんなのために、勝つよ》
死んだみんなのために、協力してくれる人達と一緒に、このグレイニアを守り抜く。
《ブロッサム1、ウィルコ》
《グラム、ウィルコ》
《エレイン、りょうかい・・・》
僕達はステルス性能の高いブルー隊を先頭に、少し後方に離れてバルセル南海岸へと向かった。




